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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科64巻13号

1992年12月発行

雑誌目次

トピックス メニエール病の診断と治療

メニエール病の診断

著者: 深谷卓

ページ範囲:P.865 - P.867

 はじめに
 難聴・耳鳴にめまいを伴う疾患の存在は古くから知られていたが,内耳病変でもこれらの症候が起こりうることは,Meniere Pにより1861年に発表された剖検例からである。彼はめまいを呈した少女の内耳に出血があったことより,めまいが内耳より起こりうることを提唱した。そして1867年にPolitzer Aが臨床の場にメニエール病やメニエール症候という用語を導入している。しかしこの時代には内耳の病態が不明であったので,めまい,耳鳴・難聴という症候でメニエール病を規定することが習慣となった。さらにめまいや難聴・耳鳴があれば,内耳以外の病変にもメニエール症候の概念が拡大されていった。
 メニエール病の内耳病態がはじめて明らかにされたのは1938年の山川1)とHallpikc & Cairns2)の側頭骨病理報告である。これらの報告でも,それ以降の報告でもメニエール病の側頭骨病理では内リンパ貯留が認められ,蝸牛管や球形嚢の内リンパ腔が拡大し,Reissner膜や球形嚢膜の伸展が示され,内リンパ水腫(endolymphatic hydrops)と呼ばれるようになった。今では研究の対象は内リンパ水腫の存在よりも,めまい発作の発症機構や内リンパ水腫の成因に移っている。めまいの発症機構はRessner膜や球形嚢膜の破裂により,内リンパ液が上前庭神経に最初は刺激性についで麻痺性に作用するためと説明されている。また内リンパ水腫の成因としては内リンパ嚢での吸収阻害要因が検討されている。

メニエール病の薬物療法

著者: 鈴木衞 ,   森直樹 ,   原田康夫

ページ範囲:P.869 - P.876

 はじめに
 Ménière病は渡辺1)によると,1)前駆期,2)初回発作,3)活動期と休止期,4)成熟期,5)終末期の5期に分類されているが,ここでは,初回発作の時期から終末期にかけての薬物療法について述べる。

メニエール病の手術療法

著者: 二木隆

ページ範囲:P.877 - P.883

 はじめに
 病態である内リンパ水腫を報告した100に満たない論文の患者は,多くは他の疾患で亡くなったもので,もちろん死亡時に発作中であったという訳ではない。しかしながら,いずれにもライスネル膜の膨隆している所見がみられたことは,その状態が永続的に存続していることを示している。従ってメニエール病患者個々にとっては,めまいのない休火山状態から,なんらかの契機によって,たとえばSchuknechtの破綻説のごとく,容易に噴火(発作)して活火山状態になるという「終生の疾患」であるという可能性の方が強くなる。
 回転性のめまい発作は患者の最も恐れ苦痛とする不利益であり,もちろんこれを解消するのは大切なことであるが激しいめまいは少なくとも3日位で治るものであり,嵐の去ったあとに残るものは,耳鳴・難聴という蝸牛症状であり,この病気のnatural historyとは,発作と寛解の蛇行性反復をくりかえしつつ,聴力の下降線を辿るというものである。しかも著者の経験によれば,本疾患は28〜29%もの両側罹患が示される難病傾向をもつものである。

メニエール病治療の効果判定

著者: 青柳優

ページ範囲:P.885 - P.889

 はじめに
 メニエール病の診断には厚生省特定疾患メニエール病調査研究班によって明確な基準が示されているが,治療法は保存的療法でも手術的療法でもさまざまな報告がなされていることからも判るように,必ずしも確立しているとはいい難い。その理由として,病態や背景因子の解明が必ずしも十分ではないこともあげられるが,主症状であるめまい自体が極めて心因性要素の強い主観的症状であるため数量化しにくいこと,臨床経過が個々の症例によりさまざまであるばかりでなく,発作期と間歇期の間に規則性がなく,極めて不規則な臨床経過をとることが多いため,発作間隔の監視が必ずしも正しい治療効果判定の指標とはなりえない場合があることから,治療法について論じる場合に最も大事な治療効果の判定基準に問題があったことも理由の1つとしてあげられよう。
 めまいの治療効果判定基準として,国際的には1972年に提唱されたAAOO1)や,1985年に提唱されたAAO-HNS2)の判定基準がある。これらは学会の定めた判定基準ではあるが,さまざまな問題点が指摘されている。国内的には上村3)(1977)や徳増4)(1985)の基準があるが,これらはAAOOやAAO-HNSの判定基準と違い,必ずしも日本平衡神経科学会において公式に認められているわけではなく,また,これらにもさまざまな問題があるようであり5),国内的にも国際的にも汎用されうる統一的な基準がなかったともいえる。

メニエール病と内耳免疫

著者: 富山俊一

ページ範囲:P.891 - P.895

 はじめに
 メニエール病はめまい発作,低音部を中心とした変動する感音難聴,耳鳴の三症候を呈し,特発性内リンパ水腫を有する疾患と定義されている。亜型としての蝸牛型メニエール病はめまい発作を欠落している。
 メニエール病の発症機序については今日まで,多数の学説が提起されてきているが,いまだ解決していない。解剖組織学上から見る内耳はマクロ的に骨迷路で境界され,ミクロ的にtight junctionで外界組織と隔絶している。また輸出入リンパ管や所属リンパ節をもたない。内リンパ嚢は内耳において免疫担当細胞が完備され,有窓血管網にて外界と交通している唯一の部位である。
 近年になるまで,内耳は免疫活動の場としての研究対象からはほとんど除外されてきた。今日,免疫学の驚異的な進歩に出会い,1980年代に入って内耳にも免疫学研究の光が差込み,闇の中にあった原因不明の内耳疾患の正体が少しずつ明らかにされてきている。メニエール病の発作的な症状や内リンパ水腫はアレルギーの関与の一面を示唆する所見である。
 本稿ではメニエール病において免疫現象がどのように関わってつるのか,これまでの内耳免疫研究の成果について考察した。

目でみる耳鼻咽喉科

鼻中隔良性腫瘍

著者: 坂田英明 ,   丸山敬史 ,   石塚洋一

ページ範囲:P.862 - P.863

 鼻中隔に発生する良性腫瘍は鼻腔側壁や鼻腔に発生する腫瘍に比し少ない。
 主訴は,鼻出血,鼻閉が主なもので出血性鼻茸を思わせることが多い。また術後の病理診断は多種多様で診断に苦労することも多い。

原著

顔面・深頸部ガス産生性蜂窩織炎の1症例

著者: 青木正則 ,   小村良 ,   中田将風

ページ範囲:P.897 - P.901

 はじめに
 深頸部蜂窩織炎は,抗生剤の進歩をみた現在でも適切な処置を怠ると,致死的な経過をとることも決して稀ではない。保存的治療で軽快するものもあるが,感染病巣の開放の重要性は以前と変わらない。
 今回われわれは,ガス産生性嫌気性菌による重篤な顔面・深頸部蜂窩織炎の症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

高いG-CSF活性を示した上顎洞癌の1症例

著者: 藤井正人 ,   武井泰彦 ,   大沼田あや子 ,   神崎仁

ページ範囲:P.903 - P.907

 はじめに
 頭頸部腫瘍のなかで上顎の扁平上皮癌は比較的遠隔転移することの少ない腫瘍とされている1)。しかし,なかには早期に再発や遠隔転移をきたし急激な転帰をたどる症例も見られる。そのような場合に腫瘍細胞の生物学的な悪性度が関係すると考えられ,近年それらに関する報告が多くみられる2)
 一方最近では,多くの癌細胞遺伝子産物が癌細胞の増殖そのものに関与していることがさまざまな研究によって明らかにされてきた3)。つまりある種の癌細胞で癌遺伝子の発現に伴い何らかの増殖因子が分泌されるようになり,またそのリセプターを発現して,癌細胞はその物質を内分泌性増殖因子として増殖している可能性が示唆されている。そしてそれらの増殖因子として上皮成長因子やコロニー刺激因子(Colony Stimulating Factor,CSF)が注目されている。

原発性孤立性蝶形骨洞真菌症の1症例

著者: 鈴木秀明 ,   千葉敏彦 ,   髙坂知節

ページ範囲:P.908 - P.912

 はじめに
 副鼻腔真菌症の中で蝶形骨洞真菌症の報告例は少ない。蝶形骨洞以外の副鼻腔や眼窩内にも真菌感染が認められるものや,また免疫能低下や経蝶形骨洞下垂体手術後,外傷後などで頭蓋内にも真菌感染が認められるような症例は散見されるが,基礎疾患がなく蝶形骨洞のみに単独に原発する真菌感染は文献上さらに数少ない。筆者らは最近これに相当する症例を経験したので報告する。また本症例ではX線透視下に鼻内蝶形骨洞開放術を施行したが,その手術経験も併せて報告する。

上顎洞根治手術での同種乾燥硬膜の使用について

著者: 佐々木好久 ,   田路正夫 ,   斉藤晶 ,   石坂敏男 ,   生井明浩 ,   佐藤かおる

ページ範囲:P.917 - P.920

 はじめに
 副鼻腔炎の術後数年から10数年,さらには数10年を経て発生する術後性上顎嚢腫や術後の再発生副鼻腔炎の数には少なからざるものがある。そして上顎洞再手術で手術を難しくしていることの一つに,欠損している上顎洞骨前壁の部分から洞内に入り込んでいる瘢痕組織がある。
 手術は元の形態を保持するのが理想であり,この点からもosteoplastyや骨膜縫合などの工夫が試みられてきた。osteoplastyは骨弁を採取することが必ずしも容易でない。特に前壁骨が薄いと,採取のさい割れやすく,また骨弁端の整復が思うようにならない。骨膜縫合はその点では容易であるが,確実に骨膜縫合ができているという自信のない場合もある。再手術ともなると,結合織の洞内侵入があり,それは不可能となる。
 これらのことから欠損した上顎洞前壁を補完し,結合織侵入を防ぐために同種乾燥硬膜(lyophi—lizcd homograft dura,以下,LHDと略)を使用してみたが,ほぼ目的に適合してつることが分かってきたのでここに報告す。

両側口蓋扁桃に転移した胃癌の1例

著者: 佐藤玲子 ,   辺土名仁 ,   長島道夫

ページ範囲:P.921 - P.925

 はじめに
 扁桃の悪性腫瘍は一側性のことが多く,両側同時に病変を認める場合は炎症性疾患が多い。私たちは両側扁桃に転移した胃癌症例を経験した。悪性腫瘍の扁桃転移自体が稀であるが,両側同程度に病変が広がることもあるので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

耳鼻咽喉科学的能面論

著者: 瀬尾攝

ページ範囲:P.914 - P.915

 能面の耳
 能面の耳——こんな題をみてたいていの人は「ハテ,能面に耳があったかな?」と首をかしげるのではないでしょうか。否,ベテランの観賞家でも舞台の上の演能では頭(かしら)や髭におおわれて能面の耳にまで注意の及ぶことはまずあり得ないでしょう。こんなことにこだわるのもしょせん,私が耳鼻咽喉科医であるという職業意識のなせるところかもしれません。
 代表的な能面である翁(オキナ)や小面(コオモテ)には耳がありませんが,尉(ジョウ)面や般若(ハソニャ)には立派な耳があります。

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科 第64巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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