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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科64巻4号

1992年04月発行

雑誌目次

トピックス 頸部腫瘤の穿刺吸引細胞診

頸部腫瘤の穿刺吸引細胞診は有効か

著者: 堀内正敏

ページ範囲:P.247 - P.251

 はじめに
 頸部の腫瘤性病変には多くの疾患が含まれている。先天性嚢胞・リンパ節炎・癌の転移・甲状腺または唾液腺の疾患などである。いずれも日常の診療でよくみる腫瘤であるが,鑑別診断を正確に行うのはときに困難なことも少なくない。
 正確に病理組織診断をするためには,外科的な操作が必要になるが,すべての症例に診断のための腫瘤の摘出を行うことは頸部腫瘤の診断方法として的確な方法でない。同じリンパ節の腫大でも,リンパ節炎と癌のリンパ節転移では治癒のための治療方法は著しく異なる。適当な治療法を選択するためには正確な診断が必要である。

頸部リンパ節腫瘤

著者: 永原國彦

ページ範囲:P.253 - P.258

 はじめに
 リンパ節に対する穿刺吸引細胞診はGuthrie(1921)によって始められたとされる。これが1950年代になって北欧を中心に急速に普及した(Soe-derstrom,Franzen,Carduzo)。本邦では1970年前後に,甲状腺で鳥屋,前立腺で竹内らにより導入され,順次,他臓器に適応が拡大された。最近では体表近くのみではなく深部臓器に対しても,X線テレビ透視,超音波エコー(US),CT,MRI,その他の各種造影法の助けをかりて安全に施行されている。
 一方,頭頸部領域においても画像診断の進歩はめざましく,頸部リンパ節の性状を評価する上にも欠かせないものとなっている。これは同時に頸部リンパ節を検出するsensitivityを飛躍的に向上させた。しかしながら,US,CT,MRIに関する限り,良性のものと転移性のリンパ節を鑑別することは原則的に不可能である。したがって,sensitivityが向上する一方では,転移性疾患などの診断におけるspecificityが低下する運命にある。すなわち画像診断では,偽陽性,偽陰性の率が高い点が問題である。たとえば,触診では25%前後の偽陽性率が報告されているが,CTにおいても偽陽性率は20%前後,偽陰性率は30%もあるとされている1)。ここに画像診断に組織診断,なかでも簡便に行える穿刺吸引細胞診(FNA)を併施する大きな意義があるといえる。しかしながら頭頸部領域においてもFNAが困難な場合もあり,細胞学的診断のみでは足りない場合もあり,また播種の危険性も完全には否定できないのが現状である。ちなみに著者は15年ほど前に,シルバーマン針による甲状腺の組織診断を積極的に行っていた時期があるが,この間に2例の筋肉内播腫を経験している。FNAでは穿刺針のゲージが細いので安全であるとされているが,著者としては後述する通り,未だ全幅の信頼をおききれない現状である。頭頸部領域におけるFNA,特に頸部リンパ節腫瘤に対しての役割と問題点を,最近2年間の自験例の検討も併せ述べる。

甲状腺腫瘤の穿刺吸引細胞診

著者: 高橋久昭 ,   河西信勝

ページ範囲:P.259 - P.263

 はじめに
 近年の甲状腺腫瘤の診断は,触診にその多くを頼っていた時代に比べて飛躍的な進歩をとげ,比較的小さな腫瘤でも高い正診率で悪性か否かの診断が可能となった。その進歩を担うものは超音波診断法をはじめとした各種の画像診断法の発達と細胞診断学の発達である。
 特に穿刺吸引細胞診は力法が簡単なことと,他の画像診断法に比べて,直接に腫瘍細胞を明視下において診断できるという質的診断における絶対的な優位性がある。しかし,吸引細胞診にも問題点が残されていない訳ではない。
 本稿では,甲状腺腫瘍の吸引細胞診の有用性と問題点について自験例を基に述べることにする。

唾液腺腫瘤

著者: 林崎勝武 ,   角原滋子 ,   尾関由里子 ,   鈴木晴彦

ページ範囲:P.265 - P.269

 はじめに
 大唾液腺に腫脹をきたす疾患には,耳下腺を例にとってみると,流行性耳下腺炎などの炎症,シェーグレン,ヘールホルト,ミクリッツ症候群,唾液腺症,仮性肥大,外傷による唾液漏や唾液嚢胞,唾石,異物,軟部好酸球肉芽腫症,腫瘍類似疾患(先天性嚢胞やbenign lymphoepithelial lesion)に加え,良性,悪性,転移性の腫瘍などがある。ことに腫瘍では良性,悪性を問わず多彩な組織型のものがあり,また悪性腫瘍は組織型や分化度の違いによって著しく予後が異なることは良く知られている。一般に頸部の腫瘤性疾患ではbiopsyは播種や血管,神経損傷の危険性があるため禁忌とされており,術前診断としてはシアログラフィー,超音波断層法,CT,MRI,RIなどを含めた総合画像診断により良,悪性を鑑別し,ある程度まで組織型を類推するに止まっているのが現状である。
 最近おもに外科領域で急速に拡まりつつある超音波ガイド下の細針吸引生検法(fine needle aspi-ration biopsy,FNA)は,リアルタイム超音波映像下に操作することによってより,安全,確実に細胞の採取が可能であり,高い評価を得ている。著者らは本法を頭頸部領域に応用すべく改良を加え,1984年より臨床応用を行っているが1,2),今回,唾液腺腫瘤のうち耳下腺腫瘤を対象として,術前の良,悪性の鑑別診断,さらに組織型診断における本法の成績ならびに有用性について述べたい。

〈付記〉凍結切片による甲状腺および耳下腺腫瘤の術中迅速病理診断

著者: 岸本誠司

ページ範囲:P.271 - P.275

 はじめに
 頸部腫瘤に対する穿刺細胞診は良性・悪性の判定,手術の適応や術式の決定に有川である。しかし,明らかに手術適応があると考えられる症例に対しては,術前の侵襲的な検査をできる限り避け,凍結切片による術中迅速病理診断を参考にして術式の決定を行っていくことも一つの方法と考えられる。
 本稿では,甲状腺,耳下腺を中心とした頸部腫瘤に対する凍結切片による術中病理診断について自験例をまとめ,これまでの報告と併せてその意義,問題点などについて検討を加える。

目でみる耳鼻咽喉科

Plummer-Vinson症候群診療上の留意点

著者: 丘村煕 ,   稲木匠子

ページ範囲:P.244 - P.245

 Plummer-Vinson症候群(以下,P-V症候群)は嚥下困難,貧血,舌炎を主徴とする疾患単位で,Paterson-Brown-Kelly症候群,鉄欠乏性嚥下困難症とも呼ばれる。
 本症は40歳以降の中年女性に好発し,食道透視でしばしば頸部食道前壁にweb像が観察される(図1)。放置すると頸部食道に輪状の瘢痕性狭窄を生じて(図2,3),高度の嚥下困難に陥ることがある。さらに下咽頭癌をはじめとする消化器癌発生率の高いこと(図4)が知られており,本症候群に遭遇したなら厳重な長期観察が必要である。

原著

突発性難聴予後の検討

著者: 馬場俊吉 ,   大河原大次 ,   八木聰明 ,   青木秀治 ,   波多野吟哉

ページ範囲:P.277 - P.281

 はじめに
 突発性難聴は感音難聴の中でも,聴力回復を望むことのできる数少ない疾患の一つである。そのため従来より様々な治療方法が試みられ,数多くの治療成績が報告されている。一方,治療方法とは別に突発性難聴の予後に影響を与える因子の報告も数多くなされている。子後因子としては年齢,発症時の聴力レベル,聴力型,発症から治療までの期間,前庭症状の有無などが上げられている。しかし,これらの報告の中には母集団の治療法が異なっていたり,治療法が全く述べられていないものもある。また,治療結果の判定方法も報告によりまちまちである、そこで,治療方法を一定にし,治療結果を聴力経過,聴力改善度,聴力改善率で判定し,予後を左右する因子との検討を行ったので報告する。

中音域dipないしは谷型オージオグラムの臨床診断学的意義の検討

著者: 坂田英治 ,   大都京子 ,   村田保博 ,   平塚仁志 ,   金永順

ページ範囲:P.283 - P.288

 はじめに
 日常臨床において,患者の聴力ないしは聴覚の状態を正確に把握することの重要性は云うをまたない。そのうち,気・骨導聴力レベルを測定してオージオグラムを作成することはその第一歩をなす不可欠の情報である。
 たとえば,4,000Hz dipは音響をはじめとして各種の振動刺激に起因する内耳外傷を,また,骨導域値上昇のない低音域気導障害は伝音性難聴を疑うべき初歩的知識である。

猫ひっかき病の1症例

著者: 黒田令子 ,   要英美 ,   吉原俊雄

ページ範囲:P.289 - P.294

 はじめに
 猫ひっかき病は1950年にDcbre1)によって最初に報告され,1953年には浜口ら2)によってわが国での第1例の報告がされている。この後,特に欧米では患者数が多いこともあり数多くの研究や報告がある3,4)。しかし本邦では報告が欧米に比較して少ない5)うえ,多くは外科2)や小児科6)の報告で,耳鼻咽喉科からの報告は少ない7)
 耳鼻咽喉科の一般診療において頸部腫瘤を主訴とする患者は少なくない。そのうち頸部リンパ節腫脹はかなりの割合を占める8,9)が,猫ひっかき病によるリンパ節炎は比較的稀である10)
 今回われわれは頸部腫瘤を主訴として来院した猫ひっかき病の1例を経験したので報告する。

蝶形骨洞癌の2症例

著者: 中丸裕爾 ,   酒井昇 ,   滝沢昌彦 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.299 - P.303

 緒言
 副鼻腔に発生する悪性腫瘍は,そのほとんどが上顎洞原発であり,蝶形骨洞原発のものは非常に稀である。われわれの検索し得た範囲では,蝶形骨洞原発の悪性腫瘍の報告は,本邦で28例,欧米でも44例を認めるに過ぎない。蝶形骨洞原発の腫瘍は,洞内にとどまっている間は症状を現わさず,洞外に進展して初めて症状を呈するため早期発見が難しい。また蝶形骨洞周囲には,視神経,動眼神経,三叉神経,滑車神経などの脳神経や海綿静脈洞,さらには大脳が隣接しているため,治療も難しく極めて子後が悪い。今回われわれは,蝶形骨洞原発の扁平上皮癌の2例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

耳介に発症した血管平滑筋腫の1例

著者: 山田直人 ,   内沼栄樹 ,   松倉知之 ,   神沢敏 ,   塩谷信幸

ページ範囲:P.305 - P.307

 はじめに
 血管平滑筋腫は,中年女性の下肢に好発する血管壁の平滑筋に由来する良性腫瘍である。しかし顔面および頭部に発症することは比較的稀であるとされ,しばしば誤った診断をされることがある。今回われわれは左耳介部に発症した血管平滑筋腫を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

上顎洞粘表皮癌の検討

著者: 橘田千秋 ,   堀越秀典 ,   原田克也 ,   内藤丈士 ,   長舩宏隆 ,   小田恂 ,   野中博子

ページ範囲:P.309 - P.312

 はじめに
 粘表皮癌は唾液腺山来の腫瘍であり,そのほとんどが大唾液腺および小唾液腺に発生する。鼻,副鼻腔における粘表皮癌は比較的稀であり,多面性をもった腫瘍といわれている1)。われわれは最近10年間に,3例の上顎洞粘表皮癌を経験したので,病理学的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

国際学会始末記

著者: 調賢哉

ページ範囲:P.296 - P.297

 30年近い以前のことである。
 父の急逝にあい,家庭の事情(現在は福岡大学耳鼻科教授の弟は卒後数年であり,現在は川崎医大病理学教授の弟はまだ高校生,妹はまだ中学生および短大生であった),母親のたっての希望のため,それまで順風満帆であった鹿大助教授の学究生活を辞し,郷里に帰る時は断腸の思いであった。突然の事なので主任の久保隆一教授には随分迷惑をかけた事を考えると今もって慙愧に耐えない。郷里に帰った当初は機会があれば又,大学に復帰するつもりでいたが,それもかなわぬまま時は過ぎていった。しかし現在はこれだけ患者さんに慕われれば医者冥利につきるというもので,私の歩んだ道がむしろよかったのかなと考えるようになった。ちなみに私のクリニックは遠くから受診される沢山の患者さんのため,午前0時から受付を始めるがその時は年間通じていつも100名位列を作って待っておられる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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