原著
耳鼻咽喉科外来患者のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染について—ある乳児院における連続発症例を含めた検討
著者:
小川浩司
,
橋口一弘
,
山下亮子
,
中村ちなみ
,
吾妻猛
,
福田沢子
,
鈴木孝美
ページ範囲:P.355 - P.359
はじめに
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus;以下MRSAと省略)はわが国では1980年代はじめより増えはじめ,現在も増加傾向にあるといわれている。この菌が注目されるのは,ペニシリンばかりではなく,多剤に対し耐性を示し,高齢者などの免疫能が低下している患者(compromised host)などでは,MRSAの感染によって死に至る場合があること,そしてこの菌が多くの場合院内感染の関与,とくに医療従事者の手指を介して伝搬されることが指摘されているからである1,2)。したがって医事訴訟をはじめとする社会的な問題に発展する可能性すらあるからである。
一般的には入院での感染が多く外来患者では少ないとされているが,われわれは最近一乳児院(児童福祉施設)で多発したMRSAによる耳感染症を経験した。おそらくこども達を世話する保母(父)を介して伝搬したのではないかと考え,保母(父)たちの鼻前庭より検体を摂って調べ,MRSA保有率がきわめて高いことなどの興味深い知見を得たのでこれを報告し,耳鼻咽喉科外来での本菌の検出状況や治療上の問題について考えてみたい。