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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科65巻1号

1993年01月発行

雑誌目次

トピックス 環境と耳鼻咽喉科

騒音と耳鼻咽喉科

著者: 調所廣之

ページ範囲:P.9 - P.15

 はじめに
 人が文化的な生活をおくるためには工業の発達が基礎にならなければならない。工業の発達は富みをもたらす反面,自然を破壊し,騒音をも増加することになる。一方,人は社会生活において静かな生活を送りたいと考える。文化的レベルが高いほど,よい生活環境を求めることになる。すなわち騒音には社会的に相反する問題を含んでいることになる。
 われわれの日常生活における騒音には環境騒音と職場騒音がある。環境騒音は永久的な聴覚障害とはならない低い騒音レベルであり,日常生活に対する障害が問題となる。職場騒音では環境騒音と同じく騒音は会話聴取の妨害,作業能率の低下をもたらすが,主として聴器に及ぼす影響が問題となる。環境騒音の増加として,①急速な都市化,②高速交通機関の発達,③人間活動の機械化が挙げられている。日本は環境騒音が著しく増加した代表的な国であり,欧米諸国と比較しても,環境騒音は決して低いとはいえない。近年になり,環境に関する紛争が多発している。その代表的なものとしては航空機騒音,新幹線騒音,道路騒音あるいは,隣家,隣室からの騒音に関するものがある。これらの紛争,訴訟をきっかけに騒音防止に関する運動が活発となり,また国,地方自治体の行政面からの対策も講じられている。しかし現実はなかなか深刻である。一方職場においても騒音を発するもの,すなわち騒音源は多数存在する。職場騒音は主として騒音性難聴発生の観点から検討されてきた。
 その他最近では,環境騒音あるいは職場騒音とは異なったロック音楽などによる難聴が問題となっている。これは近年の電子機器の発達に伴い,強大な音響をたやすく再生できるようになったことも原因である。これらロック音楽などの強大音響による難聴は職業性難聴とは異なる難聴として注目されている。

低周波と耳鼻咽喉科—特に内耳に対する影響について

著者: 吉田昭男

ページ範囲:P.17 - P.22

 はじめに
 振動と最も関連の深い耳鼻咽喉科領域は耳,ことに内耳と中耳であろう。そこで今回のテーマは「振動と耳鼻咽喉科」であるが紙面の都合上,低周波振動が内耳,中耳に及ぼす影響について文献的に考察することにする。低周波が人体に及ぼす影響については可聴域の騒音のそれに比べて最近まであまり関心が寄せられていなかった。しかし新幹線,高速道路,航空機の発達,増加により,これらの引き起こす低周波が周辺の住民に及ぼす影響について段々関心が高くなってきている。
 低周波の定義に関しては,U.S.EnvironmentalProtection Agencyによれば16Hz以下をさしているが1),1973年パリにおける国際会議で0.1Hzから20Hzと決められた。しかし20Hz以上でも人体に影響を及ぼす可能性があることから1980年のアールボルグ(デンマーク)での国際会議では1Hz〜100Hzに範囲を広げることが提唱されている。また人体に影響があると考えられていた音圧はロケットとかジェットエンジンが引き起こす140dB以上の低周波であったが,最近ではもっと低い音圧の低周波も人体に影響がある可能性が示唆されている。低周波が人体に及ぼす影響としてこれまであげられているのは1)酒に酔ったような感じになる,2)作業がうまくいかなくなる,3)聴力の低下の可能性,4)眼振,平衡感覚の低下,などである。

気圧と耳鼻咽喉科疾患

著者: 中島務 ,   柳田則之

ページ範囲:P.23 - P.29

 はじめに
 文明の進歩とともに人間が気圧の変化にさらされる機会は,ますます増加してきている。航空機の発達,スキューバダイビングの流行,高気圧環境下での仕事の増加,宇宙飛行など,今後人類が気圧変化にさらされる機会はさらに多くなっていくであろう。
 したがって,気圧あるいは気圧変化がどのように人間に影響を与えるかを知ることは重要なテーマで,特に耳鼻科領域は気圧変化に対してその影響が最もでやすい領域の一つであるため,気圧変化の耳鼻科領域に及ぼす影響に関する研究は今後さらに必要なものとなっていくと思われる。

大気の温・湿度変化と鼻粘膜反応

著者: 今野昭義 ,   寺田修久 ,   本杉英昭 ,   永田博史

ページ範囲:P.31 - P.36

 はじめに
 耳鼻咽喉科領域にはBell麻痺のように寒冷刺激が発症の誘因の一つと考えられる疾患がいくつかある。しかし環境温度,湿度の変化に最も敏感に反応する臓器,器官は鼻粘膜である。ヒトは南極における−88℃からリビアの砂漠における58℃まで,かなり広範な環境温・湿度の変化にさらされる。吸気温・湿度の変化にバッフアーとして対応できるように鼻粘膜には容積血管系と腺が豊富に発達している。しかしヒト鼻粘膜の加温能,加湿能は過換気のような特殊な呼吸においては必ずしも十分ではなく,小児気管支喘息児でしばしばみられる運動誘発喘息の発症機序として,運動時の過換気による下気道粘膜からの熱および水分喪失が気管支平滑筋収縮をおこすという学説がある1,2)。実際に寒冷下での運動は運動誘発気管支収縮を促進し,水泳のような高湿度下での運動では運動誘発喘息がみられることは少ない。またマスク着用は運動誘発喘息の発症を抑えることも知られている3)
 ウイルス性急性鼻炎,急性上気道炎も日本語では“カゼ”,英語では“cold”,独語では“Erkältung”と表現されるように,古くからその発症には温度,湿度などの環境条件の関与が考えられている。本稿では加温・加湿器としての鼻粘膜の効能とその限界,寒冷刺激に対する鼻粘膜反応,さらに“カゼ”と寒冷との関連についてまとめてみたい。

粉塵と耳鼻咽喉科疾患

著者: 大山勝 ,   花田武浩 ,   古田茂

ページ範囲:P.37 - P.43

 はじめに
 粉塵が耳鼻咽喉科領域で問題になるのは,aero-digestive tractの門戸である上気道,とりわけ鼻腔である。また,外界と直接触れている頭頸部体表に生ずる変化でもあろう。ただ,粉塵といっても,その種類は多く,単独で炎症やアレルギーの原因となるもの,さらには大気中の汚染物質と共存で,より顕著な病的作用をきたすものなどがある。ここでは,これら大気と接する上気道の生体防御機構の特徴とその破綻にともなう気道粘膜病態を概説した後,粉塵の種類と生体への影響とくに炎症,アレルギーの特徴について解説する。
 また,実験動物に基因する気道アレルギーや大気汚染との関連で社会問題となっている花粉アレルギーについても言及する。

目でみる耳鼻咽喉科

胃癌の両側口蓋扁桃転移

著者: 辺土名仁 ,   佐藤玲子 ,   長島道夫

ページ範囲:P.6 - P.7

 扁桃原発の悪性腫瘍は片側性の場合が多く,両側扁桃に同時性の病変を認める場合は感染症が多い。しかし両側性に悪性腫瘍を認める場合もあり,そのような例では他臓器よりの転移も考えなければならない1,2)。今回,胃癌の手術後に両側扁桃へ同時性に転移をきたした1症例を経験したので供覧する。

原著

小児側頭骨内髄膜腫の1症例

著者: 堀内譲治 ,   木谷伸治 ,   暁清文

ページ範囲:P.45 - P.49

 はじめに
 髄膜腫はクモ膜組織から発生する良性の腫瘍であり,成人に好発し,小児例は少ない1)。通常,本症は頭蓋内に発症するが,稀に鼓室内に進展したり鼓室に原発する例もある,このような場合,初期には臨床症状を示さず,難聴や顔面神経麻痺をきたして初めて気づかれることも多い。今回,滲出性中耳炎の経過中に鼓室内腫瘤を発見され,臨床的には真珠腫と思われたが,最終的には多発性髄膜腫の部分症状であった小児例を経験したので報告する。

中耳腔内を異常走行する内頸動脈の1例

著者: 林智栄子 ,   新川敦 ,   三宅浩郷 ,   坂井真

ページ範囲:P.51 - P.54

 はじめに
 側頭骨内の血管奇形の中で動脈奇形は極めて稀な疾患である。これらの疾患の主訴は難聴,耳鳴,耳閉感などであり,日常の耳鼻咽喉科診療においてありふれた症状といえる。しかし,本疾患は誤診や不用意な外科的処置により大出血や神経学的合併症を認めた症例も数多く報告されており,臨床的に非常に重要な疾患である。
 今回,われわれは拍動性耳鳴を主訴に来院した24歳の女性で初診時にグロームス腫瘍を疑い,術前検査で内頸動脈の走行異常と診断し,シリコンシートを用いることによりその拍動性耳鳴を軽減できた症例を経験した。われわれの経験した1症例とともに,現在までに国内外で報告されている内頸動脈異常走行例36症例1〜16)と併せて37症例について検討したので報告する。

咽喉頭癌剖検例における重複癌の検討

著者: 橘田千秋 ,   大林聡子 ,   原田克也 ,   野村俊之 ,   内藤丈士 ,   長舩宏隆 ,   小田恂 ,   野中博子

ページ範囲:P.55 - P.59

 はじめに
 頭頸部癌における重複癌の頻度は比較的高いといわれている。なかでも咽頭癌,喉頭癌での頻度は10〜20%とする報告もある1,2)
 今回われわれは咽頭癌,喉頭癌の剖検症例での重複癌について検討したので若干の文献的考察を加えて報告する。

家族性耳下腺腫瘍

著者: 安部治彦 ,   井上都子

ページ範囲:P.61 - P.66

 はじめに
 家族性に発生する腫瘍として,網膜芽細胞腫,Wilms腫瘍,乳癌,家族性大腸ポリポージスなどがよく知られている。このうち遺伝性腫瘍として網膜芽細胞腫では40%1),Wilms腫瘍では15〜20%2)が遺伝性といわれているが,遺伝子についてはまだ確定されていない。
 耳下腺腫瘍が家族性に発生することは非常に稀で,今までに7家族の発表しかない3)。今回,われわれの報告する耳下腺に発生した家族性のAdenolymphomaは8番目で,Adenolymphomaでは3家族目である。Adenolymphomaは両側性に,また多中心性に発生することが多いので,本家系の遺伝性の可能性について検討を加えて報告する。

医療ガイドライン

頭頸部がん患者のQOLチェックリスト

著者: 酒井丈夫 ,   金子康寛 ,   中崎浩一 ,   荒木圭介 ,   木倉幹乃 ,   大川靖弘 ,   岩崎聡 ,   向高洋幸 ,   野沢理 ,   峯田周幸 ,   野末道彦

ページ範囲:P.67 - P.72

 はじめに
 Quality of life (以後,QOLと略)は「生命の質」,「生活の質」,「生きることの質」など,日本語に訳されるが,きわめて抽象的な概念であるため,そのまま原語のQOLが使われることが多い1)
 がん患者のQOLを合理的に正確に評価することは,疾患によって生ずる身体的苦痛を緩和することに役立つだけでなく,心理的・社会的苦痛の緩和にも有効である。

鏡下咡語

1万分の1の魂—WHOの難聴予防

著者: 鈴鹿有子

ページ範囲:P.74 - P.75

 「医者を辞めたと聞いたんですが……」「とんでもない。白衣を着なくなっただけですよ」World HealthOrganization (WHO)世界保健機関ジュネーブ本部事務局で難聴予防科Prevention of Deafness and HearingImpairment (PDH)のコンサルタントを担当してほぼ1年が経とうとしている。
 WHOは「全ての人民が可能な最高の健康水準に到達すること」の世界保健機関憲章の第1条に基づき国際保健事業の指導,調整などを主な仕事としている,いわば世界の厚生省にあたるところ。スイス,ジュネーブの本部事務局のほか世界を6地域に分け,それぞれに地域事務局が置かれている。本部はHQ (headquarters)として36の分野,122の科に分かれている。現在HQの職員は約2千人で,その1/3が事務職以外の直接プログラムを担当しているofficerである。PDHは健康促進部に所属しており,それは後にも先にも私一人の最小ユニットなのである。

講座 頭頸部外科に必要な局所解剖・1

頸部の皮下

著者: 佐藤達夫

ページ範囲:P.77 - P.84

 はじめに
 頭頸部の局所解剖についてしばらくの間連載することになった。人体のどの部位においても,とくに悪性腫瘍に対する手術が一方で根治化を求めて拡大し,他力でその成果を踏まえ,機能温存を配慮した縮小化が志向されるようになると,正確で詳しい局所解剖を求める声がたかまってくるのは当然である。単純切除の時代の局所解剖では,リンパ節郭清を伴う術式の時代に対応できないということであろう。もちろん,それに必要な局所解剖は,実際に手術にあたる専門医が執筆するのが本すじであり,一介の解剖教師の手におえるものではない。しかし,手術に携わらない非当事者が対象物から一歩距離を保って書いた局所解剖も,臨床医にとってときには有益かもしれないと考え,連載を引き受けることにしたしだいである。はじめに頸部を扱うが,手術の対象となる諸臓器に入る前に,予備知識として皮下,筋と筋膜,血管,リンパ系,神経などに当ることにする。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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