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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科65巻11号

1993年10月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科の機能検査マニュアル 1.聴覚検査

[1]純音聴力検査

著者: 松平登志正

ページ範囲:P.5 - P.13

 1.検査の意義
 純音聴力検査は,刺激音として純音(単一周波数の正弦波で表される音)を用いる検査で,被検者に聞こえる最小の刺激強度すなわち聴力閾値を測定する検査と,十分に聞こえるレベルの音の聞こえかたを調べる閾値上聴力検査に分けることができる。本項では学齢期以後の年齢の被検者を対象とした聴力閾値検査について述べ,乳幼児を対象とした聴力検査は[7]条件詮索反射聴力検査において述べる。また,閾値上聴力検査は次項[2]において述べる。
 聴力閾値の検査には気導聴力検査と骨導聴力検査がある。両者とも聴力障害の診断の第一歩となる基本的な検査法である。気導聴力検査は,ヘッドホン型受話器(気導受話器)を用い,外耳道経由で空気の振動として音を聴取させ,聴力閾値を測定する。この検査により,周波数別に片耳ごとの難聴の程度を定量的に知ることがでぎる。骨導聴力検査は,バイブレータ(骨導受話器)を乳突部(または前額部)に圧定して頭蓋骨を振動させ,聴力閾値を測定する。この検査と気導聴力検査の結果から,難聴が,外・中耳の病変で起こる伝音難聴であるか,内耳またはそれより中枢側の病変で起こる感音難聴であるか,両者が合併した混合性難聴であるかを判別することができる。

[2]閾値上聴力検査,不快閾値検査など

著者: 細井裕司

ページ範囲:P.15 - P.22

 1.閾値上聴力検査とは
 閾値上聴力検査は各被検者に最小可聴閾値よりも強い音を提示して種々の判断を行わせ,その結果に基づいて補充現象の有無や,快適閾値,不快閾値などを求める検査で,検査音としては純音,語音などが用いられる。語音弁別検査は代表的な閾値上聴力検査であるが,本項では非言語音を用いた閾値上聴力検査について述べる。

[3]語音弁別検査

著者: 岡本牧人

ページ範囲:P.23 - P.30

 はじめに
 聴力検査の基本は純音聴力検査であるが,日常生活で純音を聴くことはまれであって,実際に問題になるのはことばの聴こえぐあいである。そこでことば(語音)を用いた聴力検査が必要となってくる。語音聴力検査は純音聴力検査と比べて,聴覚系全体にわたる,より総合的な聴力を示すものであり,より実用的な聴力を反映するといえる。
 語音を用いた聴力検査には,ここで述べる語音弁別検査の他に語音聴取閾値検査,歪語音聴力検査,両耳合成能検査,両耳分離能検査などがある。一般的には語音弁別検査と語音聴取閾値検査が行われる1)

[4]耳嶋検査

著者: 馬場俊吉

ページ範囲:P.31 - P.37

 はじめに
 耳鳴検査は主観的な耳鳴を客観的にとらえ評価することで,自覚的な耳鳴の性質を第三者が多少なりともうかがい知ることのできる方法である。耳鳴は身体内に機械的な音源をもつ他覚的耳鳴と音刺激なしに音感覚を生ずる自覚的耳鳴に分けられる。他覚的耳鳴症例は少なく,その音源を診断することは比較的容易である。一方,自覚的耳鳴は主観的な訴えであり,自覚する音感覚も身体的,精神的要因や生活環境,自然現象によって変化するものも多い。このため,主観を指標に耳鳴を正確に評価することは困難であり,主観的な耳鳴をできるだけ客観的にとらえ評価する必要性がある。耳鳴を客観的に評価することは,耳鳴の経時的変化や治療経過および治療効果を判定する上でも重要である。また,詳細な問診,耳鼻咽喉科的一般検査や聴覚検査を行い耳鳴の原因疾患を確定することは,耳鳴治療にとって必要不可欠である。

[5]補聴器の検査

著者: 小寺一興 ,   堀内美智子

ページ範囲:P.38 - P.44

 はじめに
 補聴器の適合に関連する検査には,1)個人用の補聴器を装用した効果の検査,2)補聴器自体の電気音響的性能の測定,3)各種聴力検査で補聴器適合に関連するものがある。ここでは,それぞれの検査の方法と,検査結果の補聴器適合における意義について述べる。

[6]他覚的検査—①インピーダンスオージオメトリー

著者: 小林俊光

ページ範囲:P.45 - P.52

 はじめに
 インピーダンスオージオメトリーは,ティンパノメトリーと耳小骨筋反射測定の総称である。外耳道圧を変化させたときのコンプライアンス変化を測定するものがティンパノメトリーであり,プローブ音以外にもう1つ強い刺激音を与えて,アブミ骨筋の反射的収縮を誘発し鼓膜偏位に基づくコンプライアンス変化を測定するものが耳小骨筋反射である。ティンパノメトリーは中耳系の異常の有無を測定するものであり,耳小骨筋反射はこれに加えて,顔而神経麻痺の障害部位診断,神経筋疾患,聴覚閾値の推定などに用いられる。

[6]他覚的検査—②聴性脳幹反応

著者: 青柳優

ページ範囲:P.53 - P.63

 はじめに
 聴性脳幹反応(auditory brainstem response:ABR,あるいはbrainstem auditory evoked pc-tential:BAEP)は頭皮上より記録される蝸牛神経と脳幹部聴覚路由来の聴性誘発反応であり,刺激を与えてから10msec以内に出現する。聴性誘発反応とは音刺激によって起こる末梢受容器あるいは中枢神経系ニューロンの電気活動を記録したもので,ABRのほか,蝸電図・聴性中間反応・聴性定常反応・頭頂部緩反応・事象関連電位(P300,contingent negative variation)などがある。いずれも反応波形が背景脳波(生体雑音)と比べて微小な電位であり,1回の音刺激による記録では反応を同定することはできないので,何回も刺激音を与え,これに同期させていくつもの記録波形(脳波)を平均加算することにより背景雑音を除去して得られる反応である。蝸電図のように発生源と電極の距離が近ければ(near field記録)加算回数は少なくてすむが,ABRのように体表での記録では発生源との距離が大きいため(farfield記録),反応と雑音の電位の比(S/N比)が小さくなり,反応波形の同定には多くの加算回数が必要となる。
 ABRは1970年Jewett1)により初めて報告されたが,聴性誘発反応のなかでは頭頂部緩反応や聴性中間反応より歴史は新しい。しかし,反応の安定性が高いこと,睡眠時の反応閾値が純音聴力閾値に近いこと,および脳幹障害診断などで臨床的有用性が高いことなどから,現在では頭頂部より誘導される聴性誘発反応のなかでは一般臨床に広く応用されている唯一の検査法となっている。ABRの臨床応用は他覚的聴力検査のほか,神経学的検査法として脳幹機能障害の診断法やモニタリングとしても使用されている。

[6]他覚的検査—③蝸電図

著者: 森望

ページ範囲:P.65 - P.70

 はじめに
 ヒトにおいて蝸牛音誘発電位〔蝸牛マイクロホン電位(cochlear microphonics:CM),蝸牛神経複合活動電位(action potential:AP)〕を測定する試みは穿孔耳においてや,中耳手術時に正円窓に記録電極をおくことにより,Andreevら1),PerlmanとCase2),Lempertら3)が報告しているが,難聴の診断のために手術的に正円窓に記録電極をおぎAPを記録したのはRubin4)が初めてであった。Ronis5)が初めてコンピュータにて同期加算することにより,耳硬化症の手術時に正円窓からの蝸牛音誘発電位の記録を報告した。同期加算法を使用することにより,非手術的に外耳・中耳に置いた電極から蝸牛音誘発反応(CM・AP)が記録できることがPortmannら6)とYoshieら7)の両者から報告された。Portmannら6)は局所麻酔下に鼓膜を穿通して鼓室岬角においた電極から記録し,Yoshieら7)は局所麻酔下に鼓膜に近い外耳道においた電極から記録した。以後,APは難聴の病態診断・部位診断などに有用とする多くの報告がされている。加重電位(summating po-tential:SP)に関してはSchmidtら8),Eggermontら9)により詳しく報告され,その後も多くの報告がなされ,メニエール病では他の内耳性難聴耳にくらべてSPが増大することが確認された。

[6]他覚的検査—④耳音響放射

著者: 大内利昭

ページ範囲:P.71 - P.79

 はじめに
 耳音響放射(otoacoustic emission:OAE)は1978年Kempにより初めて報告された音響反応である。本反応は蝸牛より発生し,中耳伝音系を逆行性に伝わり外耳道に放射されたもので,外耳道に高感度のマイクロホンを設置することによりこれを記録することが可能である。OAEは蝸牛外有毛細胞機能に密接に関連した反応であると考えられており,本反応を他覚的蝸牛機能評価法として臨床応用しようとする種々の試みがなされている。しかし,OAEの発生機構に関しては未だ不明の点が多い。
 本項ではこれまでに報告されている種々のOAEの概要,現在わが国で臨床応用されているOAEの測定法,聴力正常耳および疾患耳における主な所見とその臨床的意義などにつき,これまでのわれわれの検討で得られた成績を中心に記述する。

[7]条件詮索反応聴力検査

著者: 川城信子

ページ範囲:P.81 - P.86

 はじめに
 1960年鈴木1)および荻場2)が条件詮索反射聴力検査(conditioned orientation reflex audiometry:COR audiometry)を発表して以来,3歳以下の乳幼児の聴力検査が行えるようになった。非常に画期的な方法であり,現在もさかんに使用されている。現在は反射を見ているというよりは反応を見ているので,条件詮索反応聴力検査(condi-tioned orientation response audiometry,簡単にCORテスト)と呼ぶ。本項では,難聴の疑いで乳幼児が実際に来院した際に,問診,予備検査,乳幼児の聴力検査を行うときの注意と器械の取り扱いについて説明をする。

2.平衡機能検査

[1]四肢平衡機能検査(重心動揺検査を含む)

著者: 山本昌彦

ページ範囲:P.87 - P.94

 はじめに
 平衡機能を判定するための検査において,四肢平衡機能は体幹を含めた四肢に現れる失調を評価するための検査法である。ヒトがいろいろな姿勢を維持させることができるのは,現在の自分がどのような姿勢状態にあるのかを常に判断し保持させていく機構をもっているからである。それには,姿勢状態を感知するためのセンサーが正常に働き,センサーからきた信号を中枢が十分な解析判断を正確に行い,体幹・四肢の骨格筋に適切な信号を与え,機能することが必要である。このような回路のなかで四肢平衡機能検査は,骨格筋に現れてくる異常を捉え,どこに,どのような障害が起こっているのかを判定する。これらには多くの検査法があり,それぞれの特徴や目的をもっているが,ここでに主だった検査法,最近行われつつある検査法について示す。

[2]異常眼球運動検査

著者: 伊藤壽一

ページ範囲:P.95 - P.101

 はじめに
 めまい・平衡障害を訴える患者の検査には,外来診察室で簡単に行える第一次平衡機能検査と,特殊な機械を用いて検査室で行う第二次平衡機能検査がある。第一次平衡機能検査とは,一般には外来の診察室または平衡機能検査用の部屋にて簡単な器機を用いて行う検査である。コンピュータを使用した複雑な機械を用いた検査やCT,MRIなどの画像診断に比べ,病巣の詳細な診断などに関しては劣るのは当然であるが,ていねいな問診と合わせて検討すればかなり正確な障害部位診断が可能であり,第二次平衡機能検査を行うかどうかのスクリーニングにも役立つ。異常眼球運動を検査する第一次平衡機能検査としては,表1のように,自発眼振検査,注視眼振検査,頭位眼振検査,頭位変換眼振検査,頭振眼振検査,視運動性眼振検査(manual OKN test),追跡眼球運動検査(manual ETT)などがあり,第二次平衡機能検査としては,電気眼振計(electronystagmograph:ENG)を用いた検査が主になる。ENGを用いた検査に関しては他項で詳細な解説があると思われるので,本項では簡単な器機を用いた第一次平衡機能検査(簡易平衡機能検査)について解説する。

[3]迷路刺激検査

著者: 高橋正紘

ページ範囲:P.103 - P.110

 はじめに
 迷路刺激検査はセンサとしての迷路の機能を調べることを第一の目的としている。温度刺激検査,回転刺激検査,傾斜刺激検査(眼球反対回旋記録),電気刺激検査,迷路瘻孔検査などがある。臨床で主に行われるのは温度刺激検査,迷路瘻孔検査である。システムとしての前庭機能を知るうえで,回転中の固視を調べる検査も意義が大きい。

[4]ENG検査(視標追跡検査,視運動性眼振検査を含む)

著者: 渡辺行雄

ページ範囲:P.112 - P.122

 はじめに
 眼振計(electronystagmograph:ENG)は現時点でもっとも簡易に眼球運動を電気的に記録できる装置で,基礎的研究から一般臨床まで広い範囲に利用されている。本装置は耳鼻科領域で主に眼振の観察に使用されてきたために「ENG」と呼ばれてきたが,本来は眼振だけでなく種々の眼運動記録に利用できることから生理学,眼科領域で使われているように「electro-oculograph:EOG」と表現するのが適当かも知れない。しかし,「ENG」はこれまで耳鼻咽喉科で広く普及している用語であり,このまま表現することとする。本項ではENGに関する基礎的事項から,一般臨床,研究分野で実際にENGを使用する際に必要な事項について解説するとともに,ENGを使用した視刺激検査の実際について述べる。

[5]サーチコイルによる眼球運動記録

著者: 加藤功

ページ範囲:P.123 - P.127

 はじめに
 サーチコイルによる眼球運動を記録する原理は,磁界に置かれたコイルに磁界と成す角度に比例した電位が発生することを利用して,眼位,眼球運動を測定する方法である。眼球にコイルが装着され,スリップがなければ,測定域,安全性などに優れ,回旋運動の測定ができるなど眼球運動記録のなかで一番優れた計測法とされている1)。動物実験では手術によって強膜にコイルを埋め込む方法がとられており,人の場合はコンタクトレンズにコイルを組み込み眼球に装着させる方法がとられている2,3)

3.耳管機能検査

耳管機能検査

著者: 牛呂公一

ページ範囲:P.129 - P.135

 はじめに
 中耳腔と鼻咽腔をつなぐ耳管には,中耳腔の換気・気圧調節作用と中耳腔よりの排泄作用などがあり,これらの作用により中耳機能を維持している。耳管機能の異常により種々の中耳疾患が発症すると考えられており,多種の耳管機能検査法が開発され臨床・研究面において施行されている(表1)。本項では主に一般臨床において用いられる各種耳管機能検査法について概説する。

4.顔面神経機能検査

[1]顔面筋スコアー

著者: 青山敬 ,   喜多村健

ページ範囲:P.136 - P.142

 はじめに
 顔面筋スコアーは,顔面筋の動きを肉眼的に観察することにより顔面神経麻痺の程度を客観的,定量的に評価しようとする方法である。特殊な器具は必要なく,迅速,簡便な方法として,重症度の判定,回復過程の評価にその有用性は大きい。
 BotmanとJongkees(1955)1)の試み以来,多くの研究者により独自の評価法が考案されてきたが,未だに世界共通の評価基準ができていないのが現状である。

[2]電気的機能検査

著者: 湊川徹

ページ範囲:P.143 - P.151

 1.神経筋障害の電気生理学的検査
 神経刺激による筋興奮性を観察し,神経変性による筋反応の低下を脱神経としてとらえたものである。

5.鼻腔通気度検査

鼻腔通気度検査

著者: 長谷川誠

ページ範囲:P.153 - P.159

 1.検査法の原理
 鼻腔通気度検査(rhinomanometry)は呼気,吸気の際の鼻腔の通気性を調べる検査法である。その指標として,鼻腔抵抗(nasal resistance)の測定が行われる。鼻腔抵抗(R)は,鼻腔を空気が流れる際に生じる鼻腔の前方と後方間の圧力差(P)を,その時の流量(V)で割った値である(R=P/V)。鼻腔内を流れる気流は,層流だけではなく乱流も生ずるので,圧力-流量関係は直線性を示さず,S字状のカーブを示す(図1)。
 現在,流量はcm3/secで表し圧力はPaで表示する。したがって,鼻腔抵抗の単位はPa/cm3/secで示される。以前は,流量をL/sec,圧力をcmH2O,したがって,鼻腔抵抗をcmH20/L/secで表していたが,JIS規格の設定に伴って,前記の表記法に改められた。しかし,100Pa≒1cmH2Oなので,過去のデータを換算して,現在の表記法で表すことは比較的容易に行える。すなわち,鼻腔抵抗3.0cmH20/L/secはほぼO.3Pa/cm3/secに等しくなる。臨床検査法として用いられている鼻腔通気度検査は,大きく2つに分けられる。1つは前力誘導法(anterior rhinomanometry,アンテリオール法)であり,もう1つは後方誘導法である(posterior rhinomanometry,ポステリオール法)。前方誘導法はさらに,ノズル法とマスク法に分けられる。
 前方誘導法と後方誘導法が鼻腔通気度を調べる臨床検査として一般に使われており,すでに測定装置については,JIS規格により,その標準化がなされている。国際的な標準化については,現在,鼻腔通気度国際標準化委員会(会長:PARClement教授,ベルギー)において進行中である。

6.嗅覚検査

嗅覚検査

著者: 古田茂

ページ範囲:P.161 - P.169

 はじめに
 耳鼻咽喉科医は聴覚,平衡覚,嗅覚,味覚などの感覚器官を取り扱っている。そして,それらの機能検査の判定に携わっている。嗅覚・味覚は化学受容器を介する感覚であるため,聴覚のように物理的受容器を介した電気生理学的検索が困難である。したがって,聴覚や平衡覚に比べて,嗅覚や味覚の機能検査の発達は乏しいと言わざるを得ない。臨床的には,嗅覚障害者は聴覚障害者に比べて,その障害の認識が低いと考えられる。また,嗅覚障害に付随する副鼻腔炎などの疾患への関心のほうが高く,嗅覚障害の治療は顧みられないという現実がある。
 しかし,炎症性疾患の軽症化により,残存する障害に対する関心の高まりや,生活の質の向上に伴って嗅覚の必要性が見直されていることなどにより,最近では,嗅覚障害を主訴として耳鼻咽喉科を受診する患者の増加が認められている。さらに,若年者では,交通事故など頭部外傷の機会が増え,それに伴う嗅覚障害も増加している。したがって,これらの患者に対して,嗅覚機能を的確に把握することで耳鼻咽喉科医のinformed con—sentを果たすことができることは言うまでもない。
 現在,耳鼻咽喉科外来では嗅覚検査として基準臭嗅覚検査や静脈性嗅覚検査が行われている。しかし,検査に伴う異臭や検査の煩雑さなどの理由で,すべての施設で行われていないようである。本項では,嗅覚検査の概要とその問題点について,従来われわれが用いてきた方法および最近欧米で行われている方法についても述べる。

7.味覚検査

味覚検査

著者: 池田稔 ,   田中正美 ,   冨田寛

ページ範囲:P.170 - P.176

 1.味覚受容器
 ヒトの味覚受容器は味蕾であり,口腔から下咽頭にかけて広範に存在している上皮性の突起である乳頭内に存在している。特に舌の前方2/3に散在する茸状乳頭,後力の舌縁に存在する葉状乳頭,舌根部に逆V字型に配列している有郭乳頭の中に多数存在している。軟口蓋の粘膜上に散在する乳頭(口蓋乳頭)内にも多数の味蕾が存在するが,その機能は若年者においては活発であるが,加齢により減退する傾向が強い1)

8.嚥下機能検査

嚥下機能検査

著者: 前山忠嗣

ページ範囲:P.177 - P.185

 はじめに
 最近わが国も高齢化社会を迎え,脳血管障害や各種変性疾患に起因する嚥下障害が増加しつつあり,その取り扱いは重要な問題となってきている。また生存に必要な栄養は胃管や胃瘻造設によっても確保できるが,口から食べ物を摂取するという人間の根元的な欲求を満たすことは大切であり,生存の質を高めるという点からも嚥下障害の治療の重要性が増してきている。嚥下障害は病名ではなく症候名であり,その原因は多岐にわたり,また病態も様々である1).そのため治療は症例によって異なり,的確な治療を行うためには病態の詳細な把握が必要であり,各種の検査を行わねばならない。嚥下は第1期(口腔期),第2期(咽頭期),第3期(食道期)に分けられるが,本項では主として嚥下第2期の検査について述べる。
 嚥下第2期は反射によって惹起され,多くの神経筋が関字し,いくつかの運動が連続して起こる極めて複雑で高度に統合化された運動である2, 3)。嚥下第2期には鼻咽腔は閉鎖されて鼻腔への逆流は防止され,喉頭は挙上閉鎖されて気道は防御され,咽頭内圧の上昇と輪状咽頭筋の弛緩による食道入口部の開大により食塊は咽頭より食道へと送り込まれる。これらの動きが十分に遂行されないと嚥下機能が障害される。

9.発声機能検査

発声機能検査

著者: 田中信三 ,   日比正史 ,   平野実

ページ範囲:P.187 - P.195

 はじめに
 発声機能検査は,主として,音声障害の程度を評価したり,音声障害に対して行った治療の成績を評価するために用いられる。したがって,その検査方法は,普遍的であること,簡便であること,音声障害の程度や病態をよく反映していることなどの条件を満たさなければならない。しかしながら,発声はそれ自体が複雑な過程を経て生じるものであり,単一の指標でその機能のすべてを表すことは不可能である。つまり,喉頭筋の作用で声門が閉鎖した時に呼気力により声帯が振動して発声が生じるという一連の過程における様々のレベルで音声障害が引き起こされるので,発声過程の各レベルを評価する複数の機能検査が必要になるわけである。
 このような発声過程のレベルによってこれまで報告された発声に関連する検査を整理すると,1)喉頭筋の活動性を評価するための喉頭筋電図検査1,2) 2)声門の閉鎖状態と呼気の使用状態を評価するための空気力学的検査3〜6) 3)声帯振動を評価するためのストロボスコピー検査7,8) 4)発声された音声を人の聴覚印象で評価する聴覚心理学的検査9,10) 5)発声された音声を音響学的に評価する音響分析検査11〜14),さらに 6)発声の限界値を評価する声域検査15,16)となる。これらのうち,1)の喉頭筋電図検査は反回神経麻痺などのごく限られた喉頭疾患に対して行われる検査であり,一般的には,2)から6)までの検査を行えば十分である。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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