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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科65巻2号

1993年02月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

外鼻再建—リーシュマニア症による鞍鼻の治療

著者: 田原真也 ,   天津睦郎 ,   井上健造

ページ範囲:P.94 - P.95

 リーシュマニア症は原虫がスナバエの刺咬によりヒトに感染するもので,このうち皮膚粘膜リーシュマニア症はL.braziliensisなどの病原体の感染で,慢性の経過で顔面皮膚・粘膜に浸潤して潰瘍を生じ,数年で軟骨も冒されるという南,中央アメリカの風土病である1)。われわれは本邦では稀な本疾患による鼻腔粘膜・軟骨潰瘍による鞍鼻を治療する経験を得たので,症例と外鼻再建術式を報告する。
 症例:48歳,女。ブラジルで日系移民の子として出生,10歳ごろ,日本に帰国。その後鼻汁などの症状があり,耳鼻科を受診し,蓄膿といわれて加療していたが,改善しなかった。1991年2月兵庫県立成人病センター耳鼻科を受診し,皮内反応(モンテネグロテスト)によってリーシュマニア感染と診断され,約3か月間スチブノールによる薬剤療法を行った。この結果,原疾患は治癒したが,鼻中隔と鼻柱欠損による鞍鼻変形を残した(図1)。

総説

喫煙と頭頸部癌

著者: 宮原裕

ページ範囲:P.97 - P.104

 はじめに
 耳鼻咽喉科領域の腫瘍は広く頭頸部腫瘍と呼称され,唾液腺腫瘍はもちろんのこと,甲状腺腫瘍も含めて診断・治療が耳鼻咽咽喉科・頭頸部外科において行われている。それらのほとんどの領域はupper aero-digestive systemに属し,直接各種刺激物質(大気汚染,排気ガス,細菌,ウイルス,食物,喫煙,アルコール飲酒,不良歯牙など)に曝露されている部位であり,疾病の発生にそれらの外因が何らかの関字が指摘されているものもある。とくに悪件腫瘍の発生には遺伝的素因,免疫能などの内因もさることながら,ある種の外因が強く関係していると考えられる癌腫も少なくない。
 それらの因果関係については臨床疫学的な手法を用いた研究(case control study,cohort study)や,その裏づけとなる基礎的実験も必要となる。わが国の死亡原因の第一位は癌であり,発癌要因をなるべく避けるという癌の一次予防は癌患者の治療(癌の二次,三次予防)での努力よりもより重要であり,効果が高いものであるはずである。またcost benefitがあり,癌の減少により強力に役立つものとなるはずである。

原著

外来で行う保存的鼓膜形成術—術式の改良と聴力改善について

著者: 新川敦 ,   橘田豊 ,   斎籐彰治 ,   梅原潤一 ,   坂井真

ページ範囲:P.105 - P.110

 はじめに
 通常の鼓膜形成術(Myringoplasty)のかわりに,シガレットペーパーやステリストリップなどを用いる保存的鼓膜閉鎖法(office closure method)に準じた手術手技で,グラフトを生着させる術式であるならば,手術侵襲も少なく外来での手術が可能である。われわれは従来より組織接着剤と同種乾燥硬膜(lyophylized homograft dura,以下LHD)を用いて,外来にて鼓膜を閉鎖形成すること(保存的鼓膜形成術,conservative myringo-plasty)を試みている1,2)。今回は過去3年間の手術症例数が243例に達し,聴力を中心とした術後成績を検討したので,その成績に検討を加え,特に術前術後の聴力改善の効果を検討したので報告する。

ハイドロキシアパタイト耳小骨による連鎖再建術の検討

著者: 千葉敏彦 ,   小林俊光 ,   豊嶋勝 ,   石戸谷雅子 ,   八木沼裕司 ,   髙坂知節

ページ範囲:P.111 - P.115

 はじめに
 鼓室形成術における耳小骨連鎖再建に人工耳小骨を使用する場合,組織親和性,生体安定性に優れることが要求される。最近,登場した無機材料のセラミック人工耳小骨は組織親和性に優れ,これまでの報告でも有用1〜7)とするものが多い。当教室でも1987年12月より一部の症例の耳小骨連鎖再建にハイドロキシアパタイト耳小骨を使用している。今回は術後聴力と素材としての安定性を中心にその有用性を検討したので報告する。

聴力変動を示した聴神経腫瘍の蝸電図的検討

著者: 太田豊 ,   山本昌彦 ,   折原廣巳 ,   寺山善博 ,   勝田慎也 ,   小田恂

ページ範囲:P.117 - P.121

 はじめに
 聴神経腫瘍の臨床診断は最近ではCT,MRIなどの画像診断に依存することが多くなったが,依然として聴覚検査は必須の検査のひとつと考えられている。聴神経腫瘍は内耳道の疾患であるが,後迷路性難聴の所見ばかりではなく,内耳性難聴の所見を呈する例も少なくない。蝸電図は近年臨床に応用されつつある耳音響放射検査とともに,内耳機能を評価する上で貴重な情報をもたらすものであり1,2),内耳循環障害による3)と推定される聴神経腫瘍例の内耳病態を解明する上で重要な情報を提供してくれる検査と考える。
 今回われわれは,急性感音難聴を初発症状として来院し,手術にて下前庭神経起源の聴神経腫瘍と診断された1例の聴力変動を蝸電図および耳音響放射にて経過観察し,若干の知見を得たので,文献的考察を加えて報告する。

若年性鼻咽腔血管線維腫stage Ⅰ症例の手術法の検討

著者: 隈上秀高 ,   鬼塚哲郎 ,   松村高洋

ページ範囲:P.123 - P.126

 はじめに
 若年性血管線維腫は思春期のほとんどが男性の鼻咽腔の左右いずれかに偏在して生ずる血管に富んだ線維腫である。本症は鼻出血を反復し,鼻閉を伴うために外科的摘出が一般に行われている。本症は進展度によってstage分類1)がなされており,手術アプローチもstageにより異なっている。
 今回,われわれが1987年から1992年の間に経験したstage I症例の手術アプローチについて検討を加え報告する。

ワルダイエル輪を主病変としたT細胞型悪性リンパ腫の3例

著者: 小出千秋 ,   今井昭雄 ,   山本裕 ,   長場章 ,   高橋淑子 ,   真田雅好 ,   高井和江 ,   岡崎悦夫 ,   渋谷宏行

ページ範囲:P.127 - P.132

 はじめに
 頭頸部の悪性リンパ腫は節性と節外性とに大別され,節外性リンパ腫の部位としてはワルダイエル輪が最も多く,鼻副鼻腔がそれに続いている。病理学的に悪性リンパ腫はホジキン型と非ホジキン型に分類され,本邦に多い非ホジキン型はさらに免疫組織学的にはB細胞リンパ腫とT細胞リンパ腫に分類される。ワルダイエル輪に発生する悪性リンパ腫はほとんどがB細胞性であるが1),T細胞性の報告もある2)
 われわれはワルダイエル輪を主病変としたT細胞リンパ腫の3例を経験した。いずれも受診時にはワルダイエル輪内転移や全身への転移を伴っていたが,扁桃病変が慢性炎症と思われたり,皮膚の結節性紅斑様皮疹が扁桃炎関連病変と思われるなど,視診だけでは診断を誤りかねない症例であったので報告する。

Crow-Fukase症候群(高月病)における多発性血管腫の治療経験

著者: 太田修司 ,   袴田勝

ページ範囲:P.133 - P.138

 はじめに
 耳鼻科医にとって馴染みのない病名であるが,Crow-Fukase症候群あるいは高月病といい(以下,本症候群と略),多発性神経炎を主とし,皮膚変化や性ホルモンを中心とした内分泌障害など多彩な症状を呈する,主として内科に多い疾患がある。30%の頻度で皮膚血管腫が発現し,皮膚科医による考察も数件あるが1,2),これまで耳鼻科的観点からの報告はなかった。鼻腔,喉頭に発生した血管腫から出血をきたし,手術的治療を必要とした症例に遭遇したので,その治療経過を述べる。

頭頸部脂肪腫の4症例

著者: 田中利善 ,   善浪弘善 ,   沖田渉 ,   山根雅昭 ,   市村恵一 ,   飯沼壽孝 ,   矢野純

ページ範囲:P.139 - P.144

 はじめに
 脂肪腫は中胚葉由来の軟部組織から発生する良性腫瘍で,全身の皮下に限らず,各種臓器にもみられる。耳鼻咽喉科・頭頸部領域では頸部,口腔,咽頭,耳下腺などにその報告例がある。頭頸部領域の脂肪腫はその存在自体が重大な障害をきたすことは少なく,外見上の問題,すなわち審美的要素,あるいは鑑別診断上の問題が主たることが多い疾患である。
 今回われわれは,頸部の脂肪腫3例と,耳下腺脂肪腫の1例を経験し,画像所見および文献的考察を含めて報告する。

耳下腺嚢胞の3例

著者: 塩谷彰浩 ,   川井田政弘 ,   甲能直幸 ,   加納滋 ,   福田宏之 ,   神崎仁

ページ範囲:P.149 - P.154

 はじめに
 耳下腺嚢胞は稀な疾患である。耳下腺に生じる嚢胞には,鰓原性嚢胞,皮様嚢胞,貯留嚢胞があり,鰓原性嚢胞には第1鰓裂より生じるものと,第2鰓裂より生じるものがあるといわれる1)。われわれは第2鰓裂由来の鰓原性嚢胞2例ならびに皮様嚢胞1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

上顎洞歯科材料異物の1症例

著者: 南吉昇 ,   亀井昌代 ,   笹生俊一 ,   小原能和 ,   及川尚

ページ範囲:P.155 - P.159

 緒言
 上顎洞異物に関する報告は,耳鼻咽喉科および歯科・口腔外科において多数みられ,その原因としては外傷によるものや歯科治療時の偶発的な侵入により発生するいわゆる医原性のものが多いとされている。異物の種類も多種多様である。最近われわれは,鼻閉を訴えて来科した患者のX線写真上,偶然上顎洞内に,あたかも寄生虫のごとき形態の異物が存在し,種々検討した結果歯科治療剤のガッターパーチャポイントであった症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

タイ国からスントン先生をお招きして

著者: 酒井俊一

ページ範囲:P.146 - P.147

 1.先生を高松に招待し,再会を果たす
 平成4年9月に新潟において,耳手術の国際会議が開催された。すでに昨年の時点で先生がそのために来日されることが判っていたので,先生を高松までお連れし,香川県の耳鼻咽喉科の先生方を前に耳手術キャンプのお話をしてもらい,その活動を理解していただきたいものと考えた。幸いすべての日程は順調に進み,9月15日には先生御夫妻を高松にお迎えし,16日には瀬戸大橋と栗林公園を御案内し,17日は八栗寺,屋島寺,四国村を観光された。その夕方の講演会も無事にすますことができ,集まられた耳鼻科の先生方には多大の感銘を与えることができた。
 先生は,誇張されたり,大声を出されることはなく,どこか高貴な雰囲気をただよわせ,生まれの良さを感じさせる方である。先生が現在ラビッチ病院という王室直属の病院に勤められるのも,ラマ9世王に信望が厚いものと想像される。タイ国が仏教国,王国であることは周知のとおりだが,先生がその国で育たれたエリートであることが頷ける。

講座 頭頸部外科に必要な局所解剖・2

頸部の筋

著者: 佐藤達夫

ページ範囲:P.161 - P.169

 はじめに
 頸部はしばしば充実した円柱にたとえられる。その中味のうちで最も大量を占めるのは筋である。第6頸椎(C6)の高さのCT写真上で断面積を計測すると,筋の占める範囲は,総断面積の約1/2(男50.5%,女44.2%)に及ぶという1)。筋の塊はいくつかのグループに分割され,さらに細分されて複雑に配列している。筋は豊富な血流を受け入れ,またかならず支配神経を引き込んでいるので,頸部の手術においても重大な関心を払う必要がある。ここでは頸部の手術に関連の深い筋について検討する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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