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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科65巻3号

1993年03月発行

雑誌目次

トピックス 耳鼻咽喉頭頸部領域の自己免疫疾患—最近の知見

シェーグレン症候群

著者: 山下敏夫 ,   友田幸一

ページ範囲:P.189 - P.195

 はじめに
 シェーグレン症候群(以下Sjs)は涙腺や唾液腺など外分泌腺の慢性炎症による乾燥症状を基本症状とする疾患である。
 1933年Henrik Sjögrenが口腔および眼の著明な乾燥感を伴った関節炎患者を報告1)して以来,その原因について多くの研究がなされてきた。Sjsに自己免疫疾患ないしは膠原病の合併が多い事や免疫の応答系であるリンパ球の異常がみられることから,現在ではSjsは慢性全身性自己免疫疾患であるとの考えが固まりつつある。
 本稿では自己免疫疾患としてのSjsの疾患概念,臨床症状,診断法,病因などについて総説的に述べてみたい。

Wegener肉芽腫症と抗好中球細胞質抗体(ANCA)

著者: 深瀬滋

ページ範囲:P.197 - P.202

 はじめに
 Wegener肉芽腫症(WG)は,「上下気道の壊死性肉芽腫性炎症」,「半月体形成性糸球体腎炎」,「血管炎」を3徴とする稀な疾患である。本疾患名は,1936年,当時29歳の病理学者FreidrichWegenerが初めて3剖検例を報告し,1939年に「rhinogene granulomatose」として文献にしたことに基づいている1)。本疾患は極めて多彩な症状を呈する全身疾患であるが,Wegenerの表題にもあるように,鼻壊疽が最も頻度の高い症状であり,その他にも難聴・声門下狭窄・眼球突出など耳鼻咽喉科領域の症状が多く認められることは周知のとおりである2)。本疾患の診断は従来は「生検所見」と「臨床所見」により行われてきた。生検所見の特徴は,研究老により基準に微妙な差はあるが,基本的に1)小動静脈の血管炎,2)巨細胞の出現,3)類上皮細胞肉芽腫,と考えられている。これら2つ以上の所見が揃えば,WGと診断されるが,実際にこの基準を満たす生検標本は25%程度とされている3)。したがって,病理組織所見のみでは診断が難しく,総合的に診断が行われる場合も多い。典型的な症状が揃った場合は診断はそれほど難しくないと思われるが,特に耳鼻咽喉科領域で扱うものの多くはlimited formと呼ばれる非定型的な場合のほうが一般的である。加えて,いわゆる狭義の「進行性鼻壊疽」と呼ばれる,非常に臨床所見の似た腫瘍性の疾患が存在することが2,4),その診断を難しくしていた。WGは長い間その病因は不明であったが,その他の多くの血管炎症候群と同じように病因が自己免疫に求められる傾向になったのは当然の帰結であろう。ガンマグロブリンの高値・約半数にリウマチ因子が認められることなどは,これを間接的に支持するものであった。また,Fauciらによるcyclophosphamide,predonisononeによる治療の成功5)もこれを支持していると言える。しかし,本疾患に特異的な自己抗体の存在は長い間知られていなかった。1985年,WoudeらはWG患者血清中に好中球細胞質に対する自己抗体が出現し,診断および病勢の把握に重要であることを初めて報告した6)。本抗体に関して,その後欧米の多くの施設から追試の報告が相次ぎ,WG診断における重要性に関してはほぼ確立された感がある。加えて,本抗体の亜型(subtype)も報告されるようになり7),これがWG以外の種々の血管炎症候群・炎症性腸疾患などでも出現することがわかるようになると,その報告は急激に増え,最近3年間の文献報告は200以上にものぼる。本論文では,本抗体とWGの関係に焦点を絞って論説する。

再発性多発軟骨炎

著者: 荻野敏

ページ範囲:P.203 - P.208

 はじめに
 多くの疾患の発症,病態に免疫はかかわっている。自己免疫疾患は,免疫系の異常な反応により引き起こされた疾患である。耳鼻咽喉頭頸部領域においても,多くの自己免疫疾患や自己免疫反応が病態にかかわっていると考えられている疾患がある。再発性多発軟骨炎は,シェーグレン症候群などとならび当科領域における代表的な自己免疫疾患と言えよう。
 再発性多発軟骨炎(Relapsing Polychondritis,RP)は,全身の軟骨組織が系統的に炎症症状を呈していく予後不良の疾患である。臨床的には,耳介軟骨炎,角膜炎,鞍鼻,気道症状,内耳症状など,多彩な症状を呈する比較的稀な疾患である。耳介,鼻,気道症状を初発とすることが多いことから,耳鼻咽喉科と極めて関係が深いと言える。

内耳自己免疫疾患

著者: 茂木五郎

ページ範囲:P.209 - P.215

 はじめに
 ヒト内耳は硬い側頭骨の中にあり,外界との間には中耳が介在するので,中耳に異常または障害がない限り,直接外来刺激を受けることはない。内耳各部分には内リンパ嚢を除いて免疫担当細胞は見当たらず,また所属リンパ節や輸出入リンパ管を欠いている。内耳は長いこと免疫学的研究の対象外におかれていたが,近年ようやく研究が着手されて,その免疫機構が解明されつつある。これまでの知見を要約すれば,1)内耳は免疫学的には潜在性臓器であるが,抗原刺激を受ければ局所で抗体産生がなされる,2)外リンパ液の免疫グロブリンは脳脊髄液に依存しない,3)内リンパ嚢は内耳で唯一免疫担当細胞のあるところで,内耳免疫応答の中心的存在といえる1-3)

慢性甲状腺炎(橋本病)

著者: 江浦正郎

ページ範囲:P.217 - P.221

 はじめに
 橋本病はバセドウ病とともに自己免疫性甲状腺疾患として知られ,その主要自己抗原はチログロブリン(thyroglobulin),甲腺ミクロソーム抗原である。甲状腺ミクロソーム抗原の主要抗原は甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase)であることが判明し,分子生物学的アプローチによりチログロブリンとともにそのアミノ酸配列が確定され,抗チログロブリン抗体,抗甲状腺ベルオキシダーゼ抗体の認識する抗原決定基(エピトープ)が解明されつつある。またトランスジェニックマウスを用いた実験による免疫学的自己寛容の成立機序の解明がすすむとともに,臓器特異的自己免疫疾患のひとつである橋本病の病因についても新しい仮説がとなえられている。本稿では橋本病の病因,自己抗原および自己抗体,橋本病とmajorhistocompatibility complex (MHC) class IIとの関連性などを中心に最近の知見を紹介したい。

目でみる耳鼻咽喉科

舌体部先天性瘻孔の1例

著者: 丹羽秀夫 ,   生井明浩 ,   中里秀史 ,   池田稔 ,   冨田寛

ページ範囲:P.178 - P.179

 甲状舌管由来の嚢腫はしぼしば経験され,舌に認められた場合には舌盲孔として舌根部に存在する。しかし,舌体部に存在する先天性瘻孔1)は極めて稀であると思われ,我々の経験した症例をここに報告する。症例は16歳,女性で舌痛を主訴に受診。既往歴および家族歴に特記すべきことはなかった。患者は1990年7月,3日間続く舌痛に嚥下困難も呈してきたため,当科外来を受診。
 初診時,舌表面に白苔が付着し,膿汁が認められた。抗生剤投与にて舌体部の炎症所見は5日間で消退した。症状改善後,初診時に気づかれなかった舌正中部に小隆起が認められ,その隆起の中央に瘻孔を認めた。瘻孔の後方には正中菱形舌炎が認められた(図1)。瘻孔には涙管ブジーが,約15mm挿入可能であった。造影検査で造影剤の貯留を認め(矢印)瘻孔の存在を確認した。舌根部方向,すなわち甲状舌管との関連を疑わせる造影所見は認められなかった(図2)。手術時,瘻孔は舌正中を口腔底方向に向かい,盲端に終わっていた(図3)。摘出した瘻孔は約30×5mmであった(図4)。病理組織学的検査にて,重層扁平上皮に覆われ,間質に脂腺(図5),汗腺(図6)の組織が認められる瘻孔の結果を得た。甲状腺組織は認められなかった。本症例の瘻孔発生機序は,舌体の発生に際し,(図7)2)に示されている外側舌隆起に何らかの癒合不全が生じたためと推察される。無対舌隆起の遺残と考えられる正中菱形舌炎の存在もこの推察を支持する所見と思われる。

講座 頭頸部外科に必要な局所解剖・3

頸部の筋膜

著者: 佐藤達夫

ページ範囲:P.181 - P.188

 解剖というと,ふつう重視されるのは,骨と筋であり,内臓であり,そして血管と神経である。しかし,実際に手術を行う段階となると,標的器官とそれに出入する血管,神経の知識はもちろん不可欠ではあるに違いないにしても,それだけでは決して十分と言えまい。ふだんは脇役に甘じていた結合組織層,筋膜,リンパ系,そして自律神経等の知識が,きめのこまかい手術を行うには大切となってくるはずである。これらの系統には,実体がはっきりしていず,頼りなげで変異に富み,客観性に乏しく法則性を見出し難いという共通性が見られ,とかく成書でも冷遇されがちである。本号では,一方で頸部の枠組みをつくり,他方で脈管神経の通路を規制する筋膜について考えることにしよう。

原著

Glomus tympanicum tumorの1例

著者: 宇野芳史 ,   斉藤龍介 ,   金谷真 ,   大道卓也 ,   大島昭夫

ページ範囲:P.223 - P.228

 はじめに
 中耳傍神経節腫は,glomus jugulare tumorとglomus tympanicum tumorが含まれるが,1945年Rosenwasser1)の最初の報告以来,欧米では数多くの報告がみられる。わが国では1956年切替ら2)の報告以来,学会報告を含めて60余例の報告をみるにすぎず,比較的稀な疾患である。組織学的には良性であるが浸潤性発育を示し,臨床的には悪性に準じて取り扱われることが多く,そのため早期診断,早期治療の重要性が指摘されている。
 今回われわれは,鼓室に限局したglomus tym-panicum tumorの初期症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

突発的1kHz-dip型難聴で発症し完全治癒した聴神経腫瘍症例

著者: 鳥原康治 ,   春田厚 ,   林明俊

ページ範囲:P.233 - P.236

 はじめに
 突発性難聴の症状で発症し,諸検査の結果,聴神経腫瘍と判明した症例報告1-4)が増えている。聴神経腫瘍の初期症状は,耳鳴,難聴あるいは平衡障害であり,いずれも耳鼻咽喉科臨床医を最初に受診することが多い症状である。画像診断法の進歩によって今では小腫瘍でも比較的容易に診断がつけられるようになったが,初期診断の手掛かりになる所見についてはいろいろな報告5-7)がある。また,突発性難聴としての発症は1.0cm以下の小腫瘍例に多くみられるとの報告8)もあるが,その聴力が完全治癒することは稀である。現実には内耳道内に限局した状態で発見される頻度は低く,臨床像についての報告は充分でないように思われる。そのためにともすればせっかく初期に訪れたにもかかわらず聴神経腫瘍症例を見逃してしまう可能性が少なくない。今回,われわれは突発性難聴として治療を開始し難聴は完全治癒したが,その特異な聴力像から聴神経腫瘍の存在を疑って諸検査を進め,最終的にはMRIにて内耳道内に限局する小腫瘍を確認し得た症例を経験したので報告する。

第一鰓溝性瘻孔の1例

著者: 加納有市 ,   水田邦博 ,   酒井丈夫 ,   星野知之

ページ範囲:P.237 - P.241

 はじめに
 先天性頸耳瘻孔または嚢胞は,胎生3週から6週目に現れる第一鰓溝の発育異常・遺残から生じる。今回,比較的稀な第一鰓溝性瘻孔を経験したので,その臨床的特徴,病理組織像,顔面神経との関連などにつぎ若干の文献的考察を加え報告する。

聾学校児の難聴実態調査—川崎市立聾学校の場合

著者: 小島好雅 ,   加我君孝 ,   松尾安雄 ,   佐藤恵美子 ,   石塚洋一

ページ範囲:P.243 - P.248

 はじめに
 難聴幼児の早期発見,早期教育の重要性が提唱され,わが国においては全国的に難聴の発見,難聴教育の整備が進められている1,2,3)。その結果,中等度から高度難聴児が初等教育を普通学校で受ける例が多くなっており,聾学校の生徒数は減少傾向にある。こうした難聴児をとりまく社会背景の変化のなかで,現在聾学校に在籍している生徒の難聴の発見に至る過程や難聴の程度を調べることは,耳鼻科医が関わるべきテーマとして興味深いことと思われる。
 今回調査を行った川崎市立聾学校は,人口118万人の川崎市にある唯一の聾学校であり,本校は川崎市およびその周辺の地域の聾教育の中心的役割を果たしている。また,幼稚部から高等部まで一貫した教育体制が整っていることが本校の大きな特徴である。

鏡下咡語

上顎洞洗浄のすすめ

著者: 調賢哉

ページ範囲:P.230 - P.232

 気道および食物異物,これはかつて硬性直達鏡を駆使する私共耳鼻科専門医の特技であり,また難しい異物を摘出した後のVictoryの快感,充実感,満足感は私共の専有物であると信じていた。しかし,これは既に異物摘出用ファイバーの改良普及によって消化器を専門とする内科医・外科医によってかなり行われ,耳鼻科医の専用物ではなくなっている。しかし上顎洞洗浄は耳管通気とともに私共の最も専門的な技術である。しかし残念ながら現在,副鼻腔炎の保存的治療としては,ネブライザーが主流となり,最も効果のある上顎洞洗浄は,小児においてはもちろん,成人においても敬遠されている。その理由は,第一に,効果があることはわかっているが,洗浄時の疼痛と出血のために患者が2度と来なくなるのではないかという危惧,第二に,洗浄に要する手間と時間の割に保険点数が低いということにある様である。
 この第一の点に関しては,1992年5月,名古屋における第93回耳鼻科学会総会学術講演会で私は「3歳児,4歳児における上顎洞洗浄とその意義」について講演した際,会場から「私の所では私が上顎洞洗浄を行おうとすると,看護婦がそんな痛いことは止めて下さい。後で患者が来なくなるから。と言うが,痛くないようにするコツは?」との質問があり,また,ある耳鼻科専門医いわく「私は学生の頃に上顎洞洗浄をして貰ったがその時の痛さが忘れられないので絶対に上顎洞洗浄はやりません」と。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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