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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科65巻4号

1993年04月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

舌根部神経鞘腫

著者: 林琢巳 ,   山本英一

ページ範囲:P.256 - P.257

 神経鞘腫は頭頸部領域において比較的多くみられ,良性軟部組織腫瘍中,血管腫,脂肪腫に次いで多い1)。発症部位は頭頸部が最も多く,一般に口腔咽頭領域に発生する頻度は低い。本症例は咽頭異和感を主訴に近医受診し,偶然発見されたもので,舌根部に3×3cmの半円形の腫瘤として認められた。まず異所性甲状腺腫を疑い甲状腺シンチグラフィーを施行したが,腫瘤への集積は認めなかった。CT所見では内部均一な表在性腫瘤であったため,口腔経由で摘出術を施行した。舌根部に腫瘤を認めた場合,注意すべき点として異所性甲状腺腫の可能牲,次いで腫瘍の大きさと深達度を考慮した上で摘出のアプローチ法,さらに神経鞘腫などでも稀に認められる悪性化の再能性にも注意を要する。
 舌に発生する神経鞘腫の母地としては,三叉,舌咽,迷走,舌下および鼓索神経が考えられるが,いずれの場合も同定は困難である。

総説

アレノレギーの発症機序

著者: 奥平博一 ,   森晶夫

ページ範囲:P.259 - P.265

 はじめに
 抗原刺激により抗体産生が起こり,この抗体の作用により過敏症が起きることがあるということは,20世紀初頭には免疫学者達の常識になってきた。ところが,1923年CocaとCookeは“生まれつき”の過敏症があるのだという主張をした。このような素因を持った患者の家族や親類には,“生まれつき”の過敏症を持った人が多いが,過敏症の表れ方は,気管支喘息やアレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,食物アレルギー等々,多様である。このような過敏症は,抗原の注射等という意図的な抗原刺激なしに表れるにもかかわらず,特定のアレルゲン(アレルギー反応を起こす抗原:室内塵:ダニ,スギ花粉,タマゴ,イヌゲ,ネコゲ等)に対し,特異的に誘発される。この過敏症は,血清により正常人に移すことが出来るが,アレルゲンと患者血清を反応させても沈降反応を生じない等々,当時の常識からすると奇妙な性質を持っていた。このような過敏症に対して,Cocaはアトピー(atopy)という名称を与えたのである。周知のごとくisotope(同位元素)という言葉は,isoは同じ,topoは場所・位置という意味を組み合わせて作られているが,a-topyとは,あるべき場所からはずれている,変わりその,という意味なのである。アレルゲンと反応する“抗体”は,アトピック・レアギン(atopic reagin)または単にレアギン(reagin)と呼ばれた。その後,レアギンが“IgE”という独特の性質を持った免疫グロブリンであることが石坂らにより確認された1)(図1)。

原著

鼻アレルギー患者の経過—減感作療法未施行例

著者: 坂田文 ,   川堀眞一 ,   畑山尚生 ,   長野悦治 ,   海野徳二

ページ範囲:P.267 - P.271

 はじめに
 近年,環境や食生活などの変化からアレルギー性疾患の増加がクローズアップされている。鼻アレルギーに関しても厚生省の調査では3人に1人が罹患していると報告されている。鼻アレルギー患者はいったん罹患したらそのまま症状を持ち続けるのか,あるいは寛解の可能性があるのかは罹患率の面からも興味深い。
 アレルギー素因をもった小児は,アレルギーマーチの概念が示すように幼少時よりアトピー性皮膚炎,気管支喘息,鼻アレルギーとその姿を変えながらも次々とアレルギー症状をおこしてゆくことが報告されている1)。一方では,成長するにつれ自然にこれらの症状が寛解してゆく例もある。その数は報告者によって幅があるが,約8.0%2)から58.3%3)といわれている。
 特異的減感作療法による症状の改善,寛解については多くの報告があり,その改善率も70%〜80%と高く安定しているが,治療のために,特に初期は頻回に通院しなければならない,ショックなどの副作用の危険性がある,速効性ではない,などの欠点もある。
 今回われわれは,減感作療法を継続して受けたことのない鼻アレルギー患者に対し,現在の鼻症状についてアンケート調査を行い,減感作療法を受けていない鼻アレルギー患者の症状の経過,特に自然に症状が消失,改善した例について検討した。

医療機関における補聴器フィッティングの実態

著者: 佐藤むつみ

ページ範囲:P.273 - P.279

 はじめに
 補聴器は医療用の装具でありながら,時に単なる電気機器として受け止められていたり,合理的な選択や調整がされないままに放置されていることが少なくない。近年,わが国でも補聴器のフィヅティングの必要性が認識されるようになってきたが,補聴器に一番責任があるのは耳鼻咽喉科医であることは論を待たない。今回第37回日本聴覚医学会(大和田健次郎会長,盛岡)を機会に,医療機関でどのように補聴器のフィッティングが行われているかをアンケートで調査した。今後の補聴器への取り組みを考える一助にしたい。

外鼻悪性腫瘍に対する再建方法

著者: 大野芳裕 ,   加納滋 ,   倉島一浩 ,   行木英生

ページ範囲:P.281 - P.284

 はじめに
 外鼻は顔面の中央に位置し,他の部分より突出しているため,顔貌を特徴づける種々の要素のなかでもっとも重要な役割をもっているもののひとつである1)。外鼻悪性腫瘍の切除後に生じた欠損に対する修復再建には術後の外見的な面だけでなく,機能的な面も重視して計画を立てるべきである。
 今回われわれは前額正中皮弁を用いて再建した外鼻悪性腫瘍症例を経験したので,これを提示し,外鼻悪性腫瘍に対する再建方法につき考察を加える。

篩骨洞より発生したと考えられた若年性血管線維腫の1例

著者: 出井教雄 ,   新川敦 ,   吉田泰行 ,   高橋秀明 ,   林智栄子 ,   三宅浩郷 ,   坂井真

ページ範囲:P.285 - P.289

 はじめに
 若年性血管線維腫は10歳代男子の上咽頭に発生することの多い良性腫瘍である。上咽頭以外に発生した血管線維腫は珍しく,われわれが調査した限りにおいて本邦では30例の報告がみられるにすぎない1〜8)。篩骨洞原発の血管線維腫は本邦での報告はなく,外国でも4例の報告9〜12)があるのみで,大変稀なものと考えられる。今回われわれは篩骨洞より発生したと考えられた血管線維腫の1例を経験したので報告する。

心臓に転移した上顎洞悪性リンパ腫の1例

著者: 小村良 ,   中田将風 ,   森良樹 ,   川本俊治 ,   小室竜太郎 ,   片山正一 ,   山根哲実 ,   青木正則 ,   串田伸一

ページ範囲:P.291 - P.295

 はじめに
 悪性リンパ腫の心転移はけっして少なくないことが知られているが,臨床的に心病変が主体となるような転移をきたすことはまれである。われわれは,上顎洞原発悪性リンパ腫の治療後に,伝導路障害による難治性の心不全で死亡し,剖検で心臓に高度の転移が認められた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

第IV脳室底・橋被蓋出血によるOculopalatal myoclonusの1症例—眼球運動および聴覚検査所見の比較

著者: 坂田英明 ,   加我君孝

ページ範囲:P.297 - P.302

 はじめに
 Oculopalatal myoclonusは小脳歯状核と反対側の赤核,下オリーブ核を結ぶGuillain Mollaretの三角のいずれかの障害で生じる1)とされ,神経耳科学的には眼球運動系の検査が重要な役割をしてきた。Epsteinら2)は,CT,血管撮影には異常所見を認めないが聴性脳幹反応(ABR)が脳幹障害型を示した1例を報告し,1982年Barbaraら3)は,Palatal myoclonusを示す20症例のうち脳幹障害型ABRを示した6例を報告した。われわれは,脳橋部の出血により典型的なOculopalatal myoclonusをきたした1例を経験したので,平衡,聴覚系の検査(ENG,ABR)をとくに取り上げ報告する。

低出力レーザーによる扁桃誘発試験の試み

著者: 山本真一郎 ,   伊藤博隆 ,   西村穣 ,   北條郷明 ,   櫻井隆寛 ,   間宮紳一郎 ,   田中伊佐武 ,   宮本直哉 ,   馬場駿吉

ページ範囲:P.303 - P.306

 はじめに
 扁桃病巣感染症疑いの症例に対して,扁桃誘発試験の結果は,扁桃摘出術の適応を決める際の重要な指標となる。しかしながら当教室における最近のデータは,これらの検査結果の陽性群の扁摘後の二次疾患の改善とは必ずしも相関していないという結果であった1)。また扁桃誘発試験の結果が陰性であったにもかかわらず,扁摘後に劇的に二次疾患が改善される症例に遭遇することもしばしば経験する。患者にとってより負担が少なく術後の二次疾患改善を推定できる診断方法の確立が各研究者によつて試みられているが,今回われわれは低出力レーザーを用いた扁桃誘発試験を試み,従来より施行されている超短波刺激法による誘発試験と比較して検討した。

1聴神経腫瘍例手術後のABR回復過程

著者: 小林謙 ,   相原康孝 ,   神尾友和 ,   中村雅子 ,   加我君孝

ページ範囲:P.325 - P.330

 はじめに
 聴性脳幹反応(ABR)は聴神経腫瘍の診断にCTやMRIと同様に重要な検査法である。これらの検査技術の進歩により聴神経腫瘍の早期発見が可能となり,手術により聴力保存が達成できる場合もまれではなくなった1)。手術による聴力の保存をより確実に達成するため,ABRを術中にモニターすることがしばしば行われるが2〜4),術中に,それまで反応の得られていたABRが消失することがある。その場合,聴神経の障害や内耳動脈の血行障害などが生じたものと推定され,恒久的な聴力障害の合併が疑われる。
 われわれは,術後ABRが一度消失し,その後再びABRが出現,最終的には術前とほぼ同様の反応を得た聴神経腫瘍症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

喉頭全摘術後の代用音声

著者: 五十嵐文雄 ,   野々村直文 ,   川名正博 ,   中野雄一

ページ範囲:P.331 - P.334

 はじめに
 喉頭癌は悪性腫瘍の中では予後の良い疾患で,当教室でも73.8%1)の5年生存率が得られている。しかし喉頭全摘術を余儀なくされた症例における音声リハビリテーションについては十分な取り組みがなされてきたとはいえない。この点を反省し,系統的なリハビリテーションプログラムを確立する第一段階として,当教室で喉頭癌に対して行った喉頭全摘術後の代用音声獲得状況を調査したので報告する。

鏡下咡語

大学病院医師の矛盾—何故医療職ではないのか

著者: 斎藤等

ページ範囲:P.308 - P.309

 日本医師会の勤務医会員に止むを得ず入会すると,「日医ニュース」という新聞が送られてくる。そのなかに「勤務医のページ」というのがあるが,これを見る度に矛盾と憤りを感じている。というのは,大学教授以下,助手に至るまで,患者を相手に医療を行いながら待遇は医者ではなくて,教育者であることをご存じであろうか。その証拠は給与体系を見ればわかる。大学病院医師は教育職として評価され,その給与たるや勤務医の医療職に比し,相当低いのである。
 少し古いけれども,図1に1991年8月10日号(図1)の「日経メディカル」に特集された,勤務医給与の実態の中の一部を引用した。大学勤務医の薄給の状態がわかると思う。最も高い医療法人・個人立病院は大学勤務医師のほぼ2倍の給与レベルになっている。他の医療機関は30代のうちに年間平均給与額が1,000万円を越えている。大学勤務医の平均給与が1,000万円を越えるのは60代に入ってからである。この年齢まで大学に残っている場合,ほぼ教授の給料と考えてよいであろう。

講座 頭頸部外科に必要な局所解剖・4

頸部の動脈(1)

著者: 佐藤達夫 ,   坂本裕和

ページ範囲:P.311 - P.321

 はじめに
 目的器官の循環遮断は手術の中で最も重要な要素であろう。また到達路の途中で出会う血管も適切に処理しなければ視野の確保は望めない、頸部は頸動脈と鎖骨下動脈という2大血管の支配下に置かれているが,縦走する頸動脈がかなり高い位置で分枝を行うので,横走する鎖骨下動脈がこれを代償しなければならない。したがって鎖骨下動脈のカバーする範囲は広く,枝の種類も豊富である。個々の臓器の動脈分布については,その項で述べることとし,今回は主として鎖骨下動脈とその分枝形態について考えておくことにしたい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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