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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科65巻8号

1993年08月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

下部頸部に発生した皮様嚢胞Dermoid cyst

著者: 飯田政弘 ,   堀内正敏 ,   坂井真

ページ範囲:P.616 - P.617

 皮様嚢胞の多くは先天性であるが,外傷による後天性の症例も報告されている。一般に先天性の皮様嚢胞は第1鰓弓および第2鰓弓の癒合線上に遺残した外胚葉成分に由来するとされ,顎舌骨筋を境に顎下部と舌下部に好発する。病理組織学的には下記の3型に分類される。
 1)表皮嚢胞epidermoid type:嚢胞壁は重層扁平上皮で,内容はケラチン。
 2)表皮嚢胞dermoid type;嚢胞壁は重層扁平上皮で皮脂腺,汗腺,毛嚢など皮膚付属器を有し,内容はケラチンや皮脂性物質。
 3)奇形腫型teratoid type:嚢胞壁は皮膚付属器以外に他組織を含む奇形腫壁のもの。
 報告する症例は発生部位としてまれな下部頸部に認められた先天性の表皮様嚢胞である。

原著

留萌地方における鼻アレルギーの臨床集計—地域特異性の検討

著者: 高木摂夫 ,   間口四郎 ,   小笠原誠 ,   加藤明夫 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.619 - P.623

 はじめに
 南北に長く伸びた日本列島においては,気候・季節性の違いが植物の成育状況に影響し花粉症の発症に地域特異性がある1)ことが知られている。一方,通年性鼻アレルギーにおいても,都市部と農村・漁村では発症率が異なる2)ことが報告されており,実際の臨床においては,鼻アレルギー患者の発症状況や地域特異性をある程度把握しておく必要があると考えられる。
 今回われわれは,留萌地方で唯一の耳鼻咽喉科が常設されている留萌市立総合病院において1年間に耳鼻咽喉科を受診した鼻アレルギー患者を対象として臨床集計を行い,この地域における傾向を調べるとともに,すでに報告されている同じ北海道の札幌地方における傾向と比較し気候の違いが鼻アレルギーの発症にどのような地域差をもたらすかを検討した。

KTPレーザーの中耳手術における有用性

著者: 小林俊光 ,   熊谷重城 ,   佐藤利徳 ,   髙坂知節 ,   石戸谷雅子 ,   鈴木雅明

ページ範囲:P.625 - P.630

 緒言
 近年,耳鼻咽喉科領域でCO2レーザー,Nd-YAGレーザー,アルゴンレーザーなどの諸種のレーザーが使用されている。これらに加え最近KTPレーザーが開発された。本レーザーは波長1,064nmのNd-YAGレーザー光をKTP(potassium-titanyl phosphate)結晶を通して得られる波長532nmのレーザーで,切開,蒸散、凝固,止血の全てに適するという特徴により,米国では耳鼻咽喉科領域でも急速に普及しつつある。われわれは,本邦にも最近導入された1)本装置の耳科手術での有用性を検討し,レーザー中耳手術につき文献的考察を加えた。

圧迫眼振の三成分解析

著者: 黒崎貞行 ,   八木聰明 ,   山野辺滋晴 ,   平良晋一

ページ範囲:P.631 - P.635

 はじめに
 われわれは,これまでにコンピュータ画像認識の技術を応用した新しい眼球運動解析方法で眼球運動の回旋成分を含む三成分の解析を行い,報告してきた1〜4)。この方法で,温度眼振のように内耳から誘発される眼振の水平,垂直,回旋成分を定量解析することで,単一半規管から誘発される眼球運動との関連から5〜7)その眼振発現メカニズムを推察することが可能である8〜9)
 圧迫眼振も内耳から誘発される眼振である。すなわち,圧迫眼振は内耳瘻孔への圧刺激によって誘発される眼振であり,その発現メカニズムはEwaldの法則に従って考えられてきた。最近では,McCabc10)が,臨床例の検討で,圧迫眼振は内耳瘻孔の存在部位により眼振の種類,方向が異なるために術前の注意深い観察によって瘻孔部位を正確に診断することが可能であると述べている。しかし,圧迫眼振には非定型的瘻孔症状の見られることもあることから,その発現メカニズムはEwaldの内リンパ流動説に対して内リンパ腔内圧の変化によるという報告11)もあり,一致した見解を得ていない。

体内埋め込み型薬液注入装置による上顎癌動注化学療法の試み

著者: 石津吉彦 ,   中島香代子 ,   門脇敬一 ,   生駒尚秋

ページ範囲:P.637 - P.640

 はじめに
 既治療の上顎癌で,腫瘍の進展範囲から手術不能とされたものに対しては全身的な化学療法が第一選択となる。このような症例の予後は非常に不良であるため,希望する患者には化学療法時のみ入院し,それ以外は自宅で過ごせるような治療を行うことは,quality of life (以下QOL)を高めるうえで有意義と考える。今回初回治療の際に手術不能とされた上顎癌患老3例の前胸部に体内埋め込み型薬液注入装置(以下,薬液注入装置)を埋め込み,上甲状腺動脈を介し外頸動脈に挿入したカテーテルと接続し動注化学療法を行い,1例で目的を達成できたので報告する。

三叉神経障害例のティンパノグラム

著者: 生井明浩 ,   池田稔 ,   飯島正道 ,   冨田寛 ,   山本隆 ,   宮崎修平 ,   坪川孝志 ,   竹内東太郎

ページ範囲:P.641 - P.646

 緒言
 三叉神経は,知覚神経および運動神経の両者よりなる混合神経である。三叉神経障害を評価する症状としては,患側顔面の知覚鈍麻が代表的なものとして知られ,三叉神経運動枝障害に関する検討は,これまで十分には行われていない。今回われわれぱ,顔面の知覚障害があり頭蓋内病変の確認された三叉神経障害例に対して,ティンパノメトリーを施行し,興味ある所見を得た。ティンパノメトリーが,ひとつの三叉神経運動枝障害の他覚的診断法と成り得る可能性があるものと考え報告する。

上皮小体の癌と腺腫の異時性重複と思われる1症例

著者: 片橋立秋 ,   武宮三三 ,   嶋田文之 ,   小村健 ,   牧野修治郎 ,   松嵜理 ,   寺野隆

ページ範囲:P.647 - P.652

 はじめに
 われわれが現在までに手術を行った原発性上皮小体機能亢進症105例のうち,6例が癌であったが,そのなかで,右上腺の腺腫を摘出した12年後に右下腺に癌が発見された1症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

OK-432局所注入による小児リンパ管腫治療の経験

著者: 渡辺健一 ,   千葉隆 ,   波多野吟哉 ,   富山俊一 ,   八木聰明

ページ範囲:P.653 - P.657

 はじめに
 嚢胞状リンパ管腫は,幼小児の側頸部に好発し,その多くは無症状に経過するが,時に,巨大な腫瘤となり,呼吸困難,嚥下困難,顔貌変形を呈し,治療が必要となる。治療としては,外科的摘出療法が行われてきているが,再発,さらに副損傷,創傷による顔貌変形,醜形などの合併症を伴うことがある。本疾患が幼小児に好発することから,これら外科的治療の欠点を克服する保存的療法の発展が要望されてきた。1976年,由良ら1)が,Bleomycinによる嚢胞の硬化療法を初めて試みた。しかし,Bleomycinは,薬剤の性質上,肺線維症などの重篤な副作用の可能性があり,幼小児に使用することに抵抗があることは否めない。1986年,萩田ら2)が硬化剤としてOK−432(商品名PicibanilR)を用い,良好な成績を報告している。OK-432は,重篤な副作用を来す可能性は低いとされており,今後,その適用が増加することが予想される。
 今回,われわれは,OK-432による硬化療法が著効を示した小児リンパ管腫の症例を経験したので報告する。

副甲状腺癌の1例

著者: 深江陽子 ,   植木義裕 ,   松浦宏司 ,   井手稔

ページ範囲:P.659 - P.663

 はじめに
 原発性副甲状腺機能亢進症は比較的稀な疾患であり,とりわけ副甲状腺癌はその原因疾患の中でも頻度の少ない稀な疾患である。本腫瘍はホルモン産生腫瘍の性格を持ち,臨床症状として,前頸部腫瘤のほかに,腫瘍細胞からの副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌によって,骨,腎からのカルシウムの吸収が促進され高カルシウム血症が起こり,食思不振,口渇,多飲,多尿,関節痛,腎結石など様々な症状を呈する。今回われわれは,典型的な臨床像を呈した副甲状腺癌の1症例を経験したので報告する。

下咽頭腫瘍が疑われた甲状腺機能低下症の1例

著者: 新井基洋 ,   古川浩三 ,   籾山安弘 ,   鎌田利彦

ページ範囲:P.665 - P.668

 緒言
 甲状腺疾患の頻度は炎症,自己免疫,腫瘍など各種の疾患が存在するたあ,われわれが通常考える以上に多い1)。今回われわれは,披裂部所見より下咽頭腫瘍を疑い,その後精査を進め甲状腺機能低下症と診断のついた1例について報告し若干の文献的考察を加えた。

長期にわたって存在した鼻腔異物の1症例

著者: 後藤田裕之 ,   酒井昇 ,   劉澤周 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.669 - P.671

 はじめに
 鼻腔異物は,しばしば見られる疾患であるが,その多くは10歳以下の幼小児で,玩具類を鼻内に挿入して引き起こされるものである。今回われわれは,幼小児期に挿入した異物が,その後自覚症状乏しく25年以上にわたって放置されていた症例を経験した。鼻腔異物に関する従来の報告では比較的早期に発見される例が多く,われわれの症例のように長期にわたる異物例は,極めて稀であるので,文献的考察を加えて報告する。

下咽頭アニサキス症の1症例

著者: 渡辺聡哉 ,   鈴木健策 ,   小野寺耕 ,   阿部隆 ,   村井和夫 ,   高山和夫

ページ範囲:P.672 - P.674

 はじめに
 消化管アニサキス症は近年増加傾向にあるといわれているが,その理由として魚介類の生食の機会が増加したこと,また一方で内視鏡検査などの検査機器の進歩,普及などによって診断技術が向上したことなどがあげられている。本症は,現在までに数多くの症例が報告されているが,その大部分は胃,腸などの消化管に発症している例である。
 今回われわれは下咽頭に刺入したアニサキス症の稀な1症例を経験したので報告する。

復刻掲載

樂聖ベートホーヴェンの耳疾を論ず

著者: ハインリッヒ、ノイマン ,   久保猪之吉 ,   大藤敏三

ページ範囲:P.676 - P.684

 非化膿性耳炎に關する輓近の進歩せる科学知識と其後のベートホーヴェン研究資料の輯集増補とからべ氏の耳疾に關する多種多様の極めて不統一なる見解を此處に改めて再び検討する事は當然にして又且つ有益なる事と思惟する次第である。
 ベ氏研究者の業績と新聞機關とによって得るべ氏耳疾に關する知識は專門醫家の常に之が判定に携る事なき爲に彼の聾疾に關しての種々なる謬見を流布するに至れるは止むを得ない結果である。

医療ガイドライン

ジアテルミーを用いた外耳炎の治療

著者: 志井田守

ページ範囲:P.689 - P.691

 I.ジアテルミー治療について
 1.定義と名称
 ジアテルミーは透熱を意味する。Zeynekにより1895年に始められた方法で,火花間隙法による1,000KHz (中波ラジオの周波数)の高周波電流を電極を着けて通電する内科的治療であった。
 この治療は後に否定されたが,今日その方式が竃気メスとして外科的に応用されており,内科的治療としては超短波治療(波長6m,50MHz程度)とマイクロ波照射(波長12.5cm,2,450MHz)が用いられている。超短波はテレビ,マイクロ波は電子レンジの周波数で,ともに通電せず電波そのものを治療に応用する1)

講座 頭頸部外科に必要な局所解剖・8

頸部の神経—(2)迷走神経

著者: 佐藤達夫

ページ範囲:P.694 - P.706

 頸部を通る神経群は,頸部本来の神経,すなわち頸髄から起こり頸神経叢と腕神経叢という2つの大きな神経叢にまとまるグループと,源を頭部あるいは胸部に発して頸部を縦断する神経とに大別することが出来るだろう。後者の代表的神経が迷走神経と交感神経幹であり,局所解剖のみならず機能的にも影響の大きい神経であるので,総論的にとりあげておくこととし,本号では迷走神経を検討する。なお,舌咽神経については臓器各論で言及することでカバーしうると思われるので,触れないでおく。
 迷走神経をわれわれはワーグスと呼びなれている。vagusとは,ラテン語のvagari (歩きまわる)に由来するという。和名の“迷走”神経,あるいは古いドイツ語名unherscweifender Nerv1)(さまよえる神経)は適訳かもしれないが,誤解を招くおそれがある。よく考えてみると“迷走”とは,走行方向そのものが不安定なことを意味する。しかし実際の迷走神経の下行走路は少なくとも頸胸部では安定している。したがって,ここでいう“迷走”とは分布先が多彩で広い範囲にわたり,限定しにくいというように解釈すべきであろう。ちなみに,この神経が分布する最も代表的器官として胸部の肺と腹部の胃をとりあげ,n.pneumogas—tricusという名称が用いられたことがあり,現在でもフランスで継承して使われている。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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