4.音響耳管機能検査法
著者:
石川紀彦
ページ範囲:P.527 - P.532
はじめに
音が耳管を通ることは,1869年Politzer1)により初めて報告された。鼻孔近くに置いた音叉の音が嚥下の間増強することを観察し,耳管は嚥下で開放し,音叉の音が耳管を経由して伝わると結論した。その後しばらくこの事実は忘れられていた。1939年Perlman2)は500Hzの音をチューブで鼻孔に導き,外耳道にマイクロフォンを置いて音を記録し,耳管が開くのを検出した。以後,塚本(1957)3),太田(1964)4),Elpern (1964)5),Naunton(1987)6),渡辺(1970)7),江口(1975)8)らにより音響を利用した耳管機能検査法が報告された。いずれも鼻腔に音を負荷して外耳道に置いたマイクロフォンで音を記録し,嚥下の際耳管が開閉し音圧が変化する現象を捉えるものである。これらの検査装置では,耳管の構造学的特徴から比較的低周波の通音効率がよいとされ,鼻腔に負荷する音源として100〜2,000Hzの音が使用された。1978年Virtanen9)は嚥下時の生理的雑音は100〜2,000Hzの範囲の周波数の音が多く,耳管検査で使用する音源音としては5〜6kHz以上の周波数の音が良いと述べ,1〜20kHzの周波数の音源につき1kHz間隔で検討し,6,7,8kHzの3周波数を使用して検査した場合に良好な結果であったと報告した。本邦において,1984年大久保ら10)は6kHzと8kHzのnarrow band noiseを音源音に用いて耳管の通音性を検討し,これらの音では嚥下運動などで生じる生理的雑音の影響が少なく,耳管通過音圧が忠実に記録されると報告した。さらに,1984年大久保ら11)は装置を改良し,Whitenoise generatorから7kHz full octave band-pass filterを通したband noise(5,250〜9,310Hz)を音源音に用いて,大気圧環境下で自然な嚥下運動で開閉する耳管機能を数値で表現できる検査装置を考案した。