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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科66巻6号

1994年06月発行

雑誌目次

トピックス 耳管機能とその評価

1.耳管(機能)研究の潮流

著者: 熊澤忠躬

ページ範囲:P.497 - P.505

 I.耳管研究の歴史
 耳管は1562年にイタリアの解剖学者Bar-tolomeus Eustachius (1520-74)によって発見され,その正確な構造,走行,周囲との関係など立彼の著書『聴器の書Epistala de Auditus Or-ganis』に咽頭鼓室管pharyngo-tympanic tubeとして描写されている。しかしこの論文は約200年間ローマ法王宮図書館内に眠っていて世に知られなかった。
 Antonic Valsalva (1665-1723)によって,これが発見され,彼はEustachiusに敬意を表してTuba Eustachii (欧氏管)と呼称することを提唱した。

2.中耳腔換気と耳管機能—特に,大気圧環境の中耳腔換気と耳管の役割について

著者: 大久保仁

ページ範囲:P.507 - P.519

 はじめに
 われわれの頭部には,中耳腔や副鼻腔と呼ばれ,周囲を硬い骨に囲まれ,かつ内壁が1層の粘膜で内張りされた半閉鎖腔が存在する。これらの臓器は,上気道の鼻腔や鼻咽腔の呼吸道に並列して直接に大気と自然孔や耳管で連絡し,環境気圧などが急に変化すると単純な物理的換気法で洞内気圧を調節しているのが特徴である。
 なかでも中耳腔は,周囲を硬い骨に囲まれ,ポンプ作用のない半閉鎖腔であることから,環境気圧の変化に対して耳管経由の物理的空洞換気を必要とし,気圧外傷の問題なども交えて耳管機能の重要性が論じられている。

3.耳管鼓室気流動態法

著者: 岩野正

ページ範囲:P.520 - P.525

 はじめに
 耳管は中耳の換気,排泄,上気道からの中耳の防御という機能をもち,中耳腔の恒常性の維持に関与している。耳管障害により各種の臨床症状や中耳疾患が生じることは以前からよく知られており,耳管機能の評価を目的として数々の検査法が考案され,臨床応用されてきた。耳管鼓室気流動態法(Tubotympanoaerodynamic Graphy,以下,TTAGと略)は1974年に熊澤により報告1)された方法であり,古くから行われてきた耳管通気であるバルサルバ法を基本とした耳管機能検査法である。
 耳管機能を評価するパラメーターとして,鼻咽腔や外耳道などからの外部からの圧によりどの程度耳管開大するかを示す受動的開大能と,嚥下という能動的な動きによる耳管の開大を示す能動的開大能とがある。現在臨床応用されている検査法は多く存在するが,1つの検査法で何の制限もなく受動的,能動的開大能という2つのパラメーターを検出しうる方法はなく,各種検査法を被験者の状態に合わせて組み合わせることにより、耳管機能が正確に評価される。前者の受動的開大能を検出する方法として耳管カテーテル通気検査,バルサルバ法による検査,さらに鼓膜穿孔がある場合外耳道側から圧をかける逆通気圧法があり,後者の能動的開大能を検出するものとして音響耳管機能検査や加圧・減圧法などがある。TTAGはバルサルバ法を基準とした検査であり,したがって鼻咽腔圧の上昇によりどのように耳管が開大するかを示す受動的開大能を主に検出する検査である。

4.音響耳管機能検査法

著者: 石川紀彦

ページ範囲:P.527 - P.532

はじめに
 音が耳管を通ることは,1869年Politzer1)により初めて報告された。鼻孔近くに置いた音叉の音が嚥下の間増強することを観察し,耳管は嚥下で開放し,音叉の音が耳管を経由して伝わると結論した。その後しばらくこの事実は忘れられていた。1939年Perlman2)は500Hzの音をチューブで鼻孔に導き,外耳道にマイクロフォンを置いて音を記録し,耳管が開くのを検出した。以後,塚本(1957)3),太田(1964)4),Elpern (1964)5),Naunton(1987)6),渡辺(1970)7),江口(1975)8)らにより音響を利用した耳管機能検査法が報告された。いずれも鼻腔に音を負荷して外耳道に置いたマイクロフォンで音を記録し,嚥下の際耳管が開閉し音圧が変化する現象を捉えるものである。これらの検査装置では,耳管の構造学的特徴から比較的低周波の通音効率がよいとされ,鼻腔に負荷する音源として100〜2,000Hzの音が使用された。1978年Virtanen9)は嚥下時の生理的雑音は100〜2,000Hzの範囲の周波数の音が多く,耳管検査で使用する音源音としては5〜6kHz以上の周波数の音が良いと述べ,1〜20kHzの周波数の音源につき1kHz間隔で検討し,6,7,8kHzの3周波数を使用して検査した場合に良好な結果であったと報告した。本邦において,1984年大久保ら10)は6kHzと8kHzのnarrow band noiseを音源音に用いて耳管の通音性を検討し,これらの音では嚥下運動などで生じる生理的雑音の影響が少なく,耳管通過音圧が忠実に記録されると報告した。さらに,1984年大久保ら11)は装置を改良し,Whitenoise generatorから7kHz full octave band-pass filterを通したband noise(5,250〜9,310Hz)を音源音に用いて,大気圧環境下で自然な嚥下運動で開閉する耳管機能を数値で表現できる検査装置を考案した。

5.加圧・減圧耳管機能検査法

著者: 高橋晴雄

ページ範囲:P.534 - P.539

 はじめに
 滲出性中耳炎をはじめとしてほとんどの中耳炎症性疾患の病因には耳管機能不全立がかわっており,病態分析,治療方針決定に耳管機能検査が重要な役割をもつことはご存じの通りである。本項ではその耳管機能検査のうち加圧・減圧耳管機能検査(以下,加圧・減圧法とする)についてのべる。

6.TYMPANOGRAMと耳管機能

著者: 小林俊光

ページ範囲:P.541 - P.547

 はじめに
 最近,耳管機能検査装置が開発され,耳管機能あるいは中耳の換気能に対する関心が高まっている。しかし,現在でもつねに耳管機能を的確に評価することは容易でない。
 ティンパノグラムのピークは中耳圧を表し,これが大気圧付近にあれば,中耳の圧平衡能ひいては耳管機能は正常であると考えられることから,非穿孔耳では耳管機能の評価においてティンパノメトリーは不可欠の検査といえる。
 本項では最初にティンパノグラムのピークに影響を与える因子につき述べる。さらにインピーダンスオージオメーターにより耳管機能をどこまで推定可能か述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

睡眠時無呼吸症候群におけるUPPP手術法

著者: 岡本牧人

ページ範囲:P.494 - P.495

 はじめに
 UPPP(Uvulopalatopharyngoplasty)手術は1981年にFujita1)が報告して以来,世界的に行われるようになったが,同様の手術は池松2)が1964年にいびきの治療法としてすでに報告している。本手術は,術者によってその手技が異なる。われわれの施設ではFujitaの原法に準じてUPPPを施行しているので,その手技を呈示する。

鏡下咡語

小脳性めまいの経験

著者: 増田游

ページ範囲:P.550 - P.551

 やはり齢60歳ともなると,年齢的にも全身的に健康をそこなって来るのは止むを得まい。
 私も,体型的にもまだそうではないと信じていた高血圧症が,すでにこの身体に纏りつき始めているとも知らずに無理を通し,突然の発症に愕然とした苦い経験をしたので,それについてご紹介し,日夜奮励しておられる諸賢にもご注意を喚起すると共に,早や,のど元過ぎた思いで走り出した自分にも改めて言い聞かせるつもりで筆をとった。

原著

小児耳下腺膿瘍の1例

著者: 藤尾久美 ,   毛利光宏 ,   矢田恒雄 ,   天津睦朗

ページ範囲:P.553 - P.556

 はじめに
 急性化膿性耳下腺炎は日常外来診療においてしばしば遭遇するが,抗生物貿の発達により,耳下腺膿瘍に至るのは比較的まれとされている。今回われわれは,CT, MRI上,空気像と思われる円形陰影を耳下腺内に有した小児の特異な耳下腺膿瘍症例を経験した。この耳下腺内空気像には,患児が風船をふくらませた行為が関与したと考えられた。そこで,本症例を提示するとともに,耳下腺内空気像を呈するにいたった機序につき若干の考察を加えて報告する。

鼻中隔後端に発生したPapillotubular adenocarcinomaの1例

著者: 室伏利久 ,   小林武夫 ,   内藤玲 ,   早川欽哉

ページ範囲:P.558 - P.560

 緒言
 鼻中隔に発生する腫瘍は,良性腫瘍,悪性腫瘍とも比較的まれとされているが、鼻中隔に発生する悪性腫瘍のなかでは扁平上皮癌が比較的多く,腺癌はとくにまれである1〜3)。また,発生部位としては鼻中隔前方に比較的多く,後方,とくに上咽頭に接する鼻中隔後端に発生した腫瘍の報告は少ない。鼻中隔後端に発生した腫瘍の診断,治療は必ずしも容易ではない。われわれは,早期に発見し,治療し得た鼻中隔後端に生じたPapil-lotubular adenocarcinomaの症例を経験したので,文献的考察とともに報告する。

挿管により声門後部癒着を起こした両側声帯麻痺の1症例

著者: 草野英昭 ,   村井和夫 ,   千葉隆史 ,   金田裕治

ページ範囲:P.561 - P.565

 はじめに
 声門狭窄をおこす疾病には腫瘍性の病変のほか,両側声帯麻痺,外傷などによるものが多く、声門後部癒着も稀な1つの疾患としてあげられている。声門後部癒着による場合は,これまでの報告では気管内挿管や外傷により生じることが多いとされている1〜5)。また,狭窄した声門は間接喉頭鏡下には観察が困難なため癒着部が不明のまま両側声帯麻痺と診断されることが少なくない6)。今回著者らは,数年来の両側声帯麻痺による呼吸困難が脳血管障害後の全身麻酔を契機として増悪し,気管内挿管によると考えられる声門後部癒着を生じた症例を経験したので報告する。

深い咽頭潰瘍を伴った腸管ベーチェットの1例

著者: 安達俊秀 ,   高橋光明 ,   横山和典 ,   寺沢憲一 ,   武田守正 ,   高橋英俊

ページ範囲:P.566 - P.570

 はじめに
 ベーチェット病は,口腔粘膜,外陰部の潰瘍,眼症状を3主徴とする疾患として1937年Behçetにより提唱された1)。本疾患は,これら3主症状の他にもさまざまな全身症状を伴うことが知られているが,消化管,大血管,中枢神経をおかす腸管型,血管型,神経型のベーチェットは,特殊型ベーチェットと呼ばれている2)。今回われわれは,咽頭後壁の広範な潰瘍のため当科を受診し,中心静脈栄養開始とともに咽頭潰瘍は改善したが,その後,消化管潰瘍からの大出血のため腸管切除に至った腸管型ベーチェットの1例を経験したので報告する。

講座 頭頸部外科に必要な形成外科の基本手技・7

小血管の縫合

著者: 上石弘

ページ範囲:P.571 - P.579

 はじめに
 小血管の縫合は基本的には大血管の縫合に集約されるが,手術用顕微鏡とそのための手術器材を使用し精巧な手術操作を要する点でいくつかの特徴があり,工夫が必要である。
 小血管の明確な規定はないが,血管径が2mm内外からそれ以下の大きさのもので,手術用顕微鏡下による縫合操作が適切である場合を小血管の範囲と考えてよい。近年,頭頸部外科領域での再建外科では遊離組織移植の占める割合が大きくなってきており,小血管を縫合する機会も増してきた。本稿では小血管の縫合法とその要点について解説した。

頭頸部外科に必要な局所解剖・16

咽頭(3)—血管と神経

著者: 佐藤達夫 ,   坂本裕和

ページ範囲:P.581 - P.590

 胃や腸あるいは肝胆膵などの局所解剖では血管がはでな扱いを受ける。それにくらべ咽頭の記載では,血管は末尾に押しやられ少し添えられているにすぎない。咽頭には人目を引く動脈立乏しいのは事実である。しかし臓器は血管があってはじめて臓器でありうる。この項では,系統解剖的になってしまうきらいがあるが,従来,記述の乏しい咽頭の動脈について,詳しい記載をまとめておきたい。静脈と神経についても触れておく。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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