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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科66巻8号

1994年08月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

Multiple symmetric lipomatosisの手術経験

著者: 井上貴博 ,   川崎篤 ,   冨田俊樹

ページ範囲:P.684 - P.685

 Multiple symmetric lipomatosis (MSL)は,過剰な脂肪組織が頸部を中心にびまん性,対称性に蓄積する稀な疾患である。1888年Madelung1)により詳細に報告されほぼ概念が確立した。貧血,肝機能障害およびアルコール過剰摂取の飲酒歴を伴うことが多いとされている2)が,成因は不明である。診断は,horse collarなどの特有な外観とCTおよびMRIなどの画像によって可能である。内科的治療は確立されておらず,外科的には全摘は困難であり,美容形成目的の手術がなされている。今回われわれは,MSLの手術を経験したので供覧する。
 症例は39歳男性。主訴は全頸部腫脹。1993年2月初め頃より急速に全頸部の腫脹を認め,同年3月31日精査加療目的で当科初診となる。顎下部から鎖骨レベルまで対称性に全頸部腫脹を認めた(図1)。腫脹は弾性軟で、びまん性に広がり境界は不明瞭であった。既往歴および家族歴は特記すべきことなく,飲酒歴は5年前から晩酌としてビール2本/日とのことであったが,寿司屋の主人で実際には客に勧められて,かなりの飲酒をしていた。術前血液検査所見では,貧血はなく、GOT89IU/l,GPT51IU/l,γ-GTP149mU/ml,LDH508IU/lと軽度の肝機能障害を認めた。頸部MRIでは,頸部全周性に病変を認めた(図2)。

原著

耳下腺腫瘍のMRI—顔面神経の描出について

著者: 多田雄一郎 ,   長谷川智彦 ,   戸島均 ,   菅井幸雄

ページ範囲:P.687 - P.691

 はじめに
 耳下腺腫瘍の外科手術では腫瘍を完全摘出することのみならず,顔面神経の保存に努めることが重要である。したがって術前画像診断の目的は第一に腫瘍の質的診断であり,第二に腫瘍と顔面神経との位置関係を明確にするための部位診断である。従来の画像診断法では直接に顔面神経を描出することは困難であるため,耳下腺周囲組織と腫瘍との位置関係より間接的に部位診断を行っていた1〜4)。しかし近年,MRIの発達により,腺内顔面神経の直接描出が可能となり,部位診断における有用性が報告されている5〜9)。顔面神経を直接描出することができればこれほど確実な部位診断はない。そこで今回,われわれは現在比較的普及している中磁場装置(0.5T)にて腺内顔面神経の描出を試みたので,耳下腺腫瘍におけるMRIの有用性について若干の考察を加えて報告する。

ガンマナイフ治療後の顔面神経麻痺

著者: 菅澤恵子 ,   石井甲介 ,   竹内直信 ,   小林武夫 ,   水野正浩

ページ範囲:P.693 - P.697

 はじめに
 成熟組織である末梢神経に対する放射線治療による障害は比較的稀とされている。乳癌に対する放射線治療後の腕神経叢の障害や腹腔内臓器の癌に対する術中照射後の腰神経叢,坐骨神経の障害などが報告されていたが,最近,聴神経腫瘍に対するガンマナイフ治療後に一過性の顔面神経麻痺が比較的高率に出現することが報告されている1,2)。今回われわれは聴神経腫瘍に対するガンマナイフ治療後に顔面神経麻痺が出現した症例を経験し,経時的に顔面神経機能の評価を試みた。その結果,今までの報告1,2)とは異なる興味深い経過をたどることがわかったので報告する。

Wegener肉芽腫症におけるHLAの関与について

著者: 中丸裕爾 ,   間口四郎 ,   滝沢昌彦 ,   竹内ミルトン実 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.698 - P.701

 はじめに
 Wegener肉芽腫症(以下WGと略す)は原因不明の上気道と肺の壊死性肉芽腫性炎,全身の壊死性血管炎および巣状壊死性腎炎を三徴とする疾患である。WGの病因は現在のところ不明であるが,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)の存在1),血清IgE2)およびIgAレベルの上昇3),抗平滑筋自己抗体の存在3),臨床的に免疫抑制剤やステロイドが奏効することなどより何らかの免疫学的機序が成因に関与しているのではないかと考えられている4)
 一方,HLA抗原は免疫学的認識反応において抗原提示の際に重要な役割を果たしており,自己免疫疾患の発症に関与していると考えられている。事実,ある種の自己免疫疾患において特定のHLA抗原との関与が認められている。
 そこで今回われわれは,WGの発症にHLAが関与しているかどうかを調べるため,当科通院中のWG患者におけるHLAのタイピングを行い正常者のHLAの頻度と比べてみた。

突発性難聴の高気圧酸素療法—92例の治療経験

著者: 三矢昭治 ,   山本真一郎 ,   羽柴基之 ,   馬場駿吉

ページ範囲:P.703 - P.706

 はじめに
 突発性難聴は,未だ原因不明の疾患であるが早期の治療開始により聴力回復が望める場合も比較的多い。われわれは1987年より突発性難聴の治療として高気圧酸素療法(Oxygenation at highpressure,以下OHPと略す)を施行してきた。そこでその治療効果について検討したので報告する。

悪性腫瘍の転移を思わせた頸部神経原腫瘍の2症例

著者: 鈴木光也 ,   広田佳治

ページ範囲:P.707 - P.711

 はじめに
 神経鞘腫をはじめとした神経原腫瘍が,他の頸部腫瘍と合併することは一般にまれである。今回われわれは,神経原腫瘍と喉頭癌または甲状腺腫瘍の合併のために,術前診断に苦慮した2症例を経験したので,文献的考察を含め報告する。

単脚アブミ骨と線毛細胞分布異常を示した先天性アブミ骨固着症の1例

著者: 前田学 ,   斉藤龍介 ,   宇野芳史 ,   園部紀子 ,   林佐和子 ,   渡辺周一

ページ範囲:P.712 - P.715

 はじめに
 ヒト中耳粘膜における線毛細胞の分布については,これまでにいくつかの報告があり,いずれも線毛細胞は耳管口および耳管口により近い部位に密に分布し,アブミ骨の周辺では線毛細胞の分布を認めないとする報告が大多数である1)。今回,われわれは両側伝音性難聴と耳鳴を主訴に来科した35歳の男性に試験的鼓室開放術を施行し,アブミ骨の固着を認めたためアブミ骨手術を行った症例を経験した。術後聴力改善と耳鳴の軽快をみたが,摘出されたアブミ骨は閉鎖孔のない単脚アブミ骨を呈し,走査型電子顕微鏡(SEM)による検索で脚表面粘膜に線毛細胞の分布を認めたので若干の文献的考察を加えて報告する。

ワルチン腫瘍内に結核感染を認めた1症例

著者: 鈴木政美 ,   奥常幸

ページ範囲:P.716 - P.718

 はじめに
 ワルチン腫瘍(Warthin's tumor, adenolym-phoma, papillary cystadenoma lympho-matosum)は唾液腺由来の良性腫瘍であり,臨床上よく経験する疾患である。今回,われわれは耳下腺部ワルチン腫瘍内に結核感染を認めた1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

頭頸部における腺様嚢胞癌の検討

著者: 中崎浩一 ,   岩崎幸司 ,   峯田周幸 ,   向高洋幸 ,   浅井美洋 ,   野末道彦 ,   星野知之 ,   馬場聡

ページ範囲:P.723 - P.726

 はじめに
 腺様嚢胞癌は頭頸部領域に好発する癌の1つであり,一般的に臨床経過が長いにもかかわらず治療困難な癌である。以前より,腺様嚢胞癌の病理組織型別による予後の違いが論じられているが1〜8),今回われわれは当科で診療した腺様嚢胞癌症例について組織分類学的検討を行ったので報告する。

嚢腫様の再発をきたした下咽頭癌の1例

著者: 小島好雅 ,   角田浩幸 ,   加納有二

ページ範囲:P.727 - P.730

 はじめに
 臨床上,固形癌が再発巣,転移巣で嚢胞を形成する例に遭遇する機会は比較的少なく,その報告例は極めてまれである1)。今回報告する症例は,下咽頭扁平上皮癌の根治照射後に副咽頭間隙から咽頭後壁にかけて嚢胞様病変が出現し,嚢胞内に癌細胞を認めた1例である。本例の嚢胞の起源,発生部位,転移性嚢胞の頻度,嚢胞液の性状について,既報告と対比して考察した。

突発性難聴で発症し,メニエール病様の症状を呈した聴神経腫瘍の1症例

著者: 入義典子 ,   平田圭甫 ,   伊藤八峰

ページ範囲:P.733 - P.737

 はじめに
 聴神経腫瘍の多くは,早期には耳鳴,難聴を初発症状として発症し,三叉神経症状,顔面神経麻痺,小脳症状,脳圧亢進症状と順次症状が出現し,進行性の経過をとる。しかし,近年CTやMRIの画像診断技術の進歩によって聴神経腫瘍が早期に発見されるようになってから,典型的な臨床症状を示さない症例の報告が増加してきた。今回,われわれは突発性難聴の症状で発症し,治療にて完全治癒したが,その後もメニエール病様症状が出現し,6年間で発症,軽快を4回繰り返した聴神経腫瘍の症例を経験したので報告し,若干の文献的考察を行う。

上顎洞Solitary fibrous tumorの1症例

著者: 三島陽人 ,   大町滋 ,   滋賀秀壮 ,   竹内仁 ,   田島正記 ,   飯沼壽孝

ページ範囲:P.740 - P.743

 はじめに
 Solitary fibrous tumorは,KlempererとRabin1)により胸膜の腫瘍として1931年に初めて報告された。多くは胸膜に発生するが,稀に腹膜,心膜,縦隔,肺実質などにも発生することが知られ,WitkinとRosaiらは,1989年に上咽頭における発生を報告した2)。われわれは,上顎洞に発生した本腫瘍の症例を報告する。渉猟し得た限りでは,本邦では,この症例に類似した報告は見られない。

星状神経節ブロック施行後の咽後間隙血腫

著者: 大野芳裕 ,   中村需 ,   野中隆三郎 ,   本永英治

ページ範囲:P.745 - P.748

 はじめに
 星状神経節ブロック(以下SGB)は適応範囲が広く,ペインクリニックで頻用されているが,耳鼻咽喉科領域でも突発性難聴などの治療に応用されている。一方SGB施行に際しての合併症は,星状神経節の位置的な関係から種々のものが挙げられるが,その多くは一過性のものである。しかし,今回SGB施行後に咽後間隙に血腫を生じ,緊急の血腫除去術を要した症例を経験したのでここに報告する。

乳幼児扁桃周囲膿瘍例

著者: 韓相善 ,   北村溥之 ,   宮田耕志 ,   金子賢一 ,   安里亮 ,   平野滋

ページ範囲:P.749 - P.751

 はじめに
 扁桃周囲膿瘍は耳鼻咽喉科の日常診療において比較的よく遭遇する疾患であるが,小児例は非常に稀とされている。今回われわれは3歳児の扁桃周囲膿瘍例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

ことばの限界

著者: 一色信彦

ページ範囲:P.720 - P.721

 I.ことばの過信
 中華航空のエアバスが着陸に失敗,またまた大惨事となった。数日後,フライトレコーダー,ボイスレコーダーの分析結果から,どうやらパイロットのミス,つまりコンピューターによる自動操縦と手動と相矛盾する命令を入れたのが原因らしいと発表された。ハイテクの限界とか,パイロットの訓練不足とか色々のコメントが続いた。エアバスの会社は自動操縦の場合,相反する手動命令を入れない様インストラクションに注意してあると主張する。
 いくら本に書いてあっても,めったに起こらない事は咄嗟の場合,思い出せるものではない。なぜもっとシミュレーションによる訓練ができなかったのかと思った。ことばの過信ともいえる。

連載エッセイ 【Klein aber Mein】・1

下鼻道対孔造設不要論

著者: 浅井良三

ページ範囲:P.752 - P.754

 私どもが大学耳鼻科教室に入局した頃には,まず最初に受け持たされる患者は併合性副鼻腔炎で上顎洞根本手術の指導をうけます。
 和辻式上顎洞根本手術(京都大学では和辻式を行います)の術後下鼻道対孔からの創液が多く吸引装置を必要とし,時には洞汚染のためか創液が悪臭を帯びカメレオン水で洞洗浄をしなければならぬ症例もありました。手術が稚拙であったかも知れませんが洞粘膜は厳重に摘出したつもりですし,術後の処置も感染させる手落ちはなかったのに何故感染するのか,対孔からの上顎洞創液の排泄が不十分のためか,上顎洞粘膜の取り残しのためかその原因はわかりませんでした。他の副鼻洞篩骨洞前頭洞の手術をやってないからそれらからの感染も考えて,鼻内的に篩骨洞開放,鼻前頭管開大などの手術を上級職員がやってくれていました。この考えにもとついて併合性副鼻腔炎の手術が後にPolysinectomy (多洞手術)またはPansinectomy (全洞手術)に発展したと考えています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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