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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科66巻9号

1994年09月発行

雑誌目次

トピックス 耳鼻咽喉科領域の真菌症—診断と治療

1.真菌症の基礎的知識

著者: 発地雅夫

ページ範囲:P.769 - P.780

 はじめに
 直菌症mycosis,fungal infectionは,真菌fungus (いわゆる“かび”)による感染症である。白癬などの皮膚真菌症が古くから知られているが,今日では,感染に対する抵抗力の減弱した患者compromised hostsを中心に,内臓の深在性真菌症が増加し,日和見感染opportunistic infec-tionsの一種として重視されるようになった。
 真菌類は,自然界に広く分布する生物であり,約10万種といわれる莫大な数からなる。その中でヒトの病気に関係するものは,約50種である。かつて生物が動物と植物の2界に分けられていた頃は,真菌類は隠花植物の一種と考えられていた。しかし,最近普及しているWhittakerの生物5界説では,表1に示すごとく,独立した生物として扱われている1)。真菌類は,真核細胞eukaryocyte,eukaryotic cell (二重の膜に包まれた,DNAが二重らせんをなす染色体を内蔵する核を有する細胞)からなり,単細胞あるいは多細胞である。ヒストン蛋白,ミトコンドリアなどの細胞小器官,80sリボゾ-ムを有する。細胞壁は,chitin-chitosan,α-glucan,β-glucan,mannan,chitin-mannan,galactosaminogalactose polymersなどからなる。栄養の摂り方は吸収性栄養absorp-tive nutritionによっている。L-α-aminoadipicacid (AAA) lysine biosynthetic pathwayをとる。真菌類の中で医学の領域に関係するものは,表2の4門で,その中でもほとんどが,有性生殖の明らかでないか,あるいは無性生殖で増殖する不完全菌門に属する。

2.外耳・中耳の真菌症

著者: 星野知之

ページ範囲:P.781 - P.785

 1.外耳道の真菌症
 耳の真菌症は,わが国では「外耳道真菌症」,英語ではotomycosisと一般に呼ばれる。Otomycosisは,“外耳道の真菌症”と書かれており,中耳の真菌症は含まれない。中耳の真菌症は時に報告があるがその数は少ない。何ら病的所見のない耳の耳垢でも22%で真菌が培養され,湿った痂皮では80%で真菌がみられたとの報告1)があり,通常は異常な増殖をしないが,種々の病態に合併して増殖する。

3.鼻・副鼻腔の真菌症

著者: 村井信之 ,   馬場廣太郎 ,   清水宏明 ,   深美悟

ページ範囲:P.786 - P.791

 はじめに
 遠い昔,人類が発生する前より,真菌は存在した。動植物がその生を終わると,土に帰すために,細菌では分解できない植物の繊維質や,動物の毛などの角質層を真菌が分解してくれていたのをご存知でしょうか。まるで役に立ちそうもない真菌も自然界の中ではちゃんとした役割があるのである。
 さて,近年抗生物質の進歩や,癌の治療法の発展など,医学の進歩とともに真菌症は医学の多くの分野でますます注目を浴びているが,耳鼻咽喉科における真菌症は,他の細菌感染症やウイルス感染症に比べ多いものではない。およそ感染症と名のつく耳鼻咽喉科疾患の3%以下である。また致死的転帰をたどる重篤な内臓真菌症のような症状もなく,伝染性も少ないために医学的関心の低い疾患である。
 しかし耳鼻咽喉科領域でも真菌症は確実に増加している疾患である。耳鼻咽喉領域の真菌症は表在性,限局性真菌症が多く,そのため真菌症としての発症原因に最も関与していると思われるものは,広域抗生剤の頻用と,副腎皮質ホルモン剤である。さらに鼻・副鼻腔では鼻中隔彎曲などの形態的な問題が加味されるのであろう。

4.口腔・舌カンジダ症

著者: 宮野良隆

ページ範囲:P.794 - P.798

 はじめに
 口腔・舌カンジダ症は抗生物質療法やステロイドの使用,抗癌剤療法などの発達した今日,日和見感染として,また副作用として比較的多く認められる疾患となった。しかし真菌は正常者にも存在し,特に口腔内においては常在菌であり,また症状も多彩なため,その診断には困難をきたす場合がある。最近はエイズAIDSが増加傾向にあり,その主症状の1つが口腔咽頭カンジダ症であることからもこの診断は十分注意しなければならない。症例を含め診断と治療について述べる。

5.咽頭・喉頭の真菌症

著者: 林泰弘

ページ範囲:P.799 - P.801

 はじめに
 咽頭・喉頭は生理学的に真菌が存在する部位であるが,健康生体においては病原性を発揮することは少ない。当領域の真菌症は,広域抗生物質,副腎皮質ステロイド剤,抗癌剤,免疫抑制剤の汎用,あるいは悪性腫瘍,血液疾患,糖尿病などにおける菌交代現象や抵抗力低下により真菌が異常増殖することにより発症する。真菌症は表在性と深在性に大別されるが,当領域では通常表在性である。
 健常人の真菌フローラは口腔,咽頭では約80%がCandidaであり,その他AspergillusやPenicilliumなどが認められる。そのため発症病因菌としてもほとんどがCandidaであり,稀にAspergillusもみられるが,その他の真菌で症状を発現することはほとんどない。
 喉頭に真菌症が発症することは極めて稀であり,口腔・咽頭病変に併発した症例を含めても非常に少ない。しかし喉頭真菌症は咽頭に比較し,やや予後不良であり注意が必要である。
 本項ではカンジダ症について,日常診療上重要と思われる症状,診断,治療の要点を述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

両側頸部に多発したCastlemanリンパ腫

著者: 上杉恵介 ,   勝見直樹 ,   南定 ,   菅野澄雄 ,   竹山勇 ,   風間暁男 ,   高桑俊文

ページ範囲:P.766 - P.767

 Castlemanリンパ腫は主に縦隔に好発する比較的稀な良性腫瘍で,多くは単発性といわれている。今回,両側頸部に多発した症例を経験したので報告した。
 症例:37歳,女性

原著

軟口蓋・咽頭・喉頭ミオクローヌスの1症例に伴う聴覚障害について

著者: 藏内隆秀 ,   加我君孝

ページ範囲:P.803 - P.807

 はじめに
 ミオクローヌスとは,「急速に起こる瞬間的な不随意的筋収縮から成り,それが連続的にまたは間隔をおいて,多かれ少なかれ反復性に繰り返されるもの(平山)1)」を示す用語である。種々の身体領域においてミオクローヌスは起こり得るが,なかでも軟口蓋ミオクローヌス(Palatal Myo-clonus)は,他覚的耳鳴の1原因として耳鼻咽喉科領域では知られている。軟口蓋に限局したタイプのものが最も多いが,ときには軟口蓋に留まらず咽頭・喉頭,さらには眼球・横隔膜・顔面・四肢骨格筋にまでミオクローヌスが及ぶこともある。またABR波形の異常を伴う場合があることも知られている2〜4)。われわれは,頭部外傷後に聴覚障害を主訴として来院し,軟口蓋・咽頭・喉頭にミオクローヌスを認めた症例を経験した。特に聴覚機能とミオクローヌスとの関連につき考察を加え,報告する。

当教室における聴器癌13例についての検討

著者: 糸数哲郎 ,   古謝静男 ,   真栄城徳秀 ,   山内昌幸 ,   江洲浩明 ,   真栄田裕行 ,   楠見彰 ,   宇良政治 ,   野田寛

ページ範囲:P.813 - P.816

 はじめに
 聴器に発生する悪性腫瘍は,頭頸部領域の悪性腫瘍のなかでも稀な腫瘍であり,また聴器が解剖学的に複雑な構造と機能をもち,内頸動脈や脳硬膜などの組織に近いために治療に困難をきたすことが少なくない。そのため聴器癌に対する治療方針は各施設によって異なり,一定の方針がないのが現状である。
 今回われわれは,1981年から1993年までに琉球大学医学部耳鼻咽喉科学教室で経験した聴器癌13例を分析し,治療法および予後について検討したので報告する。

新しい術後嚥下機能検査法からみた中咽頭癌切除後再建の検討

著者: 大口春雄 ,   鳥居修平 ,   松浦秀博 ,   長谷川泰久

ページ範囲:P.818 - P.820

 はじめに
 頭頸部腫瘍の治療では,腫瘍切除後の再建の占める重要性は大きい。中咽頭癌も従来は放射線治療が主流を占めてきたが,再建外科の発達により外科的切除後の再建が可能となったため,手術適応の拡大がみられている1,2)。また頭頸部の再建においては,近年の遊離組織移植術により術後の合併症の減少や機能の温存がみられており,中咽頭の再建においても例外ではない3,4)。しかし中咽頭領域の再建について術後の嚥下機能の評価を報告したものは少ない。
 今回われわれは,過去4年にわたる中咽頭癌の手術症例を検討し,その術後の嚥下機能から中咽頭癌の再建方法について検討を試みた。嚥下機能評価には今回われわれが考案した飲水テストにより,外来で簡便に短時間で行うことができた。これらの結果は患者の日常の摂食状況をよく反映し,これを用いることで腫瘍切除術や再建術と,術後の嚥下状況の関係について新しい知見も得られた。この飲水テストの方法を示すとともに今回の調査の結果を報告したい。

悪性化した鼻副鼻腔乳頭腫の1例

著者: 井口芳明 ,   中村要 ,   星野功 ,   小川克二 ,   柴崎誠 ,   望月高行 ,   鎌田利彦

ページ範囲:P.821 - P.824

 緒言
 頭頸部領域に発生する乳頭腫のなかで,鼻腔,副鼻腔に発生する乳頭腫は易再発性であり,発癌との関連性をもち,臨床的にも病理組織学的にも興味深い良性腫瘍である。今回われわれは,再発をくりかえし悪性化を示した鼻副鼻腔乳頭腫を1例経験したので文献的考察を加え報告する。

蝶形骨洞髄膜瘤の1症例

著者: 田中利善 ,   善浪弘善 ,   加瀬康弘 ,   山根雅昭 ,   水野正浩

ページ範囲:P.826 - P.830

 はじめに
 蝶形骨洞疾患の症状は,鼻症状や眼症状が多いとされている。鼻内より蝶形骨洞の開口部を確認するためには中鼻甲介を切除したり,十分な鼻粘膜血管の収縮を要する場合が多く,鼻内所見より診断することは困難な場合が多い。今日ではCT,MRIにより後部副鼻腔の画像診断は格段に進歩した。われわれは眼症状を主訴とし,CT所見より原発性蝶形骨洞嚢胞を疑い手術を施行したところ,嚢胞でなく蝶形骨洞内の髄膜瘤だった1症例を経験した。本症例と蝶形骨洞嚢胞との臨床所見,ならびに画像所見の違いについて文献的考察とともに報告する。

巨大な硬口蓋多形腺腫の1例

著者: 高崎賢治 ,   眞田文明 ,   村上隆一 ,   田中克己

ページ範囲:P.831 - P.833

 はじめに
 小唾液腺由来の良性腫瘍では多形腺腫が最も多く,90%を占めている1)。自覚症状はあるものの,痛みがなく,発育が遅いため専門医までの受診が遅れることもしばしばである2,3))。今回われわれは,受診が遅れたために口腔内,および上顎洞内まで進展し,構音障害まで及んだ,硬口蓋から発生したと考えられる巨大な多形腺腫の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

医学部教授管理職の経験雑感

著者: 小池吉郎

ページ範囲:P.810 - P.812

 昭和51年4月から新設山形大学医学部に耳鼻咽喉科学講座の教授として満18年勤務し,本年3月末で定年退官となった。開設当初は,新設の悲しさで,無いものづくしで,これから一体どうなるのかと心配したが,何とか無事定年退職を迎える事が出来たのは,私の大きな喜びであった。
 特に後半の定年退官までの満6年間は,病院長,医学部長を併任し,管理職業務をやらされ,色々と多くの経験をした。これを基に,国立大学医学部の管理職に就いて,私見を含めて,感想を述べてみたい。

連載エッセイ 【Klein aber Mein】・2

箸の理論

著者: 浅井良三

ページ範囲:P.834 - P.835

 耳鼻科臨床で物をはさむ器具として日常使用するのはピンセット{有鈎ピンセット無鈎ピンセット耳鼻科用ピンセット鉗子{麦粒鉗子鋭ヒ鉗子グリューンワルド型鉗子等がある。
 目的物をピンセット鉗子の間におき両方から鉗子の腕,ピンセットの脚が動いて目的物をはさむ。これに反してグリューンワルド式鉗子は鉗子の一つの脚は動かず他の脚のみが動いてはさむのである。あたかも日常使用する箸がその一本は目的物に達し他の一本が動いて目的物をはさむのに似ている。すなわち一本は指示棒,他の一本は力棒である。

講座 頭頸部外科に必要な局所解剖・17

咽頭(4)—リンパ系

著者: 佐藤達夫 ,   坂本裕和

ページ範囲:P.837 - P.840

 咽頭のリンパ管
 咽頭では,全体にわたり粘膜にリンパ管網が発達している(図1)1)。粘膜リンパ管は層をつくり,深層ほど太く,網目があらくなる。部位別にみると上部の後壁および口蓋扁桃付近,すなわちWal-deyer扁桃輪のあたりでは密度も大で管腔も広く,梨状陥凹の付近がこれに次ぐ。また側方と正中部とを比較すると,密度と太さは側方で大で,正中部で小となる。咽頭の前壁,後壁のいずれにおいても,粘膜リンパ管には正中線で左右の交叉が認められる(図22),ただし壁外に出てしまうと左右の交叉はない)。以上から,上方の後壁,口蓋扁桃付近,梨状陥凹,側縁が咽頭リンパ管の流出路として大切なことが予想できる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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