icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科67巻10号

1995年10月発行

雑誌目次

トピックス ウェゲナー肉芽腫症の診断と治療

1.ウェゲナー肉芽腫症(総説)

著者: 長澤俊彦

ページ範囲:P.907 - P.916

 はじめに
 ウェゲナー肉芽腫症(以下WGと略す)はドイツの病理学者Wegenerが1939年に最初に独立疾患として報告した疾患である1)。1990年83歳の誕生を祝してドイツのZweibrückenで弟子達が彼を招いてWGと関連血管炎のシンポジウムを開いた。この時の彼の写真と彼自身の講演の出だしの一節を示す。(図1,表1)2,3)。WGはここに記されているとおり,①上気道と肺の壊死性肉芽腫,②壊死性肉芽腫性血管炎,③壊死性半月体形成腎炎,をtriasとする疾患である。この催しの2か月後にWegenerは亡くなった。
 筆者自身始めてWGという疾患を知ったのは,1961年急速に進行する腎不全で死亡した17歳の少年の受け持ち医となり,剖検によりWGと確認した時に始まる4)。当時,少なくともわが国の内科領域では1,2の症例報告を見るにすぎなかった。その後,絶えずこの疾患に関心をもち続けて今日に至っているが5,6),この疾患ほど病因,病態について解明が進めば進むほど奥底の深い疾患はないといっても過言ではなかろう。また,臨床的にも耳鼻科,内科(膠原病科,呼吸器科,腎臓科)を中心に多くの診療科が関与するきわめて興味深い疾患である。
 以下WGの病理,基礎的研究,臨床について発展の歴史を振り返りながらoverviewすることにしたい。

2.ウェゲナー肉芽腫症の病理

著者: 青笹克之 ,   星田義彦 ,   古謝静男

ページ範囲:P.918 - P.924

 はじめに
 ウェゲナー肉芽腫症(Wegener's granulo-matosis,以下WG)は上・下気道および腎に非感染性,壊死性肉芽組織を形成する疾患であり1),およそ90%の患者では初診時,顔面症状を示す2)。このような顔面に壊死性,肉芽腫性病変を示す疾患は治癒することがなく,かつては致死的な経過をとることからlethal midline granuloma (以下LMG)の臨床病名が用いられてきた。
 LMGはいくつかの疾患群からなるが,病理組織学的に癌,結核,梅毒を除外すると,WGのほかに悪性リンパ腫(以下m.l)およびpolymor-phic reticulosis(以下PR)がある3,4)

3.診断と治療—内科の立場から

著者: 谷口敦夫 ,   柏崎禎夫

ページ範囲:P.925 - P.931

 はじめに
 ウェゲナー肉芽腫症(Wegener's granuloma-tosis,以下WG)は抗好中球細胞質抗体(antineutro-phil cytoplasmic autoantibody,以下ANCA)の発見,免疫抑制剤を用いた効果的な治療法の開発に伴い,今日,血管炎症候群のなかで最も話題になっている疾患の1つである。その主病変は耳鼻咽喉科領域に分布することが多いが,肺,腎病変を高率に合併するため,全身性疾患として把握する必要がある。そこで本稿では主に内科的立場からWGの診断と治療について述べる。

4.診断と治療—耳鼻咽喉科の立場から

著者: 間口四郎 ,   滝沢昌彦 ,   中丸裕爾 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.932 - P.940

 はじめに
 当科では1991年1月にはじめてcANCA (cyto-plasmic pattern,Anti-neutrophil cytoplasmicantibody;抗好中球細胞質抗体)陽性のWegener肉芽腫症(以下WGと略す)患者に遭遇した際,このANCAに関して強く興味をもった。当時ANCAの測定は保険適用になっておらず米国まで血清を送付する必要があったが,今後の患者の診断および治療経過中の定期的測定のためには自施設での測定がぜひとも必要であると考えた。そこで1991年2月より間接蛍光抗体法(IIF;In-direct immuno-fluorescence assay)によるANCAの測定を開始した。
 1992年8月には白血球のバフィーコートからα顆粒を精製しELISAによる測定も開始した1)が,その後ニプロ社よりELISAキットのネフロスカラー・C-ANCが発売2)され,かつこれが保険適用になったことを受け,現在はIIFとネフロスカラー・C-ANCの2つの方法で患者血清中のANCAを測定している。
 1995年7月現在,cANCA陽性のWG症例は22例に達している。今回これらの患者データを参考にしながら,現在までの他施設からの報告も含め耳鼻咽喉科の立場からWGの診断,治療に言及していきたいと考える。

目でみる耳鼻咽喉科

ゴアテックス®による顔面吊り上げ術

著者: 五十嵐秀一 ,   大滝一 ,   近藤勝彦 ,   橋本茂久 ,   中野雄一

ページ範囲:P.904 - P.905

 ゴアテックス®(以下ゴアテックスと略)は組織親和性に優れ,異物反応がほとんどみられない人工素材で,血管外科や形成外科領域で用いられている。われわれは陳旧性顔面神経麻痺に対し,ゴアテックスによる顔面吊り上げ術を行い,好結果を得たので報告する。

Current Article

副鼻腔疾患の骨変化—画像からの考察

著者: 飯沼壽孝

ページ範囲:P.942 - P.953

 はじめに
 副鼻腔画像診断法は副鼻腔の内容と副鼻腔壁の観察を行うことである。副鼻腔壁が失われて周辺に病変が進展すれば,副鼻腔に固有な構造以外の観察が行われる。破壊を伴わない副鼻腔の構成は内容物,粘膜・骨膜,骨壁である。内容物は空気,軟部組織,分泌物,血液のいずれか,またはその混合である。粘膜・骨膜は副鼻腔では骨粘膜(mucoperiostium)と呼ぶ一体構造である。骨壁で骨粘膜に密接する部分は骨皮質であるが,ある部位ではその外側に骨髄質がある。副鼻腔に接する骨壁の髄質はそのほとんどが黄色髄である。
 副鼻腔骨壁の画像所見では破壊が重きを成すが,本稿の主題は破壊を伴わない副鼻腔骨壁の画像所見である。すなわち,副鼻腔に異常がある場合に,おそらくは骨粘膜病変を介して出現する骨皮質ならびに骨髄質の画像所見を検討する。画像の原疾患の診断はほぼ確定しているが,画像所見に相当する部位での骨自体には病理組織学的な検討が成されていない。本稿の内容は骨の画像所見から検討して,病理組織学的な背景を考察するに止まるものである。

原著

遺伝子解析により診断された頸部T細胞型悪性リンパ腫の1例

著者: 若島純一 ,   原渕保明 ,   久々湊靖 ,   新谷朋子 ,   形浦昭克 ,   今信一郎

ページ範囲:P.955 - P.958

 はじめに
 頭頸部領域に発生する悪性腫瘍は癌腫,とりわけ扁平上皮癌の頻度が圧倒的に高いが,悪性リンパ腫はこれに次いで頻度が高く1)日常臨床においても常に念頭に入れておかなければならない疾患である。現在悪性リンパ腫の診断は,生検された組織に対し形態学的検索に加え,免疫組織学的検索を行うことによりT,B細胞系列,および分化段階についても情報を得ることが可能である。しかしながら,これらの方法を用いても明確な診断の困難な症例が存在するといわれている2)。最近の分子生物学の進歩により,免疫グロブリン遺伝子の再構成の検出はB細胞への分化が決定された細胞の同定を,またT細胞受容体遺伝子の再構成の検出はT細胞への分化が決定された細胞の同定を可能にした3,4)。これによりリンパ性腫瘍における細胞系列の決定と単クローン性増殖の証明はDNAレベルでなされるようになり,すでに臨床的に応用がなされている5,6)。今回筆者らは,頸部リンパ節生検により亜急性壊死性リンパ節炎を疑われたが,経過が遷延化することから生検組織の遺伝子解析を行い,T細胞型悪性リンパ腫と診断し得た1例を経験したので報告する。

頸部に発生したデスモイド腫瘍の1例

著者: 河田了 ,   安田繁伸 ,   内田真哉 ,   村上泰

ページ範囲:P.968 - P.971

 はじめに
 デスモイド腫瘍は骨格筋組織や腱筋膜から発生する比較的まれな腫瘍である。発生部位により腹壁デスモイド,腹壁外デスモイド,腹腔内デスモイドに分類されるが,腹壁外デスモイドは比較的まれとされ,特に頭頸部領域の報告は少ない。
 今回われわれは,66歳女性の右頸部に発生した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

顔面神経麻痺と急性聾をきたした内耳道聴神経腫瘍の1例

著者: 山形和彦 ,   村上信五 ,   比野平恭之 ,   柳原尚明

ページ範囲:P.972 - P.975

 はじめに
 聴神経腫瘍の典型例では,耳鳴・難聴で緩徐に発症し,腫瘍が中等度以上に増大すると三叉神経麻痺や顔面神経麻痺をきたし,さらに下位脳神経麻痺,小脳症状や脳幹障害が発症する。しかし最近の画像診断法の進歩により,突発難聴で発症したり,また聴力が変動するような非典型例も多く報告され1〜6),非典型が典型とまでいわれるようになってきている。
 最近,著者らは内耳道に主在する腫瘍であるにもかかわらず,急性の顔面神経完全麻痺と急性聾をきたした興味ある症例を経験した。経迷路法にて腫瘍を全摘し,顔面神経に対しては内耳道から茎乳突孔まで全減荷手術を行い,顔面神経麻痺の成因を推定することができた。さらに,診断,手術治療,特に顔面神経減荷術の有用性についても考察した。

鼻腔悪性黒色腫を合併したWerner症候群の1例

著者: 熊谷正樹 ,   豊嶋勝 ,   板垣政信 ,   桜井時雄 ,   望月衛 ,   志賀伸之 ,   佐々木直子

ページ範囲:P.976 - P.979

 緒言
 Werner症候群は,低身長・低体重・細い四肢といった身体的特徴と,早期老化の諸症状を主徴とする疾患で,悪性腫瘍を高率に合併することが知られている。悪性腫瘍の合併は諸家により報告されているが,本邦では欧米に比べて皮膚悪性黒色腫合併例の報告が多い。今回われわれは鼻腔粘膜悪性黒色腫を合併した本症候群例を経験したので報告する。

放射線治療後に食道狭窄をきたした喉頭癌症例

著者: 竹内万彦 ,   間島雄一 ,   野本由人 ,   岡本耕典 ,   坂倉康夫

ページ範囲:P.980 - P.983

 はじめに
 喉頭癌に対する放射線療法はレーザー手術とならび今日のT1,T2症例に対する治療法の主流をなしている。しかし,放射線は腫瘍組織のみならず,周囲の健常組織にも影響を及ぼし,何らかの副作用をひきおこすことが多い。喉頭癌に対する放射線治療の合併症として,喉頭壊死や喉頭の線維化はよく知られている1〜5)。今回,喉頭癌に対する放射線治療後,両側声帯の運動障害をきたし,その後食道狭窄の発生をみた症例を経験したので報告する。

鏡下咡語

頭頸部腫瘍と血液型の関連性

著者: 樋口栄作

ページ範囲:P.960 - P.961

 1.ABO式血液型と頭頸部腫瘍との関係
 ABO式血液型は1900年Landsteinerらによって初めて発見され,以来輸血や臓器移植の際に重要な役割を果たしているが,過去の膨大な統計学的調査から,ABO式血液型の違いによってある種の疾患の罹患率に有意な差がみられることが知られている。特に胃癌など消化器系の悪性腫瘍は,O型に比べA型は罹患率が有意に高いことが知られている。ABO式血液型抗原の生化学的本体は糖鎖抗原である。糖鎖抗原にはA抗原,B抗原,H抗原があり,これらは糖転移酵素の活性によって決定される。ABH血液型抗原の生理的な機能はまだよく分かっていないが,何らかの認識機構に関係していることが推測されている。腫瘍とABO式血液型との関連性は,腫瘍のABO式血液型抗原(ABH血液型抗原)の量に依存することが考えられる。何故なら,ABH血液型抗原が何らかの認識機構を担っている場合,抗原量の多寡によって発癌性も左右されると考えられるからである。ABH血液型抗原は全身の組織細胞に分布しているが,その存在部位を大別すると細胞膜上と分泌液中に分かれる。量的に比較すると臓器別には胃が最も多く,次いで十二指腸や胆嚢,膵臓,唾液腺など上部消化管系の分泌臓器に多く分布している(表)。
 O型に比べA型の罹患率が高い腫瘍には,胃癌,結腸,直腸癌,膵臓癌,子宮癌,卵巣癌,乳癌,唾液腺腫瘍などがあるが,この中にABH血液型抗原量の豊富な消化管系の分泌臓器が多く含まれていることは興味深い。

連載エッセイ 【Klein aber Mein】・15

頭頸部外科にどっぷり(その1)

著者: 浅井良三

ページ範囲:P.962 - P.964

 私は星野貞次先生の前庭迷路の講義をうけ感激して迷路の研究をやりたいとの希望を持ち入局しました。
 星野先生はスウェーデン,ウプサラのBárány教授のところに3か年留学され前庭迷路生理学を研究されました。Acta otolaryngologicaのモノグラフに小脳虫部を発表していられます。前庭迷路生理学を専門とせられ,日本耳鼻咽喉科学会総会に“迷路反射”と題して宿題報告をされています。この宿題報告がすばらしく立派であったと承っています。京都帝国大学教授にうつられてからも前庭迷路生理学を教室のテーマとして研究生を指導せられ,その成果は全部耳鼻咽喉科臨床誌に掲載されています。

手術・手技

前頭洞手術における胆管用ドレナージチューブの使用経験(追試)

著者: 山本英一 ,   兵行孝 ,   川崎康一郎

ページ範囲:P.984 - P.986

 はじめに
 前頭洞手術後,鼻前頭管が再閉塞することなく上皮化を得るための工夫としてドレナージチューブを留置する方法がある。しかし,チューブを長期間留置し外来通院治療とするには,単純な筒状のチューブでは脱落しやすい。最近,著者らは,渡部ら1)が報告した胆管用ドレナージチューブを流用した前頭洞用Tチューブを追試する機会を得たので,症例を提示し検討を加える。

連載 ケーススタディー めまい・難聴

ケーススタディー〔10〕

著者: 片岡敏

ページ範囲:P.989 - P.995

 はじめに
 後頭蓋窩の脳血管障害ではめまいは主な症状の1つであり,しばしば急激に出現する回転性めまいや体動揺感として自覚される。これらの症状は椎骨脳底動脈系の血管障害の前駆症状や初発症状として出現することが多く,引き続いて起こる急速な意識障害,四肢麻痺や運動失調などの小脳脳幹の機能障害を示唆する重要な症候である。最近,画像診断法の発達により後頭蓋窩の虚血性病変の早期診断が可能となり神経症候と脳幹小脳病変との対比がなされ,より詳細に血管障害が理解されるようになった。本稿ではめまいを訴える患者を例にとって,めまいの原因となる小脳と脳幹の虚血性脳血管障害の診断と治療について概説する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?