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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科67巻3号

1995年03月発行

雑誌目次

トピックス 日帰り手術

1.日帰り手術はどこまで可能か

著者: 法貴昭

ページ範囲:P.193 - P.198

 はじめに
 最近の病院経営は前例のない困難な状況にあると言ってよい。この種の問題とあまり縁のなかった国公立病院においてさえも病床の可動率,レセプトの点数をうんぬんされるようになっている。まして私立の施設では問題はもっと深刻となっている。入院の申し込みが殺到する病院がある一方で,空ベッドを埋めるのに四苦八苦している病院があり,「日帰り手術」がどこまで意味があるか否かも問題である。しかし,ここではこういう社会状勢は別として純粋に医学的に「日帰り手術が可能か」を考えてみたい。
 日帰り手術を可能にする条件は大きく分けて3つに考えられる。1)手術自体,2)患者および家族へのインフォームド・コンセント,3)施設でのバックアップ体制である。

2.経鼓膜中耳腔換気チューブ留置術

著者: 菅家元

ページ範囲:P.199 - P.205

 はじめに
 俗にチュービングと称されているが,いわゆる「和製英語」であり,私は使用したことがない。英文で表記するなら,Placement of Tympanos-tomy tube,Insertion of Ventilation tubeと記すべきであろう。
 本文中で「チューブ」とあれば「中耳腔の換気のため経鼓膜的に留置するチューブ」を意味し,「手術」とあれば特に断りない限り「チューブを留置する手技」を指すこととする。

3.鼓膜形成術

著者: 湯浅涼

ページ範囲:P.209 - P.213

 はじめに
 「日帰り手術」ということばに筆者が最初に出会ったのは,1991年,栃木県地方部会から講演の機会を与えられた際に,森田 守前自治医科大学教授から頂戴した演題名“耳手術で日ごろ考えていること—日帰り鼓膜形成術を中心に—”であった。この日本的な「日帰り手術」ということばに愛着を感じその後の講演,学会発表で度々使わせていただいてきた。一方,同様な意味の言葉として,“One day surgery”,あるいは,簡略して“Day Surgery”なども散見されるが,欧米での“Mini-mum invasive surgery”とも同じ主旨の言葉と解釈される。最近,この外来での手術あるいは最小限の入院での手術が国内でも見直され,各科領域で盛んに行われるようになってきた。耳科領域での導火線になったのは「フィブリン糊を用いた鼓膜形成術(接着法,1989,湯浅)1)」であり,その後,鼻内内視鏡手術など,従来長期入院を要した術式が新しいデバイスの使用により大幅に改革されている。
 さて,鼓膜穿孔の存在は単に伝音難聴という聴覚上の問題もさることながら,耳漏の頻発,水泳の制限など多くの支障をもたらす。鼓膜の穿孔を確実に閉鎖する方法としては従来から入院での鼓膜形成術,あるいは,鼓室形成術が主流であったが,フィブリン糊を用いた接着法の開発,その後の多くの追試報告により,この「日帰り」もしくは短期入院の鼓膜形成術が従来の方法に替わりつつある。以下,本方法の手技,適応・禁忌,注意点などについて述べる。本法は手技が簡素化され,最小限の侵襲の術式であるが,手技そのものは逆に高度の技術を要するもので,一般の鼓室形成術を行える技量を持ち合わせることが必要である。

4.慢性副鼻腔炎における上顎洞チューブ挿入術

著者: 窪田哲昭

ページ範囲:P.214 - P.220

 はじめに
 上顎洞チュービング療法は下鼻道より洞内ヘドレーンチューブを挿入留置し,洞貯留液の持続的除去とともに薬剤の注入を行って形態的,機能的に本来の状態に戻すことを意図しているものである。
 この治療法は上顎洞開放手術の弊害を避け,高度な慢性副鼻腔炎に対して一般診療所でも外来治療できることを目的に考案した保存的治療であるが,ことに近年慢性副鼻腔炎の軽症化や片側性の増加などその病態の変化が指摘されており,現状に合った新しい治療法として日常診療の中に導入したいと考えており,ここに紹介したい。

5.声帯ポリープ切除術(日帰り手術)

著者: 米山文明

ページ範囲:P.221 - P.226

 はじめに
 ここで言う「日帰り手術」を筆者は局所麻酔下で行うものとして話をすすめる。また「日帰り手術」でも,ファイバースコープを使ってモニターテレビを見ながら手術する方法,あるいは外来で顕微鏡下に行う方法もあるが,筆者が以下に述べるものは昔から行われた方法,つまり間接喉頭鏡で局所麻酔下に行うものであることをはじめにお断りしておく。また手術にいたるまでの保存的治療,および術後の声の管理,発声治療などについても誌面の関係で省略する。
 筆者が過去約40年間に執刀した声帯ポリープの数は約2,000例,そのうち90%以上は局所麻酔で間接鏡下のものであり,その3分の2は声を職業とする人たちが対象である。
 筆者がここまで局所麻酔の声帯ポリープ手術にのめり込んでしまった理由の1つは,恩師故切替一郎教授から与えられた筆者の学位論文のテーマが「声帯ポリープの二重声」に関するものであったことによる。昭和30年(1955年)頃からであるから,現在のような全身麻酔も,ラリンゴマイクロスコピーもなく,声帯ポリープの手術前後の音声比較が中心テーマであったので,東大の耳鼻科外来にきた声帯ポリープ患者のほとんどすべてを筆者のところに廻して貰い,手術,録音することになっていた。以来40年,論文完結後も先輩,同僚からの患者依頼も多く,難しい手術,危険な手術に挑戦するスリルと興味も加わり,私の声帯ポリープ手術は日常外来の一部になってしまった。
 通常筆者は声帯ポリープの場合,大小にかかわらず基本的にはまず保存的治療を優先する。そして一定期間症状の経過をみたうえで手術的治療を選ぶか否かを決断する。結果的には90%以上が手術をすることにはなるが,保存的治療を優先する理由は,典型的なポリープでしかもかなり大きなものでも2〜3か月で完治した例が数%あるからである。しかもこの場合,特別厳重な発声制限もせず,平常通りの生活をしていてもである。さらにまた,後述のように他院から廻ってきた患者の手術による後遺症を数多くみていると,安易な手術の危険とこわさがよく分かるからである。そこで初診時所見のみですぐ手術を決めず,保存的治療をまず試みてからという順序をふんでいる。そのせいかどうか巷間筆者は手術が嫌いだという説があるそうである。何年か前のある学会のシンポジウムで,某大学の音声専門家の「声帯の出もの腫れものはすべて切る」という乱暴な発言を聴いていて慄然としたことがある。声帯ポリープ手術のこわさを知らない人の無責任な発言だと思う。

目でみる耳鼻咽喉科

両側篩骨洞骨腫の1症例

著者: 西平茂樹 ,   山内博幸 ,   伊藤勉 ,   佐藤重雄 ,   小池和夫

ページ範囲:P.190 - P.191

 両側篩骨洞に骨腫を有した症例(右側が混合性骨腫,左側が硬性骨腫)を経験した。
 症例:59歳,女性。農家の主婦

Current Article

スギ花粉症

著者: 馬場廣太郎 ,   森朗子 ,   吉田博一

ページ範囲:P.230 - P.239

 はじめに
 かつて日本には存在しないとされていた花粉症が最初に報告されたのは,1961年ブタクサ花粉症であった。その3年後斉藤らによって提唱されたスギ花粉症は,1979年頃からの花粉大量飛散により,多数の患者輩出と症状の激烈さから,日本における代表的花粉症となった。必然的に研究対象として興味深いものとなり,学会,誌上報告は枚挙にいとまがない。しかし,患者側の関心やマスコミの報道指向に影響されてか,花粉飛散の観測や予測に多大な精力を割くことになったのは,医師が行う研究としては些か歪曲した方向にあるのではないかと反省もしている。
 一方,抗原としての花粉の多寡は,症状の発現,程度と関連を持つのは当然であることから,ここでは疾患としてのスギ花粉症を中心に,それを惹起する抗原の検索としての花粉観測である立場を確認しながら論を進めたいと考える。また,当地方での疫学調査の結果,治療としての初期療法について私見を示し,諸賢の御参考に供するとともに,御批判を頂載できれば幸いと考える。

鏡下咡語

ハムレットの旅

著者: 調賢哉

ページ範囲:P.242 - P.243

 「To go or not to go-that is the question」(ハムレツト) 1日250人の外来と,30人の入院を抱え診療第一線に携っている私にとって副院長一人に病院を預け1週間病院をあけるのは,耐え難いことであった。すでに演題も申し込んであるのに春頃より「ハムレット的悩み」を抱えていた。しかし,結局は行くことになった。
 1994年6月18日正午頃,SAS機直行便で成田を発ち,約10時間30分でデンマークの首都コペンハーゲンの空港に着いた。車で約20分で宿舎であるインペリアルホテルに着いた。このホテルは学会の会場となっているスカンジナビアホテルからは遠かったが,市の中心部にあり市庁舎,コペンハーゲン中央駅,有名な遊園地であるティボリの近くに位置し,便利であった。

海外トピックス

ヨーロッパに呼吸と発声の原点を求めて—その2.イタリア篇

著者: 米山文明

ページ範囲:P.244 - P.246

 1994年,8月12日早朝Oberstdorfから列車でMünchenに行き,そこでSalzburg,Wienにまわる予定の同行者たちと別れた後は私たち夫婦だけの旅となった。私の次の講演予定は8月22日に決まっていたので,8月20日にGenovaに入ればよいことになっていた。したがってこの間の1週間は私にとって滅多に得られない貴重な休暇である。旅に出る前からいろいろ予定を組んでみたが,何しろヨーロッパも記録的な猛暑だというので迷っていた。結局思案に余って昔からの友人でRoma永住の声楽家,Maria Pia朝倉さんに連絡をとり,旅程を一任した。
 8月13日はRomaの朝倉さん宅の近くのホテルに一泊し,翌朝Firenze行の列車で約1時間ほどのところにあるOrvietoという町に着いた。

原著

副鼻腔血管平滑筋腫の1症例

著者: 陰里ゆうみ ,   佃守 ,   大石公直 ,   大橋校 ,   三上康和 ,   中川千尋 ,   河合敏 ,   原正道

ページ範囲:P.249 - P.253

 はじめに
 血管平滑筋腫は,四肢に多く認められ,鼻副鼻腔領域に発生することは比較的まれである。今回われわれは,副鼻腔に発生した血管平滑筋腫の1例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

HIV感染血友病患者に発生した顔面神経麻痺

著者: 村上信五 ,   比野平恭之 ,   柳原尚明 ,   羽藤高明 ,   藤田繁

ページ範囲:P.255 - P.258

 はじめに
 近年,わが国においてもヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者が急速に増加する傾向にある。HIV感染者,あるいはAIDS患者の耳鼻咽喉科領域の併発症状としては,口腔カンジダ,口腔粘膜・頭頸部皮膚のカポジ肉腫,咳,などが一般的に知られているが末梢性顔面神経麻痺も頻度は少ないものの注意すべき症状の1つである1〜7)。最近,血友病患者で血液製剤によりHIV感染をきたし,経過中に一側末梢性の顔面神経麻痺を発症した症例を経験した。われわれの渉猟した限りでは,本邦においてHIV感染者に顔面神経麻痺が発症したとの報告はない。HIV感染者に発症する顔面神経麻痺について文献的考察を加え報告するとともに,MRIおよびウイルス血清学的に顔面神経麻痺の病因を考察した。

頸部交感神経鞘腫の1症例—術前・術中診断の重要性とHorner症候について

著者: 山内博幸 ,   西平茂樹 ,   藤盛圭太

ページ範囲:P.260 - P.265

 はじめに
 頸部交感神経節由来の神経鞘腫はまれな疾患で,術後に頸部交感神経欠落症状である不快なHorner症候を生じる。今回われわれは最近経験した症例を若干の文献的考察を交えて報告する。

外鼻異物の1症例

著者: 緒方洋一 ,   中野博孝 ,   高橋正紘

ページ範囲:P.266 - P.269

 はじめに
 耳鼻咽喉科領域の異物症例は気道,食道,外耳道に介在するものが中心である。部位により異物の種類は異なり,年齢による違いもある。生活様式や社会環境によっても影響を受けるため,年代によって変遷し,地域によっても差がみられる1)。体表在性の外傷性異物迷入の頻度は低い。その多くは異物停留による遅発性症状により診断されるため,停留期間も長い。発症機転に関する病歴聴取ができない,異物刺入直後の症状がない場合など診断に苦慮する要因も加わるためと考えられる。今回われわれは1年以上経過した後,鼻屋皮下に埋没した鉄片異物を摘出した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

咽頭胃吻合術1年8か月後に生じた頸部皮膚の1例

著者: 上村隆一郎 ,   吉田昭男 ,   佐藤彰芳 ,   金子剛

ページ範囲:P.270 - P.273

 はじめに
 下咽頭癌術後の再建挙上胃管に手術後長期間を経て瘻孔が発生した症例の報告は少ない1〜6)。今回われわれは,下咽頭癌術後1年8か月を経過して,胃管と前頸部皮膚との間に瘻孔を生じ,手術的に瘻孔を閉鎖し大胸筋皮弁による再建を行った症例を経験したので報告する。

連載 ケーススタディー めまい・難聴

ケーススタディー〔3〕

著者: 水野正浩

ページ範囲:P.274 - P.278

1.症例
 46歳,男性。司法書士
 ①病歴
 主訴:ふらつき,手のふるえ,言葉のもつれ
 現病歴:約2年前から歩行時に左右にふらつく。特に,階段を降りるときには不安定で手すりにつかまるようになった。ズボンや靴をはくために片足立ちになるとよろける。
 半年前から手が震えて物がつかみ難いことがある。書字が以前よりも下手になり,箸が使い難くなった。言葉がもつれて呂律が回らないことがある。

連載エッセイ 【Klein aber Mein】・8

創案減衰回転検査法のねらい

著者: 浅井良三

ページ範囲:P.280 - P.281

 前庭迷路の機能検査は迷路反射を中心として行われる。
 すなわち眼反射,脊髄反射,自律神経反射である。詳しくは眼反射は眼振,眼筋トーヌス脊髄反射は立ち直り反射,直立,片脚直立,重心検査,マン,足踏検査,偏示,偏書自律神経反射は悪心,嘔吐,血圧等がある。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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