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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科67巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

当科における口腔領域良性腫瘍症例の検討

著者: 鈴木正志 ,   黒野祐一 ,   茂木五郎

ページ範囲:P.290 - P.291

 口腔領域における良性腫瘍について,今後の診断と治療の一助とするべく,当科で過去13年間に治療を行った新鮮例15症例を検討した。5歳から79歳までの男性8例,女性7例である。部位別では舌が8例と最も多く,軟口蓋,頬部各2例,硬口蓋口蓋垂,扁桃,口唇各1例であった(1例で多発)。組織学的には,血管腫6例,乳頭腫3例,多型腺腫2例,脂肪腫,神経鞘腫,線維腫,間葉腫が各1例であった。血管腫の5例では暗赤色で軟らかく(図la,b)術前診断が容易であったが,1例では舌深部に存在し弾性硬であり,CT,MRI並びに血管造影にて血管腫と診断された(図1c,d)。乳頭腫は全例特徴的肉眼像,すなわち白色で表面が粗慥でこんぺい糖状の凹凸,あるいは繊毛状であり(図2),診断は容易であった。多型腺腫の2例はいずれも口蓋粘膜下にあり弾性硬,境界明瞭,CTにて内部やや不均一な筋組織とほぼiso-densityな充実性腫瘤(図3)であり,発生部位を考慮して多型腺腫が推測された。脂肪腫は触診上軟らかい腫瘤であったことより診断され,神経鞘腫,線維腫,間葉腫の3例は,十分な画像診断ができなかったため術前には良性腫瘍とのみ診断された。ただ,間葉腫では単純X線検査で骨様陰影がみられ(図4) CTにて脂肪と骨組織の存在が示唆され(図5),良性腫瘍として手術を行い,その病理組織検査にて3つの間葉由来組織,すなわち線維,脂肪,骨を実質とする間葉腫と最終診断された(図6)。
 治療は12例に対して全身麻酔下に,舌乳頭腫と線維腫の2例には局所麻酔下に腫瘍摘出術を行った。血管腫の3例,乳頭腫の2例,多型腺腫の1例にはレーザーを使用し,血管腫の2例では術前に塞栓療法を併用した。舌血管腫1例では局麻下に凍結療法を行った。再発を認めたものは3例あり,頬部血管腫症例では初回手術の3年後に,頬部間葉腫症例では2年後と3年後にそれぞれ再手術を行った。また外来で局麻下に手術を行った舌乳頭腫症例では4か月後に外来での局麻下手術を,7か月後には入院のうえレーザー手術を行った。舌乳頭腫の粘膜表層の血管腫や上皮性腫瘍である乳頭腫はその特徴的性状から診断が比較的容易であるが,深部の血管腫や他の粘膜下腫瘍ではCT,MRI,血管造影などの画像診断が有用であり,今後も特徴的所見の蓄積が必要と思われた。再発を認めた頬部の血管腫と間葉腫症例は,いずれも2歳と5歳の幼児で口腔が狭く,十分な視野が得られにくいことが推測される。残りの舌乳頭腫症例は外来で局麻下に手術を行っており,切除範囲が結果的に不十分であったものと思われ,今後これらの点をより慎重に考慮した手術が必要と思われた。

Current Article

小児難聴とその扱い

著者: 田中美郷

ページ範囲:P.293 - P.302

 はじめに
 乳幼児期から難聴が両側性に存在すると,言語発達はもちろん精神発達や人格形成にも重大な影響を与えることは論を待たない。ただしこれらの問題は二次的に生じるものであるから予防可能である。しかし対策が遅れれば遅れるほど問題解決は困難になり,取り返しのつかない事態を招くことにもなる。
 ところで,難聴はいろいろな原因によって生じうる。これらの中には予防可能なものもあれば治療し得るものもある。一方医学的治療不能なものには治療教育がある。いずれの場合も早期対策が重視されるゆえに,本稿では難聴の早期発見・対策に重点を置いて現状を展望してみたい。

原著

上咽頭癌の治療成績と予後因子—埼玉県立がんセンター18年間の検討

著者: 角田玲子 ,   竹生田勝次 ,   西嶌渡 ,   寺田寿美子 ,   砂倉瑞良 ,   加藤真吾

ページ範囲:P.305 - P.309

 はじめに
 上咽頭癌は初診時すでに進行癌のことが多い。症状は早期の頸部リンパ節転移の他,腫瘍の進展方向により鼻出血や脳神経症状,滲出性中耳炎など多彩で早期診断の難しい悪性腫瘍の1つである。さらに若年者にも発症することがあり,また病期を問わず治療の主体が放射線治療であることなど,他の頭頸部に原発する悪性腫瘍とは対応が異なる。最近では放射線療法に化学療法が併用される傾向がある。放射線治療後に残存した頸部リンパ節転移には郭清術が行われるが,原発については根治手術を施行することは稀である。
 1975年11月の開院から1993年2月の18年間に当センターでは56例の上咽頭原発上皮性悪性腫瘍の一次症例を治療した。本稿では自験例の治療成績を報告するとともに,予後因子についての若干の考察を加えた。

頸部交感神経幹原発の悪性神経鞘腫の1症例

著者: 西山康之 ,   久育男 ,   安野元興 ,   安田範夫 ,   村上泰 ,   四之宮隆

ページ範囲:P.310 - P.313

 はじめに
 悪性神経鞘腫は稀な疾患であり,本邦では頭頸部領域で1926年関口ら1)の報告以来47例が報告されているに過ぎない。発生部位は頸部では迷走神経由来が多く他に頸神経由来も報告されているが,頸部交感神経由来は本邦では自験例が最初である。今回われわれは,ホルネル徴候を初発症状とした頸部交換神経幹原発の悪性神経鞘腫を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

Pasteurella multocidaが検出された上顎洞真菌症の1例

著者: 金田裕治 ,   千葉隆史 ,   村井和夫 ,   草野英昭

ページ範囲:P.314 - P.317

 はじめに
 Pasteurella multocida (以下P.multocidaと記す)はグラム陰性短桿菌で,ネコやイヌ,その他の動物の口腔内常在菌として存在し,獣医学領域では以前より出血性敗血症,家禽コレラなどの際に検出され,また人畜共通の起炎菌として知られてきた。ヒトでは,イヌやネコの咬掻傷による局所感染症が主であったが,最近P.multocidaによる敗血症による死亡例,あるいは髄膜炎,呼吸器感染症など重症感染症の報告がみられる。これらのなかで呼吸器の感染症はそのほとんどが下気道感染症の報告例であり,上気道感染症は稀であるとされている。今回,われわれはP.multocidaを検出した上顎洞真菌症の1例を経験したので報告する。

内視鏡下経鼻的副鼻腔手術による副鼻腔真菌症の治療

著者: 大島猛史 ,   池田勝久 ,   須納瀬弘 ,   下村明 ,   平野浩二 ,   近藤芳史 ,   石垣元章 ,   鈴木秀明 ,   鈴木雅明 ,   稲村直樹 ,   髙坂知節

ページ範囲:P.319 - P.323

 はじめに
 近年,鼻副鼻腔真菌症の報告例は増加の傾向にあり,ステロイド剤の多用や抗生剤の乱用に伴う菌交代現象などがその一因ではないかといわれている。CT,MRIの利用により鼻副鼻腔真菌症の診断は向上しているが,その臨床所見は悪性腫瘍とまぎらわしいためその鑑別が重要である。治療に関しては真菌症を含め副鼻腔炎に対しては病的粘膜を完全除去する根本手術が一般的であったが,光学技術の発達とともに鼻副鼻腔手術に内視鏡が応用され,鼻内経由の内視鏡下の操作で各副鼻腔を単洞化し粘膜を温存し治癒せしめる術式が行われるようになってきている1)。副鼻腔真菌症自験例7例に,内視鏡下で鼻内経由に上顎洞自然口を開大し粘膜保存する手術を施行し良好な結果を得た。これらの症例の背景因子,画像診断,病理組織,手術所見と結果について報告する。

喉頭(声門下)腺様嚢胞癌の1例

著者: 熊埜御堂浩 ,   塩谷彰浩 ,   藤井正人 ,   福田宏之 ,   神崎仁

ページ範囲:P.333 - P.336

 はじめに
 喉頭に発生する悪性腫瘍は,そのほとんどが扁平上皮癌であり腺様嚢胞癌の発生の報告は文献的にも稀とされている。今回われわれが渉猟しえた範囲では,本邦では20例の報告があるに過ぎない。最近われわれは,声門下腔に発症した腺様嚢胞癌の症例を経験したので,その臨床経過を紹介し若干の文献的考察を加えて報告する。

耳介に生じた先天性動静脈奇形の治療経験

著者: 松崎恭一 ,   中村雄幸 ,   田原孝子 ,   柏英雄 ,   大島秀男 ,   惣角卓矢

ページ範囲:P.337 - P.341

 はじめに
 動静脈間の異常な交通を示す疾患である先天性動静脈奇形が,耳介に発生することは稀とされている。そのため,耳介の先天性動静脈奇形を摘出した後の耳介の再建法について記載した報告は少ない。今回,われわれは耳介に生じた先天性動脈奇形を耳介皮膚ならびに耳介軟骨膜を含めて摘出後,露出した耳介軟骨を側頭部皮下に挿入し,これを二期的に挙上することによって良好な結果が得られたので報告する。

嚥下困難を主訴とした下咽頭の異所性扁桃の1例

著者: 河原秀明 ,   井上都子 ,   井上美知子 ,   軽部時子 ,   安部治彦

ページ範囲:P.342 - P.345

 はじめに
 ヒトの本来の扁桃はWaldayerの咽頭輪と呼ばれ,咽頭扁桃,耳管扁桃,口蓋扁桃,舌根扁桃などからなる。これらと異なる部位にある扁桃を異所性扁桃というが,以前よりいくつか報告されている1〜5)。今回われわれも下咽頭に発生した異所性偏桃の症例を経験したので報告する。さらに異所性扁桃について,その定義および発生の経緯につき,若干の文献的な考察を加えて報告する。

外傷性耳小骨離断の術前所見と伝音連鎖再建—アブミ骨骨折症例を中心として

著者: 坂田英明 ,   小寺一興 ,   長井今日子

ページ範囲:P.347 - P.352

 はじめに
 外傷性耳小骨離断の多くは,頭部外傷または耳かきによる損傷でおこる。外傷性耳小骨離断の診療では,まずアブミ骨の異常の有無が大きな関心となる。アブミ骨骨折をともなうときは,キヌタ骨の変位の例に比べて内耳への侵襲が大きいと考えられるからである。しかし,本邦における外傷性耳小骨離断の報告は,キヌタ骨の変位の症例が多い1,2)
 本報告では,アブミ骨骨折7例を含む外傷性耳小骨離断13例の術前所見と手術成績を報告し,アブミ骨骨折を中心に,術前診断と適切な手術法などについて考察する。

唾液腺多形腺腫の10MHz超音波検査—病理所見との比較

著者: 加納有二 ,   角田浩幸 ,   平塚仁志 ,   橋本循一

ページ範囲:P.354 - P.358

 はじめに
 超音波検査は手軽で侵襲もなく検出能力に優れているので,日常診療における診断に頻繁に使用されている検査法である。現在,耳鼻咽喉科領域の診療においては,一般に5MHzや7.5MHzの探触子をもつ超音波断層法が用いられている。
 近年,波長の極めて短い10MHzの探触子が開発され,表在性疾患を直接スキャンできるようになった1,2)。10MHz超音波断層装置では音波の到達深度は3.5〜4cmと制限されるものの,その理論解像力は5MHzや7.5MHz使用時にくらべて向上している2)。ところが,10MHzの高分解能超音波断層法の臨床応用の有効性は,まだ十分には報告されていない。
 今回われわれは,唾液腺の多形腺腫症例にたいする10MHz探触子をもつ超音波断層検査の有用性を,10MHz探触子のダイレクト走査と7.5MHz探触子の水袋法のそれぞれの所見と,摘出標本の病理組織所見とを比較して検討した。

接着スプリント(フィックストン®)による簡単な埋没耳矯正法

著者: 木村正 ,   米村信義

ページ範囲:P.360 - P.363

 はじめに
 埋没耳は欧米ではかなりまれな奇形とされているが,わが国では唇裂と並び頻度の高い耳介奇形である1,2)。治療は埋没状態の恒久的な解除が目標となり,観血療法と非観血療法が行われている。生後早期の耳介軟骨が柔らかく可塑性の時期には非観血療法が有効であり,種々の矯正具による非観血療法が考案され報告されている3,4)。これらは十分な効果を発揮するものであるが,製作にあたり特殊な材料や工具を必要とするものが多く,多忙な外来中に簡単に矯正具を製作し装着指導することは困難である。このため特殊な材料や工具を必要とせずに簡単に装着でき,しかも矯正効果が今までの矯正具と変わらない接着スプリントによる矯正法を考案した。

鏡下咡語

患者の立場になってみて思うこと—ことば遣いの大切さ

著者: 竹山勇

ページ範囲:P.326 - P.328

 「医療は患者のためにある」「患者サイドになってより良き医療を」といわれているが,実際の現場ではまだまだ不十分のように思います。病状の説明にしろ,治療方針にしろ,患者さんにとって快く納得できないことも多いのではないでしょうか。
 一昨年,無理がたたって肺炎に罹患し,約1ケ月間入院加療(呼吸器内科)となり,漸く完治に至りましたが,その時の体験を踏まえ,事務職員をはじめ,ナースや医師達の言葉遣いの大切さ,その言葉遣いが相手に与える印象の善し悪しを考えてみたいと思います。

連載エッセイ 【Klein aber Mein】・9

理論と実際—恩師星野貞次先生の想い出

著者: 浅井良三

ページ範囲:P.330 - P.332

 臨床では理論と実際とが一致しないことがある。大学での講義は理論を教わる。しかし,さて患者を治療する段になるとそのとおりにやれないことがある。Informed consentに努力しても仲々である。しかしその場合理論に忠実でなくてもよつ場合もある。次善の方法でもよいと考えられることもある。結果的に理論通りでなくて却ってよい場合もある。ここに臨床経験の重要性があると考える。
 しかし大学教授は理論を遵守し教育するのが立て前であり,実際については理論通りでないのは臨床講義で例外扱いにせられるのではあるまいか。

連載 ケーススタディー めまい・難聴

ケーススタディー〔4〕

著者: 中島成人

ページ範囲:P.364 - P.371

1.症例
 症例:39歳,主婦
 主訴:回転性めまい
 病歴
 1991年10月風邪様症状あり,生理前日の11月17日朝起床時,体を起こしたとたんに回転性めまいが発来した。吐き気,嘔吐を伴ったが蝸牛症状,頭痛,手足のしびれ,閃輝暗点,意識障害などは伴わなかった。めまいは2日間持続し歩行不能であった。3日目はふらつきが残り右への転倒傾向があった。4日目よりふらつきながらもひとり歩きできるようになり,内科開業医より11月21日当科外来を紹介された。
 33歳時子宮筋腫の手術を受けた以外は特記すべき既応はない。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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