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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科67巻8号

1995年08月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

気管支喘息患者の難治性中耳炎—好酸球性中耳炎—(Eosinophilic Otitis Media)

著者: 松谷幸子 ,   小林俊光 ,   髙坂知節

ページ範囲:P.712 - P.713

 われわれは気管支喘息患者に合併する,非常に難治な中耳炎に注目してきた1,2)。過去の文献にはまとまった報告を認めないが,その難治性はきわめて特徴的である。ここに,これまでわれわれが経験した7例の中から代表的所見を供覧する。中耳炎の臨床像の特徴は,1)両側性,2)中耳疾患の既往はなく20〜40歳代に発症,3)ニカワ状あるいは固体に近く除去しにくい中耳内貯留液,4)換気チューブではコントロール困難,5)進行例では高度の内芽形成を伴う,6)手術を行っても粘膜に再び同様な病態を生じる,などである。初期には難治の滲出性中耳炎の病像であり伝音難聴を呈するが,次第に広範かつ高度の肉芽形成を生じ,7例中5例では経過とともに骨導閾値の悪化をきたし,2例3耳は聾となった。中耳貯留液スメアより好酸球が検出され,中耳手術時採取した肉芽・粘膜などにも多くの好酸球浸潤がみられた。また6例には副鼻腔炎の合併がみられ,鼻腔粘膜・鼻茸に著しい好酸球浸潤がみられた。7例の気管支喘息のうち5例は成人発症で,3例はあきらかなアスピリン喘息である。一般に血清中の総IgEは高くなく,また通常のアレルゲンに対する特異的IgEも多くは陰性である。今回の一連の症例では気道系の好酸球浸潤を特徴とする同様な病態が中耳に生じているものと考えられ,好酸球性中耳炎(Eosinophilic Otitis Media)という名称を提唱したい。喘息はないが鼻アレルギーを合併した同様の報告もなされている3)
 治療は滲出性中耳炎に準じた薬物療法や換気チューブを行うが抵抗性である。ステロイドの全身投与により鼓室の粘膜腫脹が改善し,貯留液が減少し,感音難聴の進行防止効果がみられた症例がある。治療法はなお今後の検討を要するが,内科医と相談のうえ,十分なステロイドの全身投与をするのが現時点では最良の治療と思われる。

Current Article

上顎洞癌T4症例の治療

著者: 宮田守 ,   森田守

ページ範囲:P.715 - P.730

 はじめに
 本邦における上顎洞癌の発生率は1979年頃から減少してきている。図1は全国集計された頭頸部癌死亡者数の推移1)であるが,鼻・副鼻腔癌においては,1978年までは1,000人以上の死亡者が認められているが,1979年以降は徐々に減少し,1991年には766人となっている。われわれの施設においても1981年頃から上顎洞癌の患者は減少しているが,その後はやや増加し,ここ数年は年間10例前後の新患が当科を受診している(図2)。頭頸部癌死亡者数の全国統計から上顎洞癌の発生数を推定すると,現在年間の鼻・副鼻腔癌の死亡者数は700〜800人であり,治癒率を約50%とすると年間に約1,400〜1,600人の上顎洞癌の患者が治療を受けていることになる。このように上顎洞癌の発生率が減少してきたとはいえ,毎年1,400〜1,600人の症例が医療機関を受診しており,おそらくその多くはT3,T4の進行例であると思われる。最近上顎洞癌の治療成績に関しては良好な結果が報告されるようになってきているが,広汎に進展した症例,特に頭蓋底浸潤のあるものについてはいまだに十分な治療成績は得られていないのが現状である。今回,最近の本邦における上顎洞癌の治療の現況を紹介し,さらにわれわれの施設で行っている上顎洞癌の治療法,特にT4症例の治療法および治療成績について検討し報告する。われわれの施設では1974年から手術,放射線,局所化学療法を組み合わせた治療を行ってきているが,各々の治療配量に関して若干の変更を加え,1979年頃より現在当科で行っている治療法となってきている。この治療法の変遷については文献2〜4)に詳しく述べているので参照していただきたい。

手術・手技

ラミナリアによる食道狭窄症の治療経験

著者: 井口芳明 ,   小川克二

ページ範囲:P.732 - P.735

 緒言
 今回われわれは,産婦人科で用いられる子宮頸管拡張器のラミナリアを食道狭窄症の治療に使用し,良好な経過を得たので文献的考察を加え報告する。

原著

顔面に発生した結節性筋膜炎の1症例

著者: 大久保英樹 ,   立原成久 ,   原晃 ,   小野多知夫 ,   草刈潤

ページ範囲:P.736 - P.739

 はじめに
 結節性筋膜炎は1955年Konwalerら1)によって報告された良性疾患で,臨床的には短時間に増大する硬い皮下あるいは筋組織周囲の腫瘤であり,また病理学的には細胞成分が多くかつ分裂も認められるため悪性腫瘍と診断されることも多いようである。
 今回われわれは生検によって同疾患と診断された顔面の腫瘤を経験したので,併せて若干の文献的考察を加えて報告する。

小児の耳下腺腺房細胞腫の1例

著者: 永井浩巳 ,   稲木勝英 ,   八尾和雄 ,   岡本牧人 ,   髙橋廣臣

ページ範囲:P.740 - P.743

 はじめに
 腺房細胞腫は,臨床上再発および転移を認めることより悪性腫瘍に属する。好発部位は耳下腺で,その発生頻度は,全耳下腺腫瘍の2〜5%といわれている。この中で,小児の発生率は非常に低く,本邦の報告では3症例にすぎない1)。今回われわれは小児に発生した耳下腺の腺房細胞腫を経験したので,文献的考察とともに報告する。

左側上顎洞に限局したWegener肉芽腫症の1例

著者: 栗原憲二 ,   大屋由貴子 ,   水関清 ,   竹田一彦

ページ範囲:P.744 - P.746

 はじめに
 Wegener肉芽腫症(以下,WGと略す)は,上下気道の壊死性肉芽腫,全身性血管炎および糸球体腎炎を3徴とする膠原病類似疾患である1〜5)。今回われわれは,左側上顎洞に限局したWGで,診断より2年4か月後の現在でも完全寛解の状態にある1例を経験したので報告する。

小児喉頭異物の2症例

著者: 篠原孝之 ,   有友宏 ,   稲木匠子 ,   岡本和憲

ページ範囲:P.756 - P.759

 はじめに
 喉頭異物は気管・気管支異物にくらべ稀である1)が窒息の危険性があるため早期の診断,治療が必要である。しかし実際には,乳幼児に多いため,病歴聴取が困難である,異物誤嚥後無症状期がある,X線透過性の異物が多いなどの気道異物に共通した特徴から他科で経過を観察され,診断が遅れることが少なくない。また乳幼児が多く,喉頭ファイバースコピーでも喉頭の観察が困難な場合がある。
 最近声門と声門下の喉頭異物2例を経験したので文献的考察を加え,診断上の留意点について検討したので報告する。

放射線脊髄症を合併した上咽頭癌の1例

著者: 榎本浩幸 ,   佃守 ,   河野英浩 ,   小勝敏幸 ,   持松いづみ ,   長谷川修

ページ範囲:P.761 - P.764

 はじめに
 上咽頭癌の治療は,この癌の大部分が放射線に対して高い感受性をもつことから,放射線治療が中心的な役割を果たしている1)。この癌は頸部所属リンパ節への転移が多いため,通常照射野は頭蓋底から全頸部を含む範囲となる2)。そのため頸髄への照射は避けられず,まれに照射終了後に放射線脊髄症を合併する例が報告されている3,4)。われわれは上咽頭癌の治療として2施設で合計約120Gyの外照射を受け,その後9か月目に放射線脊髄症を合併した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻副鼻腔内向型乳頭腫に対する内視鏡下鼻内手術

著者: 池田勝久 ,   大島猛史 ,   鈴木秀明 ,   石垣元章 ,   須納瀬弘 ,   鈴木雅明 ,   下村明 ,   稲村直樹 ,   髙坂知節

ページ範囲:P.765 - P.768

 緒言
 近年,慢性副鼻腔炎の外科的治療法として内視鏡を用いた鼻内経由の副鼻腔炎手術法が確立した。内視鏡の導入により鼻腔および副鼻腔の微細な観察が可能となり,種々の鼻副鼻腔疾患においても応用されるようになった。本術式は副鼻腔嚢胞,副鼻腔真菌症,眼窩減圧術,視神経管開放術,眼窩吹き抜け骨折整復術,涙嚢鼻腔吻合術,鼻性髄液漏閉鎖術などへの応用が報告されている1〜4)。これらの炎症性または外傷性疾患以外にも鼻副鼻腔の腫瘍性病変への適応が議論の対象となってきた。
 鼻副鼻腔の内向型乳頭腫はその腫瘍の生物学的特性により以下の3点の臨床的特徴が知られている5)。つまり,1)高い再発率,2)組織破壊性,3)癌の合併である。これらの特徴から臨床的には悪性腫瘍として解釈した治療法の選択が推奨されており,medial maxillectomyやmidfacial degloving などによる手術術式が選択されている5〜12)。しかしながら,本腫瘍は鼻腔外側壁を中心に発生することが多く,画像診断と内視鏡による的確な病巣範囲の把握に基づいた内視鏡下鼻内経由の副鼻腔手術の適応への検討がなされてきた13〜16)

花粉症はアレルギーマーチの一環か?

著者: 藤田健一郎 ,   山際幹和 ,   木村則昭 ,   中西やよい ,   行岡茂 ,   中西繁夫

ページ範囲:P.771 - P.775

 はじめに
 いわゆるアレルギーマーチは,巨視的には胎児期に始まり,幼小児期の消化器症状,次いで皮膚症状,下気道症状を経て,成長してからの下気道症状の再燃や鼻アレルギーの出現に至るとされている1)
 小児期の下気道過敏症の主な抗原物質は室内の塵埃の中のヒョウヒダニとされている2)。これは,成人の通年性鼻アレルギーの主原因ともなる3)。その一方で,スギ花粉に代表される花粉抗原は季節性のアレルギー症状を主として成人に発症させ3),社会問題ともなっている。
 今回われわれは,いわゆる花粉症が,はたして,一般的の信じられているように4),アレルギーマーチの一環として発症するのか否かの点に特の注目し,鼻アレルギーが疑われた患者を対象として,アレルギー疾患の原因を検索するうえでの重要な検査として幅広く活用されているCAP RAST法5)でコナヒョウヒダニ,スギ花粉,ヒノキ花粉特異的IgE抗体を測定し,その成績の関連性を検討した。
 もし,確かに花粉症がアレルギーマーチの中に含まれてくるのであれば,コナヒョウヒダニ特異的IgE抗体陽性例の中に,スギ花粉やヒノキ花粉特異的IgE抗体陽性例が有意の高率に出現する可能性があるからである。

高齢者めまい症例の統計的観察

著者: 関聡 ,   五十嵐秀一 ,   佐々木祐幸 ,   長場章 ,   中野雄一

ページ範囲:P.777 - P.780

 はじめに
 最近の高齢化社会に伴い,高齢者のめまい症例も数多く経験するようになった。われわれは新潟大学耳鼻咽喉科において平衡機能検査を施行した65歳以上の高齢者のめまい症例について,65歳未満との疾患比較および年次別変遷を検討した。

老人ホーム入居者の聴力について

著者: 中島務 ,   小塚誠 ,   杉本真人 ,   柳田則之

ページ範囲:P.781 - P.785

 はじめに
 高齢化社会を迎え,老人人口が増え続ける今日においては,老化現象についての科学的な究明や高齢者のquality of lifeの向上は現代医学における重要な課題である1)。このうち,耳鼻咽喉科領域においては,老人性難聴への取り組みが,極めて重要な事項である。しかしながら,現在日本において,高齢者がどれくらいの年齢からどの程度難聴の症状を訴えているかについての報告は意外と少ない。そこでわれわれは,老人ホーム入居者を対象に難聴の現状につき調査検討した。

鏡下咡語

東南アジアの難聴児救済

著者: 竹腰昌明

ページ範囲:P.748 - P.749

 1.事業の背景
 東南アジアでは,耳鼻咽喉科医師の不足と衛生状態の悪さから,熱帯のため急性中耳炎から慢性化膿性中耳炎へと進展し,真珠腫や脳膜炎を起こして死亡する子供達が少なくない。因に,日本では人口1万4千人に一人耳鼻咽喉科医が存在するが,フィリピンでは21万人に一人,タイでは37万人に一人,インドネシアでは56万人に一人,ネパールでは86万人に一人,ビルマでは190万人に一人の割合となっている。日本のように保険医療制度もなく,経済事情から中耳炎に罹患している子供達は放置されることになる。
 タイでは,10年来スートーン教授を主体とする耳鼻咽喉科医のボランティアにより,改造したワゴン車で僻地を廻り,無料検診・治療が実施され,1日に数十入の子供達が手術されたとの報告がある。このボランティア活動には日本の耳鼻咽喉科医も参加している。

連載エッセイ 【Klein aber Mein】・13

後迷路性難聴を見つけたい/耳鳴について考えること

著者: 浅井良三

ページ範囲:P.750 - P.752

 私はいつのまにか頭頸部外科にかたよって耳鼻科の片輪者になってしまいました。
 耳鼻科にはまだまだ難問が控えています。

連載 ケーススタディー めまい・難聴

ケーススタディー〔8〕

著者: 川城信子

ページ範囲:P.788 - P.791

1.症例の呈示
 症例 8歳9か月,女子,小学3年生
 1)病歴
 主訴:聴力障害
 現病歴:平成5年4月学校の聴力検査のスクリーニングにて難聴の疑いを持たれた。1年生の時の聴力検査では難聴を指摘されなかった。発語の遅れはなく,家族は難聴に気づいていない。時々,耳鳴があり,先生の声が聞きづらいといった訴えがある。近医にて聴力検査の結果,両側感音性難聴を指摘され紹介され来院した。
 また,学校の視力検査で視力不良を指摘された。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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