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Epstein-Barrウイルス転写調節因子BZLF1タンパクに関する研究
著者: 吉崎智一1 古川仭1 竹下元1 山崎芳文1
所属機関: 1金沢大学医学部耳鼻咽喉科学教室
ページ範囲:P.803 - P.816
文献購入ページに移動Epstein-Barrウイルス(EBV)は,1964年にEpstein1)らによって発見されたヘルペスウイルスであり,self-limitedな疾患である伝染性単核症の病原体として知られる一方,ヒトの癌であるバーキットリンパ腫1),上咽頭癌2)との病因的関連が強く示唆されているほか,ホジキン病3),鼻腔Tリンパ腫4),膿胸後リンパ腫5)および胃癌6)からもEBV DNAやその遺伝子産物の検出が報告され,それら疾患とEBV感染様式との関係が注目されている。EBVは,他のヘルペス群ウイルスと同じように潜伏感染様式をとり,多くの場合無症候性であるが,AIDSや臓器移植の際などの免疫能低下に伴うEBV感染では再活性化によってもたらされる症状が問題となる7)。EBVの活性化は個体レベルと細胞レベルの両面から考えなければならない。個体レベルでは個々の細胞で活性化したウイルスが中和抗体,細胞障害性Tリンパ球などの免疫機構を逃れてあるレベルを超えて増殖した場合に問題となる。一方細胞レベルでは,潜伏感染状態ではウイルス粒子の産生は起こらず,ウイルスの潜伏感染持続に必要な一部のウイルス遺伝子のみが発現している。したがって潜伏感染状態からウイルスの複製サイクルを誘導するには何らかの刺激が必要となる。よく知られたことではあるがBリンパ球は試験管内でEBV感染を受けると容易に不死化し潜伏感染するが,この不死化したBリンパ球を活性化する方法としては,12-0-tetradecanoyl-phorbol-13-acetate(TPA),酪酸,イオノフォアなどで処理したり,当教室で樹立された上咽頭癌モデル細胞NPC-KTが産生するEBVを重感染することによりEBV複製サイクルを誘導することができる8)。EBV複製サイクルが誘導されると経時的に前早期タンパク,後早期タンパク,後期タンパクが産生される。前早期タンパクとしてはEBVのBZLF1,BRLF1およびBMRF1遺伝子からの遺伝子産物が確認されているが,遺伝子導入によりEBV潜伏感染細胞にその遺伝子を発現させた場合に単独でEBV複製サイクルを誘導可能なのはBZLF1遺伝子のみである。このことからBZLF1遺伝子発現がEBV複製サイクルの引き金となっていると考えられている9,10)。
ところでこのBZLF1遺伝子にコードされるZタンパクは245アミノ酸からなり,細胞転写調節因子として広く知られているAP-1ファミリーとアミノ酸配列に相同性をもつが,とりわけ細胞性転写調節遺伝子c-fos遺伝子の産物であるFosタンパクとの相同性が高い11)。このFosタンパクは380アミノ酸からなり,他のAP-1ファミリーの細胞転写調節因子であるJunタンパクとロイシンジッパーと呼ばれる構造を介して異種二量体を形成し,TPA応答配列(DNA上でTPA誘導シグナルが結合する領域)に結合することにより転写調節を行う12,13)。ところがZタンパクはZ応答配列(DNA上でZタンパクが結合する領域)のみならずこのTPA応答配列にも結合する14)。
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