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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科68巻11号

1996年10月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科・頭頸部外科手術マニュアル—私の方法 耳手術

1.先天性耳瘻孔の手術

著者: 佃守

ページ範囲:P.6 - P.8

 疫学
 発生は耳介原基の6個の耳介結節の融合不全と考えられている。先天性耳痩孔の開口部は耳輪前部に最も多く(90%前後),次に耳輪脚部に多い(図1,2,3)。発症頻度は1%前後と考えられているが,本邦ではより高率との報告もある。性差は女性にやや多いが,美容上女性のほうが来院する機会が多いことが指摘されている。また症例のうち片側のみの例が約75%と考えられている。合併疾患としては耳介形態異常,副耳,外耳道閉鎖症などがある。また鑑別するものに,稀ではあるが外耳道皮膚奇形の一種である第一鰓溝性瘻孔がある。

2.鼓膜切開術,鼓膜チューブ留置術

著者: 高山幹子

ページ範囲:P.9 - P.13

 はじめに
 鼓膜切開術は鼓室内の貯留液の排除を目的として行われる。したがって排液に十分な大きさがあり排液されやすい部位,さらに切開による合併症あるいは耳小骨や内耳窓に侵襲のない部位を選ぶ必要がある。また鼓膜チューブ留置術はチューブからの排液も含め,チューブの小孔より換気を行うことを主な目的として行われる。
 鼓膜切開はその歴史は古く,一般にはCooper(1801)により初めて行われたとされているが,1694年にRiolanusが聾唖者の耳かきによる外傷性鼓膜穿孔に適用し聴覚が改善されたことに端を発するともされている1,2)
 鼓膜チューブ留置術に関しては,同じ論文2)のなかで,1863年にPhilipeauxが鼓膜切開口に小ゴムブジーを反復挿入して5か月間開在させることができたと記されている。鼓膜チューブには1954年Armstrongにより作られたvinyl tubeが用いられた。その後,現在に至るまで種々のタイプのチューブが考案されている。

3.鼓膜形成術(day surgery)

著者: 暁清文

ページ範囲:P.14 - P.17

 はじめに
 従来の鼓膜形成術は移植片を鼓膜皮膚層と固有層の問に挟み込むため,手術侵襲がかなり大きく10日間程度の入院を必要とした。これに対し湯浅らが考案した接着法は,経外耳道的に移植片を鼓膜穿孔の内側に挿入し,フィブリン糊で穿孔縁に接着するだけなので手術侵襲がきわめて小さく,day surgery (以下,「日帰り手術」)が可能である。本法には入院を要さないこと以外に,手術直後より聴力が改善する,自然な位置に鼓膜が保てる,合併症の可能性が小さい,などの長所がある。しかし再穿孔の頻度は従来法に比べて若干高い。

4.鼓室形成術(非真珠腫性中耳炎)

著者: 村田清高

ページ範囲:P.18 - P.25

 はじめに
 非真珠腫性中耳炎には化膿性中耳炎,鼓膜穿孔,中耳癒着症,鼓室硬化症,中耳根本術術後耳,特殊性炎症(結核,梅毒,真菌)などがある。ここでは一般細菌による慢性化膿性中耳炎に対する鼓室形成術を中心に述べる。他の病変に対する手術はその応用と考え対処すればよい。中耳炎はドレナージ,換気,伝音機構などに障害があるので,それぞれの改善が手術の目的である。

5.鼓室形成術(真珠腫性中耳炎) 1)open法

著者: 中野雄一

ページ範囲:P.27 - P.31

 はじめに
 もともと鼓室形成術は,保存的根本手術がさらに発展し誕生したものと考えると理解しやすい。すなわち,保存的根本手術が,中耳根本手術に準じ,外耳道後壁の除去を伴う乳様突起(乳突)削開を行った後,耳小骨や鼓膜をそのままにして,根本手術後にみられた聴力の低下を防こうとしたのに対し,鼓室形成術はさらにこれを一歩進め,鼓室内に病変があればこれを処理したうえで最初は残存耳小骨を利用,あとには連鎖の再建を行って,その上に新鼓膜を形成し積極的に聴力の改善をはかろうとしたものである。
 したがって,この型の鼓室形成術では,削開した乳突腔が外耳道に広く開放されるため,この後に開発された外耳道後壁を保存する鼓室形成術と区別してopen法あるいはcanal (wall) down法と呼ばれるようになった。

5.鼓室形成術(真珠腫性中耳炎) 2)closed法

著者: 森満保

ページ範囲:P.33 - P.39

 はじめに
 真珠腫性中耳炎の手術が中耳根治術,保存的根治術,そして鼓室形成術へと進歩するにつれて,開放乳突腔に起因する耳漏や2次真珠腫的痂皮蓄積が問題となり,乳突腔を外耳道へ開放しない手術法へと進歩した。すなわちposterior tympa-notomy(Jansen,1976)やintact canal wall tympanoplasty(SheefyとPatterson,1976)に始まる多くの手術法である。これらは削開乳突腔が外耳道に開放される旧来のopen法に対しclosed法と通称されるようになった。Closed法は単純性慢性中耳炎に対しては既に成功し,今日では乳突削開そのものが全く不要となった。しかし真珠腫では40%もの再発がみられ,現在はopen法への回帰を主張する立場と,closed法の改良で再発を防こうとする相反した立場が見られる。

6.アブミ骨手術

著者: 坂井真

ページ範囲:P.41 - P.46

 はじめに
 現代のアブミ骨手術は,1958年にSheaが耳硬化症の手術法として,はじめて顕微鏡下にアブミ骨底板を脚とともに除去し,開窓した前庭窓を結合織でおおい,ポリエチレン管でキヌタ骨と結合織とを連結する術式(stapedectomy)を発表したことに始まる。それ以来Sheaの原法には,多くの変法が加えられ,またアブミ骨代用物の開発も盛んになったが,現在でもアブミ骨手術の原理はSheaの手術と同じである。また,Sheaは1962年にアブミ骨底を除去せずに,底板に小孔を開けてテフロンピストンを挿入し,キヌタ骨との問に連鎖を再建するstapedotomyを発表した。
 代用アブミ骨として,かってゼルフォーム・ワイヤーが使用されたが,最近では外リンパ瘻の合併症が多いので使用されなくなった。現在ではステンレススチールピストン,テフロンピストン,テフロンワイヤーピストンなどピストン型のものが市販されている。

鼻手術

1.鼻中隔矯正術,下甲介切除術

著者: 海野徳二 ,   野中聡

ページ範囲:P.47 - P.51

 はじめに
 鼻中隔や鼻甲介の変形は鼻腔の通気性を妨げるばかりでなく,粘液の正常な流れを乱す。それらは鼻腔や副鼻腔の炎症の慢性化や鼻性神経症とも関連する。鼻中隔矯正術は,粘膜は保存したまま,曲がっている軟骨や骨を除去することにより屈曲部を矯正する手術をいう。粘膜下窓形切除術を出発点として発展した。下甲介切除術は,粘膜肥厚部を下甲介剪刀で切除することから出発し,粘膜下に甲介骨を切除する方法,粘膜を広汎に切除する方法,電気凝固やレーザーを用いる方法などを総称するが,広義には薬品による凝固法も含む。

2.内視鏡的鼻・副鼻腔手術 1)慢性副鼻腔炎の手術

著者: 池田勝久

ページ範囲:P.53 - P.58

 はじめに
 1980年代に入って慢性副鼻腔炎の鼻内経由の手術法に内視鏡が積極的に導入され,内視鏡的副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery)として確立された。従来の肉眼視による鼻内手術に比較して,手術の正確度,安全性に向上が認められ,現在標準的手術として普及しつつある。さらに,光学機器の発達によってモニターTVや録画装置を利用した手術技術の標準化と普及が容易となり,教育,研究へも応用可能となった。内視鏡的副鼻腔手術の標準化には,適切な手術手技による治癒率の向上とともに,副損傷を回避することが必須である。

2.内視鏡的鼻・副鼻腔手術 2)術後性上顎嚢胞の手術

著者: 沖中芳彦

ページ範囲:P.59 - P.63

 はじめに
 術後性上顎嚢胞の手術は,従来歯齦部切開により嚢胞に至り,下鼻道または中鼻道に対孔を造設する手術が主に行われてきた。嚢胞壁を摘出するかどうかについては意見が分かれるが,手術の主な目的は,嚢胞を鼻腔に開放し,鼻腔との交通をつけることにより達成される。近年は硬性内視鏡などの光学機器の発達により,経鼻腔的に嚢胞を開放することが容易となってきた。

2.内視鏡的鼻・副鼻腔手術 3)視束管開放術

著者: 森山寛

ページ範囲:P.64 - P.67

 はじめに
 外傷性視神経障害の程度の軽いものはステロイドなどの薬物治療でもよいが,高度の視力障害例や視力障害が進行する例では,迷うことなくなるべく早期に視神経の減圧手術を施行すべきである。
 鼻内法は視野が狭く手技が難しいと考えられがちであるが,内視鏡の利用により,広い術野で明視下に操作することができ,視神経鞘の状態も的確に把握でき,安全かつ確実に骨壁の開放を行うことが可能になった。内視鏡下の鼻内法は非侵襲性であり,また視神経管の確認のしやすさ,明るく広い術野が得られるなど,他のアプローチと比較すると非常に優れている。

口腔・咽頭手術

1.ガマ腫の手術

著者: 小田恂

ページ範囲:P.69 - P.71

 はじめに
 口腔底に生じる嚢胞性疾患は,ガマ腫のほかに顎下腺嚢胞,類皮嚢胞,経表皮嚢胞,甲状腺舌管嚢胞などがあり,これらのなかでガマ腫は最も頻度が高い疾患である。ガマ腫(ラヌーラ,Ranula)という用語は嚢胞が大きくなったときにみられる口腔底部の腫脹がガマガエルの喉頭嚢に似ているところから用いられるようになった。
 本疾患の本体は舌下腺の貯留嚢胞であるが,顎下腺関連の貯留嚢胞も少なくない。発生部位は口腔底前部で,左右いずれかに偏って生ずることが多い。発生原因については諸説があるが,舌下腺やその排泄管の炎症による排泄管の閉塞や狭窄が主因と考えられている。

2.唾石の手術(口内法)

著者: 横井久 ,   丹羽英人

ページ範囲:P.73 - P.77

 はじめに
 唾石は耳下腺に発生することもあるが,顎下腺管(Wharton管,以下ワルトン管)が長く,一部に狭窄部位があり,顎下腺の唾液が粘稠であることなどより,顎下腺に圧倒的に多く(90%以上)発生するので,本稿では顎下腺管の口腔内手術について述べる。唾石主成分は燐酸カルシウムで,粟粒大から成人拇指頭大まで大きさは種々である。その発生部位により,1)管内唾石,2)移行部唾石,3)腺内唾石に分類されるが,口腔内からの手術適応となるのは,管内唾石・移行部唾石である。

3.扁桃摘出術,アデノイド切除術

著者: 横山道明 ,   山中昇

ページ範囲:P.79 - P.83

 はじめに
 MacBethの1950年における調査によると,初めて扁桃摘出術(扁摘)が行われたのは1757年であった。しかし,当時の主流は扁摘ではなくて扁桃切除術であり,Physickは扁桃切除器を用いた切除術を試みている。その後,次第に現在の扁桃核出術である摘出術が確立され,安定した臨床結果が得られるようになった。抗生物質が発達した現代でも,習慣性扁桃炎など扁摘の適応疾患は多く,耳鼻咽喉科医にとって扁摘は日常臨床のなかで重要な位置を占めている。

4.いびき,睡眠時無呼吸症の手術—UPPP,LMGについて

著者: 西村忠郎

ページ範囲:P.84 - P.87

 はじめに
 いびき症や,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)に対して最も一般的な手術はUPPP(Uvulo-Palato-pharyngoplasty):口蓋垂・軟口蓋・咽頭形成術)であり,まずこの方法について述べる。この方法には種々の変法1〜3)があるが,筆者らの教室で実施している方法を中心に紹介する。
 次に,LMG (laser midline glossectomy,レーザーによる舌根正中部切除術)について解説する。この方法はFujita4)により,アメリカ合衆国で最初に行われたものであり,舌根部に睡眠時,気道狭窄・閉塞をきたす場合に行われる方法である。一方,UPPPは軟口蓋や口蓋垂に起因する気道狭窄・閉塞の改善をはかる手術方法である。
 したがって,いびき症やOSASの原因部位診断の結果を参考にして,咽頭に原因があるときはUPPP単独,LMG単独,両者複合の3種類の手術のいずれかを選択することになる。

5.咽頭弁形成術

著者: 新美成二

ページ範囲:P.88 - P.92

 はじめに
 鼻咽腔閉鎖不全は,音声言語医学的に開鼻声や異常構音の習慣の原因になるほか,嚥下や哺乳に問題を生じたり,耳疾患や鼻疾患の原因となる。したがって,われわれ耳鼻咽喉科医はその対処に迫られることがある。鼻咽腔閉鎖不全の原因の多くは先天奇形である口蓋裂であるが,ほかに神経筋疾患に伴う軟口蓋麻痺や頭蓋底手術の後遺症としての混合性喉頭麻痺によることもある。特に混合性喉頭麻痺の場合は声門閉鎖不全や輪状咽頭筋機能不全を伴うことが多いので,誤嚥が主訴となることが多い。
 先天性の口蓋裂は生下時に気がつかれ,処置されていることが多い。われわれ耳鼻咽喉科医が遭遇することが多いのは開鼻声や,異常構音などの言語障害,嚥下障害などの機能障害が前面に出ている症例である。したがって口蓋裂の場合は再手術例が多く,そのような症例には咽頭弁形成術を施行することが多い。また種々の原因による麻痺は,通常は軟口蓋短縮などの形態的な異常がないから口蓋の延長は必要なく,咽頭弁形成術を行うことによって機能回復が得られることが多い。

唾液腺摘出術

1.顎下腺摘出術(腫瘍,唾石)

著者: 嶋田文之

ページ範囲:P.93 - P.97

適応
A)唾石症(口内法で摘出不能な場合)B)顎下腺良性腫瘍

2.耳下腺摘出術(浅葉・深葉)

著者: 戸川清 ,   石川和夫

ページ範囲:P.99 - P.104

 はじめに
 耳下腺摘出術は耳下腺腫瘍その他の病変の完全摘出と顔面神経機能保持,さらに顔面神経を犠牲にした場合の機能再建を目的として行われる。実際には患者個々の病巣の性質,部位,進展状況に応じて腺の一部切除ですむ場合から,腺周囲臓器を合併切除する腺拡大全摘出と顔面神経移植,欠損部再建を要する場合まで様々であるが,本稿は最も基本的な浅葉摘出術と深葉摘出術の手技を述べる。

3.耳下腺部分切除術

著者: 山下敏夫

ページ範囲:P.105 - P.109

 耳下腺良性腫瘍に対する手術術式の種類
 耳下腺良性腫瘍手術の基本的留意事項としては1)再発防止,2)顔面神経保存,3) Frey症候群の発生防止,4)唾液瘻の発生防止,5)唾液腺機能保存などが考えられ,これらの事項を全て満足させることが理想といえる1,2)。古くは核出術が顔面神経を保存し腫瘍を摘出する方法として多用されたが,その再発率は20〜45%と高いとする報告3)もあり,最近ではその適用は否定的である。その後,再発率が低い方法として浅葉切除術が頻用されるようになった。この方法は文字通り,顔面神経を保護しつつ,腫瘍を含めて浅葉全体を切除する方法であるが,Frey症候群の発生頻度が高く,また術後の唾液腺機能保存にも不利である。そこでこれらの欠点を補うために考えられた方法が部分切除術である。

喉頭の手術

1.ラリンゴマイクロサージェリー

著者: 福田宏之

ページ範囲:P.110 - P.114

 はじめに
 声帯は非常に小さな臓器である。発声に重要な膜様部はたかだか1cmの長さであり,幅も5mmを超えない。したがって,そこに極めて小さな新生物が生じても発声機能には重要な影響を与える。ピアノの長い弦の上に林檎1つ載っても音が変わるのと似ている。
 また声帯は動く臓器である。しかも発声時には男性の日常会話領域では毎秒100回程度,女性では250回程度の振動を行っている。ソプラノなどになると1,000回を超える。そして声帯の振動の本質は声帯粘膜の波動であることが明らかにされている。声帯に良好な粘膜波動が生じるためには声帯粘膜に適度な柔らかさが必要である。したがって,声帯粘膜に瘢痕を生じさせ粘膜を硬くするような行為は極めて有害である。
 以上の観点から,声帯の手術には微細な手技が要求され,顕微鏡下手術が行われるようになったものである。

2.喉頭部分切除術 1)喉頭垂直部分切除術

著者: 鈴木晴彦

ページ範囲:P.115 - P.119

 はじめに
 喉頭は発生学的に,supraglottic (左右),glottic(左右),subglotticの5つの区画から成立する。これらは局所リンパ流の観点からみても大体独立している。したがって,喉頭部分切除術は腫瘍の進展範囲に応じ,その1つないしは複数の区画を切除し,喉頭のもつ3機能(呼吸,発声,嚥下)を保存させ得るものであり,合理的な手術法といえる。
 1834年Brauerが初めて試み,1956年Leroux-Robertが集大成し,その後も諸家による様々な方法が多数報告されている。

2.喉頭部分切除術 2)声門上喉頭水平切除術

著者: 金子敏郎

ページ範囲:P.121 - P.125

 はじめに
 声門上喉頭水平切除術は喉頭蓋に生じた限局性腫瘍に対する術式で,Alonso1)(1950)により報告され,Leroux-Robert2)(1956)により喉頭部分切除術の1つとして体系化されたものである。本邦には北村3)(1964)によって導入紹介された。

3.喉頭全摘出術

著者: 佐藤武男

ページ範囲:P.127 - P.132

 はじめに
 喉頭全摘出術は喉頭癌に対して1873年Bill-roth (Wien)によって初めて行われた。術式の開発途上には多くの試行錯誤が繰り返され,とくに術後合併症(感染瘻孔,そして肺炎など)のために50%以上の手術死亡がみられた。1920年代になってGluck-Soerensen,Rethi,Croweらによって術式が確立し,喉頭癌はよく治る癌となった。
 日本では1950年代に入ってペニシリンなどの普及によって喉頭全摘出術が積極的に行われるようになった。しばらく全摘万能の時代が続いたが,早期癌,中期癌にはアンチテーゼとして音声言語保存が可能な放射線治療,喉頭部分切除術が行われるようになったので,現在では進行癌にのみ全摘出術が適応され,安定した術式として評価されている。

頸部の手術

1.甲状腺腫瘍摘出術

著者: 窪田哲昭

ページ範囲:P.133 - P.137

 はじめに
 甲状腺は外側の総頸動脈,後方の深頸筋膜,内後方の食道と気管などの間に疎性結合織に囲まれて位置するため,その摘出は結合織中で鈍的に剥離することによって容易である。手術法としては葉切除,亜全摘,全摘が行われているが,手術の要点は上・中・下の3方向より甲状腺へ侵入する血管の処理と甲状腺の背後を上行する反回神経の保護とにあり,さらにできうるなら上皮小体を1個でも保存することにある。
 ここでは甲状腺手術の基本である葉切除術を中心に述べる。

2.頸部嚢胞摘出術 1)正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)摘出術

著者: 髙橋廣臣

ページ範囲:P.139 - P.141

 はじめに
 正中頸嚢胞は甲状舌管の遺残組織から発生するので甲状舌管嚢胞とも呼ばれている。発生部位は,多少左右に偏在する(左寄りがやや多い)ことがあるが,ほぼ正中頸部といってよい。高さでは舌盲孔から甲状腺に至る全ての部位に発生し得るが,舌骨と甲状軟骨の間が最も多い。大部分は膨大した嚢胞部分と柄の部位からなり,柄の部分はときに管腔を有し,舌骨の中央部であるいは舌骨を貫通し,あるいは舌骨の前または後ろに癒着し,さらに舌盲孔に向かう。舌骨より上部の柄の部分は索状になり管腔をもたないこともあるが,樹枝状に分岐した内腔をもつことがあり,この管は舌盲孔に開口していることがある。嚢胞部,管腔部の内腔を覆う上皮は,脱落していることもあるが,円柱または立方上皮(線毛を有することがある)か扁平上皮で,嚢胞内には黄色透明または半透明の比較的さらさらした液体または白濁した(沈渣を混ずる)液を入れる。黄白色ペースト状を呈することもある。ときには内腔壁にコレステリン肉芽腫の形成をみることがあり,内容液中にコレステリンの板状結晶が認められる。嚢胞壁またはその周辺にしばしば甲状腺組織を認める。

2.頸部嚢胞摘出術 2)側頸嚢胞(鰓性嚢胞)摘出術

著者: 高橋廣臣

ページ範囲:P.142 - P.144

 はじめに
 鰓性嚢胞は,いずれの鰓裂からも発生するが,日常臨床上最も頻度が高いものは第2鰓裂より発生するいわゆる側頸嚢胞である。
 第2鰓裂性嚢胞の発生部位は,側頸部の内外頸動脈分岐部の高さか,やや下方である。腫瘤は,楕円球形で軟らかく(波動を触れることもある),表面は平滑で,前半分は胸鎖乳突筋より前方の広頸筋直下にあって触れやすく,後ろ半分は胸鎖乳突筋の裏側(深部)にあり触れにくいという特徴をもつタイプが最も多い(Bailey1)II型)。Baileyはこの腫瘤をI〜IV型に分類し,I型は皮膚直下にあるもの,II型は深頸部の頸動脈分岐部より浅い部分にあるもの,III型は内外頸動脈分岐部に騎乗するようにあるもの,IV型は咽頭(扁桃窩)粘膜下にあるものとした。

3.頸部郭清術(classical neck dissection)

著者: 鎌田信悦

ページ範囲:P.145 - P.151

 はじめに
 頸部郭清術は頸部リンパ節転移に対する最も確実な術式である。定型的な術式では,内頸静脈周囲の深頸リンパ節のみならず,オトガイ下部から後頸部まで頸部リンパ節のほぼ全領域を郭清(図1)する。近年,原発巣と転移部位の頻度が集計され,症例によっては,必ずしも全頸部を郭清する必要がないことが明らかとなった。たとえば喉頭癌では顎下部,オトガイ下部には転移することはきわめて少なく,郭清することはなく,また症例によっては後頸部あるいは下深頸リンパ節の郭清を省略できる。
 それゆえQOLを考慮する最近の手術傾向では,胸鎖乳突筋と内頸静脈は保存する術式(modified neck dissection)が増加してきており,本稿で述べる頸部郭清術の適応はやや少なくなりつつある。とはいえ頸部郭清術(classicalまたはradical neck dissection)はリンパ節転移の基本的な術式に変わりはなく,modified neckdissectionを正しく行うためには本術式を熟知していることが必要である。

4.私の行っている頸部郭清術

著者: 齋藤等

ページ範囲:P.153 - P.157

 はじめに
 1991年に米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会で承認された分類(表1)をみてもわかるように,頸部郭清術といってもいろいろある。Nプラスの時は原則として,根治的頸部郭清術を行い,Nマイナスの時にはその変法を行っている。Nプラスの時でも,転移リンパ節が内頸静脈から剥離できれば,内頸静脈を保存し,副神経も保存している。したがって,筆者が比較的多く用いている頸部郭清術は,内頸静脈と副神経を保存する根治的頸部郭清術変法(modified radical neck dissection)であるので,これらを中心に述べてみたい。

5.気管切開術

著者: 小宮山荘太郎

ページ範囲:P.159 - P.163

 はじめに
 気管切開術と気管開窓術を次のように定義する。
 気管切開術:頸部気管の直上を切開して,気管皮膚瘻を手術的に作成する。短期間であれば,カニューレを抜去するだけで気管切開孔は自然に閉鎖する。
 気管開窓術:気管切開を行う際,頸部の皮膚と気管を縫合して,永久気管皮膚瘻を作成する術式をいう。これは長期に呼吸管理を要する症例に適している。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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