原著
感音難聴およびめまいを呈したWegener肉芽腫症の1症例
著者:
後藤田裕之
,
土田伸子
,
大渡隆一郎
,
西浦洋一
,
間口四郎
,
滝沢昌彦
,
福田諭
,
宮武由甲子
,
犬山征夫
ページ範囲:P.201 - P.206
はじめに
Wegener肉芽腫症は,上気道,下気道の壊死性肉芽腫性病変,全身性の壊死性血管炎,巣状壊死性糸球体腎炎を3主徴とする疾患であるが,全身のあらゆる臓器を冒し,以前は非常に予後不良な疾患であった。しかし,1983年にFauciら1)が免疫抑制療法を報告して以来予後が改善され,早期発見,早期治療の重要性が高まった。耳鼻咽喉科領域においても鼻腔などの上気道はもちろん,耳症状を呈するものが数多く報告されているが,今回われわれは,経過観察中に,突然,一側性感音難聴およびめまいをきたした症例を経験した。診断に際しては苦慮したが,1985年にVan derWoudeが報告した,抗ヒト好中球細胞質抗体Anti-neutrophil cytoplasmic antibody (ANCA)測定を行い,32倍陽性であったため,Wegener肉芽腫症と診断し,免疫抑制療法を施行した。以後,感音難聴,めまいの耳症状をはじめ,呼吸器症状,腎機能などの全身症状が改善された。また,定期的なANCAの測定によって,臨床経過とANCA値との相関性についても確認できた。本症例によって,病理組織学的検査などでの確定診断が困難なWegener肉芽腫症の早期診断にANCA測定が有用なことも再確認したので,症例を呈示するとともに,文献的考察を含めて報告する。