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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科69巻10号

1997年09月発行

雑誌目次

トピックス 鼻アレルギーの診断と治療—最近の知見

I.鼻アレルギーの診断法

著者: 荻野敏

ページ範囲:P.667 - P.672

 はじめに
 鼻アレルギーは,発作性反復性のくしゃみ,水様性鼻汁,鼻閉を呈し,その発症にI型アレルギー反応が関与しているものを言う。そのうち,花粉がアレルゲンのものを特に花粉症と表現する。また,発作の季節性から通年性と花粉症などの季節性の鼻アレルギーに分類されることもある。
 鼻アレルギーの診断法としては,表1のような項目が行われる。目的とすることは大きく2つに分けられ,1つは疾患の鑑別診断であり,もう1つは抗原(アレルゲン)の同定である。つまりくしゃみ,鼻汁,鼻閉あるいはその一部の症状を訴えた患者が鼻アレルギーであるか否か,どのような疾患であるかを鑑別するのが最初の目的であり,鼻アレルギーとしたならば原因抗原は何かを診断することが抗原の同定と言える。
 疾患の鑑別診断として表1の1,2,3,4,5などが行われ,抗原の同定として1,6,7,8などがその目的として行われている。

II.鼻アレルギーの薬物療法

著者: 寺田修久 ,   浜野ナナ子 ,   山越隆行 ,   法貴元 ,   長谷川真也 ,   鈴木一雅 ,   藤田洋祐 ,   今野昭義

ページ範囲:P.673 - P.679

 はじめに
 本稿では鼻アレルギー治療における薬物療法の実際について述べる。特に処方上の注意点,妊婦・授乳中患者への対応に紙面を多く割いた。

III.鼻アレルギーに対する免疫療法

著者: 大久保公裕

ページ範囲:P.681 - P.687

 はじめに
 鼻アレルギーでは抗原により感作が成立し(induction phase),そのため産生された抗原特異的IgEと鼻粘膜に侵入した抗原との局所免疫反応が生じる(effector phase)。その結果,effector cellであるところのマスト細胞や好酸球からヒスタミン,ロイコトリエン,トロンボキサンなどのメディエーターが放出され,これにより受容体から直接あるいは神経系を介して症状発現組織である粘膜下腺組織,血管系を刺激し症状を発現している1)。鼻アレルギーの治療はこのアレルギー反応の流れのどの点を抑えるかということである。現在,日本では多くの抗アレルギー剤が開発,発売され内科,耳鼻科,眼科を問わずに,鼻アレルギー(花粉症)の治療に使用されている。この抗アレルギー薬の効果はトシル酸スプラタストを除き,細胞から放出されるメディエーターをその中心におき,effector cellと症状発現組織にその作用を生じさせている。薬剤の副作用はあるが一般的に適性使用においては安全と言え,このため一般医家に多く使用されている2)
 この章で解説する免疫療法は,成立した抗原による感作をいかに減少させるかという点で減感作療法とも呼ばれている。この免疫療法(減感作療法)は抗アレルギー薬の効果発現のポイントと異なり,アレルギー反応のinduction phaseとef-fector phaseの中間にそのポイントがあると考えられる。われわれはこの免疫療法がアレルギー疾患に対する根本的な治療法であり,唯一治癒させ得る治療法とその作用のポイントからも考えている。アレルギー治療の基本は抗原の除去,抗原からの回避であるが,完全に行うには無理があり,再び抗原曝露が生じると症状が出現する3)。鼻アレルギーで最も治療に抵抗する症状は,一般的には鼻閉である。これは可逆性変化であるはずのアレルギー反応が,即時相の反応の繰り返しか,あるいは遅延相の反応の結果から粘膜の浮腫,腫脹が非可逆性に存在し,鼻アレルギーの難治化という概念が一般的になった。この鼻閉を外科的な処置以外で臨床的に改善させる可能性が高いのも免疫療法の特徴であろう。
 免疫療法は1915年にCooke4)によつて米国に紹介されて以来現在まで続いている治療法で,日本より欧米でその評価が高い5)。また,日本においては通年性アレルギーに対し,その高い治療効果が認められているが6),スギ花粉症に対しての効果が低い。これは市販のスギ治療用エキスの力価が低いためと考えられている。アンケートでは免疫療法終了後,花粉症の症状は約60%が軽快したと答えている7)

IV.鼻過敏症の手術治療

著者: 久保伸夫

ページ範囲:P.689 - P.696

 はじめに
 国民の20%に達する鼻アレルギーの罹患率はさらに増加しつつあるといわれ,耳鼻咽喉科医にとって今後とも重要な疾患である。しかし,耳鼻咽喉科への受診率は年々低下し,他のアトピー疾患合併患者を中心に70%の患者は内科や小児科で治療されている。その患者側の理由として,耳鼻科は待ち時間が長い,X線など検査が多い,通院回数が多い,貰う薬は内科と同じといった点が挙げられる。
 一方,内科や小児科にとっても鼻アレルギーは,RASTなど血液検査と問診だけでも診断できるうえ,命にかかわることもなく,ベクロメタゾンやオノンなど鼻閉に対しても80%の有効率を有する薬剤の出現で扱いやすい疾患となりつつある。アレルギー科を標榜する一般内科医が増えているが,彼らも重篤な喘息や治療の困難な成人アトピー性皮膚炎より,鼻アレルギーと軽症の喘息を治療したがっている。昨年の日本医師会雑誌別冊「薬の使い方」では,鼻アレルギーは内科疾患として扱われていた。さらに,マスコミの医療情報と治療費の自己負担の増加によって,スギ花粉症に至っては患者の半数は医療施設を受診せず,薬局の売薬ですませている。インタール®も今後処方箋なしで薬局で購入できるようになる。

V.鼻アレルギーの診断と治療のガイドラインとその解説

著者: 馬場廣太郎

ページ範囲:P.697 - P.701

 はじめに
 “鼻アレルギー(含花粉症)の診断と治療”と題するガイドラインは,第5回日本アレルギー学会春季臨床大会(平成5年5月)の特別シンポジウム「アレルギー疾患治療ガイドライン」の一部として作られたものである。対象はアレルギー学会認定医から,鼻アレルギーを専門としない実地医家まで広く役立つよう記載されているが,一方このガイドラインは個々の患者に対する治療上「参考」となることを期待したものであり,治療法を「規定」するものではないことが先ず述べられている。
 このガイドラインでは,治療法の選択を重症度と病型の分類によって行っている。したがって,これら分類の基礎となる鼻アレルギー発症のメカニズムが重要となる。このメカニズムは研究の進歩によって修正を加える必要があり,診断,分類,治療についても同様である。事実,1993年に出版されたガイドラインは1995年には’95年改訂版が出され,その後も機会あるごとに討議がなされている。中でも1996年7月,日本アレルギー学会アレルギー性鼻炎委員会(世話人:奥田 稔)によって行われた第1回那須ティーチイン“アレルギー性鼻炎の臨床と発症機序”では,発症機序と重症度分類について現時点での合意がみられ,近くガイドラインに反映されるものと思われる。
 本稿ではガイドラインの概説と那須ティーチインを中心とした最近の方向性について述べることとする。

目でみる耳鼻咽喉科

舌に発生した「いわゆる癌肉腫」の1例

著者: 直原理絵 ,   小池薫 ,   牧野邦彦 ,   志水賢一郎 ,   天津睦郎 ,   大林千穂

ページ範囲:P.664 - P.665

 舌に発生する悪性腫瘍はほとんどが扁平上皮癌であるが,肉腫様増生の強い「いわゆる癌肉腫(so-called carcinosarcoma)」はきわめて稀である。最近われわれは,いわゆる癌肉腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。
 症例:69歳男性。主訴:舌痛。家族歴:兄が前立腺癌で死亡。既往歴:悪性疾患なし。現病歴:平成7年7月下旬より左舌縁部に疼痛が出現した。その後唾液に血液が混じるようになったため,同年8月8日に某耳鼻科を受診し舌腫瘍を指摘された。神戸大学耳鼻咽喉科初診時には,左舌縁部に30×17×17mmの外向発育型,凹凸不整で,約10mmの茎をもつ腫瘍を認めた。同部よりの生検の結果,いわゆる癌肉腫と診断された。触診および画像診断で頸部に明らかなリンパ節転移は認められず,また遠隔転移も認められなかった。

鏡下咡語

15回目の国際学会—一開業医の記録

著者: 調賢哉

ページ範囲:P.704 - P.706

 最初に私が国際学会で講演したのは,1975年,京都で開催された5th Extraordinary Meeting of the Barany Societyであった。この際Clinical Signifi-cance of Chorda Tympanectomy for Vertigoと題して講演した。
 めまいに対する鼓索神経切断術は,「耳鼻と臨床42巻3号」に「メニエル病難治例に対するローゼンの鼓索神経切断術の役割」として掲載してあるように実に効果的な手術であるが,“A chorda tympanectomy went into disrepute in the United States many years ago and I don't believe that chorda tympanectomy has any real effect on Meniere's disease either from a therapeutic standpoint or from symptomatic standpoint”と激しく反論された。その時,この手術に対する反応は日本人と米国人で差があるのであろう,その差は局所的自律神経の差異であろうと考え,今後,私の業績は世界に問う必要があると思い国際学会に積極的に発表することとした。その後,約20年間にストックホルム,ソウル,東京,マイアミ,マドリード,ロンドン,東京,香港,ローマ,イスタンブール,コペンハーゲンと私のK・S(キリアン・調)額帯鏡,久保・調式歯槽上顎洞瘻孔閉鎖法および小児副鼻腔炎に対する上顎洞洗浄の方法,治療成績および副鼻腔炎の合併症である所謂原因不明熱,頭痛,咳嗽,非アトピー性喘息に対する効果などにつき講演し,かなり反響があった。このように,国際学会で話しをすることが「生き甲斐」と自信につながり診療が張りきって行えるようになった。さらに,学会で得た知識は結構日常診療および手術に役立ってきた。

原著

当院における結核性頸部リンパ節炎の検討

著者: 安松隆治 ,   新里祐一 ,   久和孝 ,   中島寅彦 ,   井之口昭 ,   小宮山荘太郎

ページ範囲:P.707 - P.711

 はじめに
 近年,結核の新登録患者数は年々減少しているものの,その減少速度は鈍化しているという1)
 耳鼻咽喉科領域においても,結核性頸部リンパ節炎は,以前に比べて遭遇する機会は減少したものの,決して稀な疾患ではなく,頸部リンパ節腫脹を認めた場合,常に鑑別として念頭に置いておかなければならない疾患である。しかし,結核に対するわれわれの認識が薄れてきているために,必要な検査を怠り病理組織生検を施行して初めて結核であることが判明することもしばしばあるのが現状である。
 今回われわれは,過去4年間に4例の結核性頸部リンパ節炎症例を経験したので,反省点,考察を加えて報告する。

耳下腺嚢胞性疾患の2症例

著者: 陳志傑 ,   池田勝久 ,   鈴木秀明 ,   高坂知節

ページ範囲:P.715 - P.718

 はじめに
 耳下腺に発生する嚢胞性疾患は比較的稀であり,その多くはワルチン腫瘍などの別疾患が嚢胞状を呈した2次的な腫瘍性嚢胞である。一方,鰓原性嚢胞や貯留嚢胞,類皮嚢胞などの単純性嚢胞はかなり稀である1)。術前に単純性嚢胞と腫瘍性嚢胞の診断によって耳下腺の切除範囲が大きく変わる。したがって,術前の鑑別診断が重要となってくる。今回われわれは,鰓原性嚢胞1例および貯留嚢胞1例の単純性嚢胞を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

側頭骨線維性骨異形成症の1症例

著者: 鵜木美帆 ,   矢部多加夫 ,   森直樹 ,   鈴木淳一

ページ範囲:P.719 - P.723

 はじめに
 線維性骨異形成症(fibrous dysplasia:FD)は,単発性または多発性の良性骨変性性疾患で,大腿骨,脛骨などの四肢に好発し,頭頸部領域では上顎骨,下顎骨に多い。単発性の側頭骨線維性骨異形成症は比較的稀で,本邦では16例1),海外文献でも53例2)の報告があるのみである。側頭部の硬性隆起,外耳道狭窄,伝音難聴を主症状とし,20歳未満の若年者に好発する。若年で発症し,骨成長が止む成人期になると,病変の進行が緩徐になると言われている3)
 今回われわれは,単発性側頭骨線維性骨異形成症症例に外耳道形成術を施行して良好な結果を得,また腫瘍組織の性ホルモンの関与について免疫組織学的に検討したので,若干の考察を加えて報告する。

下咽頭癌患者の手術前後の細胞性免疫能の経時的変動

著者: 古謝静男 ,   糸数哲郎 ,   松村純 ,   新濱明彦 ,   大輪達仁 ,   稲嶺智広 ,   野田寛

ページ範囲:P.725 - P.729

 はじめに
 下咽頭癌患者は,初診時すでに進行している例が多く治療も困難な例が多い。しかし,再建術を含めた手術が施行されるようになり,その治療成績は向上しつつある。また,外科的治療に加えて化学療法や放射線療法も施行される場合もある。これらの治療は侵襲が大きく,患者にとって体力的負担の大きいものであり,治療後には肉体的に消耗していることが多い。最近,下咽頭癌患者の治療の過程で,患者の細胞性免疫能の低下が指摘されつつある1)。われわれは,下咽頭癌患者の治療前および手術後の細胞性免疫能の変動を経時的に観察した。その結果に若干の文献的考察を加えて報告する。

めまい患者の自律神経機能—東洋医学的診断による体質・病態別検討

著者: 関聡 ,   野々村直文 ,   長場章 ,   犬飼賢也 ,   中野雄一

ページ範囲:P.731 - P.734

 はじめに
 めまい患者の治療に東洋医学的診断から漢方薬を用いている施設も多く,その有用性についても報告されている1〜3)。また,めまい患者の自律神経機能は,安静時に副交感神経機能が低下していることや4,5),安静時に交感神経機能が過度に亢進していると,起立時に交感神経機能が低下しやすいこと6)などが報告されている。しかし,めまい患者の東洋医学的診断と自律神経機能との関連についてはいまだ検討されていない。そこで今回,めまい患者に対し東洋医学的診断を用いて体質を表す証(実・間・虚)ならびに疾患の動態を表す証(陽・陰)を判定し,その結果と自律神経機能との関連について検討した。

外傷性鼓膜穿孔と耳閉感

著者: 竹下有二 ,   松田孝一 ,   上坂政勝

ページ範囲:P.735 - P.738

 はじめに
 耳閉感という感覚は疾病の部位によってその表現に多少の違いがあると考えられるが,つまったような,水が入ったような,膜が張ったような,山に登ったときのような感じなどの表現がなされる。
 外傷性鼓膜穿孔という突然の穿孔でも患側の耳閉感が起こることは良く知られているし当然のことのように思えるが,患側に耳閉感を訴えず,何ら障害を受けていない対側,つまり健側の耳閉感を主訴に来院する例が存在することを経験し,このような耳閉感の発現がどの程度にみられるかを調査,検討したので報告する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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