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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科69巻12号

1997年11月発行

雑誌目次

トピックス 頭頸部領域の乳頭腫—その基礎と臨床

I.頭頸部乳頭腫の病理

著者: 三浦妙太 ,   辻本志朗

ページ範囲:P.827 - P.832

 はじめに
 乳頭腫は,日常耳鼻咽喉科領域の生検,手術材料として遭遇することが多い。とくに成人の鼻閉塞や鼻出血などで,鼻腔,副鼻腔や鼻前底などから採取されるものが最も多い。
 鼻前庭は重層扁平上皮,鼻腔,副鼻腔などは円柱上皮の粘膜で被覆されている。この他に骨軟骨,分泌腺,神経や血管などの組織が存在する。そのために様々の腫瘍の発生がみられ,副鼻腔炎などに伴うポリープ様病変,乳頭腫,分泌腺由来の腺腫,骨・軟骨腫,血管腫などの良性腫瘍のほかに悪性上皮性腫瘍(上顎癌),非上皮性悪性腫瘍などが認められる。

II.鼻・副鼻腔の乳頭腫

著者: 熊谷正樹 ,   池田勝久 ,   髙坂知節

ページ範囲:P.835 - P.840

 はじめに
 鼻・副鼻腔乳頭腫は1855年,Billroth1)により最初に報告され,1897年にはHellman2)により癌を合併した再発性乳頭腫が記載されている。また鼻・副鼻腔内向型乳頭腫は1938年にRingertz3)が最初に報告して以来,その高い再発率,組織破壊性,癌の合併の3点が臨床的特徴とされており注意を要する疾患の1つである。そのため,その治療は悪性腫瘍に準じた根治的拡大手術などが行われてきた。しかし近年の副鼻腔手術は,内視鏡手術に代表されるminimum invasive surgeryが主流となってきているため,本疾患の手術法の選択も変化しつつある。
 また近年,本疾患は発生・癌化の過程にヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)との関連が示唆されており,分子生物学的にもその過程が明らかになりつつある。本稿では鼻・副鼻腔乳頭腫についての診断,治療,そして癌化におけるHPVの役割について文献的考察を加えて述べる。

III.口腔乳頭腫

著者: 安藤一郎

ページ範囲:P.841 - P.843

 はじめに
 口腔乳頭腫(papilloma)は口腔粘膜上皮の増殖性・隆起性・角化性病変で,境界鮮明な,表在性,限局性の白色,結節性,カリフラワー状の有茎性,孤立性,緩徐な外向性発育を示す有茎性良性腫瘍である。この腫瘍の発生頻度は口腔生検検体の2〜15%1,2)を占め,唾液腺嚢胞(29%)2)に次いで多い。

IV.口腔・咽頭の乳頭腫

著者: 八尾和雄 ,   高橋廣臣

ページ範囲:P.845 - P.850

 はじめに
 口腔・咽頭領域乳頭腫の臨床病態は多様で,悪性腫瘍との鑑別が難しく,その被覆上皮の肉眼的特徴から診断されることが多い。発生原因としては,慢性刺激による上皮の過形成と述べた報告1,2)があるが,病態形成までには時間を要し,刺激源を明確にできる症例は少なく推測の範囲である。しかし,最近の病理組織診断技術の発達でウイルス感染3,4)がその発症の一因と考えられる症例が認められてきた。
 今回は,1971年から1995年までに教室で経験した乳頭腫167症例を対象とし,その臨床的特徴と最近の14症例に行ったin situ hybridizationによるhuman papilloma virus (HPV) DNA検出結果を報告する。ただし乳頭腫の診断の定義は肉眼所見を第1として,淡桃色ないし白色で表面は乳頭状,花菜状を呈し,広基性,有茎性の隆起病変とした。さらに病理組織診断は,被覆上皮である重層扁平上皮は錯角化,過角化,有棘細胞層の肥厚を示し,隆起性あるいは分枝状で,基底細胞層の過形成による間質への乳頭状の肥厚,延長を認め,間質である結合組織の増殖が形態を決定している腫瘍性病変である。図1に典型例として70歳男性の肉眼所見と病理組織像を示した。

V.喉頭の乳頭腫—その臨床的問題点とHPV

著者: 福島邦博 ,   西岡信二 ,   江谷勉 ,   渡辺周一 ,   小倉肇

ページ範囲:P.851 - P.854

 はじめに
 喉頭乳頭腫は,臨床的には孤立性と多発性に分類される上皮性良性腫瘍の1つで,異型性の乏しい扁平上皮ないしは線毛上皮の乳頭状過形成を特徴とする。時にこうした上皮中にはkoilocytosisと呼ばれる所見が散見されることがあるが,これはウイルス感染細胞の病理組織学的特徴と言われており,電子顕微鏡的にはこれらの細胞の核内に大量のパポバウイルス科ウイルス粒子が存在することが証明されている1,2)。このウイルスのDNA解析の結果から,喉頭乳頭腫に存在するヒトパピローマウイルス(HPV)は6型ないし11型であることが報告されており1〜3),自験例1)でも多発性喉頭乳頭腫からは全例でいずれかの型のウイルスゲノムDNAが検出されている(表)。こうした事実から近年では,HPV6ないし11型は多発性喉頭乳頭腫の主たる病因的因子とする考えが一般に受け入れられている。
 ところで,喉頭乳頭腫には各種治療に抵抗して頻回の入院・治療が必要とされることがあり,その頻度は最悪の場合2週間ごとの入院が必要となるケースもあると報告されている3)。このような易再発性は喉頭乳頭腫を取り扱う際,臨床的に最も難渋する問題点であるが,近年様々な検討から,こうした高い再発性がHPVの感染様式と密接に関連していることが明らかになりつつある。本稿では,喉頭におけるHPV感染と喉頭乳頭腫との関わりを自験例を通して紹介しHPVに起因すると考えられるその他の臨床的問題点についても考察を加える。

目でみる耳鼻咽喉科

われわれの行っている耳下腺多形腺腫摘出術

著者: 佐藤靖夫 ,   行木英生

ページ範囲:P.824 - P.825

 当施設では,卒後2年目の終わり頃から研修医に耳下腺良性腫瘍の手術を指導している。未だ手術手技に習熟しているとは言えない研修医でも,腫瘍を完全に摘出し,かつ,顔面神経を確実に保存できるように,われわれはbipolar coagulator(以下,バイポーラ)を用いた手術を指導している。基本的な手術手順は多くの成書に述べられている通りであるが,本稿では,われわれが研修医に指導している具体的な手技上のポイントについて,多形腺腫の浅葉(部分)切除を例として写真で示した。
 手術:皮膚切開は,耳珠の先端を切開するcos-metic incision (図1)を用いたS状切開を基本とする。この皮切は,一般的な耳前部切開と比較して術後の切開創が目立たないので,好んで用いている。耳下腺後縁と胸鎖乳突筋・顎二腹筋後腹の剥離は基本的に電気メスを用いる。

原著

めまいと脳波異常

著者: 竹森節子 ,   矢島一枝

ページ範囲:P.857 - P.862

 はじめに
 いわゆるdizziness症例では,フラーとする,クラクラする,意識がなくなる感じがする,電車の中で気分が悪くなる,などの訴えが多い。
 平衡機能検査で中枢神経障害の所見もなく,温度刺激検査の左右差もない。訴えのわりには所見に乏しい症例である。これらの中にはCMI検査でIII型,IV型と精神病,心身症を思わせる症例もあり,その専門的治療が必要となる。
 また,軽い精神安定剤を用いるとかなり改善される症例もある。しかし,精神安定剤抗めまい薬を投与しても一向に良くならない,と訴える症例もある。これらの中には,脳波検査で異常所見がみられた症例もあり,今回,このような症例につき検討した。

下顎骨中心性扁平上皮癌の1例

著者: 笠井紀夫 ,   鶴迫裕一 ,   野宮重信 ,   西岡信二 ,   福島邦博 ,   小川晃弘 ,   赤木博文 ,   西崎和則

ページ範囲:P.863 - P.866

 はじめに
 顎・口腔領域にみられる悪性腫瘍はそのほとんどが粘膜上皮由来の癌であるが,ごく稀には顎骨内から発生することがあり,顎骨中心性癌と呼ばれている1)。今回われわれは下顎骨原発の扁平上皮癌で,その切除範囲設定に難渋した症例を経験したので,その概要に若干の文献的考察を加えて報告する。

上顎骨転移を起こした肝細胞癌の1症例

著者: 柴崎修 ,   戸島均 ,   岡裕爾 ,   高橋敦

ページ範囲:P.871 - P.873

 はじめに
 どのような臓器に発生した癌からも口腔内へ転移することは少なく,全口腔内悪性腫瘍に占める転移性腫瘍の割合はきわめて低い1〜4)。また,肝細胞癌の好発転移臓器は肺であり,他に副腎,骨などにも転移することがあるが顎顔面骨,頭蓋骨への転移は極めて少ない5)。われわれは,肝細胞癌が上顎骨転移を起こした症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

下顎角部に発生した侵襲性小児線維腫の1例

著者: 山下理絵 ,   内沼栄樹 ,   柴田裕達 ,   林和弘 ,   山崎安晴

ページ範囲:P.874 - P.877

 はじめに
 侵襲性小児線維腫(aggresive juvenile fibro-matosis)は線維組織由来の良性の軟部組織腫瘍であるが,局所浸潤が強く特に若年者においては急速増大を示すことが多いため,悪性腫瘍との鑑別は重要であると言われている。また,頭頸部発症は稀であり小児の報告例は少ない。
 われわれは,1歳3か月男児の耳下腺内に浸潤した下顎角部の侵襲性小児線維腫を経験した。小児頭頸部腫瘍を扱うにあたり,鑑別診断を要する重要な疾患の1つと思われ,文献的考察を加え報告する。

体外衝撃波結石破砕術の唾石治療への応用

著者: 天野肇 ,   竹下有

ページ範囲:P.879 - P.883

 はじめに
 唾石症は,これまで腺内および移行部唾石は皮膚切開にょり,導管内の唾石は口内切開により治療されるのが一般的であった。
 近年,体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)による腎結石・胆石の治療が普及する中,1989年Iroら1)が唾石への応用を報告して以来本邦でもいくつかの報告があるが,治療成績は必ずしも良くなかった2〜4)
 今回われわれは,唾石14例に対しESWLによる治療を施行し,治療成績,適応について検討したので報告する。

木村病—放射線治療を施行した2症例

著者: 横川徳造 ,   白井辰夫 ,   菊池善郎 ,   伴茂之 ,   杉山丈夫 ,   安河内浩 ,   古井滋 ,   後藤敦子

ページ範囲:P.884 - P.887

 はじめに
 木村病1)は,頭頸部を中心に腫瘤を形成し慢性に経過する原因不明の良性疾患である。その決定的な治療法は,いまだ確立されていない。今回われわれは,木村病2例に放射線治療を行ったので文献的考察を加え報告する。

染色体異常7q部分欠失に中耳,内耳奇形を合併した1例

著者: 塚田晴代 ,   長井今日子 ,   大島幸雄 ,   鬼形和道 ,   亀井民雄

ページ範囲:P.889 - P.893

 はじめに
 染色体異常46,XY,del(7)(q11.2q22)は,1968年de Grouchyら1)が最初に報告した極めて稀な染色体異常で,その臨床症状は多彩である。主な外表奇形は耳介奇形,小顎症,小頭症,手足の指の形成不全で,内臓奇形では心奇形,ヘルニア,生殖器低形成で,神経系では精神,身体発達遅滞,筋緊張低下,脳波異常などである2,3)。特に臨床症状で頻度が高いのは,精神身体発達遅滞と手足の指の形成不全である4)。耳鼻咽喉科領域における合併奇形は,耳介奇形の報告が多いが難聴を合併した症例の報告は少ない2)。また,難聴の発症病態については不明である。今回われわれは,染色体異常7q部分欠失に中耳,内耳奇形による高度難聴を合併した症例を経験したので報告する。

鏡下咡語

聴覚電気生理学ことはじめ

著者: 森満保

ページ範囲:P.868 - P.869

 ここでの鏡は手術用双眼顕微鏡で,鏡下にあるのは主としてモルモットの耳である。そこで行われるのは蝸牛への電極挿入手術であり,聴覚電気生理学的電位の記録である。囁語は時に実験の意義や失敗への嘆きの言葉であり,時に成功の歓喜の声である。
 昭和32年春,私は九州大学耳鼻科に大学院生として入局した。その秋,久留米大学から河田教授が着任された。入局当初は岩本助教授のもとで頭頸部悪性腫瘍を学ぶつもりであったのが,急遽聴覚電気生理学を研究することに変わった。直接指導は河田教授が連れてこられた松尾和巳先生である。先生は実に電気工学に堪能で,倉庫に放置されていた径10cm程のブラウン管がついた筋電計を探し出し修理,猫の正円窓からボール電極による蝸牛マイクロホン電位(CM)の記録実験を供覧された。口笛に反応して振幅をかえる黄色い交流波形が今でも鮮やかに目に浮かぶ。刺激音は純音発信器のみで持続音しか出せない。どんな実験をするか相談し,蝸牛窓と前庭窓から個別に,また同時に音刺激してCMの相互干渉を観察,鼓室形成術の原理を検討し研究班のCM関係の1号論文にした。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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