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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科69巻13号

1997年12月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

下咽頭より生じた巨大脂肪腫の1症例

著者: 坂本菊男 ,   森一功 ,   平野実 ,   中島格

ページ範囲:P.902 - P.903

 下咽頭の良性腫瘍は比較的稀であり,なかでも脂肪腫の報告は少ない。今回われわれは,下咽頭に発生した巨大な脂肪腫の1例を経験したので報告する。
 症例は60歳,男性。咽頭違和感を主訴に某医を受診し,ラリンゴマイクロ下に生検を施行後,下咽頭脂肪腫の診断で当科に紹介された。入院時,下咽頭の左梨状陥凹に白色調の表面平滑な腫瘍を認め,左被裂軟骨の部分にも同様の腫瘍を認めた(図1a)。上部消化管造影で左梨状陥凹部分に茎をもつ下部食道内腔まで垂れ下がった長さ約30cmの境界明瞭,辺縁平滑な隆起性病変を認めた。食道は全体的に著明に拡張していた(図2a,b)。CT検査で,下咽頭下縁より食道にかけて内部低吸収像,造影でエンハンスされない病変(矢印)を認めた。内部組織のCT値は−98.2で脂肪成分と思われた(図3)。MRIでは,下咽頭下縁から食道下端にまで連なるT1強調像で高信号,STIRで低信号を呈する巨大占拠性病変(T)を認めた(図4)。内視鏡検査で,表面平滑で色調は桃色の腫瘍は左下咽頭より発生し食道内へ続き,その先端は分葉状で門歯より40cmに達していた(図1b)。

原著

悪性腫瘍の随伴性小脳変性症疑い例の神経耳科学的所見

著者: 内藤理恵 ,   室伏利久 ,   水野正浩

ページ範囲:P.906 - P.909

 はじめに
 悪性腫瘍の浸潤や転移によらずに,いわゆるremote effect (遠隔効果)によって生じる神経筋疾患は,傍悪性腫瘍症候群(paraneoplastic synd-rome)と総称される。この傍悪性腫瘍症候群の1つで,悪性腫瘍のremote effectによって亜急性に小脳失調をきたす亜急性小脳変性症では,血清中の抗プルキンエ細胞抗体が,特異的に高力価で存在することが証明され1,2),近年,腫瘍随伴性小脳変性症(paraneoplastic cerebellar degenera-tion)と呼ばれるようになってきた3,4)
 今回われわれは歩行時のふらつき,構音障害で発症し,臨床上,乳癌の遠隔効果による腫瘍随伴性小脳変性症が疑われた1症例を経験したので,その神経耳科学的所見について若干の文献的考察を加えて報告する。

Guillain-Barré症候群と考えられた両側同時性顔面神経麻痺の1例

著者: 佐地富砂子 ,   野中学 ,   陣内賢 ,   粉川隆行 ,   馬場俊吉 ,   八木聰明

ページ範囲:P.911 - P.915

 はじめに
 両側末梢性顔面神経麻痺が生じることは比較的稀であり,耳鼻咽喉科領域では両側ベル麻痺の症例報告が散見されるのみである。今回われわれは,両側同時発症の末梢性顔面神経麻痺を呈し,髄液検査で蛋白細胞解離を認め,Guillain-Barré症候群と考えられた1例を経験したので報告する。

抗リン脂質抗体症候群に急性感音難聴を合併した1症例

著者: 山下安彦 ,   頼實哲 ,   小河原利彰 ,   福島邦博

ページ範囲:P.916 - P.919

 はじめに
 抗リン脂質抗体症候群は1985年にHarrisら1)が提唱した概念で,後天性血栓形成傾向のため習慣性流産,下腿血栓症,血小板減少症などをきたす自己免疫疾患の1つと考えられている。抗リン脂質抗体症候群には現在のところ確立された診断基準はないが,一般的にはSLEなどの自己免疫疾患があり,血栓症などの臨床症状が認められ,また細胞膜を構成するリン脂質を抗原としたlupus anticoagulant (LAC),抗カルジオリピン抗体などの抗リン脂質抗体を証明することにより診断される。血栓形成傾向は抗リン脂質抗体により引き起こされると考えられているが,耳鼻咽喉科領域においては血栓形成傾向が急性感音難聴の原因となり得ることが推測される。今回われわれは,当院内科にて入院治療されていた抗リン脂質抗体症候群の患者で右急性感音難聴をきたし,血栓溶解剤(ウロナーゼTM)投与にて,聴力の改善を示した症例を経験したので報告する。

中耳炎の起炎菌と判明したCorynebacterium pseudodiphtheriticum

著者: 緒方洋一 ,   水野秀一 ,   高橋正紘

ページ範囲:P.921 - P.926

 はじめに
 Corynebacterium pseudodiphtherticum (以下,C.pseudodiphtheriticum)はグラム陽性桿菌で,皮膚や粘膜を初め,生体各所に存在する常在菌である。耳漏からもCorynebacterium属が検出されることは少なくなく,検出されても常在菌の汚染と考えていた。最近,当院検査部から,耳漏検体からの本菌が起炎菌であるという連絡を受け,改めて本菌の感染状況を調べてみた。314株中4株のC.pseudodiphtheriticumが中耳炎の起炎菌と判明した。本菌による感染症の報告では,多くは基礎疾患を有した患者に発症した肺炎の報告を見るが,中耳炎は国内外でも水野ら1)の報告1例のみであった。本菌の同定法と臨床像を呈示し,今後の課題を考えた。

当院における喉頭結核症例の検討

著者: 鈴木政彦 ,   竹生田勝次 ,   西嶌渡 ,   鈴木政美

ページ範囲:P.927 - P.931

 はじめに
 結核性疾患は抗結核剤の開発,普及,予防医学の発展,生活水準の向上などによりその頻度は著しく減少した。それとともに耳鼻咽喉科領域の結核症も少なくなった。しかし,全く消失したというわけではなく,外来診療においてときどき遭遇することがある。特に悪性腫瘍との鑑別が困難であることと,活動性病変を保持した場合その感染性が社会的に問題になる。
 そこで過去20年間に当施設を受診した喉頭結核16例の特徴について,文献的考察を加えて報告する。

口腔癌治療後の簡便な咀嚼機能の評価

著者: 中山敏 ,   松浦秀博 ,   長谷川泰久 ,   藤本保志

ページ範囲:P.933 - P.938

 緒言
 口腔癌の外科治療は嚥下,構音機能はもちろんのこと,咀嚼機能を含めて機能温存あるいは機能的な再建を目指して進歩しつつあり1,2),真の機能向上には,その評価が不可欠である。既存の咀嚼機能判定表は,加齢による歯牙欠損が原因の義歯使用者を対象に作成されたもので,舌,下顎骨,歯牙,咀嚼筋群,唾液腺の切除,放射線障害,癌性疼痛などの様々な要因が複雑に絡んでいる頭頸部がん患者を対象にした場合,これとは別の評価基準の設定が望まれる。そこでわれわれは,まず食品別アンケート予備調査,次に咀嚼難易度判定,さらに咀嚼効率検査による再評価を経て,簡易咀嚼機能評価基準を考案したので,ここに提案する。

静脈石を有した喉頭血管腫の1例

著者: 鈴木立俊 ,   籾山安弘 ,   馬越智浩 ,   八尾和雄

ページ範囲:P.940 - P.943

 はじめに
 頭頸部領域は血管腫の好発部位であり,静脈石を有することも少なくない。しかし,喉頭血管腫のうち静脈石を有する症例は稀である。今回われわれは静脈石を有した喉頭血管腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

下咽頭癌肉腫の1例

著者: 古謝静男 ,   糸数哲郎 ,   新濱明彦 ,   松村純 ,   大輪達仁 ,   稲嶺智広 ,   野田寛

ページ範囲:P.949 - P.953

 はじめに
 下咽頭癌はほとんどが扁平上皮癌であり,下咽頭に発生する癌肉腫(「真性癌肉腫」と「いわゆる癌肉腫」を併せてここでは癌肉腫と称する)は非常に稀である。これまで国内報告例は12編,14例をみるにすぎない1〜12)。最近われわれは,下咽頭に発生した癌肉腫の1例を経験したので症例を呈示し,本症例を含めた15例を臨床的側面から分析した。

両側性耳下腺リンパ上皮性嚢胞の1例

著者: 糸数哲郎 ,   古謝静男 ,   下地善久 ,   松村純 ,   稲嶺智広 ,   野田寛

ページ範囲:P.955 - P.958

 はじめに
 リンパ上皮性嚢胞は,一般に側頸部の無痛性腫瘤として認められ,従来は側頸嚢胞と呼ばれていた。その発生由来については鰓溝の遺残による鰓原性嚢胞説,リンパ節内上皮迷入説などがあるが,迷入説を支持する報告や嚢胞の発生由来を証明できない症例では,病理組織学的特徴からリンパ上皮性嚢胞の名称が用いられている。リンパ上皮性嚢胞は,耳下腺に発生することは比較的稀で,両側性に発生することは極めて稀である。今回われわれは,両側耳下腺に発生したリンパ上皮性嚢胞の症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

当科における唾液腺腫瘍症例の病理組織学的検討—過去30年間の117例について

著者: 沖田渉 ,   阿部和也 ,   水野正浩 ,   飯沼壽孝

ページ範囲:P.959 - P.962

 はじめに
 唾液腺腫瘍は良性,悪性を含めた全腫瘍の3%以下,人口10万人に対し約1.5人の発生率を示す稀な腫瘍であり1),組織学的にも多彩で診断,治療に困難を呈することが多い。今回,当科における過去30年間の唾液腺腫瘍の手術症例を対象とし,病理組織学的集計を中心に種々の検討を行ったので報告する。

鼻副鼻腔神経鞘腫の1症例

著者: 盛川宏 ,   田部哲也 ,   中屋宗雄 ,   北原哲

ページ範囲:P.963 - P.966

 はじめに
 神経鞘腫は,シュワン細胞を有する有髄神経に発生し身体のあらゆる箇所にみられる。耳鼻咽喉科領域では聴神経に多く,その他には舌,頸部,咽頭,喉頭にみられるが鼻副鼻腔に発生するものは比較的稀である。今回われわれは,鼻副鼻腔に発生した神経鞘腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

両側性上顎癌の3例

著者: 牧野伸子 ,   今中知子 ,   杉山視夫 ,   雑賀孝昇 ,   石田稔 ,   八田千広

ページ範囲:P.967 - P.970

 はじめに
 片側の上顎癌発生の後に,ある期間をおいて対側に上顎癌が発生する両側性上顎癌症例は本邦では1937年の和田らの報告に始まるとされ,1997年都築ら1)が自験例1例を含め,本邦における66例のまとめを報告している。両側性上顎癌の発生頻度については,Shibuyaら2)が351例の上顎癌中の5例,1.4%と,Miyaguchiら3)が802例の上顎癌中の10例,1.2%と報告しているように少ないが,治療手段の進歩に伴う生存期間の延長によって,その報告も増加しつつある。今回筆者らは,片側の上顎癌発生後,11年,28年,35年を経て,対側に上頻癌が発生した3症例を経験したので報告する。

鏡下咡語

頭頸部手術手技研究会をの感想—甲状腺癌・ビデオシンポの討論から

著者: 松浦秀博

ページ範囲:P.946 - P.947

 去る6月10日,福岡で第18回の頭頸部手術手技研究会が開催された。ビデオシンポジウムの1つ「甲状腺癌の手術手技—その基本と応用—」の討論を再現し司会の感想と反省を述べてみたい。

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科 第69巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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