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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科69巻6号

1997年05月発行

雑誌目次

1.耳 1.外耳

1.耳介血腫

著者: 新川敦

ページ範囲:P.6 - P.8

 1.病態
 耳介に対する鈍的な外傷が反復して加わると,軟骨から軟骨膜が剥がれ,軟骨膜下に出血が起こる。図1に示すように強靱な軟骨膜によって皮下への出血の排泄が妨げられるために,軟骨膜下に血液が貯留して軟らかい耳介血腫となる。受傷後長期間経過すると血腫は器質化して固くなり,これが徐々に吸収されて治癒する。その際,障害程度が強ければ軟骨の壊死が起こり耳介が変形するが,障害程度が軽度であれば耳介の変形をきたさない。貯留液は新鮮例では血性であるが,時間が経過すると血球成分は吸収され,血漿成分のみ残存し黄色透明となる。これを耳介偽嚢胞(sero-ma)という。耳介血腫を繰り返すと,軟骨そのものに障害が起こり瘢痕化して耳介の変形をきたす。
 これらの変形は慢性的に耳介に刺激が加わる柔道,レスリング,相撲,アメリカンフットボール,ラグビー,ボクシングなどのスポーツの有名な選手(練習量の多いもの)にはほとんど確実に見られる。

2.耳介裂傷

著者: 朴沢孝治

ページ範囲:P.10 - P.14

 ■はじめに
 耳介は頭部より外方に突出するため外傷を受けやすく,しかも,薄い軟骨と皮膚組織よりなる脆弱な構造上,いったん外力が加わると損傷が大きくなる傾向がある。集音というかつての機能は,ヒトでは重要ではなくなったものの,美容面,また眼鏡の装用の際の不具合などで患者の苦痛は大きなものとなってしまう。一方,その三次元的に複雑な構造が損なわれると,再度形成するのはきわめて困難であり,初期治療によりいかに対側の月介と形態ならびに皮膚の色を合わせて形成できるかが重要となる。本稿では,耳介の解剖を振り返るとともに,耳介裂傷の患者を前にし,どのような初期治療が必要か,さらに種々の損傷の程度,損傷部位に応じた形成方法について概説する。

3.ピアスによる傷害

著者: 奥野秀次

ページ範囲:P.15 - P.18

 ■はじめに
 耳介に(小)孔を作成し耳飾りを装用することは古代オリエントで始まり,その後今日まで世界各地で行われているものであるという1)。したがって最初にピアスを目の前でみたときに驚いた筆者は“井の中の蛙”であったわけである。そして今回のピアスについて調べる機会を与えられて再度井の中の蛙であることを痛感した。即ち,耳介は解剖からすると耳鼻咽喉科に属するわけであるが,ピアスに関する事項は整形外科,美容外科,皮膚科などの領域で扱われていることが多く,また,その扱いに実に様々な工夫がなされていることを知った。一方,まったく医療と係わらないところのみを通過していく例も多く,われわれ耳鼻咽喉科医は,比較的重篤な傷害となったものが突然に訪れてその実態に触れるようである。そのようなわけで,今回のこの論文は筆者自身,あるいは筆者が所属する教室の臨床経験を元に記載したものではなく,多くの方々から情報をいただいてそれらをまとめて解説的な論文として述べたものとなった。
 また,「ピアス外傷」という表題を与えられたが,外傷というと,外力によって起こる障害のうち,一般には急性に生じるもので,さらに,予期しない事態として生じるものを指すことが多いと思われる。したがって「ピアス外傷」というと既にピアスを安定して装用している耳に,サウナなどにピアスをつけたまま入ってしまったための熱傷,スキー場での凍傷,ピアスの絞め具を絞めすぎたための壊死,ピアスが何かに引っかかり,引っ張られたための裂傷などが生じたものを指すものと思われる。しかし,これらの事態はきわめて稀なものであろう。一方,ピアス装用のために耳介に小孔を作成するときや,そのあと瘻孔が安定するまでの期間に生じる傷害,また,一度は瘻孔が安定した後に,新たなピアスを装用することで生じる際の金属アレルギーを元にしたものや,感染が係わったもの,また,ケロイド体質などの内因が関与したものは,(狭義の)外傷というのには当たらずに,副損傷とか,ピアスが関与した傷害といわれるべきであろう。そしてわれわれ耳鼻咽喉科医が臨床の現場で遭遇することがあるのは,大部分が後者であると思われる。したがって,ここでは「ピアスによる傷害」を表題とし,(狭義の)外傷とは若干異なる事項について述べることとした。
 さらに,ピアスによる傷害の病態を理解するにはその背景を知ることも大切であると考え,まず始めにピアスに関する現状について調べた範囲のことを述べ,続いてピアスによる傷害とその対策について記すこととした。

2.外耳道

1.外耳道損傷

著者: 麻生伸

ページ範囲:P.20 - P.23

 ■はじめに
 外耳道の外傷を起こす原因は,器物や異物が直接外力を及ぼす直達性損傷と,主に頭部外傷に伴う介達性損傷に分類することができる。前者には耳掃除(耳垢除去)の際に生じるものが多いが,鼓膜穿孔を伴って初めて耳鼻咽喉科を受診することもある。日常臨床では明らかな外傷よりも,むしろ耳垢除去後に生じた外耳道炎の状態を診察することのほうが多いと思われる。また耳鼻咽喉科医の耳処置中に患者が動いて外耳道を損傷することもある。一方,介達性損傷は側頭骨骨折に伴うことが多く,頭蓋内血腫,内耳損傷,顔面神経麻痺,鼓室内血腫などを合併している症例も少なくない。以下に主な症例を呈示し,治療の実際などについて述べる。

2.異物による損傷

著者: 宇佐美真一

ページ範囲:P.24 - P.27

 1.統計
 外耳道異物は,耳鼻咽喉科領域の代表的な異物症例として頻度が高く,わが国の統計によると異物症例中,外耳道異物の占める割合は17〜23%1),31%2),国公立病院や実地医家の報告では45%前後3〜7)とされている。また異物症例は救急外来を受診することが多く,外耳道異物症例も約70%の症例で夜間救急外来を受診している1)。外耳道異物は比較的よく遭遇する疾患であるにもかかわらず,まとまった統計の報告が少ない。これは,摘出が煩雑になり大学病院などの大病院に集中する食道異物,気管支異物に比較すると,救急外来や実地医家に受診する例が多い傾向にあるためと思われる。
 外耳道異物症例は10歳以下の小児に多く1),異物の種類は大きく有生異物と無生異物に分けられる。無生異物にはプラスチック玉,ビーズ玉,磁石,消しゴム,紙,耳かきの一部(マッチ棒,綿花),豆類,ボタン型水銀電池,鉛筆の芯などがあげられる。小児では遊びながら興味本位で挿入する例が多く,成人では耳かきに伴う異物が多い1,2,8)。最近では補聴器のイヤーモールドの型取りをする印象剤が外耳道異物となる例がしばしば報告されている9〜12)。印象剤は注入前に充填する綿栓が不十分であったり,硬化する前に印象剤を取り出すことによって,その一部が外耳道内に取り残されることにより異物となる。特に中耳根本術などの耳の手術施行後や,鼓膜穿孔のある例では外耳道から中耳腔に容易に異物が侵入しやすくなり,このような場合には外耳道異物と中耳異物の合併となることがある11)。イヤーモールド異物症例のなかには補聴器販売店で作製した後に発生した症例が報告されており,補聴器販売店にイヤーモールド作製を一任もしくは無資格で認可していることを問題視しており,耳鼻咽喉科医による指導,助言,監督の必要性を指摘している9〜12)。近年,補聴器が小型化し,性能が進歩するなかでカナル型補聴器もかなり普及してきている。イヤーモールド異物の他にも,カナル型補聴器用のボタン型水銀(アルカリ)電池による外耳道異物症例がいくつか報告されており,高率に高度の組織障害を引き起こすことが知られている9,13,14)

3.鼓膜・中耳・内耳

1.直達外力による外傷 ①単純な鼓膜穿孔

著者: 平川勝洋

ページ範囲:P.29 - P.33

 ■はじめに
 外傷性鼓膜穿孔は,われわれ耳鼻咽喉科医が日常診療においてしばしば経験する疾患である。その原因は耳かきなどによる直達外力によるものから,平手打ちなどの外耳道圧が急激に上昇することによる介達性のものまで様々である。その診断は病歴や鼓膜所見から比較的容易である。また鼓膜の再生力は旺盛で,一般に特別な処置を施さなくても自然治癒する場合が多いとされている。
 本稿では,外傷性鼓膜穿孔のうち,耳小骨連鎖離断や内耳障害を伴わない単純な穿孔例について,当科における症例の集計結果と過去の報告を比較しながら,その自然閉鎖に関与する因子,治療法などについて述べる。

1.直達外力による外傷 ②外傷性耳小骨離断

著者: 内藤泰

ページ範囲:P.34 - P.40

 ■はじめに
 外傷性耳小骨離断は,耳かきなどの外力が経外耳道的に直達して離断に至る場合と,爆発や平手打ちなどの圧外傷,頭部打撲による衝撃などで耳小骨が変位して引き起こされる場合がある。直達外力による傷害は,外耳道から直線的に到達される部位として主にキヌタ骨長脚,キヌタ・アブミ関節,アブミ骨に生じ,一方間接的に力が加わった場合はキヌタ骨の変位がほとんどである。本稿では外傷性耳小骨離断に関連する解剖,症状と検査・診断,治療について自験例も併せて概説する。

1.直達外力による外傷 ③内耳障善を伴うもの

著者: 中村正

ページ範囲:P.41 - P.45

 ■はじめに
 身体,特に頭部に何らかの外力が加えられた後に,耳鳴・難聴などの蝸牛障害,あるいはめまいなどの平衡障害が出現することがある。これは外力(外傷)が,何らかの機序で,主に内耳に対して影響を与えたことにより発現した障害であり,これを外傷性内耳障害と呼んでいる。
 内耳障害を起こすような外傷には様々なものが考えられるが,いずれも別項で述べられる外リンパ瘻あるいは側頭骨骨折などと密接な関連をもっており,救急医療として外傷性内耳障害を扱うに際しては,これらの疾患を常に念頭に置く必要がある。

1.直達外力による外傷 ④外傷性外リンパ瘻

著者: 相原康孝

ページ範囲:P.47 - P.51

 ■はじめに
 直達外力による外耳道や鼓膜の損傷は日常臨床ではよく経験するが,外力により卵円窓あるいは正円窓に損傷をきたし,外リンパ瘻を引き起こすことは稀である。
 当科においても,1978年12月〜1995年9月までの16年10か月間に9例を経験したのみである(表1)。しかし,その臨床像は比較的特徴的な症状や所見を有しており,注意深く観察することにより,この疾患の存在を疑うことは難しくはない。
 ここでは,過去の報告や日本医科大学附属病院で経験した症例から得られた,その特徴的な臨床像を提示し,速やかに診断を行い,引き続き適切な治療を行うに当たっての要点について述べる。

2.側頭骨骨折 ①横骨折

著者: 池田稔

ページ範囲:P.52 - P.55

 ■はじめに
 頭蓋底骨折の約70%は中頭蓋窩の骨折を含んでいる。中頭蓋窩の大部分が側頭骨で構成されていることから,側頭骨は頭蓋底骨折に際し最も障害されやすい部位であると言える。
 側頭骨骨折は,乳突部の外側面から錐体尖部を先端とした側頭骨長軸方向に骨折線が形成される縦骨折(longitudinal fracture)および長軸に直角の方向に割れる横骨折(transverse fracture)に分類される。
 側頭骨骨折のうち横骨折は10〜20%であり,80〜90%を占める縦骨折に比べるとその頻度ははるかに低い。
 側頭骨骨折でみられる臨床症状は縦骨折および横骨折でその出現頻度が異なる。主な症状の対比を表11)に示す。本稿では横骨折について述べる。

2.側頭骨骨折 ②縦骨折

著者: 小川郁

ページ範囲:P.56 - P.59

 ■はじめに
 交通外傷の増加に伴い側頭骨骨折をきたす頭部外傷症例が増加している。その他,スポーツ外傷,労働外傷による側頭骨骨折も少なくない。
 側頭骨骨折は骨折部位により,縦骨折,横骨折,そしてその両者が混在する混合骨折に分類される。これら骨折部位は側頭骨にかかる外力の強さ,方向に依存し,当然のことながら主に側頭骨内の脆弱な部位に生じる。横骨折は前頭部または後頭部打撲により生じることが多く,その骨折線は大後頭孔より頸静脈孔,内耳道に至り,内耳骨包を横断するように中耳に達する。内耳骨包に骨折が生じることから,高度の感音難聴をきたすことが多い。平衡障害もほぼ必発であり,障害直後より回転性めまいのため起立困難となり,嘔気,嘔吐を伴う。横骨折の約半数に顔面神経麻痺が生じるとされ,そのほとんどが即発性である。障害部位は顔面神経迷路部から水平部であり,顔面神経が断裂することが多く,一般にその予後は不良である。一方,側頭骨骨折の約80%を占める縦骨折は,横骨折に比べて発生頻度は高いが,その障害は外科的に修復可能であり予後も良好な場合が多い。以下,本稿では側頭骨縦骨折を中心に述べる。

II.鼻・副鼻腔

1.鼻骨骨折

著者: 深見雅也

ページ範囲:P.60 - P.64

 ■はじめに
 顔面骨骨折のなかで鼻骨骨折は最も頻度が高く,日常診療で接する機会も多い。原因としてはスポーツによるものが多く,次いでケンカによるものが多いとされる1)。症状が軽度の症例は安易に扱われがちであるが,診断や治療が難しい症例もある。

2.吹き抜け骨折

著者: 大久保公裕

ページ範囲:P.66 - P.70

 ■はじめに
 吹き抜け骨折(blowout fracture)は眼窩部へ前方から外力が加わり生じる。この時,眼窩内容物(主として眼球)が後方へ圧迫され,眼窩内圧が上昇し眼窩下壁,内側壁の骨を損傷,骨折を作り,そこから眼窩内容物が副鼻腔(上顎洞,篩骨洞)へ逸脱したものである。嵌頓することも多く,その程度,内容物の状態によっては早急な手術が必要となるものである。

3.上顎骨骨折—特にLe Fort型骨折について

著者: 花牟礼豊 ,   関大八郎 ,   宮之原利男

ページ範囲:P.73 - P.78

 ■はじめに
 顔面の外傷のなかで鼻副鼻腔に及ぶ顔面骨折は,審美的な面から治療を要するのみでなく,機能的にも極めて重要な治療内容を含む疾患である。すなわち,上顎骨が損傷を受けることにより,呼吸路としての機能,咀嚼機能,視覚ならびに嗅覚能が傷害される可能性があり,治療に際しては,これらの機能改善を考慮する必要がある。顔面の骨折は,鼻骨骨折から頬骨骨折,眼窩吹き抜け骨折,顔面多発骨折まで多様な形態をとるが,このなかで上顎骨折,特にLe Fort型骨折について,われわれの症例を含めて概説する。

4.下顎骨骨折

著者: 湯本英二

ページ範囲:P.80 - P.85

 ■はじめに
 交通外傷に伴う顔面骨折の増加1)とともに,下顎骨骨折の診断治療を求められる場合が増加してきた。しかし,下顎骨骨折の治療に最もよく用いられてきた顎間固定に不慣れなことから,耳鼻咽喉科では従来から取り扱う機会の少ない疾患である。とりわけ,下顎骨単独の骨折では口腔外科医や形成外科医がおもに治療を担当してきた。一方,耳鼻咽喉科医は頬骨上顎骨骨折症例を数多く扱っており2),そのような症例のなかには下顎骨骨折を伴う症例も少なくない。実際,重見ら3)は,12例の手術を行った下顎骨骨折中,7例が頬骨,上顎骨あるいは眼窩底の骨折を伴ったと報告しており,耳鼻咽喉科医にとっても下顎骨折に関する知識は必須であるといえる。このような観点から,本稿では,耳鼻咽喉科医に必要な下顎骨骨折の診断,治療方針および治療の実際について紹介する。

III.口腔・咽頭

1.口腔・咽頭の裂傷

著者: 田中廣一

ページ範囲:P.86 - P.91

 ■はじめに
 口腔・咽頭の裂傷とは,外界からの力によって顎顔面部に組織の形態的または機能的障害が引き起こされたことによる損傷(injury)をいい,その結果生じた病的状態が創傷(wound)である。つまり創傷とは体表面の皮膚軟部組織の障害を指し,「創」は皮膚の連続性が断たれた開放性のもので,「傷」は連続性が保たれた閉鎖性の状態を意味している。「創」と「傷」の区別は治療上正確に判断すべきであるが,困難なことも多いと指摘されている1)。顎顔面領域の外傷は耳鼻咽喉科,口腔外科,整形外科,形成外科,ときに救急外科などで扱われる場合が多く,分担する分野でその表現や分類を異にしているのが現状である。ここでは損傷(injury)のなかの裂創と裂傷を広義の創傷(wound)の1分類として取り扱うことにする。

2.異物による外傷

著者: 長舩宏隆

ページ範囲:P.93 - P.97

 ■はじめに
 口腔は主に食物の摂取と言語の発声,それに続く咽頭は気道,消化管の一部としての役割を担う部位である。そのため意識的あるいは無意識的に種々の異物が入り込む可能性が高い。しかし普通はこれらの異物の介在により外傷を生ずることは少なく,あってもごく軽症である。
 今回はこのような異物症例ではなく,異物が口腔内より入り込み,それが口腔や咽頭に損傷を与えるような症例を対象に,文献報告を中心にその診断と治療について述べてみたい。

3.熱傷

著者: 持松いづみ ,   河野英治 ,   佃守

ページ範囲:P.98 - P.101

 ■はじめに
 口腔・咽頭領域め熱傷には口腔・咽頭にごく限られたものや,化学物質による熱傷で口腔・咽頭から食道にまで病変が及ぶものもある。さらに広い意味での気道熱傷に含まれるものもあり,気道熱傷はその病変部位から(1)上気道型,(2)気管・気管支型,(3)末梢型の3つに分けられ,口腔・咽頭の熱傷は上気道型にあたる1)(図1)。

IV.喉頭・気管・食道

1.外力による喉頭外傷

著者: 田山二朗

ページ範囲:P.104 - P.109

 ■はじめに
 喉頭は,前方は前屈した下顎,下方は鎖骨,後方は頸椎により保護されていることから正面からの外力を受けにくく,また頸部において種々の筋肉により保持され,側方への可動性に富んでいることなどからも,比較的損傷しにくい器官であると言われている。しかし,大きな外力が直接前方から喉頭に及ぶと,後方に脊椎があるため,前後から押しつぶされる形になり多彩な損傷を起こし,呼吸・発声・嚥下の障害を引き起こす。交通事故・産業災害はもちろん,最近盛んになってきているスポーツでの外傷も増える傾向にある。
 外傷はその受傷機転により,咽頭,喉頭の内腔からの損傷である内損傷と,外頸部からの損傷である外損傷に分けられる。また外損傷は皮膚損傷のない閉鎖性損傷と開放性損傷とに分けられる(表1)。一方,治癒機転からは新鮮外傷,陳旧性瘢痕性外傷とに分類できるが,陳旧性瘢痕性外傷は喉頭気管狭窄といった病態をとることが多く,これは初期治療が不十分のときに起こりやすい。
 本稿は外力による喉頭外傷の特に初期治療をテーマとしているが,新鮮例に遭遇するのは一般耳鼻咽喉科医としてはそれほど多いことではない。耳鼻咽喉科医が治療を行うときにはすでに瘢痕性狭窄を引き起こした状態になっている場合もある。そこで本稿では,本来の初期治療が必要な新鮮外傷例のみだけでなく,陳旧例についても若干触れることにする。

2.気道熱傷

著者: 木西實 ,   岩江信法 ,   天津睦郎 ,   田原真也

ページ範囲:P.110 - P.113

 ■はじめに
 O.Copeは1942年9月28日491名の犠牲者を出したナイトクラブの地下室火災での気道熱傷患者を初めて報告している。以後,皮膚熱傷の合併症が抗生剤と早期処置によりめざましく減少してきたのに対し,気道熱傷が熱傷患者の死因の第1位を占めるようになって久しい。気道熱傷は火炎にあおられたり,火災現場に閉じこめられたり,水蒸気が噴出したりする場合にしばしば火炎や水蒸気,あるいは煙に含まれる刺激性有毒ガスを吸入して起こるが,呼吸管理が進歩した今日においてもその処置を誤ると致命的になる。特に顔面や頸部にII度以上の深い熱傷のあるときには気道熱傷の合併を疑う必要がある。気道熱傷の原因は(1)高温の空気,水蒸気による上気道への直接の熱傷(thermal injury),(2)吸入された燃焼産物による化学熱傷(chemical injury)に分類される。
 気道熱傷患者をわれわれ耳鼻咽喉科医が取り扱うのは救命処置,特に気道管理がなされた後,呼吸困難,嗄声,嚥下障害や誤嚥といった症状が発現した受傷後1か月以上経過したいわゆる陳旧例になる。しかしながら,これらではその受傷の原因・程度により病態は様々であり,一定の治療法はなくおのおのの症例に応じた工夫が必要となる。
 以下にthermal injury,chemical injuryの概略を述べ,次に気道熱傷の診断・治療,さらに著者らが経験した濃硫酸によるchemical injury後の後遺症に対する治療に難渋した症例を紹介する。

3.医原性(内視鏡など)の外傷

著者: 前山忠嗣 ,   津田邦良

ページ範囲:P.114 - P.119

 ■はじめに
 喉頭・気管・食道の外傷の原因は様々であるが,中には医原性のものもあり,注意が肝要である。なお医療行為によって起こった外傷が医原性か否かの判断はきわめて難しいため,ここでは当然起こり得る合併症の範囲にまで内容を広げ,われわれの経験と文献を参考にしながら原因別に稿を進めていきたい。

4.異物による外傷

著者: 平林秀樹

ページ範囲:P.120 - P.123

 ■はじめに
 日常遭遇する異物症は食道異物が気道異物の約4倍であり,異物による外傷の報告も食道異物が圧倒的である。近年異物摘出にファイバースコープが頻用されるに至って,義歯,press-through-pack(PTP),魚骨による食道穿孔の報告が散見される。これらの異物による外傷によって縦隔炎や敗血症が併発し重篤な状態となることがある。本稿では自験例を紹介するとともに,文献例を紹介し注意を促したい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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