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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科69巻7号

1997年06月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

Salivary duct carcinomaの1症例

著者: 江浦陽一 ,   近藤毅 ,   加藤寿彦

ページ範囲:P.430 - P.431

 Salivary duct carcinoma (以下,SDCと略)は1968年にKleinsasserらにより初めて報告された。その特徴は次の2つに大別される。1)病理組織学的には唾液腺の排泄導管より発生し,乳癌の組織像に類似しており,2)臨床的には比較的稀な疾患であり,再発や転移が多く厳重な臨床観察を要する予後不良な唾液腺悪性腫瘍である。
 本症例は75歳の男性で,約1年半前より右耳下部の腫瘤に気づいたが放置していた。初診時は右末梢性顔面神経麻痺および右耳下部に約7.5cm,右上頸部に約6cmの腫瘤を触知し,耳下腺周囲の皮膚は発赤,腫脹していた(図1)。その他の耳鼻咽喉科的所見には異常を認めず,また胸部X線,心電図,一般血液検査および生化学検査にも異常は認めなかった。CTで,右耳下腺内に3cmの境界不明瞭,内部不均一に造影され石灰化を伴う腫瘤陰影(赤矢印)を認めたが,右上頸部の腫瘤は軟部組織自体がびまん性腫瘍状陰影(白矢印)として認められた(図2)。

原著

難治性顔面神経麻痺を呈した側頭骨軟骨肉腫の1症例

著者: 内田育恵 ,   中島務 ,   柳田則之 ,   永井裕之 ,   斉藤清

ページ範囲:P.433 - P.436

 はじめに
 顔面神経麻痺は耳鼻咽喉科医が臨床の場でしばしば遭遇する症候であるが,今回われわれは難治性の顔面神経麻痺のみを症状とした,側頭骨軟骨肉腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

耳下腺に発生した基底細胞腺癌の1例

著者: 樋口香里 ,   上田大 ,   丸山晋 ,   三牧三郎 ,   鷹巣晃昌 ,   勝山榮治

ページ範囲:P.438 - P.443

 はじめに
 基底細胞腺癌は,1991年WHOによる唾液腺腫瘍の新分類に新たに加えられた稀な腫瘍である1)。細胞形態は基底細胞腺腫と似ているが,増殖形態が悪性浸潤像を示すのが特徴である。今回われわれは,耳下腺に発生した基底細胞腺癌の1例を経験した。その臨床像,組織学的特徴を免疫組織科学的所見も含め,文献的考察を加えて報告する。

外側に進展した頸髄神経鞘腫の1例

著者: 岩井大 ,   柳田昌宏 ,   大田秀一 ,   喜多淳 ,   永田基樹 ,   友田幸一 ,   山下敏夫

ページ範囲:P.444 - P.447

 はじめに
 頸髄神経鞘腫は脊髄神経根から発生し椎間孔を通して脊柱管内,もしくは脊柱管内外に進展する腫瘍である1,2)。今回著者らは,脊柱管内への進展や骨破壊を示さず,脊柱管外へ発育して頸部腫瘤が主症状となった稀な頸髄神経鞘腫症例を経験したので報告する。

耳下腺salivary duct carcinomaの1手術例

著者: 松浦徹 ,   石永一 ,   加藤昭彦 ,   山田弘之

ページ範囲:P.450 - P.453

 緒言
 耳下腺に発生する腫瘍は多形腺腫を始めとした良性腫瘍が多く,1施設で悪性腫瘍を扱う機会はそれほど多いとはいえない。またその組織型は多岐に分かれるため,1つの組織型癌を治療する機会は1施設でもそれほど多くはない。1991年に改訂されたWHOの組織分類では耳下腺悪性腫瘍は腺様嚢胞癌,粘表皮癌,腺房細胞癌,多形腺腫由来の癌,扁平上皮癌,腺扁平上皮癌,未分化癌,腺癌に分けられた従来の分類以外にさらに細分化されている。
 1968年にKleinsasserら1)によって初めて報告された乳腺の導管癌に類似するsalivary duct carcinomaは,1991年のWHOの組織分類改訂では腺癌から独立した稀な疾患である。

鼓室型グロームス腫瘍の1例

著者: 加藤幸子 ,   小川克二 ,   井口芳明 ,   山本一博

ページ範囲:P.454 - P.457

 はじめに
 グロームス腫瘍はその発生部位により鼓室型と頸静脈球型に分類され,そのうち鼓室型は自験例を含め29例が報告されている。グロームス腫瘍は組織学的には良性である。しかし浸潤性に発育し,臨床的には悪性と考えられる。手術に際しては,腫瘍が血管に富むため術中の出血が問題となる。今回われわれはレーザーを用いた手術治療を行い,少量の術中出血で腫瘍を摘出した。術後放射線照射も併用し,予後良好な経過を示したので文献的考察を加え報告する。

下咽頭・頸部食道癌における有茎空腸を用いた食道再建の経験

著者: 片橋立秋 ,   山田滋 ,   渡辺一男 ,   小村健 ,   竹内洋介 ,   鈴木晴彦 ,   嶋田文之

ページ範囲:P.458 - P.463

 はじめに
 近年,下咽頭・頸部食道癌切除後の再建は,微小血管吻合術を用いた前腕皮弁,空腸などの遊離組織移植が主流となっている1,2)。一方,下咽頭・頸部食道癌は腫瘍の下方への直接進展や胸部食道癌の合併などにより食道抜去の適応となることも多い。再建材料として多くは胃管が用いられるが,既に胃切除が行われていたり,胃病変を合併する場合,胃管を用いることができず,再建臓器に苦慮することがある。最近,われわれはそのような症例2例に対して有茎空腸を用いた食道再建を行ったので,その経過,問題点について若干の検討を加えて報告する。

術前術後に自発眼振を認めた真珠腫性中耳炎による迷路瘻孔症例

著者: 鈴木光也 ,   加我君孝

ページ範囲:P.464 - P.468

 はじめに
 迷路瘻孔は,真珠腫性中耳炎の重大な合併症の1つである。迷路瘻孔存在例では末梢前庭機能は高度に低下しやすく,ENGで自発眼振が記録されることも多いが,一般的には手術を契機にめまいおよび自発眼振は消退すると考えられている1,2)。今回われわれは,迷路瘻孔に対する瘻孔閉鎖手術によりめまいが完全に消失したにもかかわらず,3年以上にわたりENG検査で自発眼振のみが記録された症例を報告する。

ダウン症児に発生したBezold膿瘍の1例

著者: 脇坂浩之 ,   小林丈二 ,   上甲英生 ,   佐伯忠彦

ページ範囲:P.470 - P.474

 はじめに
 近年,抗生剤の開発と進歩によりBezold膿瘍に遭遇する機会は稀になっている。しかし,本疾患は治療の時期を逸すると致命的になる恐れもあり,現在でも慎重に対処すべき疾患といえる。今回われわれは,急性上気道炎を契機に乳様突起炎が急性増悪しBezold膿瘍を形成したと考えられるダウン症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

ゲンタマイシン鼓室内注入による内リンパ水腫の治療

著者: 結縁晃治 ,   藤本政明 ,   赤木博文 ,   西崎和則 ,   増田游

ページ範囲:P.481 - P.485

 はじめに
 メニエール病の治療としては,利尿剤や内耳・脳循環改善剤などの内服が一般的に行われている。しかし,これらの治療に反応せずめまい発作を繰り返す症例も少なくはない。
 これらの症例に対しては,内リンパ嚢減荷術や迷路破壊術,前庭神経切断術などの手術治療も行われている1)。また耳毒性をもつアミノ配糖体系抗生剤の投与も行われてきた2)。今回われわれは,Nedzelskiらの方法3)およびMagnussonらの方法4)を参考に,ゲンタマイシン鼓室内注入による片側性内リンパ水腫症例の治療を試み,比較検討したので報告する。

甲状腺癌二次治療例の検討

著者: 石永一 ,   山田哲生 ,   加藤昭彦 ,   山田弘之

ページ範囲:P.486 - P.489

 緒言
 甲状腺癌の大多数を占める分化癌は一般的には極めて良好な経過をたどり,ヒト癌中最悪といわれる甲状腺未分化癌と対極に位置する。実際に,再発をきたしても救済手術が可能なことが多い。
 この癌の生物学的特殊性1)に加え,比較的若い女性に発生することを考慮し,より侵襲の少ない手術で十分であるとする考え2,3)があるが,一方で再発を繰り返すうちに生物学的悪性度が変化し,結果として不幸な転帰をたどる症例も少なからず認められるため,一次手術において積極的な拡大治癒手術を求める意見4,5)もある。
 このように,甲状腺分化癌の一次治療法に関しては未だ施設間で相違があり,一定の方針が確立していないのが現状である。必要最小限で,かつ適切な手術術式は何かを見出すために,当科において経験した再発甲状腺癌に対する二次治療例を検討した。

血液透析患者における甲状腺疾患の発症頻度—甲状腺超音波検査による検討

著者: 樋口栄作 ,   飯塚桂司 ,   庄田英明 ,   武市紀人 ,   大渡隆一郎 ,   榊原尚行 ,   久島貞一

ページ範囲:P.491 - P.495

 はじめに
 慢性腎不全患者は潜在的な甲状腺機能低下状態にあるといわれており1,2),その原因として末梢におけるT3からT4への転換障害や,様々なレベルでのフィードバッグ障害などが挙げられている2)。われわれは腎不全患者における甲状腺の内分泌異常が,甲状腺の形態に少なからぬ影響を与えているのではないかと推測し,透析患者の甲状腺について超音波検査を行い,コントロールと比較,検討した。コントロールには,腎疾患や甲状腺疾患の既往のない耳鼻咽喉科疾患の患者と健常人を合わせた100例を用いた。なお,今回の検討では,全症例について甲状腺超音波検査を行う際に検査の目的を説明し,了解を得てから検査を行った。透析患者だけに対象を絞った甲状腺の超音波検査の報告は,過去に幾つか認められるが3,4),透析患者とコントロールを同時に同一施設で検討したのはわれわれが初めてであり,透析群とコントロールの甲状腺の疾患頻度について文献的考察を加えて報告する。

腕頭動脈蛇行症の1症例

著者: 鈴木秀明 ,   菅原充 ,   上之原広司

ページ範囲:P.496 - P.498

 はじめに
 血管性の頸部腫瘤には血管腫,動静脈奇形,動脈瘤,頸動脈小体腫瘍に加えて,稀ではあるが動脈蛇行症の報告が散見される1〜5)。これらの血管性病変に対して穿刺細胞診を安易に行うことは危険であり,触診や各種画像診断により確定診断をする必要がある。頸部動脈蛇行症で最も多いのは総頸動脈または内頸動脈に発生するものであるが,これに対して,鎖骨下動脈,腕頭動脈のものは極めて報告例が少ない。今回われわれは腕頭動脈蛇行症の1例を経験したので,本疾患における各種画像診断の長所・短所についての考察を含めて報告する。

鏡下咡語

匂いとの出会いの学会

著者: 大山勝

ページ範囲:P.478 - P.479

 昨年(1996年)師走の6日に,関西空港を発ちフランクルトに向かった。第1回国際鼻内レーザー外科学会でメインゲストスピーカーの一人として招かれ講演するためであった。本会の創立者の張本人であり会長でもあるH.Lenz教授とは,30年前に繊毛上皮や嗅細胞の走査電顕的研究で知り合い,1979年,京都で開催した国際SEM医学・生物学シンポジウムに招聘した経緯がある。したがって,Lenz教授といえば,Essen大学解剖学のBreipol教授と共に嗅細胞のSEM研究者としての印象しかなかった。ところが,1978年頃からすでに,世界に先馳けて,アルゴンレーザーによる肥厚性鼻炎に対する下鼻甲介レーザー切除術と取り組み,鼻科臨床へ華麗な転身をみせていたのだ。したがって,昨年初夏,Lenz教授に本学会の創立協力と招待講演を依頼された折には,基礎,臨床の両分野で共通の興味を抱いている者同志として一も二もなく承諾した。しかも,第1回の開催地がKöln市とあっては,なおさらである。このケルン市の名は,紀元4世紀頃,ローマ帝国の植民地であったことから,Coroniaの名に発しているといわれる。しかし,今日では,eau de cologne発祥のRhine cologneとしての名の方が有名になっている。とくに,ケルン市には,世界的に有名なブランド名“4711”というオーデコロンがあり,その名前もそうであるが由来を聞いて驚いた。このオーデコロンの発祥の由来は,1792年,Carthusianの僧が,若いカップルの結婚祝いに,気分を一新し精気をよみがえらせる“神秘的水”“aqua mirabilis産物”として贈ったのが始まりとされている。ところが,1796年にフランス軍にケルン市が占領された折,市内の街並に番地を付けることが義務づけられて,創始者Wil-helm Mulhen家は4711番地となったいわれがある。そこで,1875年オリジナルオーデコロン“神秘的水”に“4711”の名を付して今日のトレードマークとなったという。この“4711”は,植物の芳醸な香りがして万人に受け入れられる匂いである。しかし,この高貴な成分は,現在に至ってもなお神秘の扉に閉ざされている。爽快感,清新感を覚えることから,シトラス系の匂いのようである。ヨーロッパはいうに及ばず世界各地から“4711”を求めて当地を訪れる人が多い。家内もケルン大学耳鼻咽喉科のO.Michael助教授の奥様,美智子さんの案内で同店舗を訪れた。ここの一角には,ミュージアムもあり,200年以上を経た“4711”オリジナルオーデコロンが収蔵され,休息のあい間には“4711”泉水でリフレッシュできるとの話であった。
 さて,本来の目的である学術講演会の方は,米国のLevine博士を始め,フランス,ロシア,オーストリア,クロアチア,英国,イタリア,スイスなどヨーロッパの鼻科レーザー外科のエキスパートが一堂に会して行われた。全体の参加者は,100名足らずと少なかったが,内容的には最先端の課題が討議され,実りあるものであった。日本からは,関西医大関連病院の福武博士が招かれて,鼻アレルギーに対する炭酸ガスレーザーによる下鼻甲介粘膜蒸散術の講演を行った。小生は,口演の方では「鼻アレルギーに対するバルンレーザーミア」を,また,ビデオでは「レーザー鼻茸摘除術と嗅覚機能」と題して,それぞれ特別講演を行った。われわれが開発した接触型Nd:YAGレーザー鼻茸摘除術の手技と臨床成績,および日帰り手術の一環としての炭酸ガスレーザー鼻茸分割蒸散術の効用をビデオで供覧した。また,これらレーザー手術による嗅覚機能への影響を各種の嗅覚検査で追求した成績を披露した。これらの中で,日本鼻科学会嗅覚検査検討委員会が中心になって新たに開発した嗅素噴射型T&T基準嗅覚検査法の特徴と有用性のくだりは,聴衆の関心と興味を惹いたようであった。講演会終了後に,Lenz教授,クロアチアの友人を始めロシア,オーストリアの講演者からいろいろと質問を受けると同時に“匂い”の医学・生物学などを中心に,しばし楽しい話題に花が咲いた。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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