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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科70巻10号

1998年09月発行

雑誌目次

トピックス 頭頸部癌—私の治療方針と成績(その2) 3.上咽頭癌stage IV症例

①慶應義塾大学病院・静岡赤十字病院の場合

著者: 徳丸裕 ,   藤井正人 ,   行木英生

ページ範囲:P.631 - P.637

 はじめに
 上咽頭癌は,その発生部位の解剖学的特徴から早期診断が困難であることが多く,また早期より頸部転移や遠隔転移をきたしやすいため,初診時にはすでに病期が進行していることが多いのが現状である。そのため,頭頸部領域の悪性腫瘍の中でも予後不良のものの1つとなっている。また,治療としては放射線に対する感受性が高いことから,従来より放射線治療が中心的な役割を果たしてきた。しかし,照射終了直後は腫瘍が消失しても,その後の局所および頸部リンパ節での再発や遠隔転移が多く,放射線による局所治療のみでは限界があると考えられる。当教室では,1982年から遠隔転移の予防,局所再発の防止を目的として化学療法を放射線療法に先行させて併用するneo-adjuvant chemotherapy (以下,NACと略)を積極的に行ってきた1,2)
 今回われわれは,当科にて加療した上咽頭癌一次症例のうち,stage IV症例について治療方針の変遷および治療成績を検討し,その結果をふまえ現在のわれわれの治療方針を示す。

②癌研究会附属病院における上咽頭癌stage IVの治療法と成績

著者: 鎌田信悦

ページ範囲:P.638 - P.644

 はじめに
 上咽頭癌は放射線感受性が比較的高く,これまでの標準的な治療法として放射線照射が第1選択として用いられてきた。しかし,stage IIIまでの原発巣と頸部リンパ節転移の制御率には満足し得る結果が得られるものの,T4およびN3の放射線制御率は決して満足できるものではなかった1,2)。また,遠隔転移率が高い上咽頭癌において局所療法である放射線治療は自ずと限界があった3)。これらの限界を打ち破るために,化学療法が様々な形で用いられ,それなりの成果を上げてきている。特にシスプラチンが頭頸部癌の治療に用いられて以来,化学療法の奏効率が向上し,併用療法の成果が出ている。化学療法を併用する方法には,放射線照射に先立って化学療法を行うinductionchemotherapy,放射線と同時期に投与するcon-current chemoradiotherapy,照射後に行うad-juvant chemotherapyがある。この中で,ad-juvant chemotherapyは上咽頭癌の遠隔転移抑制効果が証明されている4,5)
 上咽頭癌の新分類stage IVは放射線治療で難治性のものと考えて間違いはない(表1)。舌癌や下咽頭癌のリンパ節転移が放射線抵抗性であるのに対し,上咽頭癌の頸部リンパ節転移は放射線感受性が高く6cmを超えるN3が放射線照射で消失することは珍しくはない。とはいうものの,やはり難治性であることには違いはなく,化学療法や手術の併用で治療効果向上の努力がなされている。

4.頸部転移を有する中咽頭癌

①関西医科大学病院の場合

著者: 熊澤博文 ,   辻裕之 ,   蔦佳尚 ,   南野雅之 ,   立川拓也 ,   井上俊哉 ,   南豊彦 ,   山下敏夫

ページ範囲:P.647 - P.651

 はじめに
 現在の中咽頭癌の治療として,放射線治療と手術治療に大別され,化学療法が補足的治療として位置づけされる。解剖学的に複雑な中咽頭に発生した腫瘍は,その発生した各部位や組織型により治療内容の選択に差違があることが指摘されている。さらに,放射線治療後での味覚障害,口内乾燥が出現することや手術治療後には嚥下障害,構音障害などの機能障害を伴うことが多く,癌根治性の追求と治療後の機能障害発現の回避の観点から,各治療方法を選択する際に論議となることが多い。これらの理由で,本邦においていまだ確立された治療指針がなく,各施設において種々の治療内容が存在するものと考えられる。当科においても,今日まで中咽頭扁平上皮癌症例に対して行ってきた過去の治療内容とその成績を検討することで治療方針の変更を適宜行ってきた。
 本稿では当科における治療成績を述べるとともに,中咽頭癌に多い頸部リンパ節転移を伴う病期分類III期とIV期の側壁型進行癌に対し,当科で行われている最近の治療内容についても言及し報告する。

②高知医科大学病院の場合

著者: 岸本誠司

ページ範囲:P.653 - P.657

 はじめに
 中咽頭癌に対する治療方針を決定する場合,原発巣の制御と同時に,6〜70%と高頻度に出現する頸部リンパ節転移1,2)に対する制御も考慮に入れ,両者の治療をどのように組み合わせて行うかを検討することが重要となってくる。
 本稿では,過去11年間に高知医科大学において加療した中咽頭扁平上皮癌新鮮例65例を対象として,頸部リンパ節に対する治療法およびその成績を中心に検討し,リンパ節転移に対する適切な治療法の選択について考察を加える。

目でみる耳鼻咽喉科

茎状突起超過長症の1例

著者: 島津薫 ,   毛利学 ,   鎌田守人 ,   谷泰一郎

ページ範囲:P.628 - P.629

 茎状突起は平均25〜35mmで,5〜10%に延長する例があるといわれており,過長により咽喉頭異常感,嚥下痛,耳痛,耳管閉塞感,肩こり,頭重感など種々雑多な症状を訴えることは周知の事項である。われわれは先端が舌骨に近接する超過長を示す茎状突起過長症を経験したので報告する。

原著

副鼻腔手術後のtoxic shock syndromeの1症例

著者: 渡邉幸二郎 ,   池田勝久 ,   川瀬哲明 ,   大島猛史 ,   鈴木直弘 ,   舘田勝 ,   中塚滋 ,   熊谷正樹 ,   髙坂知節 ,   武山実

ページ範囲:P.659 - P.662

 はじめに
 Toxic shock syndrome (以下,TSSと略)は1978年にToddら1)によって初めて報告された症候群で,発疹,血圧低下,発熱などの主症状と下痢,筋肉痛,粘膜発赤,意識障害などの多彩な副症状を呈する疾患であり,重症例では致死的となることもある。欧米では鼻副鼻腔手術後に発症した報告も多く2〜7),本邦においても副鼻腔手術後に発症した症例が数例報告されている8〜10)。現在まで本症の確定診断に有力な手段がなく,発生頻度は潜在的に多いことが推察される。
 われわれはTSSと思われる1例を経験したので,その臨床経過とともに診断法について,文献的考察を加えて報告する。

猫ひっかき病の2症例

著者: 小桜謙一 ,   松本州司 ,   宮崎純一

ページ範囲:P.663 - P.667

 はじめに
 頭頸部領域のリンパ節腫脹をきたす疾患は種々あるが,急性感染症状に乏しく,また持続するリンパ節腫脹は悪性腫瘍との鑑別に苦慮することが多く,確定診断のために生検を余儀なくされることがある。猫ひっかき病は,猫との接触の後に局所リンパ節腫脹をきたす疾患で,リンパ節腫脹は腋下,頭頸部領域に多いとされる1,2)。猫ひっかき病は現在確立した診断法がなく,原因不明の頭頸部リンパ節腫脹をみた場合に同疾患を鑑別疾患の1つとして考慮する必要がある3〜5)。今回われわれは,リンパ節生検で病理組織中に桿菌が証明された猫ひっかき病2例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

喉頭に原発した腺様嚢胞癌の1例

著者: 竹内洋介 ,   鈴木晴彦 ,   小村健 ,   重原岳雄 ,   山下知巳 ,   嶋田文之

ページ範囲:P.669 - P.673

 はじめに
 腺様嚢胞癌は唾液腺に好発するが,喉頭における発生は比較的稀である。最近われわれは,最終的な診断確定までに長期を要した喉頭原発の腺様嚢胞癌の1例を経験したので,その発生頻度,診断および治療法,予後などについて,文献的な考察を加えて報告する。

治療に難渋した術後性下咽頭狭窄の1例

著者: 山里将司 ,   又吉重光 ,   真栄田裕行 ,   楠見彰

ページ範囲:P.675 - P.678

 はじめに
 下咽頭や頸部食道の悪性腫瘍手術では,腫瘍も含めた広範な切除および一期的再建は日常的に行われており,良好な予後を得ている。しかし,術後かなりの年月を経た後,新たに下咽頭や頸部食道の瘢痕性狭窄をきたすことも稀ではない。その場合,たいていは保存的治療が効を奏すことが多いが,根治には至らないこともある。
 今回われわれは,術後11年目に大胸筋皮弁を用いて瘢痕性下咽頭狭窄部を再建し,良好な結果を得た1例を経験したので,症例の詳細な経過とともに文献的考察を加えて報告する。

小児顎下腺多形腺腫の1例

著者: 日下貴文 ,   飯島三佳 ,   小室広昭 ,   牧野駿一

ページ範囲:P.683 - P.686

 はじめに
 唾液腺に発生する多形腺腫の報告は,これまで数多くなされているが,小児期に発生するものは極めて稀である。今回われわれは,穿刺吸引細胞診で術前診断が可能であった小児顎下腺多形腺腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

鼻腔神経鞘腫の1例

著者: 野宮重信 ,   江谷勉 ,   服部謙志 ,   小田幸江 ,   山本貴義 ,   赤木博文 ,   西崎和則

ページ範囲:P.687 - P.690

 はじめに
 神経鞘腫は身体のあらゆる部位に発生する可能性があるが,術前の確定診断は得られにくく,組織学的検査が重要である。また,治療は外科的切除のみであり,完全に摘出しなければ再発を繰り返したり,悪性化の経過をたどることもあるため十分な注意が必要である1,2)。耳鼻咽喉科領域では聴神経に発生しやすく,鼻副鼻腔の神経鞘腫に遭遇することは少ない。今回われわれは,鼻腔原発の神経鞘腫症例を経験したので報告する。

頸部Castleman病の1症例

著者: 池田陽一 ,   佃守 ,   持松いづみ ,   榎本浩幸 ,   名古屋孝夫 ,   山岡秀之 ,   関彰彦

ページ範囲:P.693 - P.696

 はじめに
 Castleman病は胸腺腫に類似した組織像をもち縦隔に好発する,耳鼻咽喉科医にとって比較的稀な疾患である。今回われわれは,頸部に孤立性に発生したCastleman病の1症例を経験したので報告する。

鏡下咡語

ある患者さんの鼻副鼻腔炎の手術について

著者: 足川力雄

ページ範囲:P.680 - P.682

 I.はじめに
 医師になり46年,耳鼻咽喉科領域のうちの鼻副鼻腔の臨床解剖学に主力をおいてから43年間が経過した。
 その間,数多くの患者さんに接したが,その中で印象深く忘れ難い方について,20年を経過したので本稿を借りて記述させて戴くこととする。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 2.検査のコツ

③アレルギー検査のコツ

著者: 島田均 ,   馬場廣太郎

ページ範囲:P.697 - P.702

 はじめに
 鼻アレルギー患者の多くは「鼻アレルギー(花粉症)は治らない」という諦めをもっている。自然治癒を含め,減感作などの治療により鼻アレルギーの症状が消失し,内服薬などを用いた医療から解放された状態になることを治癒とすれば,確かにその数は少ない。また,治るという風説があれば,民間療法でも遠方より患者が集まるのも現実であり,患者の健康被害が生じたり,また水面下のトラブルも多いようである。年々増加し,難治化,重症化傾向があるといわれる本疾患に対し,適切な診断,治療を行うために日本アレルギー学会では「鼻アレルギー(含花粉症)の診断と治療」のガイドラインを設定している1)。このガイドラインには特に拘束力はないが,不適切な診断,治療が行われ,かつ患者の健康に不利益が生じた場合には,損害に対する責任の判断基準の1つとなる可能性がある。
 ここでのテーマは,アレルギー検査のコツであるが,極論すれば施行する検査が患者の治療上必要かどうかである。患者と医師との良好な関係をつくっていくためには,医師は検査の意義,必要性,方法,結果の示す意味を患者に正確に,かつ,わかりやすく伝える必要がある。患者が病気を理解し医師を信頼してはじめて,生活全般にわたる改善や,治療に対しての意欲がもてる。治療が長期にわたる可能性がある本疾患では,ときに「治らない」という諦めからの脱落症例があり,われわれはこれらの症例を減らすために,患者に希望,目標を与え,根気よく治療が受けられるよう指導をしなければならない。技術的な検査のコツよりも検査のタイミングと検査の選択,患者指導への応用こそがアレルギー検査のポイントといえる。ガイドラインに掲げる目標「症状を抑え,長期寛解を維持し,患者の医療からの解放を目指す」の達成のために必要な治療計画と治療経過上の判断材料である検査に関して,その意義,選択のコツについて述べる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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