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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科70巻11号

1998年10月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

第一鰓裂性瘻孔の1症例

著者: 桜井幹士 ,   今中政支 ,   愛宕利英 ,   山本祐三 ,   竹中洋

ページ範囲:P.710 - P.711

 第一鰓裂由来の奇形は,第二鰓裂由来の瘻孔,嚢胞と比べて比較的稀とされている。多くは瘻孔や嚢腫の形態をとり,感染を繰り返し,外来の治療に抵抗し,手術が必要となる。しかし,表在性病変からだけでは先天性嚢胞性疾患の鑑別は容易ではなく,手術に際しても十分な配慮が要求される。われわれは長期間の経過を経た第一鰓裂性瘻孔の1例を経験したので報告する。
 症例は25歳,女性。幼少時より左外耳道に裂孔を認め,その部位に感染を繰り返していた。保存的治療によって軽快していたが,平成9年6月頃より左下顎角部の発赤腫脹と排膿を認めるようになった。同年7月5日当科を受診し抗生剤の点滴と局所処置を行ったが完治せず,瘻孔の状態から第1鰓裂由来のものと考え,平成10年2月5日根治的手術の目的で入院した。なお,既往歴や家族歴に特記すべきことはない。

Current Article

上気道粘膜免疫研究の展望—中耳炎予防ワクチンの開発に向けて

著者: 黒野祐一 ,   鈴木正志 ,   茂木五郎

ページ範囲:P.713 - P.721

 はじめに
 中耳炎の発症頻度は今日でもなお高く,急性中耳炎は生後1年目の後半から多くなり,3歳までに過半数の小児が少なくとも一度は罹患するといわれる1)。滲出性中耳炎も4〜6歳の小児に好発する2)。これらの中耳炎,特に急性中耳炎の起炎菌の多くは抗生剤に感受性があり,現在でもその治療に様々な薬剤が用いられている。しかし近年,β-ラクタマーゼ産生インフルエンザ菌に加えて,ペニシリン低感受性,さらにはペニシリン耐性肺炎球菌など多くの耐性菌が検出されるようになり,大きな問題となっている。また,米国ではこうした中耳炎治療に要する年間医療費が20億ドルを超えるといわれ,医療経済の面からもワクチン療法の開発など予防法の確立が急務とされている。
 本稿では中耳を含む上気道における細菌抗原に対する免疫応答,中でも最近注目されている粘膜免疫応答に関するこれまでのわれわれの研究成績をまとめ,中耳炎に対する経口ワクチンあるいは経鼻ワクチンなど粘膜ワクチン療法の展望について述べてみたい。

原著

ハウスダスト鼻アレルギーの減感作療法における増量法についての検討

著者: 横島一彦 ,   山岸茂夫 ,   後藤穣 ,   大久保公裕 ,   奥田稔 ,   八木聰明

ページ範囲:P.722 - P.727

 はじめに
 鼻アレルギーの治療では,減感作療法が重要な位置を占めている1)。特に通年的に症状が発現し,減感作療法の効果が他の抗原に比してより確実に期待できるハウスダスト(HD)鼻アレルギー1)に対して,われわれは約80%の症例に減感作療法を施行している2)。しかし,それに要する時間的負担と注射の疼痛は,実際の減感作療法施行上,障害になり途中脱落する場合が少なくない。
 われわれは1979年4月〜1994年6月までは,鳥居薬品社製HDエキスの添付文書に従い,週2回の注射で皮内反応閾値濃度から7回(0.05,0.07,0.1,0.15,0.2,0.3,0.5ml)で10倍高濃度にする方法(50%増量法)で減感作療法を施行してきた。しかし,患者側からの注射回数節減の要望も強く,HD鼻アレルギーに対する減感作療法は危険性が少ないこと3,4)を考えあわせ,1994年7月からは,週1回の注射で皮内反応閾値濃度から3回(0.1,0.3,0.5ml)で10倍高濃度にする方法(100〜200%増量法)(表1)で減感作療法を施行している4)。この方法では注射回数,通院回数がともに少なく,患者側の負担が大幅に軽減すると考えられる。
 本報告では100〜200%増量法と50%増量法を治療効果,危険性について比較検討し,今後の減感作療法について考察した。

蝶形骨洞炎が波及したと思われた内頸動脈海綿静脈洞部細菌性脳動脈瘤の1症例

著者: 伊藤光成 ,   松浦由美子 ,   星野知之

ページ範囲:P.729 - P.732

 はじめに
 脳血管に発生した細菌性動脈瘤の中でも,内頸動脈海綿静脈洞部に発生したものは比較的稀とされている1,2)。われわれは,蝶形骨洞炎に続発し海綿静脈洞症候群を呈し,脳血管撮影により同部の内頸動脈に動脈瘤を認め細菌性脳動脈瘤と診断した1例を経験したので報告する。

鼻尖部に発生したメルケル細胞癌の1例

著者: 武田靖志 ,   西崎和則 ,   赤木博文 ,   小川晃弘 ,   守都常晴 ,   橋本訓招 ,   能登原憲司 ,   岡田茂

ページ範囲:P.734 - P.737

 はじめに
 メルケル細胞癌は1972年にToker1)によりtrabecular carcinomaと名づけられた皮膚に起こる未分化癌の一種である。本邦でも1981年のIwasakiら2)の報告以後約120例の報告がある。Tangら3)が電子顕微鏡で腫瘍細胞の細胞質内に神経分泌顆粒(有芯顆粒)を見いだし,メルケル細胞由来説が提唱された。メルケル細胞はAPUD(amine precursor uptake and decarboxylation)系細胞に属する細胞で,表皮および外毛根鞘基底層に存在する知覚神経の終末小体と考えられているが,その起源および機能については不明な点が多い4)。治療法は外科的切除が優先され,放射線治療は補助的に施行されることが多い。われわれは,鼻尖部に発生したメルケル細胞癌の1例に対して,放射線治療を行い良好な成績を得たので,文献的考察を加えて報告する。

長期間のバルサルバ法により発症した気脳症症例

著者: 卜部吉博 ,   秋定健 ,   宇野雅子 ,   東川康彦 ,   竹本琢司 ,   折田洋造

ページ範囲:P.738 - P.741

 はじめに
 バルサルバ法は,18世紀初頭イタリア人のバルサルバにより提唱されて以来,現在自己通気として最も知られており,滲出性中耳炎の治療として奨励している施設がある。今回われわれは,滲出性中耳炎にて近医で耳管カテーテル通気を施行されていたが,その後バルサルバ法を長期続けた結果,眼窩,頭蓋内に気腫が発生して眼球突出,複視が出現した症例を経験した。カテーテル通気により粘膜下気腫を起こすことは時にあるが,バルサルバ法で頭蓋内まで至る気腫が発生した例は極めて稀と思われたので,若干の考察を加え報告する。

ダリエー病患者に発症した巨大耳下腺腫瘍が疑われた慢性耳下腺炎の1例

著者: 菅田研一 ,   小坂道也 ,   赤木博文 ,   福島邦博 ,   小田幸江 ,   土井彰 ,   西崎和則

ページ範囲:P.743 - P.746

 はじめに
 ダリエー病は異常角化によって脂漏部位に角化丘疹を多発する常染色体優性遺伝性皮膚疾患であり,発生頻度はおよそ10万人に1人とされている1)。病理学的には異常角化と,棘融解を特徴とした円形体や表皮内裂隙形成といった所見を示す1)。本疾患では極めて稀に慢性唾液腺炎やシェーグレン症候群などの唾液腺疾患を伴うことがあるとされている2〜6)。われわれは,ダリエー病に合併した慢性耳下腺炎により,巨大な耳下腺腫瘤を形成した1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

咽頭痛が主訴であった狭心症の1症例

著者: 岩崎幸司 ,   種田泉 ,   宇佐神篤 ,   野々川信 ,   井上喜久男

ページ範囲:P.747 - P.749

 はじめに
 耳鼻咽喉科において咽頭痛は日常よく遭遇する症状である。その原因としては炎症が最も多く,悪性腫瘍にも注意する必要がある。また,その他に鑑別すべき疾患として虚血性心疾患や頸椎の病変がある。今回われわれは,当院において咽頭痛を主訴に耳鼻咽喉科を受診した狭心症の症例を経験したので報告する。

硬口蓋の巨大な鼻口蓋管嚢胞の1症例

著者: 松吉秀武 ,   渡利昭彦 ,   佐藤祐司 ,   杉本卓矢 ,   牧嶋和見 ,   橋本洋

ページ範囲:P.751 - P.754

 はじめに
 鼻口蓋管嚢胞は,胎生期に存在するとされる鼻口蓋管の残存上皮より形成される顎骨内嚢胞である。今回われわれは,硬口蓋の巨大な鼻口蓋管嚢胞の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

放射線治療が著効した軟部好酸球肉芽腫症例

著者: 秋定健 ,   折田洋造 ,   吉弘剛 ,   河合晃充 ,   今城吉成 ,   平塚純一 ,   広川満良

ページ範囲:P.757 - P.760

 はじめに
 軟部好酸球肉芽腫は最初の報告者の名にちなんで木村病と呼ばれ1),耳下腺部や顎下腺部の皮下軟部組織に腫瘤を形成する疾患である。日本人をはじめアジア人に多く,青壮年男子に好発する。慢性に経過する無痛性の皮下腫瘤で,好酸球増多や血清IgEの上昇を伴い,アレルギー疾患の合併が多い2)。これらの臨床所見や病理学的所見からも診断は容易であるが,治療は薬物療法,外科的治療,放射線療法を単独や併用で行うが再発も多いとされている2)。今回われわれは,放射線療法と短期間のステロイド剤の併用が著効した軟部好酸球肉芽腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

口蓋垂軟口蓋咽頭形成術後に咽頭側壁膿瘍をきたした1例

著者: 宇野芳史

ページ範囲:P.769 - P.771

 はじめに
 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(以下,UPPPと略)は,閉塞型の睡眠時無呼吸症候群の手術療法として広く行われている1)。UPPPの術後合併症として現在までに報告されているものは,術直後には創部からの出血,創部の感染,気道閉塞が,遅発性の合併症としては鼻咽腔閉鎖不全,鼻咽腔狭窄,創部からの出血がある2〜6)。しかし,術後数か月してから術創部,特に咽頭側壁に膿瘍を形成したという報告はみられない。今回他院にて,睡眠時無呼吸症候群の治療としてUPPPを施行された後,咽頭側壁に膿瘍形成を反復した1例を経験したので,特にその感染経路について検討を行い報告する。

鏡下咡語

久保猪之吉先生史話雑感—術後性頬部嚢腫/久保猪について

著者: 曽田豊二

ページ範囲:P.762 - P.765

 1.eponymという名誉を得た疾患はあまり多くありません。
 日本ですぐ想い出されるのは大正元年(1912)に橋本索(はかる)博士(九大・第一外科学出身)がLangenbeck's Archiv für Chirurgie誌上に発表した“Struma lymphomatosa:リンパ性甲状腺腫”についての論文が得た評価です。これは後に所謂「橋本病:Hashimoto's Disease」としてよく知られているものです。

医療ガイドライン

皮膚縫合創に対するフィルム・ドレッシング材の使用例

著者: 熊谷重城

ページ範囲:P.772 - P.775

 縫合創の新しい処置法
 術後の皮膚縫合創の処置は抜糸まで連日のように消毒を行い,創を被覆するガーゼを交換するのが一般的である。しかし,この処置法に対して最近では疑問が投げられている1)
 近年創傷被覆材としての新素材が開発され,主に外科領域を中心にこれらを縫合創に使用した例が報告されるようになった2,3)。今回筆者は耳鼻咽喉科領域の術後にフィルム・ドレッシング材(オプサイトウンド:以下,オプサイトと略)を使用しその有用性を検討したので報告する。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 2.検査のコツ

④鼻腔通気度検査のコツ

著者: 海野徳二 ,   野中聡

ページ範囲:P.777 - P.782

 はじめに
 「コツ」とは物事を行う際に,どのようにすればうまくできるか,あるいは効率よくできるか,などの意味がある。鼻腔通気度検査は学会認定研修施設の常備品の指定もあり,JISも制定され1),関連論文も多数発表されており2),今更コツを云々する問題ではないと思う。しかし,測定器は持っているがほとんど使ったことのない施設は意外に多い。また,ある薬品の治験で鼻腔通気度を検査した際には,その何パーセントかに判定不能な成績が混じっていた。
 昨年発行の日耳鼻専門医通信の中で,pitfallsとして書いたものがある3)。鼻の通り具合くらいは器械を使って測定しなくても判る,と思われても困るし,測定した値は100%信頼に値すると考えられても困ることを述べた。手技上のコツではなくて,測定をどのように利用するかにコツがある。そこで,最初に測定方法について述べ,次にpit-fallsにも触れてみたい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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