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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科70巻12号

1998年11月発行

雑誌目次

トピックス 頭頸部癌—私の治療方針と成績(その3) 5.声帯癌T3症例の保存的治療

①北里大学病院の場合

著者: 中山明仁 ,   髙橋廣臣

ページ範囲:P.793 - P.797

 はじめに
 喉頭癌は頭頸部領域で最も予後の良好な癌である。今日では常識となったこの概念は先人の努力の積み重ねなくしては語ることができない。1854年に喉頭鏡が発見されたのを初めに,喉頭全摘術の開発,X線の発見,抗生物質の発見,頸部郭清術の開発などに代表される出来事がわずか百年あまりの間に,喉頭癌を最も恐れられた疾患から最も治療法が確立した頭頸部悪性腫瘍へと変化させた。
 今日,T1やT2の早期声帯癌は放射線を中心とした治療で,どの施設でも比較的安定した制御率が得られるようになった。症例数はさほど多くないが,T4の進行声帯癌に関しては頸部リンパ節転移や遠隔転移の存在と絡んで依然制御が困難な場合が多い。T3声帯癌に関しては他の頭頸部癌と異なり,進行癌でありながら頸部リンパ節や遠隔転移を起こしにくく,原発巣の制御自体が予後を左右する重要な因子となる。

②北海道大学病院の場合

著者: 犬山征夫 ,   福田諭 ,   古田康 ,   本間明宏 ,   白土博樹

ページ範囲:P.799 - P.804

 I.放射線治療とcarboplatinの同時併用療法について
 北海道大学病院耳鼻咽喉科では,放射線科との共同研究として1990年11月から放射線治療とcarboplatin (CBDCA)の同時併用療法を試みている。その主たる目的は,1) stage I,II症例の局所制御率を改善する,2) stage III,IV症例における遠隔成績の改善および臓器・機能の温存率を改善することである。当初,本治療法の対象は声門癌(T1NO)および悪性リンパ腫を除く全例としたが,今回の解析は扁平上皮癌症例のみとした。また除外基準として,PS≧3,白血球数<3,500/cmm,血小板<80,000/cmm,sCr>2.0mg/dl,BUN>30mg/dlとした。
 治療法のスケジュールは図1に示す通りである。すなわち照射は2.5Gy/日/f,週4回(月,火,木,金)で10Gy/週,総線量60〜70Gyである。一方,CBDCAは100mg/m2/日iv/30minで照射の1時間前に投与する。総投与量は700mg/m2となる。CBDCA+放射線治療の同時併用例は,原則として(関連病院などで治療を行っている症例の一部は除く)総線量が40Gyに達した場合,毎週火曜日に行っている腫瘍カンファレンスにおいて治療効果を評価し,同時併用を継続するか,手術に移行するかを患者の希望も考慮して検討した。

6.下咽頭癌T3症例

①藤田保健衛生大学病院の場合

著者: 桜井一生 ,   岩田重信

ページ範囲:P.805 - P.808

 はじめに
 下咽頭癌は初期症状に乏しく早期診断が困難であり,初診時既にstage III,IVの進行癌であることが多い。また,頸部リンパ節転移や遠隔転移をきたしやすく予後不良である。一般にその治療は手術療法が主体で,それに術前,術後に放射線治療や化学療法を併用した集学的治療を行い,治療成績の向上を計っているのが現状と思われる。今回は,当科における下咽頭癌T3症例の治療方針とその治療成績について述べる。ただし,治療成績についてはT3症例が15例と少数であったので,T3症例と同じ治療法で治療したT2,T4症例も含めて述べることとする。

②福井医科大学病院の場合

著者: 斎藤等 ,   藤枝重治

ページ範囲:P.809 - P.812

 はじめに
 下咽頭癌の予後の悪さは,現在でも衆目の認めるところである。したがって,その目標には,まず治癒率の向上,続いて咽喉食摘に伴う機能損失の回復または温存の2つがある。
 下咽頭癌に対する治療法,特に咽喉食摘後の再建法の変遷には目覚ましいものがある。すなわち,皮膚棒法に始まり,DP皮弁法,大胸筋などの筋皮弁法,胃管挙上法,遊離空腸法に至る変遷である1〜6)。また,音声再建法にも幾多の努力がみられる7〜8)。再建法の改善と治癒率の向上とは車の両輪のごとく相俟って,最近では拡大手術が可能となり,治癒率も向上してきている。

7.甲状腺癌T4症例

①国立京都病院における甲状腺癌T4症例の治療方針と成績

著者: 永原國彦

ページ範囲:P.813 - P.818

 はじめに
 甲状腺の分化癌は,low grade malignancyで99%,intermediate malignancyで85%の20年累積生存率だとする報告1)もみられるほど予後良好な癌である。しかしその報告でも,high grade malignancyの場合には20年累積生存率で57%に低下している。ちなみに全癌中でも最も治療成績が悪いとされる甲状腺未分化癌では,累積5年生存率は3%にすぎない2)。したがって,分化癌といえどもその治療成績を向上させるためには,high grade malignancyを術前に的確に抽出する必要があり,治癒切除に際しては,AGES (Mayo),AMES (Lahey)など各種のgrade分類を参考に,危険因子としての45歳以上,低分化癌,腺外浸潤,大きい原発巣(4cm以上),遠隔転移の有無などを考慮した治療計画を立てる必要がある。そのうえで症例に合わせて合併治癒切除・再建を含む的確な手術を行い,術後には,年齢,性,分化度,隣接臓器浸潤,血管侵襲などに伴う悪性度の評価をもとに長期の経過を追跡し,必要とあれば追加治療を迅速に施行することが大切である。
 本稿では,QOLに直接の影響がある局所進行癌T4症例(新鮮例)ならびに,正中部に腫瘍が残存,あるいは再発をきたして当科に紹介された難治例をも合せた隣接臓器浸潤甲状腺癌(Ex2)に対し,過去17年間に施行した自験例における治療方針と,手術手技のポイントならびに治療成績について述べる。

②昭和大学藤が丘病院の場合

著者: 窪田哲昭 ,   門倉義幸

ページ範囲:P.819 - P.824

 はじめに
 甲状腺分化癌は予後良好な腫瘍であるが,T4症例では被膜を超えて周囲の気管,反回神経,食道などの諸臓器へ浸潤し,その対応が予後を左右する。また同時に,進行癌であるT4症例に対しいかなる術式で対処すべきか,われわれの治療方針と成績について述べてみたい。

目でみる耳鼻咽喉科

鼻副鼻腔悪性黒色腫を合併したウェルナー症候群の1例

著者: 山本一博 ,   小川克二 ,   井口芳明 ,   越野樹典 ,   伊藤昭彦

ページ範囲:P.790 - P.791

 ウェルナー症候群は早期老化症状を主徴とする遺伝性疾患で,悪性腫瘍を高頻度に合併することが特徴の1つである。今回われわれは,鼻副鼻腔悪性黒色腫を合併したウェルナー症候群の1例を経験したので報告する。
 症例は51歳,男性。数か月前から出現した左鼻出血,鼻閉を主訴に当科を受診した。1986年,他院にてウェルナー症候群と診断されている。既往歴に白内障,糖尿病,高血圧,右足底部の潰瘍がある。体型は小柄,痩せ形で,外鼻は尖り白髪であった(図1)。前鼻鏡所見上,左総鼻道に充満する腫瘤性病変を認めた(図2)。副鼻腔単純X線所見では左上顎洞,篩骨洞を中心に一側性陰影を認め(図3),副鼻腔CT所見では内部がやや不均一な病巣として描出された。組織生検を施行し悪性腫瘍が疑われたため手術を施行した。腫瘍は左鼻腔から篩骨洞,蝶形骨洞に進展しており,上顎部分切除術を行った。摘出した検体を図5に示す。病理組織学的にはメラニン顆粒の存在が認められ(図6),抗HMB45抗体を用いた免疫組織化学染色法で陽性であった。

鏡下咡語

行・財政改革だけでなく学界改革は焦眉の急

著者: 坂田英治

ページ範囲:P.826 - P.827

 もう半年も前のことになるが,これほど爽やかな「君が代」を聞いたことがあっただろうか。
 試合開始に先立っての国家斉唱では,日本から駆けつけた大勢のサポーターをはじめ,日本代表チームの誰もが口ずさみ,金髪に染めた今時の若者の代表みたいな中田選手までが歌っていた。あの所沢高校の「日の丸・君が代」騒動は何だったのかと一瞬目を疑う光景であったのだ。

原著

上咽頭癌局所再発例に対する動注化学療法

著者: 安松隆治 ,   新里祐一 ,   井之口昭 ,   小宮山荘太郎

ページ範囲:P.829 - P.832

 はじめに
 抗腫瘍剤の局所動脈内投与法は,1950年にKloppら1)が試みて以来,静脈内投与に比べ優れた抗腫瘍効果と副作用の軽減を図る方法として臨床的にも広く行われてきた。頭頸部領域においても,とりわけ上顎癌に対する浅側頭動脈を利用した持続動注療法+放射線治療は,集学的治療の一環として確立された治療法であり,その他の悪性腫瘍に対してもセルディンガー法にて超選択的動注化学療法を実施している報告2〜4)もある。
 今回われわれは,抗腫瘍剤の全身投与では効果が認められなかった頭蓋内浸潤をきたした上咽頭癌局所再発例に対し,超選択的動注化学療法および浅側頭動脈からの持続動注化学療法を行い,有効であったので文献的考察を加えて報告する。

頭皮に原発した血管肉腫の1例

著者: 真栄田裕行 ,   山里将司 ,   又吉重光 ,   古謝静男 ,   新濱明彦 ,   野田寛

ページ範囲:P.833 - P.837

 はじめに
 血管肉腫は,高年男性の頭部から顔面にかけて好発し,皮膚科もしくは耳鼻咽喉科を受診する機会の多い間葉系悪性腫瘍である。本邦ではこれまでに100例余りの報告がある1)。悪性度が極めて高く,これまで効果的な治療法はほとんど確立されていない。しかし,近年IL-2の局所または全身投与と電子線照射の併用が有効であるとの報告が散見される2,3)
 今回われわれは,頭頂部皮膚に現発し頸部転移を生じた血管肉腫を経験したので報告する。

多発性対称性脂肪腫症の1症例

著者: 矢嶋裕徳 ,   横島一彦 ,   陣内賢 ,   中溝宗永 ,   富山俊一 ,   土佐眞美子 ,   百束比古 ,   杉崎祐一

ページ範囲:P.839 - P.842

 はじめに
 多発性対称性脂肪腫症(multiple symmetric lipomatosis:MSL)は1888年,Madelung1)によって初めて報告された比較的少ない疾患である。巨大な脂肪腫が頸部,背部,体幹などにび漫性,対称性に生じ,独特な外観を呈するため疾患に対する認識があればその診断は容易である。治療には難渋する場合が多いが,今までの報告では手術内容の詳細については述べられていない1〜5)
 今回われわれは,MSLの典型例と考えられる1症例の治療経過を報告し,この疾患に対する手術療法について考察した。

外耳道に生じた化膿性肉芽腫の1例

著者: 佐伯忠彦 ,   上甲英生 ,   小林丈二

ページ範囲:P.843 - P.846

 はじめに
 化膿性肉芽腫は,皮膚および粘膜に発生する血管増生を主病変とする疾患である。本疾患は口腔粘膜や手指,顔面の皮膚に好発するが,外耳道に生じた例の報告は少ない1〜5)。今回われわれは,外耳道に生じた化膿性肉芽腫の1例を経験したので報告する。

長期間停留した下咽頭・食道異物の2症例

著者: 山口威 ,   生井明浩 ,   辻賢三 ,   野村泰之 ,   池田稔 ,   木田亮紀

ページ範囲:P.847 - P.850

 はじめに
 咽頭および食道異物は,日常の外来および夜間の救急でしばしば遭遇するが,多くの症例では発症して24時間以内に病院を受診する1,2)。われわれは最近,発症して早い時期に病院を受診したにもかかわらず,異物と診断されず比較的長期にわたり下咽頭および食道に嵌入した興味ある2症例を経験したので報告する。

医療ガイドライン

喉頭領域における遠隔医療の試みと意義

著者: 古川政樹 ,   古川まどか ,   溝尻源太郎

ページ範囲:P.853 - P.856

 遠隔医療の有用性
 遠隔医療は映像を含む患者情報の伝送に基づき,遠隔地から診断,指示などの医療行為および医療に関連した行為を行うことをいう。病理診断,放射線診断,眼科領域における眼底画像の診断など画像情報に関する分野では,既に実用レベルでの取り組みがなされている。一方,耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域においては,局所所見が診断に重要な位置を占めることから,遠隔医療の有用性は高いと思われるが1),本邦におけるまとまった報告はみられない。今回われわれは小型プリントスキャナを用い,喉頭領域疾患における局所所見の簡便な画像伝送を試み,若干の知見を得たので報告する。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 2.検査のコツ

⑤味覚検査のコツ

著者: 佐藤正美 ,   池田稔

ページ範囲:P.859 - P.864

 はじめに
 味覚に対する検査法として確立され,現在本邦において臨床的に用いられている検査法は,電気味覚検査と濾紙ディスク法である。
 以下に味覚検査の測定部位,電気味覚検査,濾紙ディスク法の検査方法,各検査の簡略法などについて説明する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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