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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科70巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

頸部に発生した滑膜肉腫の1症例

著者: 千々和秀記 ,   森一功 ,   山口勝矢 ,   吉田申一 ,   中島格

ページ範囲:P.78 - P.79

 滑膜肉腫は関節近傍より発生する間葉系由来の悪性腫瘍である。軟部悪性腫瘍の約5%を占め,大多数が四肢に好発し頭頸部領域では極めて稀である。好発年齢は20〜40歳と比較的若年成人に多く,男女比では3:2と男性に多い。頭頸部領域の発生部位としては下咽頭,咽頭後部,副咽頭間隙が多い。治療法は外科的切除が第1選択で,一般に軟部組織腫瘍は放射線には抵抗性であるが,放射線療法や化学療法を行う場合もある。われわれは頸部に発生した滑膜肉腫を経験した。
 患者は21歳の女性で,1991年11月より右頸部腫瘤に気づき頸部腫瘍の診断で1992年3月26日,某病院で右頸部腫瘍摘出術を行った。病理組織検査では悪性血管周皮腫の診断で術後放射線治療を行ったが,その後再発したため当科を受診した。受診時右中頸部に直径約30mmの硬い腫瘤を認め,軽度の圧痛を伴っていた。MRIでは,T1強調画像で甲状軟骨周囲,咽頭後壁郭およびその右側リンパ節に低信号領域を呈する病変部位を認めた(図1a)。同部位はGd造影で内部不均一に造影された(図1b)。血管造影では,右総頸動脈分岐部に腫瘍濃染像を認めた(図2)。以上の病歴と所見から,悪性血管周皮腫の再発を疑い,1996年2月22日右頸部腫瘍摘出術,右頸部郭清術を行った。

原著

鼻閉を主訴とした下垂体マクロプロラクチノーマの1症例

著者: 中林成一郎 ,   高橋千穂 ,   鈴木秀明 ,   上之原広司 ,   鈴木博義

ページ範囲:P.81 - P.84

 はじめに
 下垂体腺腫は,原発性脳腫瘍の約16%を占める良性腫瘍である。男女比は1:1.27と女性にやや多く,成人に好発し,小児では少ない1)。下垂体腺腫の臨床的診断には,MRIなどの画像診断や末梢血ホルモン値やホルモン負荷試験などの内分泌学的診断が中心となる。特に,MRIの発達に伴う腺腫の局在診断の進歩はめざましく,微小な腫瘍も診断可能となった。しかし,腫瘍が増大し視力障害,視野狭窄をはじめとする局所症状の出現により,はじめて発見される場合もある。
 今回われわれは,鼻閉を主訴として耳鼻咽喉科を受診し,鼻ポリープに酷似した前鼻鏡所見を呈した下垂体マクロプロラクチノーマの1例を経験したので報告する。

水痘感染後に生じた感音難聴の1症例

著者: 本間利生 ,   原田勇彦 ,   川端五十鈴

ページ範囲:P.85 - P.88

 はじめに
 ウイルス感染により生じる難聴には様々なタイプがあり,その感染部位により伝音難聴,感音難聴あるいは混合難聴などがみられる。この中で感音難聴を呈する場合には,ウイルスが内耳に感染したと考えられることが多い。胎児に感染して先天性難聴をきたすことでは風疹ウイルス,サイトメガロウイルスなどが知られており,生後感染し後天性難聴をきたすウイルスではムンプス,麻疹,水痘,インフルエンザなど数十種類以上が報告されている1)。このうち水痘ウイルスによる難聴としては,主に成人に発症するRamsay Hunt症候群に続発するものが有名であるが,これは幼少児期に感染した水痘ウイルスの再活性化と考えられる疾患である。これに対して水痘ウイルスの初感染に続発する難聴は,教科書的な記載はあるものの,個々の症例の具体的な報告となると極めて少ない。
 最近筆者らは兄弟で同時期に水痘に罹患し,17歳の弟にのみ発症した一側急性高度感音難聴の1症例を経験した。以前にも筆者ら2)は5歳の男児に発症した同様の症例を報告したが,今回の症例は多少臨床経過が異なることと,こうした水痘による感音難聴症例の報告が極めて少ない現状を考慮し,ここに今回の症例の詳細を報告する。

Gradenigo症候群の1例

著者: 井口芳明 ,   小川克二 ,   山本一博 ,   越野樹典 ,   加藤幸子

ページ範囲:P.90 - P.93

 はじめに
 Gradenigo症候群は一般に中耳炎が存在し,これに三叉神経痛と外転神経麻痺を伴った場合と定義される1)。多くは中耳炎の急性憎悪時に中耳の炎症が錐体尖端部に波及し,そこに限局性の炎症を起こすことに起因するといわれている。古典的な疾患の1つであるが,抗生剤の進歩,耳性頭蓋内合併症の減少によりその報告はきわめて少なくなっている。しかし,硬膜外膿瘍や髄膜炎などの合併症を起こすこともあり,その診断とさらにその治療は非常に大切である。今回われわれは,典型的なGradenigo症候群を経験したので報告する。

当科における鼻骨骨折の臨床的検討

著者: 及川敬太 ,   飯塚桂司 ,   樋口栄作 ,   大渡隆一郎 ,   武市紀人

ページ範囲:P.94 - P.98

 はじめに
 鼻骨骨折の診断は主に現病歴の聴取,視診,触診,鼻内所見によりなされるが,受傷直後を除けば骨折部位付近の軟部組織の腫脹は強くなり,視診,触診による診断は困難となるため1,2),画像診断が必要となる。今回われわれは,過去4年5か月間に当科を受診した鼻骨骨折症例の集計的観察を行うとともに,単純X線写真とCT画像の比較,CT画像における骨折の形態などについて広田ら1)の方法に準じて検討した。

細菌性髄膜炎の原因と考えられた副鼻腔炎の1例

著者: 武田靖志 ,   西崎和則 ,   赤木博文 ,   小川晃弘 ,   増田游 ,   植木亨 ,   山本俊

ページ範囲:P.100 - P.103

 はじめに
 抗生物質の進歩とともに耳鼻咽喉科領域の頭蓋内合併症は減少し,特に鼻性頭蓋内合併症は極めて稀となっている。治療の基本は鼻,副鼻腔に対する手術と強力な化学療法と考えられ,必要により脳神経外科的手術を併施することもある。外傷性や手術後に生じた以外の,原因が不明確な頭蓋内合併症(自然発生例)では,診断が遅れがちで重篤な結果を引き起こすことが多いとされている。われわれは副鼻腔炎が原因と考えられた細菌性髄膜炎例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

術後急速に全身転移をきたした耳下腺粘表皮癌の1症例

著者: 橋本泰幸 ,   岩崎幸司 ,   宇佐神篤 ,   種田泉 ,   小澤享史

ページ範囲:P.105 - P.107

 はじめに
 大唾液腺腫瘍の部位別発生頻度では耳下腺腫瘍が最も多く,良性腫瘍では多形腺腫,悪性腫瘍では粘表皮癌,腺癌が多い。
 今回われわれは,病理組織学的には低悪性度と分類される粘表皮癌を摘出し,約1か月で全身に転移を認めた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

中後頭蓋窩に進展した巨大なコレステリン嚢胞の1例

著者: 竹内万彦 ,   鵜飼幸太郎 ,   篠木淳 ,   野々山勉 ,   坂倉康夫

ページ範囲:P.110 - P.114

 はじめに
 コレステリン肉芽腫は嚢胞を伴うことがしばしばあり,一般的にコレステリン嚢胞と呼ばれ,本邦での報告も約20例を数える1〜9)。これまでに欧米では錐体先端部におけるコレステリン嚢胞が多数報告されているが10〜12),本邦では乳突蜂巣部から生じたものの報告が多く,乳突嚢胞(mastoidcyst),black mastoidとも呼ばれることがある。今回,中後頭蓋窩に進展した巨大なコレステリン嚢胞を経験したので報告する。

一側耳下腺の良性リンパ上皮性疾患と好酸腺腫症例

著者: 久我むつみ ,   末野康平 ,   高橋容 ,   入江太朗 ,   兼子耕

ページ範囲:P.121 - P.126

 はじめに
 唾液腺の良性リンパ上皮性疾患(benignlymphoepithelial lesion:以下,BLLと略)は病理組織学的にはシェーグレン症候群(以下,SSと略)と同様の所見を呈し,稀に耳下腺に限局性腫瘤の形で出現することが知られている。一方,好酸腺腫(oncocytoma)は細胞質内に好酸性顆粒が充満した上皮性細胞からなる腫瘍で,頭頸部領域では耳下腺に好発するが唾液腺腫瘍全体に占める割合は1%以下と極めて低い1)
 われわれは一側耳下腺にBLLと好酸腺腫が出現した症例を経験した。このような症例は極めて稀と考えられるため,臨床経過に若干の文献的考察を加えて報告する。

上顎洞癌治療中に発症したアレルギー性紫斑病の1例

著者: 平尾隆 ,   佃守 ,   持松いづみ ,   河野英浩 ,   河合敏 ,   池間陽子 ,   谷垣祐二 ,   稲葉鋭

ページ範囲:P.128 - P.130

 はじめに
 Schönlein-Henoch紫斑病と悪性腫瘍の合併した報告は少なく,肺ガン1),前立腺癌2),悪性リンパ腫3),食道癌4)で数例報告されているのみである。
 今回われわれは,上顎洞癌の治療中に紫斑,関節痛,腹痛を呈し,いわゆるSchönlein-Henoch紫斑病を併発したと思われる1例を経験したので,報告する。

鏡下咡語

鼓室形成術ことはじめ

著者: 森満保

ページ範囲:P.118 - P.119

 ここでの鏡は手術用双眼顕微鏡であり,その下には患者さんの中耳がある。囁語は昭和30年代の術者の嘆きの声であるが,今では術後患者の歓声である。
 昭和39年頃,九大耳鼻科の医局長であった私は耳鼻科を辞めたいという後輩の説得に躍起となっていた。彼は言う。「耳鼻科の医者は大嘘つきだ。ちっとも治らないのに治るといって手術している。なんとか治るのは扁桃と鼻中隔の手術ぐらいで,副鼻腔炎も中耳炎も全く治らない。患者さんが可哀想だ。こんなインチキな科は辞めたい」と。私は「確かに今は手術しても耳漏は止まらないし,聴力も良くならない。だからこそ研究のしがいがあるのじゃないか。お互いに頑張って確実に治せる手術法を開発しようじゃないか」と説得した。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 1.外来診療のコツ

②耳診察のコツ

著者: 星野知之

ページ範囲:P.133 - P.138

 はじめに
 本稿では外耳,中耳を病変の中心とする炎症や腫瘍性疾患などの診察を中心に,筆者の経験から引き出した私見を交えて,耳疾患診察のコツと考えているものを述べる。それらは日本の中部の,大学病院という特別な窓からみた制約を受けていると思われる。大方の御批判をいただければ幸いである。

海外トピックス

中国のスギ花粉症—スギ花粉症は日本独特か

著者: 三好彰 ,   佐橋紀男

ページ範囲:P.139 - P.145

はじめに
 スギ花粉症は,日本独特の花粉症だとされてきました1)。でも本当にスギ花粉症は,日本以外の国でみられないのでしょうか?
 私たちがこのような疑問を抱くのには,いくつかの根拠があります。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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