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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科70巻3号

1998年03月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

副咽頭間隙に再発し急激な経過をたどった頸部線維肉腫症例

著者: 平林秀樹 ,   藤沢勉 ,   生野登 ,   平林かおる

ページ範囲:P.154 - P.155

 頭頸部領域に発生する肉腫は,同領域悪性腫瘍の1%以下の稀な疾患で,頭頸部領域における発生率は2〜21%とまちまちである。初回手術(1986年10月)から9年後の1996年3月,右副咽頭間隙に再発し,経口的生検後に同部位より肉腫が急激に増大した症例を経験した。初回手術時腫瘍は右中下咽頭・喉頭腔に突出していたが,表面平滑であった。術中所見では,腫瘍は頸動脈分岐部内側にあり(図1),周囲との明らかな癒着はなく,舌骨・甲状軟骨の一部を含め摘出した(50×42×35mm)。リンパ節転移は認めなかった。腫瘍割面は灰白色・均質充実性で,壊死像は認めなかった(図2)。病理所見は紡錘形腫瘍細胞が束状に交錯しながら増殖し,いわゆるherringbone patternを示した。強拡大で核の異形性は認めるが,mitosisは認められず,高分化型の線維肉腫と診断した(図3a)。鑑別診断にleiomyosarcomaが必要であるが,各種染色にて筋原性を示す所見はなかった。

Current Article

蝸牛内リンパ直流電位(Endocochlear resting potential:EP)の発生機構—歴史と今後の展望

著者: 小宗静男

ページ範囲:P.157 - P.168

 はじめに
 人蝸牛は骨迷路の一部をなし,カタツムリに似た2回転半の構造をしており中にリンパ液を入れている。このリンパ液は,さらに膜迷路によって内外リンパ液に分かたれている。膜迷路によって蝸牛は前庭階,中央階,鼓室階の3つの区画に分けられるが,前庭階と鼓室階は外リンパ液を入れており蝸牛の先端(頂回転)で繋がっている(蝸牛孔:helicotrema)。中央階には内リンパ液が満たされている。蝸牛膜迷路(蝸牛管)は主にライスネル膜(Reissner's membrane),コルチ器(organ of Corti),血管条(stria vascularis)によって構成され,前庭階と中央階はライスネル膜で,中央階と鼓室階はコルチ器で境され中央階外側に血管条がある(図1)。蝸牛内リンパ直流電位(endocochlear resting potential:EP)はこの血管条から産生されると考えられている。EPは,蝸牛中央階に存在する約80mVの正の静止電位であり,蝸牛における音情報の機械電気変換過程においてなくてはならないprimary batteryとして極めて重要な電位である。本論文ではEPに関する研究の歴史をたどりながら,その現況とこれからの展望について私見を述べてみたい。

原著

中耳奇形を伴うKlippel-Feil症候群の1例のアブミ骨手術

著者: 狩野章太郎 ,   加我君孝 ,   中村雅一 ,   山岨達也 ,   滝口峻

ページ範囲:P.169 - P.172

 はじめに
 全身の骨系統疾患で中耳奇形を合併するものにKlippel-Feil syndrome,oto-palato-digital synd-rome,van der Hoeve's syndrome,Goldenhar'ssyndromeなどが知られている。今回われわれは,中耳奇形を伴うKlippel-Feil症候群の1例に対するアブミ骨手術を経験したので報告する。

舌扁平上皮癌におけるE-cadherinおよびβ-cateninの発現性と頸部リンパ節転移

著者: 辺岩松 ,   稲上憲一 ,   佐藤武男 ,   吉野邦俊 ,   藤井隆 ,   長原昌萬 ,   沖田純 ,   石黒信吾 ,   船井洋子

ページ範囲:P.173 - P.177

 はじめに
 舌扁平上皮癌において患者の予後を決める因子がいくつか知られている。その中には,頸部リンパ節転移およびその再発の有無が予後を大きく左右することが知られており,この頸部リンパ節転移に関与する因子が明らかになれば,治療の時期や治療法の改善など新たな展望も期待できるものと考えられる1〜3)。細胞接着分子cadherinは膜貫通型の糖タンパク質であり,これが機能するためには細胞質側のcadherin結合タンパク質であるcateninと複合体を作り,細胞間接着を形成,維持している。また,β-cateninは癌抑制遺伝子産物APC(adenomatous polyposis coli)と結合するといわれている。癌の転移過程のうち,原発巣からの離脱と浸潤におけるE-cadherin発現の低下や,α,β-catenin機能の異常が種々の悪性腫瘍において報告されている4〜6)
 舌扁平上皮癌T1,T2はNO症例が多くその潜在性頸部リンパ節転移が20〜50%7)といわれ,予防的頸部郭清術の適応の判断に迷うことが多い。今回われわれは,これらTl,T2症例におけるE-cadherinとβ-cateninの発現性と頸部リンパ節転移の関連性について検討した。

気管切開後に発生した気管腕頭動脈瘻の1例

著者: 真栄田裕行 ,   古謝静男 ,   糸数哲郎 ,   宇良政治 ,   国吉幸男 ,   古謝景春 ,   野田寛

ページ範囲:P.179 - P.182

 はじめに
 気管切開術は,緊急時に気道を確保する目的で行われる最も基本的な手術操作であり,日常的に行われているが,その合併症も少なくない。合併症には,手術中あるいは術後早期に起こる早期合併症と,術後数か月以上経過して起こる晩期合併症に大別される。
 今回われわれの経験した気管腕頭動脈瘻は晩期合併症の中でも最も重篤なもので,致命的な大出血を引き起こす。本邦においては耳鼻咽喉科,気管食道科をはじめ,胸部外科領域などで年に1例ほどの報告が散見されるが,いずれも深刻な結果をきたしている。
 今回われわれは,開胸下に腕頭動脈を結紮することで救命し得た気管切開後の気管腕頭動脈瘻の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

11歳男児にみられた上咽頭癌の1症例

著者: 渡邊健一 ,   後藤穣 ,   陣内賢 ,   秋元利香 ,   大河原大次 ,   中溝宗永 ,   大久保公裕 ,   八木聰明 ,   内藤善哉 ,   杉崎裕一

ページ範囲:P.183 - P.186

 はじめに
 小児の上咽頭癌は少ない疾患であり,発生頻度は小児の全悪性腫瘍の1%以下とされている1)。上咽頭の解剖学的特徴から初期にはほとんどが無症状であり,小児では70〜80%が頸部リンパ節腫脹を初発症状として発見され1〜3),診断時には病期の進んでいることが多い。また,このことが本疾患の予後を不良にする原因の1つになっている。治療としては,成人の場合に準じて放射線療法と化学療法の併用が行われており,良好な成績も報告されている4,5)。しかし,再発,遠隔転移や治療による成長障害,性腺への影響,二次癌などの問題が存在する6,7)。今回,われわれは頸部腫脹を主訴に来院した小児の上咽頭癌症例を経験したので報告する。

視力障害を伴わず眼球運動障害を呈した蝶形骨洞嚢胞の1症例

著者: 鈴木政美 ,   西嶌渡 ,   竹生田勝次

ページ範囲:P.187 - P.190

 はじめに
 蝶形骨洞嚢胞はその解剖学的位置から,眼症状を引き起こすことはよく知られている。眼球運動障害も眼症状の1つであるが,その多くは視力障害とともに出現する1)。今回われわれは,眼球運動障害を呈したにもかかわらず,視力低下の自覚を伴わなかった1症例を経験したが,このような臨床像を呈した蝶形骨洞嚢胞の報告はこれまで少ない。そこで,本稿ではその臨床経過および症状の発症機序について,文献的考察を加えて報告する。

鎖骨上窩に発生したデスモイド腫瘍の1例

著者: 小笠原誠 ,   間口四郎 ,   寺山吉彦

ページ範囲:P.197 - P.200

 はじめに
 デスモイド腫瘍は骨格筋組織,筋腱膜などから発生する腫瘍で,組織学的には良性であるが周囲組織への浸潤傾向が強く,その治療には十分な注意が必要である。その発生部位より腹壁デスモイド,腹壁外デスモイド,腹腔内デスモイドに分類されるが,腹壁外デスモイドが頭頸部に発症することは比較的稀である。今回われわれは,その中でも特に報告の少ない鎖骨上窩に発生したデスモイド腫瘍の1例を経験したので,治療の際の問題点などについて若干の文献的考察を加えて報告する。

Kartagener症候群の1例

著者: 福島一登 ,   安田繁伸 ,   後藤達也 ,   宮崎信 ,   田中昇

ページ範囲:P.202 - P.204

 はじめに
 Kartagener症候群は慢性副鼻腔炎,気管支拡張症,内蔵逆位を3主徴とする線毛運動の先天的異常疾患であり,immotile cilia syndrome (線毛運動不全症候群)の部分疾患と考えられている。今回われわれは,Kartagener症候群の1例を経験したので報告する。

上唇粘膜に認められた悪性黒色腫の1例

著者: 佐藤孝幸 ,   柿市利男 ,   岡田隆 ,   佐藤美樹 ,   岡部貞夫 ,   斉藤裕之 ,   天笠光雄

ページ範囲:P.205 - P.208

 はじめに
 口腔領域の悪性黒色腫は比較的少ない疾患であるが,本腫瘍は進行が早く,手術後の再発,転移が短期間で認められることも少なくない。また,化学療法や放射線療法に抵抗性を有するために治療成績は不良である。
 今回われわれは,上唇粘膜の色素沈着から腫瘍を形成した悪性黒色腫に対し,外科的切除を行い,良好な成績が得られたので報告する。

鎮静的抗アレルギー薬の鼻閉塞感に及ぼす影響

著者: 山際幹和

ページ範囲:P.209 - P.211

 はじめに
 抗ヒスタミン作用をもつ抗アレルギー薬が,患者に種々の有害な副作用を引き起こすことは周知の事実であり,中でも,中枢抑制作用によって生じる鎮静的効果は眠気を惹起させ少なからず問題になる1)
 しかし観点を変えると,鎮静的であることが患者にとってむしろ好ましい副作用となる場合もある。例えば,不眠患者が一般薬局で抗ヒスタミン薬を睡眠薬の代用として購入する場合も少なくないとされている1)
 筆者がVisual Analogue Scale (VAS)2)と近年開発された鼻腔の幾何学的形態測定装置であるAcoustic Rhinometry(AR)3)を用いて検討したところ,鎮静的抗アレルギー薬の投与により,VASで測定した自覚的な鼻閉塞感はARで得られた客観的鼻腔開存度から推測される以上に改善する可能性があることが示唆されたので,以下にその成績を略述する。

鏡下咡語

日本ヒアリングインターナショナルによるNGO計画—Ear Health Care Project in Inodonesiaに参画して

著者: 村上嘉彦

ページ範囲:P.194 - P.196

 今回「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」誌の鏡下囁語の欄に原稿のご依頼を頂いたものの,小生自身,1996年3月末日に13年間奉職した山梨医科大学を定年で退官しており,さりとて思い出話を書くほどには日時が経過しているわけでもなく,何を主題に書くべきかかなり迷ったが,小生の退官後に携わった仕事としては,標題のような発展途上国でのNGO計画の経験が印象深かったので,その概略を紹介することにした次第である。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 1.外来診療のコツ

③鼻診察のコツ

著者: 足川力雄

ページ範囲:P.214 - P.219

 はじめに
 私の恩師佐藤重一先生は,鼻疾患患者の診察時に必ず後鼻鏡を使用して,CTはもちろん,断層撮影もほとんど使用できない昭和27〜28年頃でも,鼻副鼻腔を前後より見ておられ,それに何気ない問診を追加されて腫瘍,結核,ゴム腫,進行性鼻壊疽などを的確に診断され,大いに感銘を受けたものである。
 ことに微熱を主訴として来院した患者に対し,この中鼻甲介の光沢は「スポガン」のごく初期の所見,と診断され結核を否定するために内科受診を指示されたが,患者が希望せず外来担当医もそのままにしたところ,約1か月後に中等度の発熱をきたして入院してきたことは忘れられない。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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