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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科70巻6号

1998年05月発行

雑誌目次

トピックス ベル麻痺の診断と治療—最近の知見

1.ベル麻痺の成因に関する最近の知見

著者: 柳原尚明

ページ範囲:P.307 - P.313

 はじめに
 1830年,Sir Charles Bellが顔面の運動は第七脳神経により支配されること,ベル麻痺の1症例を初めて記載したことから,顔面神経麻痺は原因のいかんを問わずベル麻痺と総称されていた。しかし今世紀に入り,顔面神経麻痺が外傷,腫瘍,中耳の炎症,ウイルス感染,先天性などの様々の原因で起こることが明らかにされ,それぞれ独立の疾患単位として記載されるようになった。一方,顔面神経麻痺の過半数を占める急性,特発性の麻痺は,リウマチ性麻痺,寒冷麻痺,虚血性麻痺などと呼ばれていたが,1940年頃から,この原因不明の急性,特発性麻痺に限ってベル麻痺と呼ぶことが世界的に合意され現在に至っている。したがって,ベル麻痺の診断は除外診断であり,原因が明らかになればベル麻痺という病名は自然に消滅することになる。

2.ベル麻痺の発症と単純ヘルペスウイルス感染

著者: 古田康 ,   高須毅 ,   鈴木清護

ページ範囲:P.315 - P.320

 はじめに
 特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)の病因については,血液循環不全やウイルス感染などが推測されてきた。中でもウイルス感染は,最も疑わしい原因の1つである。その理由としては,ベル麻痺の前駆症状として感冒様症状を伴うことがあること,また水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化により,末梢性顔面神経麻痺(Ramsay Hunt症候群)が発症することなどがあげられる。実際に,初診時にベル麻痺と診断された症例中には疱疹を伴わないVZV再活性化が血清学的検査1)やpolymerase chain reaction(PCR)検査2)で明らかになることもあり,これらの症例はzoster sine herpeteと診断されるべきであり,ベル麻痺とは区別しなければならない。さらに,最近の分子生物学的研究の進歩により,単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus type1:HSV−1)の再活性化がベル麻痺の1つの病因であることが明らかになってきた3,4)。本稿では,HSV感染と顔面神経麻痺に関する現在までの研究の背景を述べるとともに,筆者らが行ってきた研究を紹介する。

3.ベル麻痺の保存的治療

著者: 阿部祐士 ,   白水重尚 ,   柳務 ,   高橋昭

ページ範囲:P.321 - P.324

 はじめに
 ベル麻痺は末梢性顔面神経麻痺の中で最も頻度が高く,日常診療においてしばしば遭遇する疾患である。本症の自然治癒率は高いと考えられているものの,全く治癒傾向を示さなかったり,兎眼による角膜障害や再生神経線維の異常連合による空涙現象など,侮りがたい後遺症を残す例が存在する。ベル麻痺の治療の必要性は,これら予後不良症例の適切な治療法の確立にあると考えられるが,未だ病因が明らかでなく,したがってその治療法にはなお一定した結論は得られていない1)。しかし,これまでに発案された数多くの治療法により治癒率が著明に向上してきているのも事実であり,その成果は目を見張るものがある。本稿では,現在の最も一般的な保存的治療法について,特に薬物療法を中心に概説し,新しい治療法の試みについても随所に紹介していきたい。

4.ベル麻痺の手術的治療—顔面神経減荷術について

著者: 橋本省

ページ範囲:P.325 - P.331

 はじめに
 顔面神経管(fallopian canal:以下,顔神管と略)内の神経浮腫による絞扼性障害が病態とされるベル麻痺においては,顔面神経を絞扼から解放することが治療の主目的となる。そのためには神経浮腫を改善させるか,神経周囲の骨壁を除去するかの2法が考えられるが,後者を実現するために行われるのが顔面神経減荷術(以下,減荷術と略)である。
 本法は1930年代に始まり1970〜1980年代にかけて多く行われたが1),一方ではステロイド(プレドニゾロン)が治療の第1選択であるとする意見2)もあり,特に1979年に大量ステロイド療法による驚異的な高治癒率が報告3)されて以来,治療の主体はステロイドに移り減荷術が行われる機会は少なくなった。とは言え減荷術は全く行われないわけではなく,いろいろな施設で症例により今も行われていると同時にその意義は議論の的となっている。
 筆者らも1988年から大量ステロイド療法を導入し,極めて高い治癒率を得てきたが4),それでも100%ではなく,ステロイドによる保存療法では治癒せしめることのできない症例も存在し,中には長い間改善の徴候がみられない例もある。また,大量ステロイド療法を受けなかった症例では,改善しない例を少なからず経験している。これら予後不良と予想される例に対する次の治療として,本邦では多くの顔面神経の専門家が減荷術を有用な方法と考え5〜8),また筆者も少ないながら手術を行ってきた9)。本稿では上記の点をふまえた顔面神経減荷術の自験例も加え,ベル麻痺に対する手術治療について論ずることとする。なお,手術療法としては減荷術のほかに陳旧例に対する神経移植や筋移植なども含まれるが,ここでは減荷術のみを取り上げることとする。

5.反復性顔面神経麻痺

著者: 田中博之

ページ範囲:P.333 - P.338

 はじめに
 顔面神経麻痺は多彩な症状を示し,ときどきmysteriousな経過をとることで知られている。その中の1つに反復性顔面神経麻痺がある。何故反復するのか,両側同時性,左右交代性に起こるのか,これまで納得のいく説明がなされていない。最近ベル麻痺の原因が明らかになりつつあり,同時に反復性ベル麻痺の原因も少しずつ解明されかかっている。特に単純ヘルペスウイルス(HSV)の関与が示唆されているので1〜3),この点を中心に説明していきたい。

目でみる耳鼻咽喉科

涙嚢を原発とした悪性腫瘍の2症例

著者: 川端温 ,   坂田俊文 ,   加藤寿彦

ページ範囲:P.304 - P.305

 涙嚢原発の腫瘍は良性,悪性とも比較的稀な疾患であり,文献的には内外で約300余例が報告1)されているに過ぎず,それらのほとんどは眼科医による報告である。本稿では,われわれが経験した涙嚢悪性腫瘍の2症例を報告する。

原著

内耳道内悪性リンパ腫の1例

著者: 橋本晋一郎 ,   藤野明人 ,   中村要 ,   中川千尋 ,   北村佳久

ページ範囲:P.339 - P.343

 はじめに
 中枢神経系に発生する悪性リンパ腫は他臓器に比べ少なく1,2),その中でさらに小脳橋角部に発生するものは稀である。今回われわれは,左内耳道内に発生した悪性リンパ腫で初診後3か月で急速に頭蓋内に進展し,不幸な転帰をとった1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

麻疹後に感音難聴と平衡障害を呈した1例—側頭骨病理組織所見を中心に

著者: 黄麗輝 ,   加我君孝 ,   落合幸勝 ,   田中美郷 ,   鈴木淳一

ページ範囲:P.345 - P.349

 はじめに
 麻疹による感音難聴は,現在ではワクチンの普及により稀である。
 麻疹による小児の高度難聴に占める割合はShambaughら1)(1928)の6.7%,Yearsley(1934〜1935)の9.3%,Goodman (1949)の4.4%,Simpson (1949)の5.0%,Bordley (1952)の6.4%,Kinney (1953)の10%などが報告されている。ワクチン接種の普及により報告は稀となった。しかし,MMRワクチン接種による後遺症が注目されてからは,麻疹ワクチン接種率が低下の傾向にあり,再び麻疹による難聴の発生が危惧されている。
 麻疹による感音難聴と平衡障害の側頭骨病理組織の研究報告は少ない。今回われわれは,麻疹罹患後に感音難聴と平衡障害が発症したと思われる1例の側頭骨病理組織所見を報告する。

蝶形骨洞真菌症の2症例

著者: 藤田博之 ,   山口太郎 ,   古屋正由 ,   荒木進 ,   斉藤啓光 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.350 - P.353

 はじめに
 副鼻腔真菌症の大部分は上顎洞に発生し,蝶形骨洞に限局した真菌症は少なく,副鼻腔真菌症全体の5〜10%といわれている1〜7)。特に視力障害をきたした症例の報告は非常に少ない。今回われわれは,蝶形骨洞に限局した真菌症2症例を経験したので報告する。そのうち1例は高度の視力障害をきたした。

小児の扁桃肥大による睡眠時呼吸障害

著者: 石塚洋一 ,   今村祐佳子 ,   寺島邦男 ,   鰐渕伸子

ページ範囲:P.354 - P.358

 はじめに
 小児の口蓋扁桃肥大やアデノイド増殖症は,小児の睡眠時呼吸障害の最も多い原因と考えられており,その障害が高度になれば様々な合併症を引き起こすことはよく知られている。われわれは,アデノイド切除術・口蓋扁桃摘出術を行った小児を対象に術前・術後に睡眠時簡易呼吸モニター(アプノモニター®)を用い睡眠時無呼吸について検査を行ったところ,42.9%に病的無呼吸を認め,手術後は病的無呼吸が著明に改善し,睡眠中の呼吸障害や嚥下に関する障害も著明に改善したことを報告した1)。今回われわれは,6歳以下の小児のアデノイド切除術・口蓋扁桃摘出術を行った症例について,睡眠ポリグラフィーのうえから,睡眠時呼吸障害とその問題点について検討したので,文献的考察を加えて報告する。

下顎骨体部に発生した中心性骨腫の1例

著者: 柴田裕達 ,   佐藤英明 ,   内沼栄樹

ページ範囲:P.363 - P.365

 はじめに
 今回われわれは,26歳,女性の下顎骨体部に発生した骨腫の1例を経験した。骨腫には周辺性骨腫と中心性骨腫とがあり,後者は稀であるとされている1,2)。本症例の病理組織学的診断は緻密骨腫で,下顎骨内部に生じた中心性骨腫であった。文献的考察を加えて報告する。

鼻粘膜病変を伴った瘢痕性類天疱瘡の2症例

著者: 瀧田留美 ,   吉邨博孝 ,   米本正明 ,   山本昌彦 ,   田辺恵美子 ,   蛭田啓之 ,   小田恂

ページ範囲:P.367 - P.371

 はじめに
 瘢痕性類天疱瘡は病理組織学的に区別される皮膚・粘膜疾患で,報告例が少ない疾患である。病変は皮膚・粘膜に水疱を形成するのが特徴で,のちに瘢痕化をきたす自己免疫性水疱症の1つと考えられている1)
 組織学的には表皮下にみられる水疱が特徴で,免疫組織学的には基底膜に一致して免疫グロブリンや補体の線状沈着を認め,末期には線維化が認められるようになる2)。症状は咽頭,外陰部,肛門などの粘膜に水疱を形成することが多く,従来からの報告を通覧しても鼻粘膜病変を記載した論文は少ない。
 最近,われわれは鼻粘膜にも病変が認められた瘢痕性類天疱瘡の症例を2例経験したので報告する。

鏡下咡語

眼の動きについて

著者: 徳増厚二

ページ範囲:P.360 - P.362

 1.はじめに
 1963年12月より2年間,ニューヨーク,マウントサイナイ病院神経科に留学した。当時わが国で唯一の電動式回転室と,完成されて日も浅いENGを使用してまとめた博士論文の結論から,回転後眼振検査は眼振方向優位性の検出には勝れているが,片側迷路機能低下が判定できないことが明らかとなった。前庭機能検査として重視されていた回転検査の問題点を知り,新たな転機を掴むべくeye centering system,oculomotor decussationを報告されたMB Bender先生のもとで研究生活を始めた。毎週土曜,眼振や異常眼球運動の患者を供覧するBender先生の神経症候学臨床講義に出席する以外は,リサーチフェローとして,猿を相手の実験の毎日で,当時は動物愛護の規制がゆるやかで,自由に手に入る猿に脊髄離断を行い,人工呼吸,無麻酔で前庭神経核とその周辺部の電気刺激による眼球運動を調べる仕事であった。
 Rhesus monkeyの脳電気刺激誘発眼球運動は興味深い。Stereotaxic AP0,laterality 1mmで垂直に脳表面より深部に同心双極電極を刺入し,0.1msec 200Hz50pulsesの刺激を加えると一連の眼球運動が観察される。大脳では両眼の刺激反対側への共同偏位,上丘でも同じ,下丘に入ると刺激側へ共同偏位,中脳中心灰白質で特有な発声を聞き,滑車神経核で反対側単眼の内旋・下転,MLFで同側単眼の内転,PPRFで強力な同側への共同偏位,そして,最後に外転神経根刺激による同側単眼の外転で締めくくられる(図1)。
 眼球運動の研究報告は膨大な数であり,全てを網羅することは到底できないが,現在考えられる眼球運動の神経回路図を試作した(図2)。諸先生のご批判を仰ぐ次第である。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 1.外来診療のコツ

⑤喉頭診察のコツ

著者: 岩田重信

ページ範囲:P.372 - P.378

 はじめに
 喉頭は発声機能,呼吸機能と嚥下機能を有し,それぞれの機能障害のみならず,ときに合併して認められる。
 喉頭疾患は局所的に,急性・慢性炎症,良性・悪性腫瘍や中枢性末梢神経の病変による神経麻痺,胸部疾患,代謝性内分泌障害など全身的疾患の関与,さらに心因性要因も複雑に影響し合って多種多様の病態を示す。それゆえ,喉頭領域の診察には喉頭に限局した病変のみならず,その周辺疾患に注意を払う必要がある。また,嗄声を訴えることが多く,発声機序に基づく喉頭の病態生理を十分理解することが大切となる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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