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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科70巻9号

1998年08月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

耳鼻咽喉科領域におけるAIDSの臨床像と診療

著者: 霜村真一 ,   石戸谷淳一

ページ範囲:P.546 - P.547

 耳鼻咽喉科領域のAIDS合併症は,欧米では様々報告されているが1,2),本邦での報告は少ない。当院には昨年4月,AIDSの研究治療開発センターが設置され,耳鼻咽喉科でもAIDS患者を診る機会が多くなった。われわれが経験した33例のAIDS患者のうち,口腔咽頭の合併症,特にアデノイド肥大とカポジ肉腫の臨床像と診断について報告する。
 耳閉感,耳鳴,難聴を主訴に紹介されたAIDS患者の中に,少なからず咽頭扁桃,耳管扁桃の肥大が認められ,また下咽頭後壁の孤立性リンパ組織の隆起も認められた(図1)。腫大した扁桃組織から活発に増殖するHIVが検出されたとの報告があり3),HIVに関連した活発な免疫反応性肥大が示唆された。治療は滲出性中耳炎に準じて行われた。

Current Article

鼻粘膜のペプチド分解酵素

著者: 大久保公裕

ページ範囲:P.549 - P.556

 はじめに
 鼻粘膜の反応には自律神経系の関与が重要である。例えば鼻アレルギーの場合,症状はくしゃみ,水性鼻汁,鼻閉である1)。鼻アレルギーのこれらの鼻症状は,抗原刺激によって肥満細胞から放出されたヒスタミンによる知覚神経刺激で神経反射性にくしゃみや鼻汁の増加が起こったり2),その症状発現にいろいろな実験結果から他の自律神経も関与することが分かっている3)。花粉症患者では季節に鼻粘膜の過敏性が亢進し,メサコリン,bradykinin(BK)の反応性が増加している4)。このように鼻アレルギーにおける症状発現には神経系,特に過敏性に関して求心性知覚神経系が重要であり,そのneuro-transmitterである各種の神経ペプチドに関与している。以上はアレルギー反応の制御にはそのペプチド活性の調節機構が重要であることを示している。鼻粘膜や下気道における別の気道過敏性亢進状態でも,神経ペプチド,特に迷走神経sensory endingで無髄のC線維に局在するsubstance P(SP)5)や副交感神経の神経伝達物質であるvasoactive intestinal peptide(VIP)6)の役割の重要性が唱えられている。気道過敏性亢進の機序はこれだけではないが,これら神経ペプチドとペプチド分解酵素のバランスが関与していることは紛れもない事実である7)。病的な状態だけでなく,正常な気道反応においても確実に酵素は分泌されており,それにより分解されるペプチドが気道に存在することも必然である。
 本稿では,鼻粘膜に存在するこれら神経ペプチドを分解する酵素の正常,鼻アレルギー,上気道過敏性亢進における存在とその役割について,鼻粘膜における酵素活性,組織学的局在やアレルギー症例への抗原誘発,正常人へのメサコリン,ヒスタミン誘発での鼻粘膜洗浄液中の酵素活性測定などわれわれの実験結果をもとに考察する。

原著

副咽頭間隙に発症した滑膜肉腫の1例

著者: 中川俊一 ,   劉澤周 ,   黒田徹 ,   小林洋 ,   福田諭 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.557 - P.561

 はじめに
 滑膜肉腫は四肢の関節付近から発生する腫瘍である。頭頸部領域での発生例は少なく,副咽頭間隙や下咽頭からの発生例が報告されている。今回われわれは副咽頭間隙に発症した滑膜肉腫の1例を経験した。腫瘍は副頭間隙を占拠し頭蓋内に達していたため,根治的手術が困難であった。化学療法と放射線療法を併用し,一応のコントロールを得ることができ,8か月を経過した現在外来で経過観察中である。本症例を呈示するとともに,滑膜肉腫について頭頸部領域の原発例を中心に,若干の文献的考察を加えて報告する。

異所性甲状腺に発生した濾胞癌の1例

著者: 安部治彦 ,   井上都子 ,   軽部時子 ,   河原秀明

ページ範囲:P.563 - P.566

 はじめに
 甲状腺は胎生第3週に無対舌結節とコプラとの間に発生し,咽頭腸の前を下降して第7週には気管前壁に到達する。この下降に際し,下降不全が生じたり,下降の途中で甲状腺組織の一部を残したりする。この残存組織が異所性甲状腺となる。思春期の代償性腫大や腫瘍が発生すれば症状も発現するが,多くは一生無症状に経過する。
 今回われわれは,固有位置に甲状腺をもち,甲状舌管を伴わない異所性甲状腺より発生した濾胞癌の1例を経験したので報告する。また,甲状舌管を伴わない異所性甲状腺より発生した癌の報告は少なく,今まで約30例を数えるのみである。これらのうち組織型が判明した症例を集計し,考察を加えて報告する。

聴器癌の治療と予後の検討

著者: 石川和宏 ,   阿部弘一 ,   西野宏 ,   五十嵐丈人 ,   宮田守 ,   森田守 ,   喜多村健

ページ範囲:P.568 - P.572

 はじめに
 聴器癌は,その発生頻度の低さおよび解剖学的特殊性から早期診断や治療が困難とされている。今回われわれは,自治医科大学附属病院耳鼻咽喉科を受診し治療した聴器原発の悪性腫瘍症例について,治療法ならびに予後に関して検討し若干の知見を得たので,文献的考察を加えて報告する。

鼻・副鼻腔に発生した無色素性悪性黒色腫の1例

著者: 松浦徹 ,   伊藤由紀子 ,   高橋志光 ,   清水志乃

ページ範囲:P.573 - P.577

 はじめに
 一般に悪性黒色腫は皮膚に発生する悪性腫瘍として知られているが,鼻腔をはじめとする頭頸部粘膜にも発生するといわれている。悪性黒色腫の中でもメラニンを形成せず,臨床的に色素沈着を欠くものは無色素性悪性黒色腫といわれ,臨床診断は容易ではなく予後も極めて不良とされている1)
 今回われわれは,病理組織学的に光顕所見のみでは横紋筋肉腫,未分化癌,嗅神経芽細胞腫,悪性リンパ腫,形質細胞腫などと鑑別困難であったが,免疫組織化学染色による病理学的検査を行い,無色素性悪性黒色腫と診断し得た症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

聴神経腫瘍の臨床像の10年間の推移

著者: 坂本徹 ,   福田諭 ,   佐藤信清 ,   柏村正明 ,   千田英二 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.579 - P.583

 はじめに
 近年,MRIをはじめとした画像診断技術の発展に伴い,聴神経腫瘍が初期の段階で発見されるようになり,聴力正常例や非定型例の報告1〜5)も増加している。これらの症例に対する治療法の選択は重要な問題となってきている。今回,当院における聴神経腫瘍の臨床像の推移を検討する目的で,過去10年間の統計的観察と治療法の選択について考察した。

耳下腺上皮性腫瘍の臨床統計的考察

著者: 陣内賢 ,   中溝宗永 ,   横島一彦 ,   渡邊健一 ,   後藤穣 ,   矢嶋裕徳 ,   大河原大次

ページ範囲:P.589 - P.593

 はじめに
 今回われわれは1986年12月〜1996年12月までの10年間に,日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科で病理組織診断の得られた耳下腺上皮性腫瘍138例について,臨床統計的検討を行った。この結果について文献的考察を加えて報告する。

鎖骨上窩に発生した冬眠腺腫の1例

著者: 岩井大 ,   柳田昌宏 ,   南豊彦 ,   柿本晋吾 ,   李進隆 ,   渡邊尚代 ,   山下敏夫

ページ範囲:P.595 - P.598

 はじめに
 冬眠腺腫(hibernoma)は越冬腺腫や褐色脂肪腫とも呼ばれ,褐色脂肪組織から発生する稀な良性腫瘍である1)。この脂肪組織は哺乳類にみられ,ヒトでは主に新生児の肩甲間領域や頸部,上縦隔,腋窩,腹膜後腔,腎周囲などに存在するが,加齢とともに急速に減少し,成人では少量が残存するのみとなる2,3)。一般の脂肪組織(白色脂肪組織)に比べ豊富な毛細血管と交感神経を受け,組織学的に細胞が血管を囲む配列を示して内分泌腺に類似することから冬眠腺と呼ばれてきた4)。冬眠する動物ではよく発達しており,冬眠終了時,神経が興奮してノルアドレナリンを放出し,急速な脂肪分解を起こして大量の熱を供給し,0℃近くまで下がっていた動物の体温を急上昇させて動物を冬眠から醒めさせるとされる5)
 今回われわれは,過去に2回手術を受けたが摘出できなかった鎖骨上窩の冬眠腺腫症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

慢性鼻副鼻腔炎患者の頭痛・顔面痛に関する臨床的検討—(その3)鼻副鼻腔手術前後の比較

著者: 内藤健晴 ,   宮田昌 ,   馬場錬 ,   間宮淑子 ,   大山俊廣 ,   岩田重信

ページ範囲:P.601 - P.604

 はじめに
 急性副鼻腔炎患者における頭痛・顔面痛では,その責任部位や症状の程度との因果関係は比較的明瞭である1)。しかし,慢性の場合はそれほど単純ではない。欧米では,これら慢性の鼻性頭痛について既に多くの研究が行われてきているが2〜4),本邦でのこの領域の研究は極めて少ない。われわれは,以前より慢性鼻副鼻腔炎患者の頭痛・顔面痛に関する臨床的研究を行ってきた5〜7)。欧米では,これら慢性の鼻性頭痛に対して鼻副鼻腔手術が積極的に行われており,その臨床効果も認められている2)。今回,われわれは慢性鼻副鼻腔炎患者の訴える頭痛・顔面痛が鼻副鼻腔手術によりどのような経過をたどるか検討したので報告する。また,頭痛の出現に心因的な背景やアレルギー性炎症の関与が疑われているので,今回の研究ではその点に関しても検討を行った。

咽頭ジフテリアの1例

著者: 国広美紀 ,   新井峻 ,   井上耕 ,   富谷千恵子 ,   中谷穏 ,   草刈潤

ページ範囲:P.606 - P.609

 はじめに
 ジフテリアは,かつては本邦でも多数の発症をみたが,予防接種の普及により激減し1986年以降は年間10例未満となり,1994年以降は毎年1例ずつ認めるのみとなった1)。しかし,世界的にはロシアにおいて1990年以降ジフテリア発生の増加がみられ,近隣諸国への波及が懸念されている2〜5)。今回われわれは,咽頭ジフテリアの1例を経験したので,若干の考察を加え報告する。

頭位眩暈を呈した神経サルコイドーシスの1例

著者: 森直樹 ,   矢部多加夫 ,   吉本裕

ページ範囲:P.610 - P.614

 はじめに
 頭位眩暈を主訴に当科を受診し,右側頭葉腫瘍の診断のもとに開頭による腫瘍摘出術が行われ,摘出標本よりサルコイドーシスと診断がついた神経サルコイドーシスの1例を経験した。サルコイドーシスの発症時自覚症状としては,霧視,羞明などの眼症状が最も多く,次いで皮疹,咳,全身倦怠感,発熱の順であり,眩暈が初発症状である例は少ない1)。本症例の病変部位と眩暈との関係について,考察を加え報告する。

鏡下咡語

老人保健施設長になって思う

著者: 酒井俊一

ページ範囲:P.586 - P.587

 私は平成7年3月に香川医科大学を停年退官し,その後サイドワークとして広島県沼隈郡に所在する「老人保健施設ぬまくま」の施設長をさせていただいている。不案内な仕事であるため,いろいろ戸惑いながらも1年が経過した。老健施設の管理は富山の水越鉄理先生が先輩で,私も資料を送って頂くなど御教示を受けたことがある。
 自分の年齢による変化もあるが,従来は耳鼻咽喉科という範囲で物を見ていた頃とは異なり,医師として,管理者として,老人社会の御意見番として,多少の認識をもつことができた。老人の一人言として聞き流していただけば幸いである。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 2.検査のコツ

②平衡機能検査のコツ

著者: 藤田信哉 ,   松永喬

ページ範囲:P.615 - P.618

 I.平衡機能検査の目的
 めまいの発症機序には関連する平衡維持機構についての理解が必要である。ヒトの平衡機能(バランス能)を司っている体平衡系は,前庭器,視器,固有受容器の3種類のセンサから入力を得て,脳幹・小脳で複雑に統合・分析を指令し,眼運動系,四肢躯幹系を制御しており,これらのうちいずれが障害されても平衡維持機構が障害され,めまいや固視障害,身体平衡障害が起こり得る。
 平衡機能検査は,この平衡の維持機構を調べるとともに平衡障害の病巣を探ること,さらに平衡障害の有無の発見,その程度を検索することを主な目的としている。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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