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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科71巻10号

1999年09月発行

雑誌目次

トピックス めまい—私の考え方

1.重心動揺検査について—この検査で何がわかるか

著者: 山本昌彦

ページ範囲:P.651 - P.659

 はじめに
 重心動揺検査(stabilometoryまたはgravic body sway test:GBST)は,1994年6月に診療報酬の適用検査となった。しかし,その普及は耳鼻咽喉科よりリハビリテーション科,整型外科,内科(神経内科を含む),その他の科によって検査される傾向をみている。なぜそのような傾向になっているのであろうか。
 重心動揺検査は,耳鼻咽喉科の平衡機能検査の1つとして,耳鼻咽喉科医が先頭に立って多くの臨床症例についての評価法を試みてきた。しかし,それらの評価をするために非常に多くの指標を作り出す結果になった(言い訳をするつもりはないが,必要不可欠の結果であった)。そこで,重心動揺検査にとって非常に重要である指標の1つ1つについての評価と意義を説明するに従い,重心動揺を理解することが難しく感じられるようになったのではないだろうか。

2.動揺病について

著者: 高橋正紘

ページ範囲:P.661 - P.665

 はじめに
 動揺病は車酔い,船酔いなどの乗物酔いとしてよく知られている。気分不快がまず現れ,顔面蒼白,冷汗,唾液分泌亢進などとともに吐き気が増強し,ついには嘔吐で終わる。学童期にしばしば経験するが,成人後は稀となる。しかし,動揺病の本質は不快症状ではなく,これを誘発させる外界の知覚異常にある。高齢者が増し,動く歩道や移動する閉鎖空間の施設が多くなると,知覚環境が動作に及ぼす影響が注目されるであろう。
 動揺病を理解することは,これらの対策を練る上で有効である。当初,予想されなかったことであるが,実験的動揺病の研究1〜10)は,一見複雑な日常動作の背後に巧妙で単純な原理のあることを示してきた。これらについては,総説として報告してきた11〜14)
 本稿では,特に合目的に制御される日常動作との関係で動揺病を解説した。

3.外リンパ瘻のめまい—私の考え方

著者: 神崎仁 ,   五島史行 ,   國弘幸伸

ページ範囲:P.667 - P.671

 はじめに
 外リンパ瘻は外リンパ液の漏出によってめまい,難聴,耳鳴りなど様々な症状を示す疾患である。本疾患が一般的でない理由の1つには,確定診断に観血的な試験的鼓室開放術を必要とするためと思われる。ただし,試験的鼓室開放術の際に外リンパ液の漏出が認められなくても,本疾患の存在を完全に否定することにはならない。比較的誘因のはっきりした外リンパ瘻症例以外に,原因不明のめまい患者として長期間にわたり経過観察されている症例の中にも誘因が明らかでない,いわゆる特発性外リンパ瘻の存在を疑う必要がある。自験例では,1)自覚的瘻孔症状を含む瘻孔症状陽性例,2)長期間にわたる,めまいによるQOLの低下の著しい症例,3)原因不明の感音性難聴例で変動,変化が認められる症例などがある。これらの症例に対して外リンパ瘻を疑い鼓室開放術を施行した結果,20例中16例に外リンパ瘻を認め外リンパ瘻確実例と診断した。
 本稿では外リンパ瘻のめまい所見,瘻孔症状検査の意義などを中心にまとめた。

4.実地医家での聴神経腫瘍診断の要点—見逃し例の反省から

著者: 江上徹也 ,   隈上秀高 ,   重野浩一郎

ページ範囲:P.672 - P.679

 はじめに
 聴神経鞘腫(AT)やその他の小脳橋角部腫瘍(CPT)は,その初期に片側の蝸牛症状を訴えて耳鼻咽喉科の実地医家を受診する可能性が高い。多くの耳鼻咽喉科外来診療所は多忙であり,医療機器にしても自院でCT,MRI,聴性脳幹反応検査(ABR)などが可能な施設はほとんどなく,見逃しの危険も大きい。耳鼻咽喉科以外の施設でCTやMRIを装備しているところでは,めまいや蝸牛症状が主訴であればほとんどの症状にこれらの画像検査が施行されているのが現実である。したがって,耳鼻咽喉科の実地医家で見逃し,市中の総合病院のCTやMRI検査で発見されて,脳外科へ手術のため紹介されるルートは少なからず見受けられる。
 本稿の目的は,日常の耳鼻咽喉科外来診療の流れの中でATやCPTを見逃さないようなシステムを考えることである。筆者が開業して15年間で経験した27例28耳を呈示して,開業医における本疾患診断の問題点について検討したい。

5.平衡訓練について

著者: 宮田英雄 ,   澤井薫夫

ページ範囲:P.681 - P.686

 はじめに
 めまいや平衡障害例に対して保存的治療(日常生活の改善,薬物治療)や手術療法が行われており,多くの例では改善する。しかし,めまいや動揺視あるいは平衡障害が長く残存する例に遭遇することがある。これらの症状が持続する例だけでなく,発症から比較的早期でも改善が遅れると思われる例に対して,平衡訓練を中心としたリハビリテーションが必要である。平衡訓練はCawtho—rne1),Cooksey2)が報告して以来,本邦でも最近行われるようになってきたが,一定の基準がなかった。そのため,1990年には日本平衡神経科学会から「平衡訓練の基準」が提示された3)
 本稿では,平衡訓練の概念と当科で行っている平衡訓練4,5)について述べる。

6.頸部筋原性反応とめまい

著者: 室伏利久

ページ範囲:P.688 - P.692

 はじめに
 前庭性頸筋反応(VEMP)は,比較的大きな音響刺激によって,頸筋,中でも胸鎖乳突筋に生じる反応である。この反応が注目されているのは,音響刺激を用いてはいるものの,蝸牛系ではなく前庭系の機能検査として有望と考えられているからである。本反応は,聴力の保存された前庭神経切断術施行例で消失すること,ほぼ聾に近い患者で本反応が記録され得ることなどから,前庭系由来の反応であることが示唆されてきている1〜3)。その後のモルモットによる動物実験で前庭神経ニューロン,中でも球形嚢由来のニューロンがクリック音刺激に反応することが確認された4〜6)。そのほかにも,種々の臨床研究が行われてきており,VEMPは前庭系由来であるが外側半規管以外の部分,おそらくは球形嚢由来の反応であろうと考えられるようになってきた7,8)。本反応を初めて報告したのは,Colebatch & Halmagyi1)であるが,Halmagyiは,この反応をvestibular evoked myogenic potential(VEMP)と称している。Halmagyiの命名に従い,われわれも通常この反応をVEMPと略称している。
 本稿ではまず,簡単に記録法・判定法について解説した後,これまでに行われてきためまい疾患に関する臨床研究について解説し,さらに今後の展望について述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

内頸動脈奇形を伴う鼓室内異常血管

著者: 氷見徹夫 ,   伊藤順一 ,   形浦昭克 ,   坂田元道

ページ範囲:P.648 - P.649

 鼓室内の血管異常走行として,動脈系では胎生期のアブミ骨動脈(stapedial artery)遺残が認められることがある。このほか,稀であるが先天性内頸動脈部分欠損を伴い,その側副経路としての異常鼓室内血管はaberrant(lateral) internal carotid arteryと呼ばれている。ここではaber-rant internal carotid artery症例の画像所見を呈示し,発生学的機序を考察する。
 症例は26歳の女性で,めまい,左拍動性耳鳴を主訴に来科した。鼓膜所見では赤白色の拍動性腫瘤が透見された。CT所見では,頸動脈管外側の骨欠損とそれに続く腫瘤性陰影を鼓室内に認めた(図1)。3次元CT像では,鼓室内への異常血管の突出と耳小骨の位置関係が理解され,蝸牛岬角との関係も容易に理解できる(図2)。血管病変であることはMR angiographyで確認され,内頸動脈の走行が垂直部から水平部への移行部で,強く外側に突出しているのがわかる(図3)。

鏡下咡語

耳鼻咽喉科医の寿命—いつ診療から身を引くか

著者: 坂井真

ページ範囲:P.696 - P.697

 長命な耳鼻咽喉科医
 本誌「耳喉頭頸」編集顧問の最長老であり,1928年に久保猪之吉先生が本誌を創刊された時に,久保先生の助手として本誌の発行にたずさわられたという大藤敏三先生が本年3月に98歳のご高齢で逝去された。大藤先生と相前後して,京都の森本正紀先生が86歳で,また名古屋の後藤修二先生は93歳のご高齢で亡くなられている。筆者が所属する神奈川地方部会でも,かなりの高齢で亡くなられた先生がおられ,中には90歳過ぎまで診療を続けられた先生もおられた。
 耳鼻咽喉科医には長命な方が多いのであろうか。ちなみに,1993年(平成5年)5月に日耳鼻学会創立100周年記念式典が開催された際には90歳以上の会員21名が表彰されている。平成5年当時の日耳鼻会員数は9,432名と記録にあるので,90歳以上の会員が全会員中に占める比率は0.22%ということになる。この比率が耳鼻咽喉科医だから高いのか,あるいは低いのか,医学の他専門領域の医師のそれと比較するデータがないので分からない。ところが,最近になって米国で大変興味あるデータが報告されている。既に読まれた方も多いと思うが,そのうち筆者が興味をおぼえた部分について紹介してみよう。その論文はArch Otolaryn-gol-HNSの3月号に出たNeil WardとLoring Pratt(この人はメイン州ウオータービルという田舎町の開業医だが,学会での活動も盛んで,筆者の永年の友人でもある)の共著になる,米国耳鼻咽喉科学会(AAO-HNS)の60歳以上の会員2,114名にアンケート調査を行い,865名からの回答結果に基づいた“Otolaryn-gologists Older Than 60 Years”という題名の論文である。

原著

両側鼻腔にまたがった鼻石症例

著者: 栗原秀樹 ,   川端五十鈴 ,   椿恵樹 ,   加藤高行

ページ範囲:P.699 - P.702

 はじめに
 鼻石症は,日常臨床では比較的少ない疾患である。しかし,既に1602年,Grandiによって報告されて以来,欧米では多数の症例を集めた臨床統計の研究が報告されている1)。一方,本邦においても同様な臨床統計の研究が発表されている2〜4)。鼻石症の大多数の症例では一側性の発症であり,両側性のものはごくわずかである。両側性の場合は両側の鼻腔に独立して発症する症例が多いが,われわれは鼻中隔の穿孔を通して,両側鼻腔に存在した両側にまたがった鼻石症例を経験したので,その概要を記載するとともに,今までの報告例を引用しながら若干の考察を加えた。

下垂体腺腫に伴ったシーソー眼振の1症例

著者: 湯川久美子 ,   堀口利之 ,   市村彰英 ,   岡本信子 ,   岩間和生 ,   鈴木衛

ページ範囲:P.703 - P.706

 はじめに
 シーソー眼振は左右の眼球が回旋しながら交互に上下に動く異常な眼球運動で,障害部位としてはCajal間質核などが想定されているが未だ不明の点が多い。今回,下垂体腺腫症例にみられたシーソー眼振を経験したので報告し,その発症メカニズムについて考察を加えた。

喉頭摘出術後に遅発性気管狭窄をきたした重度心身障害者例

著者: 湯田厚司 ,   小林正佳 ,   木村哲郎 ,   吉村栄治 ,   間島雄一 ,   坂倉康夫

ページ範囲:P.707 - P.710

 はじめに
 重度心身障害者には,反復する誤嚥に対して気管切開が施行される場合がある。気管切開後の気道管理は,原因疾患である中枢神経疾患や筋疾患のために管理に難渋することもあり,気道上の問題点をまねきやすい。喉頭全摘出術は最終的な手段であるものの気道管理が容易で,重度心身障害者の気道上の問題点を解決する有効的な方法である。
 今回,重度心身障害者の反復性誤嚥に対する喉頭全摘出術後に遅発性に気管狭窄をきたした1例を経験した。気管狭窄の原因として重度心身障害に伴う気管脆弱が考えられ,注意を要すると思われたので報告する。

当院における頭頸部重複癌の検討

著者: 定永恭明 ,   木下澄仁 ,   馬場憲一郎 ,   田中文顕

ページ範囲:P.711 - P.714

 はじめに
 高齢化社会の到来によりわれわれの取り扱う耳鼻咽喉・頭頸部領域においても重複癌が増加してきているが1〜3),ときにその対応に苦慮する場合がある。重複癌の報告は,従来から癌センターや大学病院など比較的癌患者の多い施設からのものが多かったが,近年当院のような市中病院でも数多くみられるようになった。今回,当院で経験した頭頸部重複癌に関し,同時性重複癌に対する治療方針および異時性重複癌に対する術後の経過観察方法などを検討した。

連載 小児の耳鼻咽喉科・頭頸部外科シリーズ【新連載】

①耳鼻咽喉科診療と少子化

著者: 金子豊 ,   植田尚男

ページ範囲:P.718 - P.724

 I.少子化問題
 世界総人口は近年爆発的に増加し,1975年には40億人,1999年には60億人,2025年には80億人になると推定されている。この人口増加が進行すれば,発展途上国の貧困,環境破壊,食糧,エネルギーの枯渇化など地球規模の問題へ発展すると考えられている。この増加要因は世界人口の2/3を占める発展途上国の人口増加によるものであるが,先進諸国では1965年以降むしろ増加率は減少し続けている。わが国で少子化が社会的に話題になったのは,合計特殊出生率が丙午1966年(昭和41年)の1.58を下回って1989年(平成元年)に1.57になった頃からといわれている。そもそも合計特殊出生率(出生率)とは1人の女性が一生の間に産む平均の子供の数を意味するが,この数値がわが国では2.08以上でないと人口は減少に向うことになる。この人口維持水準2.08を割り始めたのは1974年(昭和49年)であるが,その後連続して出生率は減少し1997年(平成9年)では1.39まで下降している(図1)。
 年少人口は出生率が低下しているので減少しつつある(表1)。1975年には2,722万人,1995年には2,001万人であったがなお減少し続け,1997年には増加を続ける老年人口とともに全人口の15%(年少1,940万 老年1,974万)となり,その後,年少人口は老年人口と逆転減少を続け,2050年には1,314万人になり1975年の1/2以下になる(図2)。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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