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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科71巻12号

1999年11月発行

雑誌目次

トピックス ことばの障害と耳鼻咽喉科

1.失語症および関連疾患

著者: 加我君孝 ,   中村雅子 ,   進藤美津子

ページ範囲:P.814 - P.826

 はじめに
 耳鼻咽喉科で扱う言語障害は,現在では先天性難聴や発達障害に伴うものが多い。失語症は少い。口蓋裂,舌癌の摘出などに伴う構音障害を含めることがある。言語の表出には音声の障害を伴うことがあるので,耳鼻咽喉科の言語障害の臨床は半世紀前までドイツ医学の影響を受け発展してきた。ドイツ語圏の耳鼻咽喉科では,現在も音声言語障害のクリニックをもっている1)。そこでは医師と言語治療士が働いている。第2次大戦後は,米国医学の影響を受け,speech pathologistという名の職種が注目され,わが国でも言語治療士(ST)という名で養成された。米国の場合,修士の教育を受けており,指導者クラスは博士課程を経てPh.D.の資格をもつ人が多い。わが国の昨年の第1回言語聴覚士の国家試験で約4,000人が国家資格を得た。そのため名前は今後,STから言語聴覚士と呼ばれるようになろう。その合格者の教育のバックグラウンドは様々であるが,わが国の言語障害の治療は大きく前進することが期待される。現時点では,国立大学病院や国立病院に,正式のポストを用意する動きがみえないことが気がかりである。言語治療の保険点数の改定が鍵である。これまではあまりにも低く設定されている。言語聴覚士にどのような患者を依頼するか認識が必要である。筆者が以前に勤務していた大学病院で,内科の研修医より言語障害の診断と訓練を依頼された患者があった。構音が悪いのが紹介された理由であった。原因は入れ歯をしていないことによるものに過ぎなかった。これは内言語障害や末梢あるいは中枢レベルの構音についての基本的な知識をもっていれば何でもないことである。子供の言語発達の遅れが難聴に基づくものではないかと疑われて紹介され,精査の結果,知的な発達障害のためである例は現在も多い。これも,知的障害では言語だけでなく他の発達のレベルに遅れが生じるものであり,簡単な親への質問紙法で多くの例では診断がつく。

2.構音障害

著者: 森一功 ,   庄司治子 ,   香田千絵子

ページ範囲:P.827 - P.833

 はじめに
 一般に構音とは,口唇,舌,軟口蓋,下顎骨などの発語器官(構音器官)を種々に動かして咽頭,口腔などの形態を変化させることで語音としての必要な特性を音声波に与える操作1)と定義される。そのため,構音障害とは,このような操作で産生した音が正しい音響学的特性を備えていない場合のことであり,以下のように分類できる。
 1.器質的構音障害
 上述のような構音器官に器質的な異常がある場合で,口蓋裂(以下,CPと略)や舌中咽頭の癌の手術後,外傷などによる。

3.言語発達遅延と耳鼻咽喉科

著者: 佐野光仁

ページ範囲:P.835 - P.839

 はじめに
 言語発達遅延とは,何らかの理由で同年齢の子供たちに比べて言語の理解や表現が遅れている状態をいう。その要因としては聴覚障害,知的発達の遅れ,脳性麻痺,中枢性言語障害,発語構音器官の障害,不適切な言語環境などが挙げられる。また,語彙不足,言語が不明瞭(赤ちゃん言葉),発音ができないなどの症状となって現れる。大阪府立母子保健総合医療センター(以下,母子センターと略)は,1981年10月に新生児を中心として扱う病院として設立され,1991年7月に小児部門が増設され子供病院としての形態が整い,その中での耳鼻咽喉科は聴力障害児の早期発見と早期療育の役割を担ってきた1)。新生児の聴力障害は言語発達遅延に結びつき,言語発達に耳鼻咽喉科が関わり合いをもつ場面も多く,子供の健全な成長を願うとき重要な症状の1つとなる。

4.聾唖と耳鼻咽喉科

著者: 田中美郷

ページ範囲:P.841 - P.847

 はじめに
 LuchsingerおよびArnoldの“Handbuch der Stimm-und Sprachheilkunde”第3版第2巻(1970)1)によると,聾唖(Taubstummheit)とは先天性または乳幼児期に生じた後天性聾(Taub-heit)による言語そう失(Sprachlosigheit)であり,聾(Taubheit)とは聴力の損失が著しく,耳を介してのコミュニケーションが全く不能な状態である。Nicolosiら2)の“Terminology of Com-munication Disorders”(1978)では,deaf muteとは高度難聴(severe hearing loss)があって聞くことも話すこともできない人を指す古風な用語であり,deafnessとは聞く能力のそう失であって聴力の損失程度では示さない,とある。わが国では100dB以上の著しく高度な難聴を聾とする見解もある3)が,コンセンサンスが得られているわけではない。聾とか聾唖という言葉がaudiologyの発達以前から存在したことを考えれば,数量的表現をもって表現し難いことは当然であろう。しかし,われわれは今日「ろうあ(聾唖)」という言葉が上述のような医学用語としてではなく,別の概念をもって社会的に使われていることに注目しなければならない。この問題は聾教育の歴史や聾者の社会と深く関係する。

目でみる耳鼻咽喉科

Gorlin-Cohen症候群の1症例

著者: 金田裕治 ,   金子満 ,   南詔子 ,   鎌田喜博 ,   鈴木健策 ,   村井和夫

ページ範囲:P.810 - P.811

 Gorlin-Cohen症候群は別名frontometa-physeal dysplasiaと呼ばれ,前額部の著明な突出と長管骨骨幹端異形成症など身体的特徴のほかに種々の合併症を有する疾患で(表1),1969年,GorlinとCohenにより報告された。以来,20数例の報告をみるのみで,耳鼻咽喉科領域の報告は少なく,難聴に関する詳細は未だ明らかではない。今回,両側骨性外耳道狭窄を合併したGorlin-Cohen症候群の1例を経験したので報告する。
 症例:28歳,男性。

鏡下咡語

補聴器残念録余聞

著者: 大和田健次郎

ページ範囲:P.850 - P.851

 高齢者の補聴器必要人口に対して,その使用者は10%にも満たないのは,補聴器に対する正しい認識がないからである。難聴で不自由している多くの高齢者は,不自由を軽減する方法があるのに実現していないのを残念に思っている。この改善には現状を知るとともに何が支障になっているかを考えることが大切である。この件について,1985年に私が補聴器残念録として発表したとがある。その後15年が経過したが基本的に進歩したとは思われないので余聞として記すことにした。老人の愚痴として聞いて頂き,これが今後何かの進歩に繋がれば幸いである。

原著

Transbasal approachによる篩骨洞小細胞癌の治療経験

著者: 秋山優子 ,   村上匡孝 ,   八木正人 ,   久育男 ,   福島龍之

ページ範囲:P.853 - P.857

 はじめに
 鼻副鼻腔原発の小細胞癌は比較的稀な腫瘍であるが,肺原発のものと異なり早期には遠隔転移をきたすことがなく比較的予後良好といわれている1)。しかし,局所再発しやすい傾向があるため,局所病変の根治的治療が必須といえる1,2)
 今回われわれは,鼻腔より篩骨洞に及ぶ原発性小細胞癌の1例を経験し,術前化学療法,trans-basal approachによる腫瘍全摘出術および術後放射線療法を組み合わせて治療することにより良好な経過が得られたので,文献的考察を加えて報告する。

喀痰細胞診を契機に発見されたTis上顎洞扁平上皮癌の1例

著者: 志賀清人 ,   舘田勝 ,   横山純吉 ,   西條茂

ページ範囲:P.859 - P.862

 はじめに
 喀痰細胞診は早期に肺癌を発見することを目的として,胸部X線写真撮影と同時に肺癌検診の一部として広く行われている。喀痰細胞診で陽性とされ精査を受けても,場合により肺には癌が発見されないことがあり,耳鼻咽喉科領域の精査を行うことにより病変部が確定されることも稀ではない。今回われわれは,喀痰細胞診でclass Vの結果を受け,他院で肺および頭頸部領域の精査を受けたが病変部を確定できず,当科で上顎洞試験開洞術を行うことによって初めて扁平上皮癌の診断を確定することができた上皮内癌の1例を経験した。

転移性喉頭腫瘍と考えられた2例

著者: 渡邉一正 ,   坪田大 ,   北秀明 ,   藤澤泰憲

ページ範囲:P.863 - P.867

 はじめに
 転移性頭頸部腫瘍は,頸部リンパ節転移を除けば少なく,中でも転移性喉頭腫瘍は非常に少ない1)。しかしその反面,多彩な部位からの転移が報告されており,耳鼻咽喉科医が日常診療において遭遇する可能性のある疾患でもある。われわれは,転移性喉頭腫瘍と考えられた2例を経験したので報告する。

栄養障害後脳症として発症したWernicke脳症の1例

著者: 青柳美生 ,   設楽明子 ,   三枝英人 ,   頼徳成 ,   相原康孝 ,   八木聰明

ページ範囲:P.868 - P.871

 はじめに
 Wernicke脳症において上眼瞼向き眼振が認められることはよく知られている1)。今回われわれはダイエットによる栄養障害に伴い,上眼瞼向き眼振および失調性歩行を示したWernicke脳症の1症例を経験したので,得られた神経学的所見,特に眼球運動を中心に報告する。

耳下腺唾石症の2例

著者: 大場教弘 ,   村岡道徳

ページ範囲:P.873 - P.876

 はじめに
 唾石症は臨床の場でしばしば遭遇する疾患であるが,顎下腺に好発し耳下腺には少ないといわれている1〜16)。今回われわれは,耳下腺唾石症を2例経験し,耳前部S字状切開により唾石の摘出を行い良好な結果を得た。治療方法を中心に若干の文献的考察を加え報告し,今後の診療の一助としたい。

固有鼻腔異物(鼻涙管チューブ)の2症例

著者: 南吉昇 ,   渡辺聡哉 ,   南詔子 ,   金子満 ,   阿部隆

ページ範囲:P.877 - P.880

 はじめに
 固有鼻腔異物は耳鼻科の日常臨床においては稀なものではない。その多くは小児などにみられる綿花,紙,玩具などである。そのほか鼻内手術のガーゼ遺残や外傷によるガラス片,金属片などが異物として存在することもある。しかし,眼科の治療手段として用いられた医療用材料が固有鼻腔異物として問題となることはほとんどない1,2)。今回われわれは,鼻涙管狭窄症の治療のため留置されたプラスチックチューブが,長期間を経過した後に感染を起こし異物として摘出することになった2症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

連載 小児の耳鼻咽喉科・頭頸部外科シリーズ

③小児アレルギー性鼻炎の取り扱い

著者: 大久保公裕

ページ範囲:P.881 - P.885

 はじめに
 アレルギー性鼻炎は耳鼻咽喉科領域では頻度の高い疾患である。もちろん,小児の患者も多い。小児アレルギー性鼻炎では気管支喘息,アトピー性皮膚炎の合併が多いこと,これらを含めてアレルギーマーチと呼ばれていることもよく知られている1)。現在,治療は小児科よりも耳鼻咽喉科で行われるケースが多い。これは実際に鼻粘膜を観察し,風邪症候あるいは副鼻腔炎などとしての症状なのかを判断し,治療が可能であるからと思われる。一般に小児のアレルギー性鼻炎の多くは通年性であり,ハウスダスト,ダニが原因であることが多い。しかし,近年スギ花粉症の増加に伴い,小児においても花粉症は稀な疾患ではなくなってきている2)。鼻粘膜所見もハウスダスト,ダニの通年性のものとスギなどの花粉症では異なり,鑑別が必要である。他疾患で小児科を訪れている患児は既に薬物治療が行われており,それを考慮して小児のアレルギー性鼻炎治療を行うことが重要と考える。
 本稿では,小児アレルギー性鼻炎の特殊性を中心に病態と治療について解説する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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