原著
両側顔面神経麻痺を主訴としたHIV感染症の1例
著者:
山岸茂夫
,
横島一彦
,
中溝宗永
,
相原康孝
,
池園弘美
,
馬場俊吉
,
八木聰明
ページ範囲:P.167 - P.169
はじめに
本邦でのHIV (human immunodeficiencyvirus)感染者は急増しており,1998年4月末までに3,752人が報告されている1)。2000年には,感染者数は7,000〜10,000人程度と急速な増加が予測されている2)。HIV感染者が増加するに従い,HIV感染に伴う諸症状を訴えて耳鼻咽喉科を受診する機会は,今後増えることが予想される。それらに十分な対応をするために,HIV感染症についての認識を十分もつ必要があると思われる。
HIV感染者は,健常者に比し高頻度に末梢性顔面神経麻痺を生じると報告されている3)。AIDSもしくはARC (AIDS related complex)で,末梢性顔面神経麻痺を発症した症例は,本邦でも僅かながら報告されている3〜5)。しかし,それらの症例はHIV感染症であることが既に判明している患者に発症した末梢性顔面神経麻痺である。
今回われわれは,右側麻痺発症約1か月後,左側にも発症した両側顔面神経麻痺を生じ,その後HIV感染症であることが明らかになった1症例を経験した。症例を呈示するとともに,顔面神経麻痺患者の診療とHIV感染症との関わり方について考察した。