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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科71巻3号

1999年03月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

鼻脳型ムコール真菌症の1例

著者: 鈴木政彦 ,   宮下久夫 ,   中村弦 ,   山田麻里 ,   内田育宏 ,   真栄田宗慶 ,   谷川譲

ページ範囲:P.164 - P.165

 近年,感染症が増加傾向にある。真菌症も同様で,鼻副鼻腔真菌症の報告も増加しており,悪性腫瘍,血液疾患,ステロイド治療などに伴い発生しやすく,その治療に難渋することが多い。今回われわれは糖尿病に伴った,いわゆる鼻脳型ムコール真菌症を1例経験したので報告する。
 症例は57歳,男性。1996年8月上旬に近医歯科にて抜歯後,顎下部の疼痛,腫脹が出現した。同年8月13日に近院を受診し糖尿病を指摘された。同病院に入院後,血糖のコントロール中に腫脹の増加,複視,顔面神経麻痺が出現したが,頭蓋内に異常がみられず耳鼻咽喉科に転科した。悪性腫瘍の疑いもあり当院を紹介され,同年9月2日に初診した。右頸部から顔面にかけての腫脹と圧痛,右眼球突出がみられた。硬口蓋から軟口蓋,鼻腔底から鼻中隔にかけて粘膜の壊死を認めた(図1)。また,右滲出性中耳炎,左慢性中耳炎を認めた。脳神経障害は右側でIII IV V1,2VIVII,左側でV1〜3)VIに麻痺があった。右上深頸部に軟らかく可動性のあるリンパ筋を触知した。眼底所見上,糖尿病性網膜症があった。初診時HbA1Cが12.7%と糖尿病のコントロールが不良であった。CRPが12.5と強い炎症があった。鼻汁の細菌検査ではMRSAが検出されたがムコール真菌は検出されなかった。

原著

両側顔面神経麻痺を主訴としたHIV感染症の1例

著者: 山岸茂夫 ,   横島一彦 ,   中溝宗永 ,   相原康孝 ,   池園弘美 ,   馬場俊吉 ,   八木聰明

ページ範囲:P.167 - P.169

 はじめに
 本邦でのHIV (human immunodeficiencyvirus)感染者は急増しており,1998年4月末までに3,752人が報告されている1)。2000年には,感染者数は7,000〜10,000人程度と急速な増加が予測されている2)。HIV感染者が増加するに従い,HIV感染に伴う諸症状を訴えて耳鼻咽喉科を受診する機会は,今後増えることが予想される。それらに十分な対応をするために,HIV感染症についての認識を十分もつ必要があると思われる。
 HIV感染者は,健常者に比し高頻度に末梢性顔面神経麻痺を生じると報告されている3)。AIDSもしくはARC (AIDS related complex)で,末梢性顔面神経麻痺を発症した症例は,本邦でも僅かながら報告されている3〜5)。しかし,それらの症例はHIV感染症であることが既に判明している患者に発症した末梢性顔面神経麻痺である。
 今回われわれは,右側麻痺発症約1か月後,左側にも発症した両側顔面神経麻痺を生じ,その後HIV感染症であることが明らかになった1症例を経験した。症例を呈示するとともに,顔面神経麻痺患者の診療とHIV感染症との関わり方について考察した。

耳下腺内顔面神経鞘腫の1例

著者: 西山彰子 ,   久育男

ページ範囲:P.171 - P.175

 はじめに
 耳下腺内顔面神経鞘腫は頻度の少ない疾患である1〜4)。今回,顔面神経本幹由来の神経鞘腫を経験したが,治療方針としては神経を腫瘍とともに温存し,今後の経過により再手術などを検討することとした。文献的にも術前に診断することは困難で,すべての報告例で術中に厳しい判断をせまられ,1回の手術で完全摘出を試みた例と部分切除で病理を確認し経過観察とした例が報告されてきた1〜14)。今回われわれは術前診断に関する工夫と治療法について検討したので報告する。

小脳橋角部髄膜腫症例の検討

著者: 坂本徹 ,   福田諭 ,   佐藤信清 ,   澤村豊 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.177 - P.181

 はじめに
 近年,MRIを初めとした画像診断技術の向上に伴い,小脳橋角部腫瘍の診断が容易となりその関心も高まっている。今回われわれは小脳橋角部腫瘍の約6.5%を占め聴神経腫瘍に次いで多いとされる髄膜腫について1,2),その臨床像,検査所見および聴神経腫瘍との鑑別について,自験例ならびに文献的考察を加え検討を行ったので報告する。

頭部外傷後に内リンパ水腫をきたした小児例について

著者: 菅原一真 ,   山下裕司 ,   下郡博明 ,   高橋正紘

ページ範囲:P.183 - P.186

 はじめに
 耳鳴,難聴めまいを繰り返すメニエール病の病態は内リンパ水腫であると考えられているが,内リンパ水腫自体の成因については確定していない。しかし,日常診療において注意深く問診や診察を行うと,内リンパ水腫との因果関係を有すると思われる既往歴をもつ症例を認める。原因疾患としては,感染,外傷,耳硬化症,梅毒,遺伝性などが報告されている。今回われわれは,外傷を誘因として内リンパ水腫をきたしたと思われる小児例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

頸部に発生したエックリンらせん腫の1例

著者: 中北信昭 ,   山下理絵 ,   浅野学 ,   松井潔 ,   内沼栄樹

ページ範囲:P.187 - P.190

 はじめに
 エックリンらせん腫(eccrine spiradenoma)は,1956年,Kerstingら1)により初めて報告されたエックリン腺管分泌細胞に由来する良性腫瘍性病変である。われわれは,頸部に発生した巨大なエックリンらせん腫を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

覚醒剤中毒により咽頭を自傷した1例

著者: 安部治彦 ,   井上都子 ,   井上美知子 ,   構木睦男

ページ範囲:P.191 - P.193

 はじめに
 近年,本邦においても再び覚醒剤の乱用が増加したため,これによる事故が増えている1)。症状は軽度な精神障害より中毒死に至るまで種々であり,自傷する例もみられる2)。今回,われわれは覚醒剤の乱用により精神錯乱をきたし,割箸で上咽頭から下咽頭までを損傷して頸部の皮下および縦隔気腫をきたした1例を経験した。この種の報告は耳鼻咽喉科領域ではほとんどみられないので報告する。

トキソプラズマ性顎下部リンパ節炎の1例

著者: 浅輪史朗 ,   梅垣油里 ,   鈴木俊哉 ,   石山哲也 ,   田口喜一郎

ページ範囲:P.195 - P.198

 はじめに
 頸部腫脹を主訴とする患者は日常の診療でしばしば遭遇し,その疾患は多彩ではあるが部位や経過,その他の視触診などによる詳細な診察により診断に至り得ることが多い。しかし,その診断に苦慮し,適切な治療に遅れをとることもある。今回われわれは,生検とその血清抗体価により診断に至ったトキソプラズマ性リンパ節炎症例を経験したので報告する。

後天性外耳道閉鎖症の2例

著者: 清水猛史 ,   大川親久 ,   鵜飼幸太郎 ,   坂倉康夫

ページ範囲:P.201 - P.205

 はじめに
 後天性外耳道閉鎖は外傷による報告が多く認められるが,稀に術後の瘢痕形成や炎症,腫瘍などによっても生じる。外耳道入口部や軟骨部で閉鎖が生じると,閉鎖部の内側に外耳道や鼓膜の上皮が残存して真珠腫が発生する危険性が高い。こうして形成される真珠腫は,一般の真珠腫とは異なる発生機序や進展様式をとることが推測される。今回,中耳手術後半年ほどで外耳道閉鎖をきたし,5年間経過後手術を行った症例と,外耳道骨腫で手術待機中に外耳道閉鎖をきたした症例を報告し,後天性外耳道閉鎖による真珠腫の形成と手術法について考察した。

側頭頭頂筋膜弁による乳突腔充填を要した外耳道真珠腫症例

著者: 弓削忠 ,   鈴木光也 ,   中尾一成 ,   朝戸裕貴

ページ範囲:P.213 - P.216

 はじめに
 側頭頭頂筋膜弁は,耳介形成手術に広く利用されているが1),外耳道真珠腫除去後の再建材料としては報告がない。
 今回われわれは,広範囲な骨破壊を伴う外耳道真珠腫に血管ベーチェット病を併発した症例に対し,側頭頭頂筋膜弁による乳突腔充填,外耳道再建を施行し良好な結果を得たので報告する。

頭頸部癌治療における上部消化管内視鏡検査の有用性

著者: 石永一 ,   加藤昭彦 ,   山田弘之

ページ範囲:P.217 - P.220

 はじめに
 悪性腫瘍の診断法,治療法の向上ならびに平均寿命の延長に伴い,重複癌症例が増加する傾向にあり,頭頸部領域においても同様な報告が認められる1)。したがって,頭頸部領域の治療に際し,再発や転移のみならず重複癌を見逃さないよう診断することがますます重要となってくる。
 今回,当科において経験した頭頸部管腔癌症例33例を中心に検討し,若干の考察を加え報告する。

鏡下咡語

人口内耳ことはじめ—独・豪での見聞

著者: 森満保

ページ範囲:P.208 - P.209

 1973年,ベニスでの世界耳鼻科会議は,ロスのハウスー派による人工内耳の報告でわき上がった。人工内耳を移植された聾の少女は発表映画の中でスムーズに会話し,伴奏に合わせて歌った。会場では一斉に驚嘆の声がどよめいた。私は単極ということに懸念を抱いた。内耳での周波数分析はベケシーの進行波説(travel-ling wave theory)あるいは場所説(place theory)で説明されている。音は周波数に応じて基底膜上の波動伝達距離が異なるために,周波数分析が可能なのである。単極での音声アナログ電気刺激では,周波数別にその刺激が基底膜上に分配されるはずがない。電極位置の神経末端は,その周波数とは無関係に電気刺激によって興奮させられるに違いないからであり,そのときの音は電極位置に該当する周波数であるはずである。したがって,内耳レベルでの周波数分析がどのようになされるのか納得できなかったのである。ただ眼前にくりひろげられる映像は,その疑問を吹き飛ばすほどの迫力であった。
 案の定,その後の追試報告は芳しいものではなかった。報告例はいわゆる読唇術の上手なスターペイシェント(star patient)でのみ得られる好成績なのであった。1985年,マイアミでの世界耳鼻科会議の後,単極人工内耳の製作会社3M社を訪れ,初めて実際の患者を面接した。

連載 耳鼻咽喉科“コツ”シリーズ 2.検査のコツ

⑦内視鏡検査のコツ

著者: 山下公一

ページ範囲:P.223 - P.230

 はじめに
 内視鏡を使うコツは,積極的に使ってみることに尽きるが,まずその基本となる原理について理解しておくことが大切であり,効果的な上手な利用への近道である。
 耳鼻咽喉科診療は,中耳,鼻腔,咽喉頭などの体腔内を観察して診断情報を得たり,直接局所に処置を加えて効果的な治療を行おうという場合が多く,それが特徴の1つともいえる専門領域である。近年の内視鏡工学やTV工学の進歩によって,耳鼻咽喉科領域でも診療に導入できる内視鏡が豊富となり,内視鏡を導入した診療が進歩しているので,その基本的なことについて述べたい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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