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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科71巻7号

1999年06月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

軟口蓋に発生した神経鞘腫の1症例

著者: 香取幸夫 ,   菊地俊彦 ,   藤原浩子 ,   工藤貴之 ,   湯田文朗

ページ範囲:P.406 - P.407

 神経鞘腫は体性ならびに自律神経系のシュワン細胞から発生し,頭頸部領域では迷走神経,舌咽神経,交感神経幹およびその分枝を起源として傍咽頭間隙から側頸部の腫瘍として出現する頻度が高い。今回われわれは,軟口蓋に発生した症例を経験したので報告する。
 患者:35歳,男性。

Current Article

バーチャルリアリティーと外科手術

著者: 友田幸一 ,   村田英之 ,   鈴鹿有子 ,   堀口章子

ページ範囲:P.409 - P.418

 はじめに
 バーチャルリアリティー(virtual reality:仮想現実)という言葉は,1987年にLanierが「物質空間と別のもう1つの空間を合成するコンピュータ技術」を指すものとして初めて用いた。これは1990年のコンピュータ学会Siggraph会議で,1)3次元コンピュータグラフィックス,2)相互的なセンサーデバイス技術,3)高解像ディスプレイより構成される技術として定義された。わが国でも1995年にバーチャルリアリティー学会が発足し,1)臨場感,2)実時間インターアクション,3)自己投射性を3つの条件とする技術として定義された。バーチャルリアリティー技術の近年の進歩に伴い,これを広く医療全般に応用する試みがなされている。仮想現実医学の範囲は患者の形態のみならず,拡大して治療の場にまで応用されている。この応用には,手術の計画立案支援,教育支援などを目的とする手術シミュレーションシステム,術中ナビゲーション,定位脳手術への応用(シースルー技術による内部像との重ね合わせ,augumented reality),管腔外科への応用(virtual endoscopic surgery)などのほかに,患者そのものではなく患者を取り巻く環境を仮想化すること(virtual therapeutic environment)がなされ,高所恐怖症,閉所恐怖症,自閉症などの治療に応用されている。また,リハビリテーションやパーキンソン病の歩行訓練においてVRメガネが利用されている。また,通信技術と仮想現実の結合によって生み出されたtele-virtualmedicineでは遠隔制御のロボットハンドが仮想遠隔手術を行う試みもなされている。さらにはネットワーク上に病院機能を分散化,仮想化するバーチャルホスピタルの構想もある。
 これらの様々な応用の中から,われわれが行っている術中ナビゲーションシステムを中心にimage-guided surgeryの将来について述べる。

原著

他院での根治治療を希望して転院した頭頸部悪性腫瘍患者の検討

著者: 横島一彦 ,   中溝宗永 ,   矢嶋裕徳 ,   渡辺秀行 ,   富山俊一 ,   八木聰明

ページ範囲:P.421 - P.423

 はじめに
 悪性腫瘍の治療に対する様々な考え方がマスコミでもとり上げられる機会が増え,情報開示の問題も加わり,悪性腫瘍の治療をとりまく環境は年々変化している1)。特に,腫瘍の根治を目指すためにQOLを低下させることが多い頭頸部悪性腫瘍の治療2,3)では,患者や家族が治療について後悔のない選択ができる環境を作ることも,われわれ医師に期待されていることの1つと思われる。
 当科では近年,悪性疾患の告知,治療方法の十分な提示をすることに積極的に取り組んでいることに加え,転院して他院で根治治療を受けることも可能であることを説明するようにしている。このような原則で診療すれば,われわれ医師側が治療内容の選択の幅を狭めることが少なくなり,患者側の自己決定権の尊重1)につながると考えている。
 本報告では,当科を受診したにもかかわらず,種々の理由により他院での根治治療を希望し,転院した頭頸部悪性腫瘍症例を対象に,現在まで行ってきた診療を検討したうえで,今後のインフォームドコンセント4,5)の実践について考察した。

放射線障害と外耳道の真珠腫様病態

著者: 石原明子 ,   奥野秀次 ,   野口佳裕 ,   小松崎篤

ページ範囲:P.425 - P.428

 はじめに
 頭蓋内や頭頸部の腫瘍に放射線治療を行うと,側頭骨が照射野に入る場合がある。この際,放射線による障害として滲出性中耳炎,外耳炎,骨壊死などが生じることはよく知られており1),われわれも以前,側頭骨壊死症例について報告している2)。しかし,放射線障害による外耳道の真珠腫様病態に関しての報告は数少ない3,4)
 外耳道の真珠腫様病態を考える際には,外耳道真珠腫と閉塞性角化症の2つの病態を考慮する必要がある5,6)。発生原因を含め,これら両者の異同に関して定説は確立していないが,Piepergerdesら5)は,外耳道真珠腫では骨障害が,閉塞性角化症では皮膚障害が関与するとしている。放射線照射は皮膚と骨組織双方に障害を起こす可能性があり,放射線障害による外耳道の真珠腫様病態の成因は,閉塞性角化症と外耳道真珠腫の議論からも興味がもたれる。われわれは放射線障害によると考えられた真珠腫様病態の3症例を経験したので報告する。

鼻涙管閉塞症に対する内視鏡下鼻内手術の経験

著者: 佐伯忠彦 ,   上甲英生 ,   脇坂浩之

ページ範囲:P.429 - P.433

 はじめに
 従来,鼻涙管閉塞症に対する治療は眼科医が主体となり,耳鼻咽喉科医がかかわる機会は少なかった。また,治療法としては主に外切開による涙嚢鼻腔吻合術が行われてきた。ところが,近年,光学医療機器の開発・進歩に伴い,硬性内視鏡を用いた耳鼻咽喉科医による鼻内経由の涙嚢鼻腔開窓術が注目を集めている。しかし,それらに関する報告の多くは海外からのもので1〜10),本邦においては少数例の報告が散見されるのみである11〜13)。今回われわれは,わずか2例ではあるが鼻涙管閉塞により涙嚢炎をきたした患者に対して,硬性内視鏡を用いた鼻内手術を行う機会を得たので報告する。

副鼻腔原発髄膜腫の1症例

著者: 小林麻里 ,   深谷卓 ,   中村弦 ,   鈴木政彦 ,   宮下久夫

ページ範囲:P.435 - P.439

 はじめに
 髄膜腫はクモ膜細胞起源の良性腫瘍であり,脳腫瘍の中では約20%の割合を占める一般的な腫瘍である。しかし,頭蓋外に発生する異所性髄膜腫は珍しく,その頻度は全髄膜腫の0.9〜2.0%1,2)と報告されている。今回,われわれは副鼻腔原発の髄膜腫の1例を経験したので報告する。

中国東北部と北海道の頭頸部悪性腫瘍に対するEBウイルス学的研究—上咽頭癌における癌関連蛋白質の発現

著者: 山口治浩 ,   平尾元康 ,   原渕保明 ,   形浦昭克 ,   王鉄 ,   張玉富

ページ範囲:P.440 - P.444

 はじめに
 Epstein-Barr virus(EBV)は,腫瘍原性をもつヒトヘルペス属ウイルスであり,Burkittリンパ腫を初めとする様々な腫瘍の発生に関与しているとされている。上咽頭癌はEBV検出率が高く,その発生頻度は中国南部およびその出身者が在住する東南アジアにおいて高いことが知られている1)
 一般にEBVが感染した場合は,そのほとんどが持続感染(latent infection)しているが,EBV蛋白の発現パターンによって大きく3つの感染様式に分類される。Type Iは6種の核蛋白(EBVnuclear antigen:EBNA)のうちEBNA1,および2種のnon-polyadenylating RNA (EBV en-coded small RNA:EBER)を発現するタイプで,Burkittリンパ腫などで認められる。Type IIはEBNA1,3種の膜蛋白(1atent membraneprotein:LMP),EBERを発現するタイプで,上咽頭癌2,3)やHodgkin病などで認められる。TypeIIIは6種全てのEBNAと3種全てのLMP,EBERといった持続感染関連遺伝子全てを発現しており,日和見リンパ腫や伝染性単核球症などで認められる。感染したごく一部の細胞では,ウイルス生成感染(lyticまたはproductive infect-ion)し,その際にウイルス産生を開始するスイッチとしてBamHI Z Epstein-Barr replicationactivator(ZEBRA)が発現する。

上咽頭粘表皮腫の1例

著者: 菅原一真 ,   今手祐二 ,   遠藤史郎 ,   下郡博明 ,   高橋正紘

ページ範囲:P.453 - P.456

 はじめに
 粘表皮腫は1945年,Stewartら1)によって最初に報告された腫瘍で,耳下腺や顎下腺などの大唾液腺に多い腫瘍である。その臨床的性質から,近年,悪性腫瘍と考えられるようになり,粘表皮癌とも呼ばれている。今回われわれは,比較的稀な上咽頭に発生した粘表皮腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

中咽頭前壁および側壁早期癌に対するpull through methodの意義と有用性

著者: 山根英雄 ,   小西一夫 ,   井口広義 ,   高山雅裕 ,   角南貴司子 ,   中川隆之

ページ範囲:P.457 - P.461

 はじめに
 T1, T2の中咽頭癌治療に対しては放射線治療が主体となっているものと思われる1〜3)。これは中咽頭癌手術が技術的に複雑なことに加えて,術後に嚥下機能,構音機能の障害発生の可能性,また,一方では同部に多い未分化扁平上皮癌に放射線治療が有効で局所コントロールが可能であるなどの理由と相侯って,頸部郭清術のみならず手術治療が行われないことも多い。しかし,中咽頭の部位によるが,T1症例であっても約半数は頸部リンパ節転移が認められていることも事実である4)。放射線治療で局所コントロールが可能な場合も多いことを否定するわけではないが,理想は嚥下機能,構音機能障害を惹起することなく根治的手術治療ができることである。
 当科ではこのような観点から,中咽頭癌で最も多い側壁癌および前壁癌のstage IIのみならず,症例にもよるがstage I症例に対しても(Tisを除く),病巣の十分な確認からpull throughmethodを用いて局所郭清に頸部郭清術を併用する手術治療を1994年から行っている。早期中咽頭癌そのものが少なく症例が限定されるが,当科で施行した中咽頭早期癌症例に対する手術術式とその有用性,問題点,予後,術後の嚥下機能,構音機能について検討したので報告する。

副咽頭間隙神経原性腫瘍の2症例

著者: 猪飼重雅 ,   川上理郎 ,   橋本和明 ,   竹中洋

ページ範囲:P.463 - P.467

 はじめに
 副咽頭間隙腫瘍は比較的稀な疾患であるといわれてきたが1〜4),画像診断の発展に伴い報告は増えつつある5〜7)。また,副咽頭間隙は解剖学的に重要な血管や神経が含まれ,その構造組織の多様性により神経原性,唾液腺由来,リンパ組織由来など多種多様の腫瘍が発生し得る。今回,われわれの施設で経験した副咽頭間隙神経原性腫瘍の2例について,若干の文献的考察を加えて報告する。

耳下線salivary duct carcinomaの1例

著者: 狩野章太郎 ,   角田玲子 ,   深谷卓 ,   笹島ゆう子

ページ範囲:P.471 - P.475

 はじめに
 唾液管癌(salivary duct carcinoma:以下,SDCと略)は,1968年にKleinsasserら1)によって最初に報告された唾液腺癌であり,発生頻度は低いが悪性度は高い2)。今回われわれは耳下腺に発生し,肺転移も認められたSDCの1例を経験したので報告する。

非機能性副甲状腺嚢胞の1症例

著者: 須納瀬弘 ,   浅野重之 ,   豊嶋勝

ページ範囲:P.477 - P.480

 はじめに
 前頸部の腫瘤を訴え来院する患者に副甲状腺の異常を認めることは少ない。非機能性副甲状腺嚢胞(non functioning parathyroid cyst:NFPC)は欧文誌において200例余り1,2),本邦においても80例余りが報告されているにすぎず,比較的稀な疾患である。NFPCはその存在部位と臨床症状,画像所見から甲状腺嚢胞として手術されやすいが3,4),鑑別疾患の1つとして念頭におけば術前に診断することは可能とされる1〜3,5〜7)。今回われわれは,甲状腺腫瘍として紹介され,手術によりNFPCと判明した症例を経験したので,その診断および治療について文献的考察を加え報告する。

鏡下咡語

術後顔面神経麻痺ことはじめ

著者: 森満保

ページ範囲:P.446 - P.447

 われわれ耳鼻科医にとって,最も嫌なのは顔面神経の術後麻痺であろう。私が入局した昭和30年代には,現在よりも術後麻痺が多かったように記憶している。いつも1〜2人の術後麻痺患者が永い入院治療をしていた。もちろん純然たる手術損傷ではなく,真珠腫などで危険な状態にあった例も多かったのかもしれない。中には「2〜3人曲げたら手術も上手になるよ」と豪放?な先輩もいた。
 私自身は術後麻痺だけは絶対に許せないと思っていた。ところが,入局5年目にその術後麻痺に遂に遭遇した。それは車で小1時間ほどの出先の病院で,新婚ほやほやの美人の患者であった。当時は単純な慢性中耳炎でも未だ全例ノミを使って乳突削開を行っていたが,その例は顔面神経など全く心配のない削開術で終わった。大学病院に帰って,会議に出ているときに電話に呼び出された。患者さんの顔がおかしいとご主人が言っているという。ドキッとしたが,全く顔面神経損傷など覚えがない。夜になって病院に行ってみると,やはり麻痺していた。

追悼の辞

故大藤敏三先生を偲ぶ

著者: 曽田豊二

ページ範囲:P.450 - P.451

 大藤敏三先生は平成11年(1999年)3月26日午前7時30分卒然として逝去なられました。
 この突然の訃報は私どもの心に深い哀しみを呼びおこしました。また,この耳鼻咽喉科学会の巨きな火であられた方が,おひとり消え去ったと感じさせられました。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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