頸部神経鞘腫に対する神経機能温存術式の検討
著者:
市村恵一
,
中原はるか
,
石尾健一郎
,
清水賢
,
菊地茂
ページ範囲:P.59 - P.64
はじめに
機能の保存は,腫瘍の完全切除を必須とする悪性腫瘍手術においても重要視されるようになってきた。そうした現状からみて,頸部良性腫瘍の手術においては腫瘍の完全摘出に加え最少の合併症,機能温存という要求を満たす必要がある。しかし,神経原性腫瘍で全摘出を行えば,術後の該当神経の脱落症状は必発である。神経の吻合や移植を行えば筋緊張は保たれるものの,神経機能が完全に回復することは決して多いものではない。腫瘍再発は避けねばならないが,QOLの面からみると神経原性腫瘍においても神経機能は是非温存したいものである。
神経原性腫瘍のうち,神経鞘腫については神経束が腫瘍辺縁に押しやられる形をとるために,理論的には神経機能温存が可能である。また,注意深い剥離をすれば神経は腫瘍から容易に分離できるという報告もみられる1)。しかし,現実には機能温存は必ずしも容易ではなく,そのためのコツも成書に記載されてはいない。
本研究では教室での頸部神経鞘腫手術例の検討と検索した文献の検討から,神経と腫瘍の位置関係を整理し,それに対応した神経機能温存の具体的方法を示すことを目標とした。