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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科72巻12号

2000年11月発行

雑誌目次

トピックス 補聴器とその適合

1.補聴器公的支給の仕組みと現状

著者: 調所廣之

ページ範囲:P.796 - P.802

 はじめに
 現在,日本では人口の約5%,すなわち約600万人が補聴器の助けが必要とみられている。しかし,実際に補聴器を使用している人はその約30%で,150〜200万人と推定されている。これは欧米の先進国と比較して数分の一で,かなり低いレベルにあると言わざるを得ない。しかし,日本における近年のすさまじい高齢化社会において,今後ますます補聴器の需要は増大すると考えられる。
 そこで本稿では,補聴器の公的支給(補助)制度の仕組みと現状について解説する。

2.補聴器専門店の認定

著者: 宮永好章

ページ範囲:P.803 - P.806

はじめに
 わが国における今日までの補聴器供給のあり様を振り返ってみると,昭和30年代(1955年)まではその需要も少なく,ごくわずかの販売店で扱われている特殊な用具としてのものであった。その利用者も現在のような高齢者中心ではなく,伝音難聴をもつ人の率が高かったであろうと思われる。身体障害者福祉法の補装具として交付措置が行われていたが,その適合についてはもっぱら使用者の評価に頼っており,補聴器を医療の一部として理解し関心を寄せる医師,関係者は多くはない状態であった。その後,補聴器の性能向上に伴い生来性の難聴児への装用,高齢者の増加に伴い感音難聴への適合の必要が生じてきたが,1986年日本耳鼻咽喉科学会に「ヒヤリングエイドシステム研究会」が置かれるまでは,関係者が一同に会し組織的に補聴器供給をどのように行うかを検討したことはなく,補聴器販売の現場は言わば無秩序な状態であり,補聴器購入者はたまたまよい形で入手できるか否かはわずかな口コミ以外の情報はなく,くじ引きに当たるようなものであった。現在では多数の耳鼻咽喉科医が補聴器に関心をもつこととなり,販売店の意識も改善されつつあるが,今なお身体障害者福祉法によるものを含めても医師の関与によって購入される頻度はわずかに全販売量の15%程度と推定されており,依然として単なる民生用商品としてほとんど専門知識をもたない者の手によって販売されている部分が相当数にのぼる状況にあることは,まことに嘆かわしい限りである。

3.補聴器の器種選択

著者: 小寺一興

ページ範囲:P.807 - P.810

 はじめに
 わが国において販売されている補聴器の器種は100種類を大きく上回る。難聴患者が補聴器に不満をもって来院した場合,器種選択が適切に行われているか否かの評価に困難を感じられると思われる。ここでは,器種選択の重要な点を示し,補聴器を新しく使用する場合の器種選択で考えるべきことを中心に述べる。

4.実地医家のための補聴器のフイッティング

著者: 安野友博

ページ範囲:P.813 - P.816

 はじめに
 今春の診療報酬改定で補聴器適合検査が認められた。制約のあるものとはいえ耳鼻咽喉科医の取り組むべきものとして日の目を見たといえる。さらに,この診療報酬の特色は補聴器適合の諸検査が包括されていない点にあり,今日未だ活用できない実地医家であっても,諸種の検査,さらに高度難聴指導管理料を活用してこの問題に当たっていくべきであろう。
 乳幼児健診から学校保健,労働安全衛生規則,さらに地域によっては高齢者の難聴対策など,生涯にわたる聴覚管理態勢が整いつつある今日,難聴あるいは難聴者への対応はゆるがせにできない。補聴器の適応の患者に接したときに,適切な補聴器店に紹介するのは最も簡単で基本的形態といえるが,もう少し踏み込んでみたいものである。

5.補聴効果の評価方法

著者: 岡本牧人

ページ範囲:P.818 - P.824

 はじめに
 補聴効果の評価については,補聴器の評価,評価のための設備・機器,装用効果の評価,難聴者の評価に分けて考えるのがよい。時期でみると補聴器決定のための評価,決定後短期における評価,長期装用後の評価に分けられる。補聴器決定のための評価は主としてフィッティングのところで述べられると思うのでここでは述べない。聴覚の評価は補聴効果の評価の際にも必要であるが,補聴器の適応とフィッティングとの関連のほうが大きいので,ここでは補聴効果に関連して言及するにとどめる。

6.人工内耳の適応と限界

著者: 伊藤壽一

ページ範囲:P.827 - P.831

 はじめに
 人工内耳は,補聴器でもことばの聞き取りが不十分な高度の感音性難聴者,および聾者に対し,内耳に電極を挿入して聴神経を直接電気刺激し,ことばの聞き取りを回復・獲得せしめるものである。現在,世界各国で使用されている多チャンネル型人工内耳が臨床応用されて20年以上経過する。人工内耳手術を始めた当初,手術の対象は,補聴器を用いてもことばの聞き取りのできない高度難聴者で,しかも成人の中途失聴者に限られていた(表1)。人工内耳は,現在でもさらに改良が加えられている発展途上の医療であり,人工内耳の改良に伴い,手術の適応も小児,残存聴力のある者へと拡大してきた。小児に関しては,1990年に米国が2歳以上の小児に対する人工内耳手術を承認し,世界各国で小児に対して積極的に人工内耳手術が行われるようになった。わが国で人工内耳手術が開始されてから既に15年以上が経過する。以来,手術の適応も徐々に変化している。現在,多くの施設で採用している手術適応は,1998年に日本耳鼻咽喉科学会が設けた適応である(表2)。大多数の人工内耳手術施設では,概ねこの基準に沿って手術適応を決めていると思われる。小児に関しては,1991年に最初の人工内耳手術が施行されて以来,年々その数は増加傾向にある。
 本稿では人工内耳手術に対する手術の適応およびその限界,問題点につき述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

喉頭に発生した神経線維腫の1症例

著者: 多田靖宏 ,   鹿野真人 ,   渡邉睦 ,   小川洋 ,   大谷巌

ページ範囲:P.792 - P.793

 喉頭に発生する良性腫瘍は,乳頭腫,線維腫,腺腫,粘液腫,軟骨腫,リンパ管腫,血管腫などが報告されている。神経原性腫瘍は稀とされており,さらにvon Recklinghausen病を伴わない神経線維腫の報告は極めて少ない(表1)。
 症例:60歳,男性。

鏡下咡語

東北を旅して

著者: 名越好古

ページ範囲:P.836 - P.837

 この春,盛岡市から奥羽山脈を越えて秋田県に出,田沢湖高原にある水沢山荘に一泊し,田沢湖高原を観光し,さらに横手市までドライブする機会を得ました。横手市は父が眼科医院を開業していたので,小学校4年まで過ごしたところで,私にとっては故郷である。約80年の歳月を経ているので見分するもの全てが感動的で筆舌に盡せるものではないが,私なりの感想を述べてみたいと思います。
 6月11日,東北新幹線やまびこ17号で,家内と2人で東京駅を発ち2時間余りで盛岡に着き,午後5時頃駅前のホテルエースに着きました。夕食を駅前の“善”という料亭で鉄建公団勤務の次男の次郎と共にして,明日のドライブの打合わせを済ませた。翌12日,次郎の運転で盛岡市を観光し報恩寺の五百羅漢,三ツ石神社の鬼の手形,裁判所の中にある石割桜(樹齢300〜400年ともいわれている国の天然記念物)を見物しながら市内を周遊し盛岡市先人記念館をたずね,明治期以降に活躍した盛岡市ゆかりの先人米内光政,新渡戸稲造,金田一京助などの展示を見学し深い感動を覚えました。

原著

カリフラワー耳を生じたアトピー性皮膚炎症例の1例

著者: 角卓郎 ,   奥野秀次 ,   喜多村健 ,   田中和行 ,   林大海 ,   梅田整

ページ範囲:P.839 - P.842

 はじめに
 Cauliflower-ear deformity(カリフラワー耳)は,別名柔道耳,相撲耳などといわれ,原因は反復する外傷により,軟骨膜と軟骨との間の出血が繰り返され,その部分が線維化,瘢痕化,石灰化などするために生じると考えられている1〜3)
 われわれは今回,本人の訴えでは特別の誘因なく耳介に腫脹を生じ,約2年の経過を経て両側性にカリフラワー耳となった症例を経験した。患者は24歳の男性で,アトピー性皮膚炎による掻痒が唯一の原因として推測されたので,考察を含め臨床経過を報告する。

外耳道血管腫の1例

著者: 阿美貴久 ,   藤田博之 ,   小川恭生 ,   萩原晃 ,   河野淳 ,   鈴木衛

ページ範囲:P.844 - P.846

 はじめに
 血管腫は,血管内皮細胞由来の良性腫瘍で皮膚,肝臓,筋肉に好発する1)。耳鼻咽喉科領城においては鼻腔が最も多く,外耳道に発生することは少ない2)
 今回われわれは,外耳道に発生した血管腫の1症例を経験したので報告する。

鼻・副鼻腔神経鞘腫の1例

著者: 石川敏夫 ,   戸島均 ,   山田智佳子 ,   宗田靖 ,   永山捷平

ページ範囲:P.848 - P.850

 はじめに
 末梢神経鞘のSchwann細胞から発症する神経鞘腫は全身に発症し得るが,鼻・副鼻腔における発症はDas Guptaら1)によれば全体の2.9%の発生率である。
 今回,篩骨洞・蝶形骨洞原発の神経鞘腫の1症例を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する。

下口唇粘膜面に硬性下疳を呈した第1期梅毒の1例

著者: 鈴木政美 ,   岡本誠 ,   土田吉史 ,   鵜澤正道 ,   高橋累

ページ範囲:P.852 - P.855

 はじめに
 最近報告されている口腔・咽頭梅毒の多くは第2期梅毒であるが1),今回われわれは下口唇粘膜面に硬性下疳を呈した第1期梅毒の1例を経験したので,治療経過ならびに若干の文献的考察を加えて報告する。

手術・手技

鼓室鏡とその簡便な使用法

著者: 寺山吉彦 ,   酒井昇 ,   福田諭 ,   間口四郎 ,   後藤田裕之 ,   大橋正實

ページ範囲:P.857 - P.859

 はじめに
 耳科臨床,特に手術において鼓膜裏面,上鼓室,鼓室洞,耳小骨などの手術顕微鏡により直視できない部位を観察する方法として,Merら1)は1967年に軟性内視鏡を,野村2)は1980年に硬性内視鏡の使用を初めて報告し,さらに最近では,鼓膜穿孔のない場合に耳管咽頭口から入れた微細軟性内視鏡により鼓室内を観察した報告もある3)
 一方,鼓室鏡は金属棒の先端に直径数ミリメータの鏡を取り付け,耳鼻咽喉科医に使い慣れた間接喉頭鏡や後鼻鏡と同様に,鼓膜の穿孔を通して鼓室内に入れて,内部を観察するものである。しかし,鼓室鏡についての解説はこれまで地方部会記事以外には見当たらない4)。そこでわれわれは,1)市販の鼓室鏡を紹介するとともに(図1,2),2)その欠点を解消する簡単な使用法を考案したので発表し,3)鏡の角度を可変にした新しい器具を紹介する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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