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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科72巻2号

2000年02月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

舌神経由来のcellular schwannomaの1例

著者: 上埜理恵 ,   古田康 ,   目須田康 ,   大谷文雄 ,   福田諭 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.84 - P.85

 Cellular schwannoma (富細胞型神経鞘腫)は良性神経鞘腫の一亜型であるが,病理学的に悪性神経鞘腫との鑑別が極めて難しい1)。今回われわれは舌神経由来のcellular schwannomaの1例を経験した。
 症例は42歳,男性。平成9年8月頃より左顎下部腫脹に気づき近医を受診した。受診時,舌左側の軽度の味覚障害としびれを自覚していた。画像所見から口腔底腫瘍が疑われ,9月30日に当科を紹介され受診した。初診時,口腔底左側の粘膜下に弾性硬,可動性良好な腫瘤を触知した。CTでは顎下腺と接する境界明瞭な腫瘤を認めた。MRIでは内部が房状で,T1でやや高信号を示し,ガドリニウムで増強される腫瘤であった(図1)。吸引細胞診では多形腺腫疑いであった。以上より術前診断として唾液腺由来の上皮性腫瘍,または神経由来の腫瘍を疑い,全身麻酔下に腫瘍摘出術を施行した。術中所見では腫瘍は被膜を有しており,下顎骨の裏面で舌神経と思われる太い索状物と連続していた(図2)。索状物は腫瘍の表面で薄く拡がって腫瘍を取り囲んでいたため神経鞘腫と判断し,これを切断した。口腔底からも舌神経の末梢部と思われる細い索状物が舌尖方向に向かって入り込んでいた(図3)。これも切断したのち,舌下腺の一部と顎下腺をつけて腫瘍を摘出した。摘出標本では5.5×5cm大の被膜を有する腫瘍で,内部は淡黄色で充実性の腫瘍であった(図4)。組織学的には,紡錘形細胞が束状配列あるいはstoriform patternを示しながら充実性に増殖する,細胞密度の高い腫瘍であった(図5)。軽度の核異型や核分裂像も認められたため(図6),悪性軟部組織腫瘍または悪性末梢神経鞘腫との鑑別を要すると考えられた。しかし,明らかな壊死巣は認めず,分裂像も極く少数であった。免疫組織化学的にはS-100蛋白が腫瘍細胞にび漫性に陽性を呈していた。以上の所見より,最終的にcellularschwannomaと診断した。術直後には舌左半分の味覚低下としびれの訴えがあったが,運動麻痺などは認めなかった。術後約14か月を経過した時点では,極くわずかなしびれ感を訴えるのみで,明らかな再発の兆候はない。

Current Article

鼻閉の病態とその治療

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.87 - P.96

 Ⅰ.鼻閉と鼻閉感
 鼻閉は鼻疾患のほとんどにみられ,日常診療において最も多い訴えの1つである。鼻閉は,鼻から上咽頭にかけて空気の通過を妨げる要素が生じて鼻呼吸がうまくいかない状態であるが1),主観的症状であるため,「鼻閉感」にほかならない。そこで,普通に息をしている状態で鼻を通る空気量が不十分と感じる自覚2),鼻内気流が乱れた場合に生じる不快感3)などとも定義される。客観的な鼻内所見,鼻腔通気度,最小鼻腔断面積といった測定所見と鼻閉感は多くの場合相関するとされるが,各人の鼻閉感には個人差が大きく,また,鼻腔内が広く開いているのに鼻閉を訴える状態(萎縮性鼻炎など)や,明らかに鼻腔内が狭いのに鼻閉を訴えない例(メジャートランキライザー服用中の分裂病患者など)のように客観的鼻閉と自覚的鼻閉(感)の一致しない例もみられる。

原著

上顎骨に発生した間葉性軟骨肉腫の1例

著者: 今中政支 ,   大城康司 ,   寺田哲也 ,   萩森伸一 ,   山本祐三 ,   竹中洋

ページ範囲:P.99 - P.103

 はじめに
 軟骨肉腫は骨原性悪性腫瘍の10〜20%を占めるが,頭頸部領域では少ない。また,顎顔面領域での悪性腫瘍中の軟骨肉腫の発生率は0.3%である1〜3)。今回われわれは,上顎骨に発生した1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

成人T細胞白血病に合併した喉頭放線菌症の1例

著者: 安田誠 ,   丸山晋 ,   山道至

ページ範囲:P.105 - P.108

 はじめに
 放線菌症は,グラム陽性の嫌気性菌であるActinomyces israeliiの感染によって起こる炎症性疾患であり1),耳鼻咽喉科領域でも頬部,頸部を中心に多数報告されている。しかし,喉頭に原発した放線菌症は稀であり,われわれが検索した範囲では本邦における報告は1例である2)。今回われわれは,その発症に成人T細胞白血病(以下,ATLと略)による免疫能低下が関与していると思われる喉頭放線菌症の1例を経験したので報告する。

頭頸部同時重複癌2症例での遊離空腸による口腔再建

著者: 横島一彦 ,   中溝宗永 ,   中嶋博史 ,   青柳美生 ,   矢嶋裕徳 ,   粉川隆行 ,   滝沢竜太

ページ範囲:P.109 - P.112

 はじめに
 舌癌に対し原発巣と頸部リンパ節の一塊切除を施行した後の口腔再建には,その欠損の大きさや皮弁の厚さに応じて,腹直筋皮弁や前腕皮弁が適宜選択されており1〜4),遊離空腸による再建の報告は少ない5〜8)。再建後の嚥下,咀嚼,構音機能を考えると,残存する舌の可動性を妨げない,薄くてしなやかな再建材料が理想的である。その点で,比較的小範囲の口腔欠損であれば,遊離空腸での再建は有利に思える。しかし一方では,遊離空腸採取によって手術侵襲が大きくなることや術後の腹部合併症が危惧されることから,遊離空腸が選択される機会が少なかったものと思われる。
 今回,頭頸部同時重複癌の2症例で遊離空腸による口腔再建を行った。これらの症例は口腔内の切除が比較的小範囲であり,他の要因もあったため口腔再建の材料として遊離空腸を選択した。これらの症例の経験から,その有用性と問題点について検討し,口腔癌単独の場合の遊離空腸による再建の可能性についても考察した。

犬吠えによる急性音響外傷の2症例

著者: 川端五十鈴 ,   並木聡子 ,   田口清隆

ページ範囲:P.115 - P.118

 はじめに
 強大音の曝露が聴器に障害を及ぼして難聴を生じることはよく知られた事実である。音響曝露による急激に発症する難聴を詳しく検討すると,急性音響外傷,急性音響難聴と騒音性突発性難聴の3つに分類できる1)。第1の急性音響外傷は「予期しない突発的な強大音によって生じる急性の聴覚障害であり事故あるいは災害に相当するもの」と定義されている1)。そしてこの事故・災害をもたらす原因音についての症例を集計した研究があり2,3),日常の社会生活の中で原因音が身近に存在することが示唆されている。
 今回われわれは,ペットの飼犬の吠え声によって生じたと考えられる急性音響外傷の2症例を経験したので,これらの臨床像を記載するとともに,文献を引用しながら2〜3の点について考察を加えて報告する。

当院における聴神経腫瘍の診断と診療科の検討

著者: 坂本徹 ,   福田諭 ,   澤村豊 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.121 - P.124

 はじめに
 聴神経腫瘍は蝸牛・前庭神経症状で初発することが多いことから,ほとんどの症例は耳鼻咽喉科を初診するとされるが,耳鼻咽喉科で診断されることはさほど多くはないといわれてきた1)。近年の耳鼻咽喉科医の聴神経腫瘍に対する関心の高まりとMRIの進歩と普及に伴う耳鼻咽喉科医の聴神経腫瘍診断における役割について,自験例を基に検討を加えたので報告する。

耳鳴の苦痛度と心理検査成績の関連性の検討

著者: 山際幹和 ,   服部玲子

ページ範囲:P.131 - P.134

 はじめに
 耳鳴を訴える患者は,ときに多彩な身体的・精神的自覚症状を有し,その診療に際しては,心身医学的アプローチが要求される場合が稀ではない。
 耳鳴の重症度と心理的障害の程度の関連性の有無に関しては,海外では諸家の意見が大きく分かれている。すなわち,耳鳴の重症度と抑うつ状態や不安の強さの間には密接な関連があるとする報告1,2)がある一方で,それらの間には何ら有意の関連性はないとする報告もあり3),中には,ある特殊な例に限ってのみ関連性を認めたとする中間的な見解も存在する4)。他方,わが国では,それを標的とした研究成績の論文報告は数少ない5〜8)
 耳鳴の苦痛度と心理的苦悩の強さの関連性の有無が把握できれば,耳鳴患者の診療を行ううえで有意義であり,筆者らはその有無の解明を目的として臨床的研究を行った。

当院における耳鼻咽喉科救急外来の現況について—東京都多摩地区耳鼻咽喉科救急体制に関する一考察

著者: 小崎寛子

ページ範囲:P.136 - P.140

 はじめに
 従来から耳鼻咽喉科領域の救急は,受け入れる施設が少なく,問題とされてきていた1)。東京都は救急医療体制の基本方針を「突発不測の傷病者が,いつでも,どこでも,その症状に応じ,必要かつ適切な医療が受けられる救急医療体制の整備」としている2,3)。そのため,夜間,休日の救急を受ける医療施設の確保と情報の伝達が急務である。耳鼻咽喉科の領域の救急は,1次救急,2次救急であるが,休日の2次救急に関しては,都内の8大学病院に委託する形で入院ベッドの確保が行われている。1次救急に関しては,多摩地区では休日昼間の休日診療が医師会に委託される形で行われている。東京都が耳鼻咽喉科領域の救急医療について現在のところ制度化しているのはここまでで,夜間の1次救急については制度化されていないのが実状である。現実にはこれ以外にも救急診療を行っている施設があり,制度化されていない部分はそのような施設によっても担われている。
 当院が位置する多摩地区は,東京都の西半分を占める地域である。東半分のいわゆる23区地域と比べるとまだ人口は少ないが,近年の人口増化は著しい地域である。
 当院では,医師1人あたり,1か月に平日2日,土曜・日曜・祝祭日1日の日当直を行っており,耳鼻咽喉科医師は耳鼻咽喉科領域の救急外来を行っている。今回は,当院救急外来の耳鼻咽喉科部門の現況を報告するとともに,現行の救急体制の改善点を考察した。

鏡下咡語

「聴覚・難聴・難聴者」シンポジウムが京都で開催

著者: 酒井俊一

ページ範囲:P.128 - P.130

 予想を上回る多数の参会者
 平成11年11月2〜4日にヒアリングインターナショナル(HI)主催の「聴覚・難聴・難聴者」シンポジウムとHI総会が京都で開催された。
 当日の参会者は270名,家族を含めると300名になり,うち国外からの参会者は80名を数え,難聴者や一般市民も約100名集まってくださった。

手術・手技

喉頭横隔膜症手術におけるステント使用の一工夫

著者: 藤井守 ,   林直樹

ページ範囲:P.144 - P.147

 はじめに
 喉頭横隔膜症は日常臨床で遭遇することは比較的少ない疾患1,2)であると思われる。治療では,横隔膜を切離したのち再癒着をいかに防ぐかという点がポイントとなる。このためにステントが使用されるが,その用い方については様々な方法が検討されてきた1〜9)。今回われわれは,ペンローズ・ドレーン・チューブTMを応用したステントを用いたので報告する。

連載 小児の耳鼻咽喉科・頭頸部外科シリーズ

⑥小児難聴の診断

著者: 川城信子

ページ範囲:P.149 - P.152

 はじめに
 小児難聴の診断は,乳幼児聴力検査と他覚的聴力検査の進歩により,確実にしかも早期に診断が可能になった。診断には両者の検査を併せて行うことが重要である。視診をすると子供は泣くので,視診は後回しにする配慮も必要である。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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