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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科72巻6号

2000年05月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

肩甲下動静脈茎複合皮弁による頭蓋顎顔面硬性再建

著者: 西川邦男 ,   冨永進 ,   門田伸也 ,   森下常磐 ,   永田基樹

ページ範囲:P.318 - P.319

 肩甲骨皮弁の最大の特徴は,肩甲回旋動静脈の一対の血管柄で皮弁と骨弁を同時に挙上できるところにある。肩甲回旋動脈皮枝は,水平枝(肩甲枝),垂直枝(傍肩甲枝),上行枝に分枝し,おのおのを用いて肩甲皮弁,傍肩甲皮弁,上行肩甲皮弁が挙上できる。皮枝と骨枝はおのおの独立しているため,目的に応じて皮弁,骨弁,骨皮弁として採取でき,その立体的自由度は大きい。また,骨枝とは別に肩甲骨下角を直接栄養する角枝を温存し,骨枝との二重血管茎とすれば骨弁遠位端の血行は安定し,2か所で骨切りしても良好な血行のある最大14cm前後の肩甲骨を挙上できる。さらに肩甲下動静脈を血管茎とすれば,広背筋(皮)弁や前鋸筋皮弁を複合させることができ,肩甲下動静脈茎複合皮弁として多種多様の欠損修復に対応できるので,複雑な形態と機能が要求される頭蓋顎顔面硬性再建に適している。
 肩甲下動静脈茎分割肩甲骨皮弁による上顎再建術式は,角枝により栄養される肩甲下角骨と骨枝により栄養される外側縁骨による眼窩下壁および頬部〜顔面口蓋骨の同時骨再建である。すなわち,肩甲皮弁および傍肩甲皮弁の2皮弁と肩甲骨外側縁から下角によって構成される肩甲骨皮弁を使用し(図1),肩甲下角骨にて眼窩下壁から下縁を,肩甲外側縁骨にて頬部から顔面の骨性隆起を再建し,皮弁で鼻腔側壁および口蓋を再建する(図2)。良好な顔面形態を維持するためには,①眼窩内容と下眼瞼下垂の防止のための眼窩下壁および下縁再建,②頬部の骨性隆起の再現,③歯槽弓の再現に重点を置くことである(図3)。

Current Article

小児反復性上気道感染症における免疫異常とワクチン療法開発の可能性

著者: 原渕保明

ページ範囲:P.321 - P.331

 はじめに
 小児の上気道感染症,特に中耳炎と扁桃炎は耳鼻咽喉科臨床において最も頻繁に遭遇する疾患である。ちなみに中耳炎は生後1歳までに60%が少なくとも1回は罹患するといわれている。さらに生後1歳までに17%が,3歳までに46%の小児が中耳炎を3回以上繰り返すことが報告されている1)。扁桃炎についても数多くの幼小児が反復することが周知である。したがって,これらの反復性上気道感染症に対する予防的ワクチン療法の開発が,われわれ耳鼻咽喉科医にとっても急務と思われる。
 ワクチン療法の開発にはまず,1)中耳炎や扁桃炎の起炎菌として頻繁に検出される菌種,菌株がどのようなものかを検討し,2)標的とする菌抗原の中で最も効果的なワクチン抗原を選択する必要がある。その後,3)選択されたワクチン抗原に対して生体がどのように免疫応答しているかを解析し,4)動物モデルで十分検討し,良好な結果が得られた後に初めてヒトに臨床応用可能となる。
 本稿では,これまで筆者らが行ってきた成績を基に中耳炎や扁桃炎に対するワクチン療法開発の展望について概説する。

原著

両側上顎洞にまたがった鼻前庭嚢胞症例

著者: 佐藤春城 ,   荒木進 ,   竹之内剛 ,   稲垣太郎 ,   鈴木衛

ページ範囲:P.334 - P.337

 はじめに
 鼻前庭嚢胞は鼻前庭部に発生する嚢胞性疾患の総称とされている1)。20〜50歳に好発し,女性に多いといわれている2)。部位的には大部分が下鼻道前端の鼻前庭下に存在し,左右いずれかに偏することが多いが,正中例,両側例もときにみられる1)
 今回われわれは,両側上顎洞にまたがった鼻前庭嚢胞を経験したので,若干の考察を加え報告する。

舌根部に発生した骨腫の1症例

著者: 渡邊健一 ,   野中学 ,   嘉村恵理子 ,   青木秀治 ,   八木聰明 ,   大秋美治

ページ範囲:P.339 - P.341

 はじめに
 舌は主として筋組織により構成された器官であり,骨腫の発生は少ない。舌骨腫は,1913年にMonsarrat1)が初めて報告して以来,現在までに約40例が報告されているに過ぎない2)。今回われわれは,11歳,男児の舌骨腫症例を経験したので報告する。

喉頭癌T2症例の検討—当教室12年間の成績

著者: 寺山善博 ,   米本正明 ,   長舩宏隆 ,   小田恂

ページ範囲:P.343 - P.347

 はじめに
 喉頭癌は頭頸部悪性腫瘍の中でも発生頻度が高く,またその予後は一般に比較的良好である。放射線感受性が高いため,T1,T2の早期症例では音声機能を考慮し放射線治療やレーザー治療が第1選択とされている1〜4)
 当科でも,T1,T2の早期症例では放射線治療を第1選択として治療している。今回われわれは,当科で一次治療した喉頭癌T2症例について臨床的検討を行ったので報告する。

下咽頭梨状窩瘻の1例—術野における同定方法について

著者: 安部治彦 ,   井上都子

ページ範囲:P.348 - P.351

 はじめに
 下咽頭梨状窩瘻は鰓溝由来の疾患として報告されてきた1)。Takaiら2)によって1979年に急性化膿性甲状腺炎の感染経路として記載され,共同研究者のMiyauchiら3)がpyriform sinus fistulaの名称を使い始めて以来,本邦において多くの症例が報告されるようになった4,5)
 この疾患は化膿性甲状腺炎や側頸嚢胞,あるいは原因不明の頸部膿瘍として取り扱われ,診断が困難な場合がしばしばある。
 今回,われわれは確定診断まで何度も膿瘍を繰り返した1例を経験したので報告する。また,炎症が何度も繰り返されるため,術野で瘻孔を見いだすことが困難となるので,種々の同定方法が工夫されてきた6〜15)。この同定方法についても言及する。

内視鏡下経鼻Partsch I法鼻内開窓法による切歯管嚢胞の治療

著者: 西平茂樹 ,   中田吉彦 ,   坂本賢生

ページ範囲:P.352 - P.355

 はじめに
 切歯管嚢胞は鼻口蓋嚢胞の1型で,胎生期鼻口蓋管の遺残上皮に由来する非歯系外胚葉性上皮性嚢胞(裂隙性嚢胞)であり,上顎骨内に発生する疾患である1)。最近われわれは本症を経験し,顎嚢胞手術法として古くより知られるPartsch I法開窓法1)を応用し内視鏡下に鼻腔底部に副腔として開窓したところ良好な結果が得られた。症例を報告し若干の考察を加えた。

小脳橋角部に生じた悪性リンパ腫症例

著者: 高木伸夫 ,   村上匡孝 ,   柴田敏章 ,   福島龍之 ,   安田範夫

ページ範囲:P.362 - P.365

 はじめに
 今日,CTやMRIの普及により,小脳橋角部腫瘍の診断は決して困難なものではない。小脳橋角部腫瘍の大部分は聴神経鞘腫であるが,ときにその他の腫瘍が発症することがある。今回われわれは顔面神経麻痺を初発症状とし,不幸な転帰をとった小脳橋角部悪性リンパ腫症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

当初メラノーシスと診断し経過観察を要した悪性黒色腫の1例

著者: 一氏佳代子 ,   飯田政弘 ,   相原均 ,   高橋正紘 ,   堤寛

ページ範囲:P.368 - P.371

 はじめに
 悪性黒色腫は,メラノサイトから発生する悪性腫瘍で,メラノサイトが存在する部位のいずれからでも発生し得る。一般には皮膚原発のものが知られているが,鼻副鼻腔,口腔咽頭など粘膜に発生する悪性黒色腫は,皮膚原発のものに比べ予後不良である1,2)。今回われわれは,当初病理組織学的にメラノーシスと診断され,経過観察中に悪性黒色腫と診断された1例を経験したので報告する。

頸部リンパ節生検によりバザン硬結性紅斑と診断された症例

著者: 岩崎幸司 ,   黒田玲子 ,   宇佐神篤 ,   橋爪一光 ,   山中克二 ,   小澤享史 ,   種田泉 ,   橋本泰幸

ページ範囲:P.373 - P.375

 はじめに
 結核は,一部には過去の疾病と認識されてきたが,近年,結核罹患率が増加しており,中耳結核や咽頭・喉頭結核など耳鼻咽喉科における日常診療においても注意が必要である。
 結核の皮膚病変で,結核疹の1つであるバザン硬結性紅斑は専門医以外には鑑別が難しく,そのため結核の治療が遅れる場合がある。
 今回われわれは,数年来下腿に圧痛を伴う紅斑があり,皮膚生検の結果,バザン硬結性紅斑が疑われた症例を経験した。本例は胸部などに結核性病変がなかったため原因が不明とされ,経過中頸部リンパ節の腫大を認めたため生検を施行した。その結果,リンパ節結核と診断され,結核の治療を行い皮膚症状が軽快した。文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

世界の騒音

著者: 中井義明

ページ範囲:P.358 - P.360

 難聴の原因には聴器毒性薬物,強大音,加齢,頭部外傷,遺伝などなどたくさんあるが,中でも強大音,騒音による難聴はどのような環境においても避けられず,社会医学的にも非常に重要な位置を占めている。
 音響障害には大きな音,たとえば爆発音やロックコンサートなど短時間に音に曝露され難聴になる場合と,あるレベル以上の音に長く曝露された場合(騒音性,職業性)がある。80〜90dB以下の音曝露では不可逆的変化は禍牛内諸組織に生じないが,90dB以上の音曝露では禍牛内組織の物質代謝障害が生じ,その障害はその音の強さ並びに曝露時間の増大に比例して増加するとともに,代謝障害のみでなく機械的障害が加わる。130dB以上の音曝露では機械的な障害を主とする変化が短時間においても発生する。

連載 小児の耳鼻咽喉科・頭頸部外科シリーズ

⑨めましの診断と治療

著者: 船曳和雄 ,   内藤泰

ページ範囲:P.379 - P.384

 はじめに
 めまいを主訴として耳鼻咽喉科を受診する患者は中高年者が多く,小児のめまい症例は比較的少ない。これには末梢前庭由来のめまい疾患に罹患するのは中高年以上の患者が多いという理由のほかに,小児の場合ははっきりとめまいを訴えることができず,なんとなく転倒しやすいといった運動失調として母親が気づくことが多いためでもある。また,まず小児科を受診し,症状が一過性のものであるため耳鼻咽喉科を受診するに至らない例が少ないことも一因と考えられる。このように耳鼻咽喉科で小児めまい例を診察することは比較的稀で,また検査,診断,治療も成人例と同じようにはいかず,臨床の場で対処に苦慮することも少なくない。
 本稿では,われわれ耳鼻咽喉科医が小児のめまい症を扱うに際し,成人例と特に異なる点を中心に述べたいと思う。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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