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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科72巻7号

2000年06月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

巨大な原発性乳突部嚢症例

著者: 前野博昭 ,   牧野邦彦 ,   天津睦郎

ページ範囲:P.394 - P.395

 手術の既往がなく乳突部に生じる原発性の?胞は比較的稀な疾患とされている。今回われわれは,巨大な原発性乳突部嚢胞症例を経験したので報告する。
 症例は45歳,男性。主訴は左耳鳴。

Current Article

聴神経腫瘍の診断と治療の現況

著者: 石川和夫

ページ範囲:P.397 - P.406

 はじめに
 聴神経腫瘍の治療は,19世紀中ばのBalance(1834)に遡るといわれている。今世紀に入って間もなく,Cushingにより本格的に外科的治療への挑戦がなされた。しかし,検査機器や手術機器の不十分さに加え,抗生物質もない1910年代の手術死亡率は66.6〜70%と惨澹たるものであった。Cushingの業績は聴神経腫瘍のクロノロジーに集約される。彼の仕事は,彼の学生であったDandyに受け継がれた。彼は,当時患側決定が難しく,両側開頭をすることも少なからずあったものを,聴力障害のある側を患側としてより小さな開頭で済ませるようにした。また,1920年代になってX線撮影が軌道に乗ると,気脳写を導入して患側を確認することを可能とし,より小さな腫瘍をてがけることもできるようにしたのであるが,完全摘出しなければ2〜3年で再発することもわかった。このために,完全摘出のためには,顔面神経を犠牲にするのもよしとされていた。即ち,Dandyは“Loss of the facial nerve is a cheap price to pay for the total removal of an acoustic neuroma”とも断言していたのである1)
 1960年代に入って,House2)によって初めて顕微鏡手術が導入され,これによって顔面神経の同定と保存の成績が上がり,腫瘍の完全摘出も可能となって治療成績の大幅な向上をみた。さらに,その後の神経耳科学的診断法やX線学的診断法の進歩,特にCTの導入によって飛躍的に診断率が向上し,その後のMRIの登場によって内耳道内に限局する腫瘍も正確に診断できるようになってきた。こうして,機能障害のわずかな小さな聴神経腫瘍の診断が容易となって,今や顔面神経を保存することはもとより,聴力保存が大きな課題となっている。しかし,現在こうした小腫瘍の治療法をめぐっては議論のあるところである。外科的治療法のほか,ガンマ-ナイフのような保存的な比較的新しい治療法も含めて,機能保存に対する成績向上を目指し患者のQOLを上げていくことがこれからの課題である。聴神経腫瘍の診断と治療において,聴覚,平衡,顔面神経および側頭骨外科を取り扱う耳鼻咽喉科医がその目標達成に向けて果たす役割は大きいと思われる。
 本稿では,聴神経腫瘍の診断と治療の現況について,筆者の経験を含めて概説する。

原著

両側ムンプス難聴の1症例

著者: 島田健一 ,   渡邊健一 ,   野中学 ,   八木聰明

ページ範囲:P.409 - P.411

 はじめに
 ムンプス難聴は,ムンプス罹患患者の約0.002〜0.08%に発生する1〜3)。一側性であることが多いが,両側性に発症する症例も報告されている4〜6)。発症した難聴は,一般に高度感音難聴もしくは聾になり,予後は不良である。さらに,両側高度感音難聴を引き起こした場合は,社会生活上問題は深刻である。
 今回われわれは,ステロイド,ビタミン製剤などの投与により改善を認めた,両側性ムンプス難聴の1症例を経験したので報告する。

内耳道内血管腫の1症例

著者: 松本宗一 ,   村上信五 ,   暁清文 ,   佐藤英光 ,   本吉和美

ページ範囲:P.413 - P.417

 はじめに
 内耳道内に発生する腫瘍の多くは前庭神経由来の神経鞘腫であるが,血管腫も発生する1)。その臨床症状は一側性の感音難聴が多いなど神経鞘腫と類似しており,術前診断は必ずしも容易ではない。われわれは,術前のMRIで血管腫が疑われ,手術後の病理組織学的検査で海綿状血管腫と診断された内耳道内血管腫の1症例を経験した。本症例の臨床症状,画像診断,治療方針などについて文献的考察を加えて報告する。

外耳道深部に発生した海綿状血管腫の1症例

著者: 嘉村恵理子 ,   小坂和己 ,   野中玲子 ,   野中学 ,   馬場俊吉

ページ範囲:P.418 - P.421

 はじめに
 血管腫の多くは良性の過誤腫的な性格をもち,頭頸部領域に好発する。耳部における血管腫は頭頸部領域の血管腫の約11%を占め,そのうち外耳道に発生するものは約4.8%と比較的多い1)。しかし,深部外耳道に発生する血管腫は非常に稀であり,その報告も数少ない2〜6)
 今回われわれは,深部外耳道に発生した海綿状血管腫の1例を経験したので,臨床的検討を加え報告する。

頭蓋内に進展した術後性乳突部嚢胞の1例

著者: 清水義貴 ,   佐藤英光 ,   篠原孝之 ,   篠森裕介 ,   暁清文

ページ範囲:P.424 - P.427

 はじめに
 乳突部嚢胞は多くが原発性であり,術後性に発症することは少ない1〜22)。今回われわれは,頭蓋内に進展した巨大な術後性乳突部嚢胞の1例を経験したので報告する。

耳下腺原発epithelial-myoepithelial carcinoma—再発時の増殖形態

著者: 曾根三千彦 ,   山本潤 ,   古田敏章 ,   田代和弘

ページ範囲:P.429 - P.431

 はじめに
上皮筋上皮癌は発生頻度の少ない腫瘍であるが,近年その症例報告も散見されるようになった1,2)。しかし,その再発増殖形態や放射線治療の有効性については,まだ不明な点がある。今回,耳下腺原発EMC (epithelial-myoepithelial car-cinoma)再発例を経験し,知見を得たので報告する。

下口唇癌切除後のdouble cross lip flapによる2再建例

著者: 中山貴子 ,   髙橋廣臣 ,   八尾和雄 ,   中山明仁 ,   馬越智浩 ,   永井浩巳 ,   正来隆 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.439 - P.443

 はじめに
 口唇は,摂食,構音などに重要な役割を果たしている。したがって,口唇癌切除後の再建は,整容面だけでなく機能面への配慮も必要とされる。今回われわれは,下口唇正中部の癌切除後の欠損部に対しdouble cross lip flap1)を用いて再建を行った症例を2例経験し,良好な結果を得たので報告する。

鼻腔に発生した多形腺腫および悪性多形腺腫の2症例

著者: 古宇田寛子 ,   竹生田勝次 ,   西嶌渡 ,   寺邑公子 ,   君塚幸喜

ページ範囲:P.445 - P.449

 はじめに
 多形腺腫は耳下腺,顎下腺などの大唾液腺に好発するが,小唾液腺の存在する口腔,口蓋にも発生し,稀に鼻腔,咽喉頭,気管,涙腺にも発生するといわれている1〜6)。大唾液腺と小唾液腺に多形腺腫が発生する比率は,Bergmanら7)によると6:1とされている。
 われわれは,鼻中隔に発生し鼻側外切開にて摘出後,再発をみない1症例と,稀な鼻腔原発悪性多形腺腫の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。後の1例は寺邑ら8)の報告した症例と同一症例であるが,前報告が途中経過のものであったため,詳細を報告する。

先天性後鼻孔閉鎖症の1例

著者: 半田徹 ,   夜陣紘治 ,   平川勝洋 ,   福島典之 ,   工田昌矢 ,   平田思

ページ範囲:P.451 - P.453

 はじめに
 先天性後鼻孔閉鎖症は比較的稀な疾患で,5,000〜7,000人に1人の頻度で発生するといわれている1)。両側性閉鎖の場合は生後直後より生ずる呼吸困難症状で判明することがほとんどであるが,一側性の場合には症状が現れにくく,成人まで発見されない症例も多いとされている2)。今回われわれは,成人女性の一側性先天性後鼻孔閉鎖症を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

腸管型ベーチェット病の疑われた1例

著者: 真栄田裕行 ,   宇良政治 ,   山里将司 ,   玉城三七夫 ,   野田寛 ,   神谷義雅

ページ範囲:P.455 - P.458

 はじめに
 口腔や咽頭に難治性の再発性潰瘍を形成する疾患群の範疇にベーチェット病が存在する。ベーチェット病は粘膜,皮膚,眼症状に特徴づけられる全身性の疾患であるが,その中に消化管病変を中心とした特殊型ベーチェット病が存在する。今回われわれは,再発性難治性口腔咽頭潰瘍によって腸管型ベーチェット病を疑われた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

生老病死

著者: 佐藤武男

ページ範囲:P.434 - P.435

 生老病死という言葉は仏教でいう四大苦悩のことである。日本人は自然万物の中に神が宿るという「自然宗教」を信じてきたが,この生老病死を日本の自然の中に歳々年々繰り返される春夏秋冬の四季変化と重ね合わせながら,素直に四苦の中のリアリティを認識してきたのである。
 この20世紀末に至って,自然科学の領域から眺めた生老病死の説明はどうなっているのであろうか。それは主として分子生物学,生命科学の分担であって,そのテクニックには遺伝子工学,バイオテクノロジーが用いられる。現在までの情報を私なりに理解すると,次第に生命とは何か,死とは何か,老いとは何か,ヒトは何故死なねばならないのか,癌とは何かなど生命現象の深層にある落とし穴に入ってゆくような気がする。既に1997年の情報では,正常の受精なしに単一の遺伝子だけのクローン動物が誕生している。まさに神の領域にまで踏みこんでしまったような気がする。科学は倫理を生みにくく,これは物理学が原子爆弾を生んでしまったごとく,科学そのものは無限に自己膨張するという欠点をもっている。

連載 小児の耳鼻咽喉科・頭頸部外科シリーズ

⑩頭頸部悪性腫瘍の取り扱い

著者: 八尾和雄 ,   髙橋廣臣

ページ範囲:P.461 - P.468

 はじめに
 頭頸部領域の小児悪性腫瘍は,頭頸部悪性腫瘍を扱う専門医であっても,臨床での遭遇はときに認められる程度で,第一線の耳鼻咽喉科医の経験となると稀の範疇に入る疾患である。
 さらに,初発ないし随伴症状は微熱,頭痛,不機嫌,食欲低下などの全身的症状と,滲出性中耳炎,鼻閉,鼻出血,頸部リンパ節腫脹などの局所症状で受診することがほとんどであり,小児の耳鼻咽喉科一般の疾患として診断,治療されることもしばしばある。これは患者が小児ゆえに本人からの訴えは少なく,問診の応答,病状説明は第三者である親を介して初めてなされ,診察に当たった医師に悪性腫瘍の可能性を考慮したうえでの診察がなされなければ,診断はある程度の腫瘍の進行があって初めてなされることになる。特に,成人の悪性腫瘍のほとんどは上皮性悪性腫瘍であるのに対して,小児の場合は非上皮性悪性腫瘍であることが多い1〜3)。これはより早期の診断と早期の治療を要する4)症例であることは言うまでもない。
 本稿では過去27年間にわれわれの腫瘍外来を受診,治療した18例の悪性腫瘍について臨床的特徴と治療について述べる。ただし,医学的小児の年齢は15歳とされるが,疾病,さらにそれに対する治療への心理的,精神的,肉体的,社会的および経済的条件の未熟性から16歳を上限として検討対象に加えた。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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