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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科72巻8号

2000年07月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

中耳腺腫の1例

著者: 豊嶋勝

ページ範囲:P.476 - P.477

 中耳腺腫は,本邦では3例の報告しかない稀な腫瘍である。今回,粘液型細胞と神経内分泌型細胞の混在した中耳腺腫例を経験したので報告する。
 症例は,58歳男性。2年来の左耳鳴(サーサー)と2週前からの左難聴にて平成9年8月25日,当科を紹介され受診した。初診時左鼓膜は混濁し,後上部の膨隆を認めた(図1)。純音聴力検査で,左耳は平均47dBの混合難聴を示した。CTでは下鼓室から乳突蜂巣にかけてび漫性の陰影があり(図2),MRIで下鼓室から乳突洞口にかけて,Gd-DTPAで著明に増強されるT1強調像で中信号,T2強調像で低信号の腫瘤陰影を認めた(図3)。鼓膜後上部からの生検で腺管構造を呈し,内腔にPAS陽性粘液のみられる腫瘍細胞を認め,中耳腺腫の病理診断を得た。腫瘍細胞に対する免疫染色で,ケラチン・EMA・PAS (図4a)・ビメンチン・NSE・クロモグラニンA (図4b)のいずれも陽性であった。平成9年10月17日,鼓室形成術Ⅲ型変法に準じ腫瘍摘出術を施行した。腫瘍は,下鼓室〜中鼓室に充満し上鼓室の一部まで拡がり,鼓膜裏面と部分的に固く癒着していた。腫瘍より末梢はコレステリン肉芽腫であった。外耳道後壁を保存し,ツチ骨頭,キヌタ骨を除去して腫瘍を摘出した。術後2年の平均聴力は30dBであり,再発を認めていない。

Current Article

鼻閉の客観化に関する研究の進歩

著者: 内藤健晴

ページ範囲:P.479 - P.488

 はじめに
 鼻腔通気度測定法(rhinomanometry)は,嗅覚検査法と並んで鼻科領域では2つしかない重要な機能検査法のうちの1つである。本法は鼻呼吸状態を客観的に評価できる有用な検査法であり,診療報酬点数も定められていることから,一般臨床に普及する素地は十分整っていた。しかし,残念なことに鼻科領域ではX線写真やCTなどの画像検査に比べて,本検査法が広く定着しているとは言い難かった。そのうえ,平成12年4月からは,その保険請求も手術例に限られるという事態を招き,本機器の普及にとって大きな障壁となった。こういった現状に陥ったのも,本法の頻用を阻む何かが存在するからであろうと筆者は推察する。本稿が,この問題解決に少しでも役立つものであればと思い書かせていただくことにした。
 その問題というものを要約してみると「鼻腔通気度は,正しくはどのように測定し,どのように判定し,自覚する鼻閉塞感とはどのような関係にあるのか?」ということが,一般の利用者に明確に理解されていなかったことに尽きると思われる。

原著

側頭下窩に発生した滑膜肉腫

著者: 平山方俊 ,   髙橋廣臣 ,   八尾和雄 ,   中山明仁 ,   馬越智浩 ,   永井浩巳 ,   伊藤能成 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.491 - P.495

 はじめに
 滑膜肉腫(synovial sarcoma)は関節近傍に発生する肉腫で,比較的若い成人の四肢に好発する悪性腫瘍である1)。整形外科領域の軟部悪性腫瘍では頻度の高い腫瘍であるが,耳鼻咽喉科・頭頸部領域における報告は少ない1〜3)。今回われわれは側頭下窩に発生した滑膜肉腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

初診時突発性難聴が疑われた小脳梗塞の1例

著者: 糸数哲郎 ,   玉城三七夫 ,   城間勲

ページ範囲:P.497 - P.500

 はじめに
 一般に感音難聴,耳鳴を伴った回転性めまいは,突発性難聴やメニエール病などの内耳性疾患が予想される。しかし,脳血管障害や聴神経腫瘍などの中枢性疾患の初期症状として,同様な症状が出現することが報告されている1〜4)。一般に中枢性疾患によるめまいでは,他の神経症状を伴っていればその診断は困難ではないが,めまい,難聴以外の神経症状が明らかではない場合には,鑑別診断が困難なことも少なくない。
 今回われわれは,急速に発症した高度感音難聴耳鳴,回転性めまいから初診時突発性難聴が疑われ,その後小脳症状が出現し,MRIで小脳梗塞と診断された症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

軟口蓋ミオクローヌスによる他覚的耳鳴の1症例

著者: 渡邊健一 ,   三枝英人 ,   陣内賢 ,   八木聰明

ページ範囲:P.501 - P.504

 はじめに
 耳鳴を訴え耳鼻咽喉科外来を受診する患者は多いが,一般に耳鳴を第三者が聴取することは困難である。しかし,大多数の自覚的耳鳴に対して,第三者がそれを聴取することのできる他覚的耳鳴が少ないながら存在する。また,他覚的耳鳴の音源は中耳または頭頸部に由来することが多いとされている1〜3)
 今回われわれは,軟口蓋ミオクローヌスによる他覚的耳鳴の1症例を経験したので報告する。

ACE阻害剤が原因として疑われた頭頸部血管性浮腫の1例

著者: 佐伯忠彦 ,   清水義貴 ,   三和秀輔

ページ範囲:P.507 - P.510

 はじめに
 アンギオテンシン変換酵素阻害剤(以下,ACE阻害剤と略)は他の降圧剤と比較して安全性が高いとされ,近年高血圧やうっ血性心不全の治療薬として広く使用されている。しかし,副作用が少ないとはいえ,乾性咳嗽は5〜20%の頻度で起こるとされ,重篤な経過をたどる恐れのある血管性浮腫も報告されている1〜12)。今回われわれは,ACE阻害剤のマレイン酸エナラプリルが原因として疑われた血管性浮腫の1例を経験したので報告する。

扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍の臨床的観察—再発と扁桃摘出術の適応について

著者: 宮下武憲 ,   武田純治 ,   山本美佐子 ,   小林隆一 ,   森望

ページ範囲:P.518 - P.521

 はじめに
 扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍は,口蓋扁桃を包む扁桃被膜と咽頭収縮筋との間の疎性結合織の炎症で,多くは膿瘍を形成する1)。一般的には,扁桃実質の炎症が被膜下に及んで起こるとされているが,扁桃上極の被膜外間隙に局在する粘液腺(Weber腺)が原因とする説もある2)。一方,治療方針としては,急性期の治療終了後,再発予防目的に扁桃摘出術を行うべきとする考え方と不要とする考え方があり3〜9),いまだ一定の方針は得られていない。今回われわれは,その成因を調査し,また治療方針を決定する目的で,扁桃周囲膿瘍あるいは扁桃周囲炎の診断で香川医科大学附属病院耳鼻咽喉科で治療を行った62例の臨床像を中心に検討を行った。

アデノイド増殖による呼吸困難を呈した生後7か月児例

著者: 三澤清 ,   児玉章 ,   岩渕史郎 ,   清水弘則

ページ範囲:P.523 - P.525

 はじめに
 アデノイド増殖症や口蓋扁桃肥大症は,小児の睡眠時呼吸障害の原因として最も多く,その障害が高度になれば突然死の原因にもなり得るといわれている1)。われわれは,生後7か月で高度な呼吸障害を起こし,アデノイド切除術を施行した軟骨無形成症(achondroplasia)の症例を経験したので報告する。

喉頭蓋海綿状血管腫の1症例

著者: 牛尾宗貴 ,   沖田渉 ,   佐々木徹 ,   久保田元 ,   渡邊宏樹 ,   多田伸彦

ページ範囲:P.527 - P.531

 はじめに
 血管腫は血管を構成する組織から成る良性腫瘍で1),頭頸部はその好発領域である2)。今回われわれは,喉頭蓋に発生した海綿状血管腫の1症例を経験したので報告する。

縦隔膿瘍に至った深頸部感染症の1症例

著者: 片田彰博 ,   横山貴康 ,   中島築 ,   畑山尚生 ,   原渕保明

ページ範囲:P.533 - P.537

 はじめに
 抗生物質の発達した現在においても,口腔,咽頭の感染巣の処置が不完全であるために,深頸部感染症を引き起こした症例がよく報告されている1)。これらの報告の中には,縦隔まで炎症が波及したり,急激な病態の変化をきたして死に至るケースも散見されており1),深頸部感染症を管理する医師には的確な判断と対処が要求されると考えられる。
 筆者らは,深頸部感染症から縦隔に膿瘍を形成した症例に対して,サンプドレーンによる持続的な縦隔洗浄を行い救命し得た症例を経験したので,深頸部感染症に対する治療上の留意点について考察を加え報告する。

茎突靱帯完全化骨を認めたEagle症候群の2症例

著者: 片橋立秋 ,   長谷川真也 ,   宮崎三忠 ,   関田恭子 ,   永田博史 ,   沼田勉

ページ範囲:P.539 - P.542

 はじめに
 以前より,茎状突起の過長や茎突舌骨靱帯の骨化が咽喉頭違和感,顔面痛,頸部痛などの原因となることが知られており,1940年代にEagle1)が本疾患を多数例まとめて報告したことよりEagle症候群とも呼ばれている。診断は臨床症状およびX線所見より比較的容易であるものの,ときに咽頭炎,三叉神経痛,咽喉頭異常感症などとして長期間の保存的治療を受けている場合もあるため注意を要する。今回われわれは,舌骨甲状靱帯の全長にわたる骨化を示したEagle症候群の2症例を経験したので報告する。

呼吸困難を生じた新生児の中咽頭類皮嚢胞例

著者: 山本一宏 ,   曲渕達雄 ,   五十嵐美衛

ページ範囲:P.546 - P.549

 はじめに
 新生児期に上気道疾患が原因で手術加療が行われることは少ないと言われている1)。今回,生後5日目に中咽頭嚢胞が原因で呼吸困難を起こし,生後6日目に緊急手術を行った新生児症例を経験したので,治療経過を報告するとともに文献的検討を行った。

鏡下咡語

藤蔭会のこと

著者: 永井氾

ページ範囲:P.512 - P.514

 表紙に記されているように,本誌は昭和3年(1928年)1月1日,九州大学の久保猪之吉教授の下,久保より江夫人,立木 豊,笹木 寛,大藤敏三,貝田好美,田中一弘,仁木 堯ら教室員の協力の下で創刊された。発行所は,昭和10年2月、久保先生の退官上京に伴って,港区麻布笄町4の久保先生宅に移り,先生の逝去後,発行所は金原書店に移り,廣瀬 渉,大藤敏三,田中一弘が編集に当たった。終戦後,西端驥一らの「臨床耳鼻咽候科」を合併して,昭和23年4月からは,西端,大藤の編集主幹の下に,九大,慶大,日医大の教室員が協力して今日に至るわけです。
 大藤敏三先生は,明治34年(1901年)2月8日,東京に生れ,第一高等学校を経て,九州帝國大学を1926年に卒業し,耳鼻咽喉科学教室に入り,久保猪之吉教授の薫陶を受けた(図1)。後年,当時を回想して(「沙羅の木」p.241)「先生は朝から晩まで,教室に君臨し,和欧専門雑誌の抄録,手術研究と休息の暇も与えず,厳しい教育の手をゆるめなかった。と同時に,新研究への着想の樹立に駆り立てた。しかし,何事も完全でなければならなかった。時には一日中,先生の独文手紙をタイプすることで終わることもあった。先生は一言のミスも許さなかった。誤字があると幾度でもお構いなしにさし戻してくるので,また打つという具合である。医学の報告も実に鋭かった。今の人には一寸、理解困難かも知れないが,正に厳格に徹した徒弟時代であった。同僚がテニスをしたり,酒をのんだりしていても,私にはその暇がないのである。情ない日もあった。所謂自由はきつく束縛された。昔の独乙流の教育と儒教的なものがからみあったような気がする。」

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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