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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科72巻9号

2000年08月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

咳嗽を主訴とした巨大な振子様扁桃の1小児例

著者: 小林由実 ,   工藤典代 ,   沼田勉

ページ範囲:P.558 - P.559

 振子様扁桃は,扁桃がその茎により咽頭腔に懸垂するものと定義されている。狭義には扁桃と同一組織のものをいい,広義には単に形態的に扁桃より有茎性に発生したものをいう。今回,巨大な振子様扁桃の1小児例を経験したので報告する。
 症例は13歳,女子。主訴は1週間前からの乾性の咳嗽と咽頭異物感で,固形物摂取困難,夜間の呼吸困難もあった。近医小児科を受診し,咽頭腫瘍の疑いで当科に依頼された。既往歴としては幼小児期から含み声,習慣性扁桃炎があり,扁桃肥大の指摘もあった。全身所見に異常はなかった。局所所見は上咽頭と中咽頭を閉塞するようにクルミ大の腫瘤が認められた。単純X線を図1に,CTを図2に示した。嚥下運動による可動性がわずかにみられ,茎により左口蓋扁桃上極の後面に付着していた。振子様扁桃の診断のもとに口蓋扁桃摘出術を施行した(図3)。振子様扁桃の表面にはところどころに陰窩がみられ,凹凸が激しく不整で,赤く血管に富んでいた(図4)。組織は口蓋扁桃と同一だが,リンパ組織周囲の間質の高度の線維化を伴っており,慢性的な炎症が疑われた(図5)。

Current Article

先天性外耳道閉鎖症の基礎と臨床

著者: 西﨑和則 ,   増田游 ,   武田靖志

ページ範囲:P.561 - P.569

 はじめに
 中耳・外耳の伝音系の聴器奇形は,その複雑な発生過程から多彩な表現型を示す。聴器奇形の発生機序の解明および奇形病態の観察のため,従来より催奇形物質による動物実験が行われてきた1,2)。ビタミンA誘導体,特に最近ではレチノインク酸を母獣に投与して,その胎仔に耳介奇形や外耳道閉鎖症などの外表奇形を生じさせた報告が多い3)。近年,プログラム細胞死が器官形成において重要な役割を果たしていることが理解され,口蓋形成期におけるプログラム細胞死の障害で口蓋裂が起こる可能性が指摘されている4)。われわれも聴器の発生におけるプログラム細胞死を観察してきた5,6)。この中で,特に外耳道の器官形成にプログラム細胞死がどのように関与しているかを明らかにした7)。また,分子生物学的手法を用いて聴器奇形の責任遺伝子の解析が広く行われているが,本稿では,この分野での最新の知見を紹介する。
 先天性外耳道閉鎖症を中心とした聴器奇形に対する聴力改善術は,奇形耳の複雑な病態のため耳科手術の中でも最も困難な手術の1つで,術後の合併症も解決されていない問題を含んでいる8,9)。外耳道閉鎖症の診断と治療の問題点にも言及し,また当科における治療成績10)とナビゲーションシステムの有用性11)についても言及する。

原著

上咽頭多形腺腫症の1例

著者: 高崎賢治 ,   高野篤 ,   野田哲哉 ,   田渕富三 ,   井関充及 ,   藤井秀治 ,   小林俊光

ページ範囲:P.572 - P.575

 はじめに
 多形腺腫は大唾液腺のほか,口腔内の小唾液腺にもしばしば認められるが,上咽頭に発生することは少ない1,2)。今回われわれは,上咽頭より発生した多形腺腫症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

耳下腺salivary duct carcinomaの1例

著者: 照沼積 ,   原晃 ,   高橋和彦 ,   伊東善哉 ,   草刈潤 ,   飯島達生 ,   野口雅之

ページ範囲:P.577 - P.580

 はじめに
 Salivary duct carcinoma(以下,SDCと略)は,1968年にKleinsasserら1)によって最初に報告された唾液腺癌である。乳癌のductal carci-nomaに組織学的によく似ていることよりSDCと命名されている。1991年のWHOの唾液腺腫瘍の組織分類では,腺癌より独立して分類されている。本邦での報告例は比較的少なく,また予後の悪い腫瘍である2)
 今回,われわれは耳下腺に発生したSDCの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

全身性のpseudolymphomaを呈したMikulicz病の1例

著者: 渡辺健太 ,   沢田哲治 ,   山本一彦 ,   前田陽一郎 ,   吉橋理恵 ,   山岨達也

ページ範囲:P.581 - P.586

 はじめに
 19世紀末にMikuliczは両側の涙腺,唾液腺の無痛性,対称性腫脹をきたした1症例をMikulicz病として報告した1)。その後,Mikulicz病に関しては様々な議論がなされているが,現在ではSjö-gren症候群の一亜型とする考えが主流である2)。しかし,Mikulicz病とSjögren症候群は異なる臨床像を示すことから,未だにこの分類は議論となるところである3)。一方,Sjögren症候群は自己免疫疾患であるとともに,リンパ増殖性疾患として位置づけられ,悪性リンパ腫などを高率に合併することが知られている4)
 今回,われわれは両側の顎下腺,涙腺の著明な腫脹を示し,全身検索の結果,いわゆるpseudo-lymphomaの像を呈したMikulicz病の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

難聴を主訴とした内耳道狭窄症例の2症例

著者: 田部浩生 ,   川端五十鈴 ,   長田久人

ページ範囲:P.589 - P.593

 はじめに
 内耳道拡大症例の報告はしばしば行われているが,内耳道狭窄症例の報告は少なく,したがって狭窄の原因や病態に対して十分な検討が行われていないのが現状である。また,狭窄症例にみられる臨床症状,例えば顔面神経麻痺,感音難聴,前庭障害などの報告がみられるが,狭窄と臨床症状との関連について十分な検討が行われていないようである。
 われわれは最近,内耳道狭窄症例で同側に高度の難聴があるが顔面神経麻痺のみられない2症例に遭遇した。MR cisternography1,2)による内耳道画像診断を施行したところ,顔面神経の走行はみられるが,蝸牛神経と前庭神経は高度に萎縮している所見がみられたので,症例経過と画像診断所見を呈示し,若干の考察を加えて報告する。

ふらつきを主訴に来院したFisher症候群の3例

著者: 松田太志 ,   森部一穂 ,   花井信広 ,   渡邊暢浩 ,   村上信五

ページ範囲:P.595 - P.599

 はじめに
 Fisher症候群は,1956年にMiller-Fisherが報告し,急性の外眼筋麻痺,小脳性運動障害,腱反射消失を3主徴とする一過性の予後良好な疾患である1)。本症候群は,上気道炎や胃腸炎の1〜3週後に複視,歩行時のふらつきで発症し,多くは1〜2週をピークにその後徐々に回復する。純粋に3主徴のみ呈することは少なく,先行感染の病原体を認めること,軽度の筋力低下や感覚障害を伴う例が多いこと,Guillain-Barré症候群(以下,GBSと略)の診断基準を満たす例が1/3を占めること,電気生理学的に末梢障害を認めることからGBSの亜型とも考えられている2)。一般に上記の3主徴を呈することは少なく,脳幹梗塞と誤診されることも少なくない。
 今回筆者らは,臨床所見および諸検査よりFi-sher症候群と診断された3症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鼓膜に発生した上皮嚢腫の1症例

著者: 西平茂樹 ,   中田吉彦 ,   坂本賢生

ページ範囲:P.605 - P.608

 はじめに
 鼓膜に限局して上皮嚢腫が発生した症例は少ない。これまでに鼓膜形成術後1,2),中耳換気チューブ挿入術後3〜6),鼓膜外傷後7),急性中耳炎後8),先天性9,10)などが報告されている。
 最近筆者らは,出血を伴った急性化膿性中耳炎から約1年後に鼓膜臍部皮膚層直下に発生した白色小腫瘤が病理組織学的に上皮嚢腫であった症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

鼓膜所見の正常な先天性耳小骨固着症—小児の手術症例の検討

著者: 金玉蓮 ,   山岨達也 ,   加我君孝

ページ範囲:P.609 - P.613

 はじめに
 中耳奇形の1つである外耳道,鼓膜が正常な先天性耳小骨固着症は,聴覚検査法の進歩で幼小児期に発見されることが多くなった。本疾患は手術により聴力の改善が期待できるが,その病変は様々であり,手術も単なる耳小骨連鎖の再建からアブミ骨手術まで様々な手技が必要となる。このため,聴力改善は必ずしも容易ではない。今までこの疾患についていくつかの報告があるが1〜6),小児の手術症例についての報告は稀である。
 今回,われわれは先天性耳小骨固着症の小児の手術症例について検討したので報告する。

上顎に発生した骨化性線維腫の1症例

著者: 牛尾宗貴 ,   沖田渉 ,   安田政実 ,   佐々木徹 ,   鈴木光也

ページ範囲:P.615 - P.618

 はじめに
 骨化性線維腫は線維性骨異形成の亜型であり,骨形成組織の増生が顕著に認められる線維性組織の異常増生であるといわれている1)。しかし,全症例を区別分類することは不可能で,全てを包括した大きな集合として良性の線維-骨性病変としてまとめるような考え方2)もあり,一定した説はない。
 今回われわれは,右頬骨から上顎骨にかけて生じた骨化性線維腫の1症例を経験したので報告する。

術前診断が困難であった外耳道異物症例

著者: 守本倫子 ,   川城信子 ,   獅山冨美子 ,   土橋信明 ,   坂井真

ページ範囲:P.621 - P.623

 はじめに
 幼小児はまだ足元がおぼつかないため外傷の頻度が高く,時としてそれが思いがけず大事故につながることもある。しかし,大人と異なり本人からの情報が得にくく,また家族も外傷の既往と現在の症状は関連しないと判断して診察時に伝えないこともあるため,医師は外傷の状況や情報が不十分なままに診察せざるを得ず,誤った診断を下すことも少なくない。
 今回われわれは,難治性の耳漏を主訴に来院して,外傷から5か月後にようやく異物の存在の可能性が疑われ,外科的に異物を摘出した口蓋経由の外耳道異物の小児症例を経験したので,若干の考察を加え報告する。

鏡下咡語

耳硬化症の手術ことはじめ

著者: 森満保

ページ範囲:P.602 - P.603

 耳硬化症の手術を初めて見たのは,1965年ハンブルグ大学附属エッペンドルフ病院に留学した時であった。ただし,主任のリンク教授は副鼻腔手術の大家で耳の手術はせず,その時の術者は後のハノーバー大学教授レンハルト講師であった。局麻の耳内法で顕微鏡下に苦労している様子がうかがえた。当時はTV装置はもちろん,側視鏡もなかったのでほとんど術野は見ることができなかった。術終了後に,手術台上の患者に囁語による聴力検査を行って,非常に改善されているのを確認し,得意そうに私にウインクして見せた彼の顔が印象深く今でも思い出される。一番若いF講師のアブミ骨手術は,時間はそれほどでもなかったが,術後に顔面神経麻痺をきたし,非常に落ち込んでいたのも記憶している。後上壁の削除をノミで行っていたがその時の事故と思われた。術式はシャンボーの綱線脂肪塊法であった。
 次にアブミ骨手術を見たのは,1976年にシカゴでの第4回Schambough's International Workshopに突発性難聴ウログラフィン療法の招待講演に行った時であった。世界の第一人者といわれるシャンボー教授の手術はさすがに上手であった。先生は80歳になってもアブミ骨手術をしていると聞く。帰路にロスのハウス先生の手術も見学した。多い日には5〜6名のアブミ骨手術があるという羨ましい話であった。

連載 小児の耳鼻咽喉科・頭頸部外科シリーズ

⑪睡眠時無呼吸の診断と治療

著者: 川勝健司 ,   西村忠郎

ページ範囲:P.625 - P.629

 はじめに
 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は1976年に米国スタンフォード大学のGuilleminault教授1)が「睡眠7時間中に持続時間10秒以上の換気の停止状態が30回以上存在するもの」と定義してから注目されるようになった。さらにSASは,その主たる原因によりcentraltype (中枢型),obstructive type (閉塞型),mixedtype (混合型)の3型に分類される2)
 小児におけるSASは激しいいびき,口呼吸に加えて睡眠時に無呼吸発作を反復し,身体発育や呼吸,循環器への影響を及ぼすこともある。また,稀に小児突然死症候群3)のように致命的となる場合もある。
 小児のSASは,閉塞型無呼吸が圧倒的に多い。主な原因疾患を表1に示す。このうち,アデノイド肥大や口蓋扁桃肥大などによる上気道閉塞が大部分を占めており,ほとんどの場合,手術により劇的な改善がみられる。したがって,耳鼻咽喉科医のSASに対する診断と治療の役割は大きい。
 耳鼻咽喉科領域では,アデノイド肥大や口蓋扁桃肥大による睡眠呼吸障害が主なもので,中には1〜2歳でも手術が必要なこともある。しかし,一般的には小児の口蓋扁桃摘出術の適応は,扁桃の免疫機能を考えると4〜5歳からが望ましいという意見もあり,1〜2歳の小児では手術加療を見合わせたり,先送りする傾向がある。当科では,症例によってはアデノイド切除術と片側の口蓋扁桃摘出術をまず行い,数年後に残りの口蓋扁桃を摘出する場合もある。
 以下,小児睡眠時無呼吸症候群の診断と治療について,当教室の10数年にわたる経験を基に述べる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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