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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科73巻12号

2001年11月発行

雑誌目次

トピックス 心身医学と耳鼻咽喉科

1.心身医学と耳鼻咽喉科

著者: 市川恭介 ,   筒井末春

ページ範囲:P.812 - P.818

 はじめに
 現代社会はあらゆる世代でストレスを感じやすい環境になってしまっている。中年男性は長期化する不景気によるリストラで職業を失い,若い母親は核家族のために1人で子育てをしなければならない。また,子どもたちはゆとりのない学校生活でいじめや不登校を経験している。当然,そのストレス解消がうまくできなければ,体調が悪くなり様々な症状を呈するようになる。特に耳鼻咽喉科は感覚器を扱うため,他科領域の症状よりも過敏になりやすく遷延化する傾向が強い。その中でもめまい,耳鳴,咽喉頭異常感および後鼻漏は難治な症状である。このような症状を訴えて受診する患者に対して,まず最初に諸検査で器質的疾患の有無を調べる。しかし,何の異常も見出せないことが少なくない。そして,外来治療,内服療法,注射療法などを試みる。それでも症状が不変のときには,「検査では異常が見つからないので,あまり気しないようにしなさい」と話して治療を終結してしまう場合が多い。しかし,その患者は納得できないために他の医療施設を再び受診し,同様な検査,治療を受けるドクターショッピングを繰り返してしまう。
 このような症例の中には,心理社会的なストレスを感じているが,それを解決できずに,症状に対して過敏になっている患者も少なからず含まれている。短い診療時間のうちにそのような症例を見出し,可能であれば簡単な心理テストを施行し,心理社会的な問題を受容・共感するカウンセリングの時間をつくり,心身医学的なアプローチをすることにより症状が軽減したり消失することがある。

2.めまい

著者: 武田憲昭 ,   荻野仁

ページ範囲:P.819 - P.821

 はじめに
 難治性めまいの治療には心身医学的治療が必要な症例がある。めまいを主訴として来院する患者の中には,各種の検査で異常を認めないにもかかわらずめまいを繰り返し訴える症例や,メニエール病のように明らかな内耳障害がある場合でも,薬物治療や手術治療でめまいが抑制できない症例を経験する。このような症例には,身体症状に対する治療だけでなく,患者の環境因子や心理的因子を考慮して治療する心身医学的アプローチが必要であることが多い1)

3.耳鳴

著者: 小川郁 ,   新田清一

ページ範囲:P.823 - P.827

 はじめに
 近年,様々な疾患がストレスなど心身医学との関連で論じられている。耳鼻咽喉科領域でもメニエール病を初めとするめまい疾患や咽喉頭異常感症などが心身医学的アプローチを要する疾患と考えられている1)。一方,耳鳴は単一の疾患ではなく,様々な耳疾患により生じる症状であるが,やはり心身医学と密接な関係がある2,3)。近年,耳鳴を主訴に医療機関を受診する症例が増加しているが,その理由の1つはいわゆる高齢化による難聴の増加であり,もう1つが生活環境の変化に起因するストレスと考えられる4)
 また耳鳴は,いまだ他覚的検査法や根治的治療法が確立されていないことから,とかく多忙な臨床現場では敬遠されがちな症状であるが,このような治療者側の対応は耳鳴患者の不信感を増大させてきた要因でもある。しかし,根治的治療法がない現状でも,心身医学的アプローチにより耳鳴の苦痛度を軽減することは可能であり,耳鳴に関与する心身医学的要因を理解することはその診療を行ううえで極めて重要である。
 本稿では心身医学からみた耳鳴について,特に今回はストレスと耳鳴との関係を中心に述べる。

4.心身医学と嗅覚障害

著者: 古川仭

ページ範囲:P.829 - P.832

 はじめに
 耳鼻咽喉科の一般外来において,嗅覚障害を主訴に受診する患者は特殊な場合を除き非常に少なく,嗅覚異常は問診して初めて明らかになる症状である。その特殊なケースとしては,交通事故や労働災害などの外傷後の嗅覚障害と,中年の女性に多い感冒罹患後の嗅覚障害が一般的である1)。それ以外にも,ニオイに関する訴えで受診する特異なケースとして,心身症や神経精神病における嗅覚関連症候や,ニオイの質的な異常としての異常嗅感がある。
 本稿ではそれらの嗅覚に関連する特徴ある症候を取り挙げ,そこから診断を確定するためのポイントや検査の選び方・進め方などを中心に解説する。

5.咽喉頭異常感症

著者: 山際幹和

ページ範囲:P.835 - P.840

 はじめに
 咽喉頭異常感を主訴として耳鼻咽喉科を受診する患者は,概して多彩な身体的ならびに心的自覚症状をも有している。したがって,そのような患者の診療に際しては,心身医学的診療が不可欠である。
 本稿では,筆者が実践してきた咽喉頭異常感症の診断と治療が,多少とも今後の耳鼻咽喉科心身医学の発展に資することを期待して私見を記述する。

6.心因性発声障害

著者: 田山二朗

ページ範囲:P.841 - P.844

 はじめに
 1.概念と分類
 音声は情緒的情報も伝えうる音響信号であるため,発声過程において精神状態が様々な程度で反映される。精神が緊張した状況におかれると,声が震えたり,嗄れたり,出しづらくなることは誰しもが経験する。心因的要因で発声障害が生ずることは理解しやすい病態であり,その極端なものはヒステリー性失声症として古くから知られている。
 一般に器質的異常に基づかない発声障害を機能性発声障害と呼ぶが,これには精神的外傷や心理的葛藤などの関与が考えられるものも含まれている。これを心因性発声障害としている。つまり,声の乱用や不適切な発声の結果引き起こされる狭義の機能性発声障害と,心因性の発声障害とに区分されるわけである。しかし,実際には発声障害が心因に基づいたものであるか否かを鑑別することが困難な場合もある。例えば,心因によって引き起こされた発声障害が,心因が解消された時期にも存続し,機能障害として固定してしまうこともありうる。一方で,基本的には発声習慣や発声の仕方に問題があり生じたものではあるが,同時に心因的要素が重なっていることもある。

7.頭頸部再建外科と心身医学

著者: 西川邦男

ページ範囲:P.847 - P.850

 はじめに
 頭頸部は,身体の中でも咀嚼・嚥下という生存のための基本的な機能や構音・発声という社会生活を営むうえでの不可欠な機能を司る部位である。また,顔貌は人間として自己を一個人として表現あるいは認識するために重要である。頭頸部癌切除に伴うこれらの機能と形態の損傷は,患者の社会復帰に大きな障害となる。それゆえ,生命予後を決定する頭頸部癌切除と術後患者の生活の質(quality of life:QOL)に深くかかわる頭頸部再建は表裏一体となり,頭頸部外科手術の進歩を支えてきた。
 確かに頭頸部再建手術によって顔面の形態維持が可能になったが,現在の医療水準でも修正し得ない顔面変形はなお存在する。顔面変形が完治しがたく,また改善されたとしても,何らかの変形異常が残る場合には患者の精神的負担は一生涯続くことになる。それゆえ,局所を外科的に治療するにとどまらず,患者の心理をも理解することが形成再建外科医に求められるようになり,近年では精神科医と連携をとり,術前後での患者の精神的支援の必要性が論じられるようになった。

目でみる耳鼻咽喉科

巨大な耳下腺多形腺腫の1例

著者: 平山裕 ,   谷垣内由之 ,   馬場廣太郎

ページ範囲:P.808 - P.809

 多形腺腫は,耳下腺に発生する良性腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍である。耳下部腫瘤などで比較的早期に発見され摘出されるため,悪性化した場合以外では巨大化することは稀である1,2)
 今回われわれは,巨大な耳下腺多形腺腫の1例を経験したので報告する。

鏡下咡語

触覚について思うこと

著者: 野村恭也

ページ範囲:P.852 - P.853

 触覚は五感の中で最も早くより,他の感覚に先駆けて発達する感覚である。胎児のとき既に皮膚は触覚を介して母体からの,あるいは母体外からの様々な情報を感じ取っているものと思われる。触覚は他の感覚とも密接な関係にあり,そのことはことばの上からも伺うことができる。例えば味覚に関したtasteという語はThe Oxford English Dictionaryの記載をみると真っ先に“the sense of touch”とある。またtasteの語源は独語のtastenと共通しており,味覚というのは本来,単なる味を意味するだけの感覚ではないのであろう。日本語でも目にふれる,耳にふれる,鼻にふれる,舌にふれる,などというように全ての感覚に触の字が関わっているという(立川昭二)。いかなる感覚も刺激が触れなければ感覚器は機能しないから,これらは科学的な表現ともいえる。
 耳鼻咽喉科は五感のうち視覚以外の感覚と関係がある。聴覚,嗅覚,味覚は学問的にも研究が進み,その成果は臨床に応用されている。一方,触覚はというと年老いて目が見えなくなり,耳が聞こえなくなり,匂いも味も分からなくなっても最後まで機能しており,極めて大事な感覚であるにもかかわらず,われわれはそれをどのように臨床と結び付けてよいのか見当がつかないのである。

原著

花粉症患者に対する電話調査

著者: 大久保公裕 ,   後藤穣 ,   八木聰明 ,   奥田稔

ページ範囲:P.856 - P.862

 はじめに
 スギ花粉症は現代を象徴するI型アレルギーの代表的な疾患であるが,症状発現期間が限られており,罹病期間が比較的短いので薬物療法主体の治療で患者のquality of life (QOL)は保たれることが多い1)
 鼻アレルギー診療ガイドラインにおける薬物療法では重症度と病型を組み合わせた治療薬の選択が必要となる2)。スギ花粉症に対する最も有効な薬物の投与法として,抗アレルギー薬の季節前投与(初期治療,予防投与)がある3)。これは,スギ花粉の飛散が比較的正確に予想できるため,薬剤の投与開始時期を決定することが可能であり,これに基づいた治療法である。この治療法において,第2世代抗ヒスタミン薬(抗ヒスタミン作用を有する抗アレルギー薬)が主に用いられている。しかし,花粉飛散前においては花粉症症状がないか,もしくは軽微な場合は,症状の緩和よりむしろ薬剤による中枢抑制作用で眠気や倦怠感などの副作用が患者の日常生活に影響を及ぼすことも少なくない。そこで,スギ花粉によるもの以外の花粉症患者も含め,花粉症症状,医療機関受診状況,内服薬使用状況などの患者の実態調査を電話で調査した。

睡眠時無呼吸症を伴った巨大後鼻孔ポリープの1例

著者: 石橋康子 ,   竹内直信 ,   前田陽一郎 ,   近藤健二 ,   永尾裕美子

ページ範囲:P.863 - P.865

 はじめに
 後鼻孔ポリープは,日常診療でときにみられる疾患1)であるが,慢性副鼻腔炎の6%を占めるといわれている1)。1980年代には睡眠時無呼吸症候群と鼻疾患の関連が注目を浴びるようになり2),後鼻孔ポリープがその原因とされる症例の報告も散見される3,4)
 今回われわれは,巨大な後鼻孔ポリープがその原因と考えられ,ポリープ摘出後に著明な改善をみた睡眠時無呼吸症候群症例を経験したので報告する。

舌全摘・再建術後の嚥下・構音機能が良好であった中咽頭再発癌の1症例

著者: 末田尚之 ,   柴田憲助 ,   加藤寿彦 ,   菅村真由美 ,   樋口仁美 ,   山野貴史 ,   小倉朋子 ,   原田博文 ,   大慈弥裕之

ページ範囲:P.867 - P.871

 はじめに
 頭頸部癌では,根治術に伴う嚥下・構音などの生理的機能の障害や喪失ならびに顔面の醜形が問題となることが多い。その際,患者にとってのこのような問題点を少しでも軽減させることが,癌の根治とともにわれわれ臨床医に与えられた命題である。そこで当科では,舌半側以上の切除術を行った症例に対しては,遊離腹直筋皮弁や大胸筋皮弁を用いての再建術を施行している。しかし,一般に舌全摘出術を行った揚合,術後の誤嚥の問題から喉頭を温存できない症例が多い。
 今回われわれは,中咽頭癌再発症例(rT4NOMO)において,喉頭を温存し舌全摘出術および遊離腹直筋皮弁による再建術を施行し,術後の嚥下・構音機能を比較的良好に保つことができた症例を経験したので報告する。

連載 手術・手技シリーズ

⑪ファイバースコープ下の声帯ポリープ切除

著者: 児嶋久剛

ページ範囲:P.873 - P.877

 はじめに
 声帯ポリープに代表される良性の隆起性病変に対する手術では,声帯粘膜が本来もつ物性を損わないようにできるだけ控えめに,かつ極めて正確に切除しなければならない。この目的のために,現在広く全身麻酔下の喉頭微細手術(ラリンゴマイクロサージャリー)が行われている。この方法の利点は顕微鏡下に観察することで病変の範囲を正確に知ることができることと,全身麻酔によって安定した手術野が得られることであるが,一方,挿管チューブのために術創,特に後部声門部が見えにくくなること,手術中に患者の声や声帯振動の状態を観察できないこと,全身麻酔に伴う術前・術後の入院管理が必要なことなどの欠点があった。これらの利点,欠点を考慮し,われわれは局所麻酔下にもかかわらず正確に声帯ポリープを切除する方法を考案した1〜3)
 本稿では,この局麻下喉頭手術に焦点を当てて,その適応,微細手術の工夫やその限界を解説する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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