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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科73巻4号

2001年04月発行

雑誌目次

トピックス クリニカルパスとその周辺

1.クリニカルパス—なぜ医療に必要とされるのか

著者: 深谷卓

ページ範囲:P.257 - P.259

 I.クリニカルパスとは何か
 近年,EBM (evidence-based-medicine),アウトカムリサーチ,医療機能評価,技術評価など,医療をその成果から評価しようとする動きが高まり,日本でも先駆的な病院を中心に徐々に広がりつつある。クリニカルパスもこの1つで,医療と看護の質の保証を目標としている。クリニカルパスそのものは「看護スタッフ・医師・コメディカルのケア介入を整理し,順序立て,経時的にまとめたもの」である。実際には図1のように,縦軸にケア介入事項(処置,検査,観察など実施すべきこと)を,横軸に日数(基準は入院日,手術の術後経過日,処置(例:心臓カテーテル)からの日など様々である)を取り,その升目に全てのケア介入を記したものである。こう書くと,料理書のレシピと変わらぬではないかという批判が出てくる。確かにクリニカルパスは,必要なケア介入がもれなく確実に行われるよう記載されたものである。しかし,クリニカルパスは静的なものではなく,図2に示すように,このクリニカルパスシートを作成するには,まず今までの業務分析を行わねばならない。さらに,クリニカルパスを運用するときは,ただこのクリニカルパスシート通り行えばよいのではなく,ヴァリアンスとアウトカムを測定しなければならない。ヴァリアンスとは「標準化されたクリニカルパスで,予測される結果や責任と,実際との差」といえる。ヴァリアンスは表1のように大別される。ヴァリアンス測定は手間がかかるので,クリニカルパスの全項目に対して行うのではなく,医療ケアのアウトカムに影響する項目にだけ焦点を定めればよい。こうして収集されたヴァリアンスはクリニカルパスを標準化するための指標となる。例えば,熱発のため予定日に検査ができなかったとして,その患者が糖尿病だとすれば,これは感染症を生じやすい患者の特性からきている可能性があり,同じ症例が続くなら同一疾患でも糖尿病患者群を除外基準として設定する必要がある。さらに,クリニカルパスが標準化された場合,ヴァリアンスは患者の個別性をみるのでなく,システムの改善やコスト分析に用いられる。
 アウトカムには表2に示すように立場によって様々な面がある。病院経営のシステム面からはコスト,稼働率,収支差などがアウトカムとなる。医師からみると,端的にいえばアウトカムは退院基準である。看護からみると,セルフケア知識,機能的能力を評価することといえよう。アウトカムが明確にならないとプロセスも評価できない。またはプロセスだけ評価し,アウトカムに直結しないこととなる。つまり,クリニカルパスを作成し,運用することは今までの仕事を分析し,変革するCQI (continuous quality improvement)になる。

2.耳鼻咽喉科外来におけるクリニカルパス

著者: 荒木倫利 ,   竹中洋

ページ範囲:P.261 - P.266

 はじめに
 クリニカルパスは従来,急性期入院の治療手順の標準化を目的としてとして開発されてきた経緯があるが1,2),その目的は,現在進行しつつある医療の標準化,情報開示の流れを受けて変化しつつある。
 クリニカルパスの定義として,開発された当時の1990年代前半には,“患者が内科的,外科的,精神的な危機から回復したり,状態が安定したりするのを援助するために,特定の時間の枠組みの中でケア・医療スタッフや支援部門が必要とする行動をまとめているツール”(Zander K),“DRG(diagnosis related group)が決めている入院期間内で標準的な結果を得るために,主治医と看護婦が行うべき手順と時間割”(Guliano K & PoirierC)1)とされており,入院期間を短縮して医療の生産性を向上するとともに,提供する医療の質をも向上し,医療を標準化するのが目的と考えられていた。したがって,当初は入院患者に対して行われる内容を記したチャートとして考えだされている。

3.耳鼻咽喉科病棟におけるクリニカルパス

著者: 杉尾雄一郎 ,   藤谷哲 ,   洲崎春海

ページ範囲:P.268 - P.277

 はじめに
 クリニカルパス(以下,CPと略)は,一定の疾患をもつ患者に対する看護活動,検査,治療,栄養指導,薬剤管理,安静度および日常活動,入院中および退院後の生活指導などを経時的に表にまとめたものである。通常縦軸は患者ケアの内容,横軸は時間軸となっており,患者ケアを行う場合のスケジュール表とみることができる。このCPは,1985年頃に米国・Massachusetts州のNewEngland Medical Centerで看護婦として勤務していたZanderら1)によって考案され,看護の質の向上のみならず,患者の満足度の上昇,医療スタッフの教育,医療施設の経営改善などに効果を上げる臨床マネージメントツールとして,米国や欧州の医療施設に急速に浸透した。日本では1990年代半ばから導入する施設が増加しており,耳鼻咽喉科医にとってもevidence based medicine(EBM:根拠に基づく医療)などとともに理解しておくべき事項の1つと考えられる。
 本稿では,昭和大学病院耳鼻咽喉科病棟で使用されているCPの実際を紹介し,その効果や問題点などについて述べる。

4.電子カルテにおけるクリニカルパス

著者: 亀田俊忠

ページ範囲:P.281 - P.287

 はじめに
 亀田メディカルセンターは,千葉県鴨川市に本拠を置く民間医療機関で,主に入院患者を対象とした医療を提供する亀田総合病院(784床)と104の診察室をもち,日帰り手術,外来リハビリテーション,人間ドックなどを備え,約2,000人/日の外来患者を診療する亀田クリニックを中心として,老人保険施設,特別養護老人ホームなど,医療および福祉に関連した様々な事業を展開しています。
 医療サービスの充実を図るとともに心血管外科,脳神経外科,周産期医療,救命救急などの高度医療の提供体制を整え,高度先進医療を実施する特定承認保険医療機関に指定されています。また,民間病院にあって早期から医師卒後臨床研修指定病院として取り組み,米国の教育システムを取り入れた独自の臨床研修プログラムを開設してきました。

目でみる耳鼻咽喉科

舌根部異所性甲状腺の1例

著者: 嘉村恵理子 ,   馬場俊吉 ,   神尾友信 ,   小津千佳 ,   福元晃 ,   野中学

ページ範囲:P.254 - P.255

 異所性甲状腺には甲状腺原基の下降障害と迷入によるものがある。下降障害は甲状舌管の存在した頸部正中に発生し,舌根部に位置するものが45.1%を占め,その約70%が異所性甲状腺が唯一の甲状腺である。迷入は固有位置の甲状腺のほかに下降路に伴った部位や下降路とは全く異なった鼻・副鼻腔,卵巣など多くの部位に発生する。今回,下降障害により発生学的位置異常をきたし,舌根部に存在した異所性甲状腺を経験したので報告する。
 症例:25歳女性。

原著

Episodic ataxia type 2症例の神経耳科学的所見

著者: 高井禎成 ,   菅澤恵子 ,   室伏利久

ページ範囲:P.290 - P.292

 はじめに
 Episodic ataxia type 2(EA−2)は,常染色体19pの異常によるCaチャンネルの異常が原因とされる発作性の失調を主徴とする疾患である1)。われわれは,EA−2と考えられる症例の神経耳科学的所見を検討する機会を得たので,その結果について報告する。

頸部腫脹を主訴とした川崎病の1例

著者: 日高裕士 ,   藤井守

ページ範囲:P.297 - P.300

 はじめに
 川崎病は,小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群とも呼ばれ,主として4歳以下の乳幼児に好発する原因不明の疾患である。本症の経過中にみられる心合併症,特に冠動脈瘤の形成は予後に重大な影響を与えることもあり,早期診断早期治療が望まれる。
 今回われわれは,頸部リンパ節腫脹を主訴に受診した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

口腔底に発生した甲状舌管嚢胞の1例

著者: 清水義貴 ,   佐伯忠彦 ,   寺下健洋

ページ範囲:P.302 - P.304

 はじめに
 甲状舌管嚢胞は胎生期における甲状舌管の遺残上皮に由来する先天性嚢胞であり,舌骨下に発生することが最も多く1),口腔底に発生することは比較的少ない2,3)
 今回われわれは,口腔底に発生した甲状舌管嚢胞の1例を経験したので報告する。

頸部リンパ節腫脹を初発とした非精上皮腫性精巣腫瘍の1例

著者: 吉田征之 ,   橋本省 ,   小岩哲夫 ,   浅田行紀 ,   横山純吉

ページ範囲:P.305 - P.308

 はじめに
 精巣胚細胞性腫瘍は,後腹膜腔を中心にリンパ節転移を認めることが多いが,ときに頸部や縦隔にかけて非常に広範な転移巣を有することがある1)。シスプラチンを中心とした化学療法の進歩により,こうした広範な転移巣に対しても劇的な治療効果が得られるようになったが,化学療法後残存腫瘍に対する救済外科療法も治療において重要な役割をもつている2)
 今回われわれは,頸部リンパ節転移を初発症状とした精巣胚細胞性腫瘍に対し,化学療法後に残存した頸部から骨盤腔内に至る巨大な腫瘍を,他科との共同により外科的に摘出した症例を経験したので,この救済外科療法の適応について考察した。

内直筋麻痺による複視を呈した蝶形骨洞炎の1例

著者: 三澤清 ,   浅井美洋 ,   向高洋幸 ,   峯田周幸

ページ範囲:P.309 - P.312

 はじめに
 蝶形骨洞や後部箭骨洞の急性炎症や粘液嚢胞に続発する視力低下,眼球運動障害など視力障害を伴わず眼球運動障害だけを呈する症例の報告は少ない1)
 今回われわれは,一側の内直筋麻痺による複視だけを合併した蝶形骨洞炎症例を経験したので報告する。

病理診断に苦慮した口蓋扁桃腫瘍の臨床像

著者: 定永恭明 ,   木下澄仁 ,   山西貴大

ページ範囲:P.313 - P.316

 はじめに
 口蓋扁桃(以下,扁桃と略)は診察が比較的容易な臓器で,われわれ耳鼻咽喉科医だけでなく,他科医でも正確に診断できる場合がある。しかし,ときに視診のみではその病態が?めず,確定診断に迷う症例にも遭遇することがある。
 今回われわれは,確定診断に至るまで苦慮した扁桃腫瘍性疾患4例の臨床像を呈示し,若干の考察を加えて報告する。

歯牙迷入による舌膿瘍の1例

著者: 藤井守

ページ範囲:P.317 - P.319

 はじめに
 舌においては化膿性炎症,中でも膿瘍形成は少ない1〜3)。われわれは舌膿瘍の1例を経験したが,その原因として異物の可能性を疑いながらも確定に時間を要したので,反省点もまじえて報告する。

鏡下咡語

第16回目の国際学会(バルセロナ紀行記)—一開業医の記録

著者: 調賢哉

ページ範囲:P.294 - P.296

 最初に私が国際学会で講演したのは,1975年,京都で開催された京大森本教授の主催されたバラニイ学会(めまいの学会,平衡神経学の創始者の名前をとった学会)であった。この際「Clinical Significance of Cho-rda Tympanectomy for Vertigo」と題して講演した。同時に同じ群で山形の小池教授も「Problems Con-cerning the Indication for Surgical Treatment ofMeniere's Disease」としてChorda tympanectomyについて講演された。めまいに対する鼓索神経切断術は,「耳鼻と臨床」42巻3号にメニエル病難治例に対するローゼンの鼓索神経切断術の役割として掲載してあるように実に効果的な手術であるが,アメリカのDr.PulecおよびDr.Wolfsonから激しく反論された。そのとき,この手術に対する反応は日本人と米国人で差があるのであろうかと考え,今後,私の業績は世界に問う必要があると思い国際学会に積極的に発表することとした。その後,約25年間にストックホルム,ソウル,東京,マイアミ,マドリード,ロンドン,東京,香港ローマ,イスタンブール,コペンハーゲン,シドニー,バルセロナと私のK・S (キリアン・調)額帯鏡久保・調式歯槽上顎洞痩孔閉鎖法,および小児副鼻腔炎に対する上顎洞洗浄の方法,治療成績,および副鼻腔炎の合併症である所謂原因不明熱,頭痛,咳嗽,滲出性中耳炎難治例,非アトピー性喘息に対する効果など最近は3歳児にまで上洗が可能になったこと,さらに最近は鼻茸も消失させるので手術的療法はほとんど必要ないことについて講演し,かなり反響があった。このように,国際学会で話をすることが「生き甲斐」と自信につながり診療が張り切って行えるようになった。さらに,学会で得た知識は結構日常診療および手術に役立ってきた。
 今回は2000年6月26日から4日間にわたりバルセロナで開催された19回「ISIAN」(International Sym-posium on Infection and Allergy of the Nose)および18回「Europian Rhinologic Congress」で講演することになった。

連載 手術・手技シリーズ

④鼻骨骨折の整復

著者: 寺田修久 ,   野村知弘 ,   笹村佳美 ,   武藤博之 ,   沼田勉 ,   今野昭義 ,   白鳥浩二

ページ範囲:P.321 - P.327

 はじめに
 鼻骨骨折は顔面骨外傷の中で最も頻度が高く,日常臨床でしばしば遭遇する外傷である。鼻骨骨折が高頻度に起こる原因として,顔面中央部に突出していることのほか,外力に対する強度が弱い構造上の理由もある。ちなみに,鼻骨骨折は10〜35kgの外力で生じるが,眼窩,頬骨骨折では,90〜200kgの外力が必要となる1,2)。その整復は比較的容易と思われがちであるが,機能の回復はもとより,整容的にも十分な配慮が必要であり,的確な診断と治療を要求される。また,鼻骨骨折と同時に上顎骨,眼窩底・眼窩側壁,頭蓋底,頬骨,視束管など他部位の骨折を見逃さないようにすることも肝要である。特に通常診療時間以外に,多量の出血を伴つて救急外来に来院した場合,迅速かつ的確に骨折部位,機能障害の有無,整復の必要性の有無,整復法を判断するのにはかなりの熟練を要する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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