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雑誌目次

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科73巻5号

2001年04月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の新しい器械,器具 Ⅰ.ナビゲーションシステム

1)耳科手術

著者: 福田諭 ,   佐伯昌彦 ,   千田英二 ,   中丸裕爾 ,   黒田努 ,   松村道哉 ,   武市紀人 ,   古田康

ページ範囲:P.7 - P.13

 はじめに
 1999年2月,アメリカのCBSニュースが,内視鏡下ロボットによる心臓冠動脈バイパス手術の成功をセンセーショナルに報道したことは記憶に新しい。低侵襲手術,内視鏡下手術,ロボット工学などをキーワードとして,近年,最新のコンピューターテクノロジーを駆使したナビゲーションシステムが脳神経外科,整形外科(脊椎外科),そして当耳鼻咽喉科領域での手術現場で使用されてきている1)。この背景には,1)カルテ開示から手術開示の可能性,2) EBM (evidence based medi-cine)からevidence based surgeryという概念の出現,3)医療訴訟の増加,4)医師(手術者)側のQOL,5)学生・研修医への教育などが挙げられる。
 外科医師の頭脳には,術野に関する完壁な解剖学的知識があるとされるが,その一方で術者の解剖学的位置の誤認による手術合併症が増加しているともいわれる。こうした中,耳鼻咽喉科領域でのナビゲーション手術例の報告,研究会の設立などが現実となってきている2)。わが国における当科領域でのナビゲーションは,鼻・副鼻腔手術での報告が圧倒的に多く3),欧米の報告4,5)を除き耳・側頭骨領域の手術ナビゲーションの報告は現在まで極めて少ない。われわれは1999年7月から,耳・側頭骨手術において光学式ナビゲーションシステムを使用しており6),この経験を軸として耳・側頭骨手術における具体例,有用性,問題点,改良点,限界,将来性などについて概説したい。

2)鼻科手術

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.15 - P.21

 はじめに
 鼻・副鼻腔は,解剖学的に複雑な構造を有し,個体差や左右差などバリエーションが多く,なおかつ眼窩,前頭蓋,視神経などの重要な周辺臓器とを隔てる骨壁が非常に薄い。例えば,節骨頭蓋内壁の厚さは平均で150μmであり,最も薄いところではわずか30〜100μmである1)。従来行われていた額帯鏡の光と裸眼による副鼻腔手術は,暗くて狭い視野の中,しかも死角の多い中での鉗子操作を余儀なくされ,視器障害や頭蓋内合併症など重篤な副損傷も決して少なくなかった。
 1980年代より副鼻腔手術に硬性内視鏡が導入され(内視鏡下鼻内手術:以下,ESSと略),拡大明視下での手術操作が可能となって以来,副損傷の発生頻度は減少してきている。しかし,現在でもなお眼窩内出血,視力障害,あるいは髄液漏といった重篤な手術時副損傷の報告がみられる2,3)。

3)頭頸部手術

著者: 友田幸一 ,   村田英之 ,   高島雅之

ページ範囲:P.23 - P.27

 はじめに
 一般に外科医は術前に自分の頭の中(イメージ空間)で手術のシミュレーションを行い,その三次元的イメージに基づいて手術を行っているが,医師個人の経験と技量に差があり,また頭蓋底手術のように複数科の医師によって手術が行われる場合,お互いが同じイメージをもっているとは限らない。医師のイメージ空間の代わりにコンピュータ上の仮想空間をディスプレイすることができれば,三次元的イメージが客観的,定量的になり,しかもチームで同じ画像を見てコミュニケーションをしたり,手術計画アプローチを立てることができるようになる。さらに,この仮想空間が現実の空間(術野)と位置的に正確に対応するように位置合わせ(registration)すれば,手術中に随時参照して適切な判断を下すことが可能になる。このような観点から発案されたのが手術ナビゲーションシステムである。すなわち,三次元ポインターである一点を指すと,ただちにその点を含む断層画像が表示され,その画像上に今指している箇所がマークされる。
 耳鼻咽喉科・頭頸部領域の手術は,眼窩,頭蓋底など危険部位が隣接しており,また重要な神経,血管が走行するなど解剖学的に複雑で,個人差が多く存在する。今日,ナビゲーションシステムは,鼻・副鼻腔の手術でその有用性が数多く報告されているが1〜4),頭頸部,頭蓋底手術に関してはまだ少ない5〜9)

Ⅱ.画像機器

1.3D-CT 1)耳科領域

著者: 吉田晴郎 ,   森川実 ,   小林俊光

ページ範囲:P.29 - P.33

 はじめに
 高分解能CT(high resolution CT:HRCT)の普及に伴い,耳鼻咽喉科領域においても画像診断の有用性が広く認識されてきた1,2)。耳科領域において,対象である側頭骨の大部分は含気腔と骨構造で構成されることから,HRCTのよい適応とされ画像診断の中心を担ってきた。同時に耳小骨の評価は診断上極めて重要であるが,その骨構造は小さく複雑であることから,従来の二次元的な断面のみでは把握しにくいことも多い。最近では,より高度な画像診断を目的として,三次元再構成を初め種々の画像処理法が取り入れられている3〜6)
 本稿では耳科領域の三次元CT画像を呈示し,若干の解説を加えるとともに当施設で行っている方法について述べる。

1.3D-CT 2)鼻科領域

著者: 長舩宏隆

ページ範囲:P.35 - P.40

 はじめに
 従来のCTでは病変の拡がり,周囲組織との関係を三次元的に把握するためには,頭の中で二次元表現画像である平面画像を積み重ねて構築する必要があり,読影者の経験や能力によって得られる情報が異なるために客観的診断法が望まれていた。しかし生体の三次元画像の情報を得るために,コンピュータを利用して種々の連続した二次元画像の構築が施行されるようになってきている。
 本稿では最近の鼻科領域の三次元表示画像(three-dimensional CT:3D-CT)について述べる。

1.3D-CT 3)頭頸部領域(口腔,咽頭,喉頭,頸部)

著者: 酒井修 ,   藤田晃史 ,   中鳴紀子 ,   岡本静子

ページ範囲:P.41 - P.48

 はじめに
 通常,CTは横断像あるいは冠状断像を撮像し,その画像を診断に用いているが,これらの原画像を基に,三次元(3D)画像を作成することが可能である。1990年代初期のヘリカルCTの臨床導入により,短時間で連続データを得ることが可能となり,高画質の3D画像が比較的容易に作成できるようになった1〜3)。以来,3D画像が日常診療でより多く用いられるようになり,大きなインパクトを与えた。ごく最近,臨床導入されたマルチスライス(multisliceあるいはmultidetector-row)CTでは,同時に4枚のスライスの撮像が可能となった4,5)。スキャン時間は0.5〜0.75秒,最小スライス厚は0.5mmとなり,CT検査の高速化,縦軸分解能の向上は一段と進み,短時間で高縦(Z)軸分解能をもつボリュームデータが得られ,極めて高画質,高分解能の再構成画像が作成できるようになった。マルチスライスCTの出現は“CTは横断像”といったこれまでの“常識”を大きく変え,CTの新たな撮像方法ということだけではなく,画像診断の中でのCTの位置づけを大きく変えていく可能性がある。
 本稿では頭頸部領域での3D-CTの使用方法,変更可能なパラメーターとそれに伴う画像の変化,診断における留意点について述べる。撮像方法は個々のCT装置により使用可能な条件が大きく異なり,至適条件が変わってくるが,本稿では多くのヘリカルCTで可能な撮像方法を中心に述べる。

2.内耳の3D-MRI

著者: 枝松秀雄

ページ範囲:P.49 - P.55

 はじめに
 三次元画像が必要な理由とは
 人体は三次元的に構成されているが,従来のX線情報ではCTに代表されるような二次元的な切断面における情報が主体であった。このため,各断面の不連続な画像情報を基にして病変の範囲や病態そのものを視覚的に統合して把握することは容易ではなく,必ずしも理解しやすい視覚材料とはいえない。
 特に内耳のように蝸牛,前庭,三半規管,内耳道など複雑な立体構造1〜3)を有し,またその大きさがミリ単位の微細な器官では従来の二次元的な情報では,たとえ経験を積んだ耳鼻咽喉科の専門医であっても画像診断が困難な場合がある。
 一方,最近のコンピュータ技術の著しい発展に伴って,最新の画像撮影機器が臨床の各分野に新しく導入されたため4),耳鼻咽喉科領域における様々な病態の画像診断にも三次元画像(CT,MRI)が可能となってきた。
 特に内耳の三次元(3 Dimensional)MRIでは,解剖の図譜を見るように内耳の膜迷路の全体像を立体的に観察できるため,内耳奇形の詳細な解剖学的観察が可能である。また,3D-MRIで得られる画像情報は,人工内耳の術前検査として蝸牛内に電極挿入のためのスペースが存在することを確認したり5),聴神経腫瘍の内耳道内の同定などにも有用である。また,内耳性の難聴やめまいに対しても新しい画像診断6,7)の可能性が生まれようとしている。

3.Functional MRI

著者: 中澤勉 ,   上野武彦 ,   岡本美孝

ページ範囲:P.59 - P.64

 はじめに
 脳活動の画像評価として,これまでポジトロン断層撮影(PET,詳しくは次項で述べられるものと思われる)や脳血流SPECT,さらにMRIを用いた磁気共鳴スペクトル画像(MRSI),拡散強調画像法(diffusion weighted imaging),脳灌流画像(perfusion imaging)などで代謝・循環・機能などの解析がなされてきた。しかし,PETやSPECTでは放射性物質を用いる点,また前者では標識薬剤の寿命が短いために大がかりなサイクロトロンを常備しなくてはならず,時間分解能にも限界があり,後者では局所の脳血流測定にのみ使用され空間分解能では劣るなどの欠点があった。そこで,非侵襲的な脳活動の画像化の新しい方法として,数年前からBelliveauら1)やOgawaら2)によって始められたfunctional MRI (fMRI)は高分解度の空間情報の的確さおよび画像の経時的変化を得る方法として開発された。当初は4テスラの超高磁場装置やエコープランナー(EPI)法を用いる特殊な装置で開発されてきたが,一般のMR装置でも撮像可能となってきた。
 本稿では,脳神経の大多数を扱うわれわれ耳鼻咽喉科医にとって有用と思われるfMRIについて概略する。

4.PET(頭頸部)

著者: 斎藤武久 ,   須長寛 ,   大坪俊雄 ,   斎藤等

ページ範囲:P.65 - P.70

 はじめに
 ポジトロンCT(positron emission tomogra-phy:PET)は,陽電子(positron)を放出して崩壊する放射性核種(ポジトロン核種)によって標識された薬剤を体内に投与し,その体内分布や動態を外部から断層画像として計測することによって機能測定を行う検査法であり,最先端医療の1つである1)(図1)。PETは,初期には脳の生理学的研究から始まり,最近では腫瘍の診断においてその有用性が高く評価されるようになった。

5.超音波

著者: 沼田勉 ,   飯田由美子 ,   橘昌利 ,   永田博史 ,   今野昭義

ページ範囲:P.71 - P.78

 はじめに
 超音波診断は,実時間表示される電子走査装置の開発と実用化により近年著しい進歩を遂げた。X線被曝がなく,ベッドサイドでの検査あるいは外来での検査が可能であり,今日あらゆる診療科において普及している。耳鼻咽喉科領域では疾患の視診,触診が可能であることなどのために,超音波検査の導入がやや遅れていた。しかし,大学病院や基幹病院においては耳下腺腫瘍,甲状腺腫瘍などの診断上の有用性が認識され,今や必須の画像診断法になりつつある。また,開業医における利用法1)についても報告され始めている。
 本稿では,超音波機器とその臨床応用を中心に解説を加える。

Ⅲ.内視鏡

1)耳科領域

著者: 高橋姿 ,   橋本茂久

ページ範囲:P.79 - P.83

 はじめに
 鼓室形成術の歴史は双眼手術用顕微鏡の開発に伴って始まり,その発展に呼応して手技や術式が開発されてきた。現在でも耳科手術を手術用顕微鏡下に行うことが主流であることは論ずるまでもない。しかし,耳科手術は側頭骨という硬組織の手術であり,その中には内耳や顔面神経などの重要な組織を有する。したがって,これらの副損傷の回避や術後に形成される鼓室腔を考慮すると削開不能な部位ができ,そのため死角を生じ病変の点検,清掃が不十分になる問題は常にいわれてきた。
 このようなときに耳科内視鏡を併用することは,最小限の削開により顕微鏡では得られない部位の視野を確保でき,極めて有用と考えられる。
 本稿では現在使用されている耳科内視鏡の器具の解説,使用方法,メリットとデメリットについて解説する。

2)鼻科領域

著者: 伊藤尚

ページ範囲:P.84 - P.89

 はじめに
 肉眼で観察していた鼻内所見に比べて,内視鏡の出現は鼻・副鼻腔の観察に大きな変革をもたらした。前鼻鏡検査では,せいぜい中鼻道,嗅裂,総鼻道の前半部までしか観察できず,また後鼻鏡検査でも後鼻孔と鼻甲介の後端部までしか観察できなかった。上顎洞自然孔,蝶形骨洞自然孔などは肉眼では不可能であった。しかし,内視鏡を用いると,鼻腔のほぼ全体と上顎洞自然孔および蝶形骨洞自然孔などの観察が可能である。また,病変をすばやく把握でき,正確に診断できるようになった。鼻内視鏡といえば,通常硬性鏡をさすことが多く,本稿では硬性鏡を中心に述べる。

3)頭頸部領域での内視鏡

著者: 森一功 ,   村田清高 ,   千々和圭一 ,   梅野博仁

ページ範囲:P.91 - P.97

 はじめに
 頭頸部領域疾患の診断には,口腔,咽喉,頸部食道と気管の視診が不可欠である。その多くは,額帯鏡下での観察によりある程度は把握可能であるが,特に問題となる悪性腫瘍の早期発見や進展度の正確な診断には,やはり内視鏡での観察が不可欠となる1)
 現在,内視鏡と呼ばれるものは,直達鏡,光学的内視鏡,電子内視鏡の3つに大別される。これらはそれぞれ,解像度や明るさ,操作性などで近年格段に進歩してきている。

Ⅳ.手術器械

1)マイクロデブリッダーとハーモニックスカルペル

著者: 大久保公裕

ページ範囲:P.99 - P.106

 マイクロデブリッダー:はじめに
 マイクロデブリッダーは,ここ10年で耳鼻咽喉科の特に鼻科手術に使用され始めた器械であり,現在3種類が耳鼻咽喉科用として発売されている。XPSTMドリルシステム(図1),TPSハマーTM,エッセンシャルシェーバーTMシステムである。これらの最大の特徴は持続吸引しながら病変部を除去できる点であり,内視鏡下鼻・副鼻腔手術(ESS)におけるポリープ,あるいはポリープ状の粘膜病変に対して使用されている。ESSは以前から行われていた副鼻腔根治術の副鼻腔粘膜全てを除去するという目的から,鼻・副鼻腔の病変粘膜のみを除去する目的に変化した1)。このため,このデブリッダーシステムはESSのために耳鼻咽喉科領域に適応となったともいえるほど手術のコンセプトとシステムの特徴が一致した。実際のESSは左手で硬性内視鏡を把持し,右手で鉗子を操り手術操作を進めていく方法であり,出血がある場合には右手を吸引に持ち替えたり,ガーゼを挿入する必要がある。このように出血などで術野が確保できなくなることが,吸引できるデブリッダーシステムでは少なくなる利点が生じる。このように利点の多いデブリッダーシステムは,現在アデノイド切除術などにも応用されており,以下にその特徴を説明する。

2)スキータードリル

著者: 東野哲也

ページ範囲:P.107 - P.113

 はじめに
 SKEETER® Drill System(以下,スキータードリル)は,米国Xomed社製の耳科手術専用マイクロドリルシステムである。1989年にSchwaber1)がマイクロドリルによる小開窓アブミ骨手術(stapedotomy)を紹介して以来,「mechanical」なアブミ骨底板開窓手技を担う器具として利用されている2)。一方で,非「mechanical」な開窓手技としてレーザーを用いた方法も広がりつつあり,レーザーとスキータードリルを併用した術式も報告されている3)。筆者が初めて本器具に接したのはミネソタ大学留学中の1990年であったが,以来,実験動物の蝸牛開窓や内リンパ嚢閉塞手術に利用して有用性を実感してきた。
 本邦における臨床使用の最初の報告は,スキータードリルを用いたアブミ骨手術法を紹介した1996年の田淵ら4)の学会報告である。以来,アブミ骨手術を中心にその有用性が確かめられてきた5〜8)
 本稿では,スキータードリルシステムの概要を述べるとともに,自験例を中心に使用法の実際を呈示する。

3)手術用ロボット

著者: 古川俊治

ページ範囲:P.115 - P.120

 はじめに
 内視鏡下手術は,この10年間に急速に発展し,外科臨床全般に大きな変革をもたらした1)。しかし,内視鏡下手術には,直視下でなくモニターを通じて行う鏡視下手術であり,直接臓器に触れずに遠隔操作で行う手術であるという2つの本質的な制約がある。この点の克服には,手術器機の進歩や周辺諸技術の発展の果たす役割が大きい。手術用ロボットは,現在,外科学への応用が最も期待されている新しい工学技術の中の1つである。

Ⅴ.治療機器

1.レーザー

著者: 北原哲

ページ範囲:P.121 - P.126

 はじめに
 原子では,中心の原子核の周りを電子が回っている。この電子に外部からエネルギーを与えると,電子は回っていた軌道から外側の軌道に移動する。この状態を励起状態という。外側の軌道にあった電子は元の軌道に戻るが,このとき光放射が起こる。この光が他の励起状態にある原子に入射されると,光が誘導放出され増幅されてレーザー光となる。原子が存在している媒質によって,気体レーザー,液体レーザー固体レーザーに分類される。
 レーザー光は広がらないため絞りやすく,極めて高いエネルギーを一点に集めることができる。

2.選択的微小血管手術

著者: 三瓶建二

ページ範囲:P.129 - P.134

 はじめに
 頭頸部の血管性病変に対して塞栓術を行うということは従来より行われてきたが,これは血管撮影に使用するカテーテルをそのまま利用して塞栓術を行う,いわば外科的外頸動脈結紮術と大差のない治療法であった。一方,最近の技術的進歩により,次々と新しく性能のよいカテーテルが入手可能となり,より血管の深部まで容易に到達が可能なマイクロカテーテルが開発され,また塞栓物質に関しても操作性がよく,比較的安全に塞栓術が行えるようになったため,これらの材料を駆使した手技を血管内手術と呼ぶようになった。この分野における材料および手術・手技の進歩はめざましいものがあり,本稿も旧聞に帰する可能性があるが,現在の頭頸部領域における血管内手術の現状と限界について記す。

Ⅵ.その他の器械

1.人工内耳

著者: 伊藤壽一

ページ範囲:P.135 - P.139

 はじめに
 音の機械的振動は,基本的には中耳から内耳に伝達され,内耳の有毛細胞が活動し,その活動電位が蝸牛神経を通して脳幹の蝸牛神経核からいくつかのシナプスを代え,最終的に大脳皮質の聴覚一次領野に伝達され,ここで初めて「聞こえた」と認識されるわけである。さらに,この音感覚を例えば「ことば」として認識するためには,大脳皮質の聴覚連合野と称される部位に伝えられ,そこで複雑な情報処理がなされる必要がある。この聴覚路のどこに障害があっても難聴が生じるわけであるが,実際には蝸牛神経より中枢側の原因で難聴が生じることは比較的少なく,ほとんどの難聴は中耳,内耳を含めた部位の障害によって起こる。このうち,中耳より末梢側の原因で生じる難聴に対しては「鼓室形成術」,その他の治療で回復が可能である。
 一方,内耳の原因で生じる難聴に対しては,従来より補聴器が使用されてきたが,補聴器も使用できないほどの高度難聴および聾者に対しては,これまで有効な治療手段がなかった。これに対し,1960年代の後半から1970年代にかけて開発された「人工内耳」が,現時点では内耳が原因で生じる高度難聴に対する唯一の治療手段となっている。

2.デジタル補聴器

著者: 細井裕司 ,   西村忠己 ,   安田大栄 ,   乾健 ,   小山真司 ,   蔵野晃治

ページ範囲:P.141 - P.146

 はじめに
 近年,時計や各種測定器でデジタル表示が一般的となり,日常生活でデジタルという言葉が頻繁に用いられるようになった。Digitalには「指の,指で行う,数字で表示する,数字で計算する」などの意味があり,これに対する言葉としてのana-logには「類似物の,連続量を連続量として扱う」などの意味がある。音は連続した小さい気圧の変化であるが,このように連続している信号をアナログ信号という。デジタル信号とはこのようなアナログ信号を一定の時間間隔で離散的に測定した不連続な信号のことである。信号をデジタル化することにより,情報の加工,保存が容易になる。
 補聴器は近年大幅な進歩を遂げたが,開発の方向はデジタル化,ノンリニア化,マルチメモリ化,多チャンネル化,小型化などである1)。特にデジタル技術の補聴器への応用が急速に進み,従来のアナログ補聴器では不可能であった処理が可能になるとともに小型化も図られ,デジタル補聴器で外耳道の中に完全に入ってしまうCIC (completelyin the canal)と呼ばれるタイプも登場した。図1に示した補聴器は箱形,耳かけ形,挿耳形補聴器であるが,いずれも信号処理をデジタルで行う補聴器である。

3.赤外線CCDカメラ

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.149 - P.154

 はじめに
 半規管および耳石器からの前庭入力は,前庭神経核で,下オリーブ核〜小脳片葉経由で入力される視覚信号によって抑制される1)。すなわち,前庭性の眼球運動は固視状態では発現し難く,非固視状態,すなわち遮眼や暗所開眼で発現しやすい性質がある。そこで,前庭性眼振をより純粋な形で検出するために,自発眼振検査あるいは前庭性誘発眼振検査である温度眼振検査や回転刺激検査は,非固視状態(暗所)で行われる。また,この現象は,visual suppression test2)として,その抑制経路である小脳や脳幹の機能を調べる検査として用いられている(図1)。
 内耳障害によって発現する病的眼振も前庭性眼振の一種である。この前庭性眼振である自発眼振は,一般に病勢の衰えとともに減弱するが,上に述べたように注視下では固視抑制が働いて観察されないことが多い。古くから検査器具として用いられているフレンツェル眼鏡3)は,この固視抑制を軽減させるために考案されたものである。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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