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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科73巻6号

2001年05月発行

雑誌目次

トピックス 耳鼻咽喉科・頭頸部外科と遺伝子解析

1.遺伝子解析

著者: 喜多村健

ページ範囲:P.339 - P.344

 はじめに
 ヒトゲノムの約30億塩基対の全塩基配列がほぼ決定された1,2)。しかし,ゲノムDNAの全塩基配列が判明しても,シークエンスデータは,単にA (アデニン),T (チミン),G (グアニン),C (シトシン)の4文字の並びだけであり,その中に含まれる意味を知る必要がある。すなわち,遺伝子を見つける必要がある。たとえ,遺伝子が同定されても,これらの遺伝子機能がすぐ判明したことにはならない。当該遺伝子産物の機能解析によって初めて,遺伝子機能の推測が可能となるに過ぎないのが現状である。そのためには,マウスなどの実験動物モデルでの遺伝子解析なども必要となってくる。
 以上,ヒトゲノムの解明が完成したにはほど遠いのであるが,耳鼻咽喉科領域の疾患の診断,治療においても,遺伝子の概念を含んだ診療行為が必須となりつつある点には疑問の余地はない。
 本稿では一般的な遺伝子解析について概説する。

2.遺伝子治療

著者: 斎藤等

ページ範囲:P.345 - P.351

 はじめに
 遺伝子治療とは,機能を有する遺伝子を細胞または人体に投与して,先天性の代謝異常をその原因から完治させたり,細胞にサイトカインなどの遺伝子を投与して新たな機能を付加するなどの治療法である。
 遺伝子DNAは細胞内に導入されさえすれば,運び屋のベクターがウイルスでなくても,一部は染色体に組み込まれるので治療法としては成り立つわけであるが,問題はいかにその遺伝子導入効率を高めるかが最大の問題である。

3.難聴と遺伝子

著者: 福島邦博 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.353 - P.356

 はじめに
 ヒトの難聴の原因となる遺伝子についての研究は1992年,常染色体優性遺伝家系からの解析によるDFNA 1の発見が嚆矢となり,positional clon-ingのアプローチが盛んに行われるようになった。これとほぼ並行する形で,難聴モデルマウスを用いた遺伝子同定のアプローチが,ヒトでの難聴遺伝子を同定するための強力なツールとしてこの研究を大きく進展させ,さらにいくつかの分野では内耳のcDNAライブラリーがこの研究を前進させてきた。こうした努力の結果として,現在までに非症候群性難聴では70を超える遺伝子座が報告されており,その一部は既にクローニングされてきた。こうした研究成果は,いくつかの遺伝子の機能解析を経て,聴覚と感音性難聴に関する新しい視点をもたらし始めている。
 本稿では,主として非症候群性難聴に関連する遺伝子の中で,クローニングされているものに関してその機能面を中心に概説し,遺伝子解析がもたらした難聴に関する新しい概念を紹介していく。なお,個々の遺伝子の詳細や遺伝子異常については遺伝性難聴homepage1,2)に掲載しているので,こちらを参考にされたい。

4.頭頸部癌における遺伝子解析

著者: 山中昇

ページ範囲:P.359 - P.365

 はじめに
 頭頸部扁平上皮癌は喫煙と飲酒に密接に関連した腫瘍であり,頭頸部癌の年齢別発症率の統計学的な解析から,頭頸部癌は6〜10個の独立した遺伝子変異により発症する可能性が推測されている1)。頭頸部癌における遺伝子レベルの解析および治療への応用は,他領域に比較しやや遅れをとっている感は否めないが,近年,頭頸部癌の遺伝子異常の解析が進み,さらに遺伝子治療の臨床治験も開始されている。
 最近の報告から頭頸部癌における遺伝子研究の現状とトピックスを概説する。

目でみる耳鼻咽喉科

骨組織への浸潤像を呈した頸静脈球型グロームス腫瘍

著者: 川島慶之 ,   野澤真理子 ,   堤剛 ,   喜多村健 ,   大野喜久郎 ,   河内洋 ,   小池盛雄 ,   岸本誠司

ページ範囲:P.336 - P.337

 中耳グロームス腫瘍は,1945年にRosenwasser1)により初めて報告されてから,欧米では数多くの報告があるが,本邦では1956年に切替ら2)により初めて報告されて以来約60例の文献報告があるに過ぎない。本腫瘍は病理組織学的には良性腫瘍である。しかし,血流に富み,頸静脈孔周囲骨組織へ破壊性,浸潤性に緩徐に発育し,1〜4%に遠隔転移の報告もある3,4)
 症例:24歳男性。

鏡下咡語

補聴器適合運動8年—難聴当事者の声と共に

著者: 野田寛

ページ範囲:P.368 - P.369

 はじめに
 1996年4月,「鏡下囁語」に書かせて戴いたように,当地沖縄県で補聴器を適合させる啓蒙活動に本格的に取り組み,ほぼ8年が経過した。
 当初は,ただ補聴器不適合で難渋している難聴者の補聴器を良く聴こえるようにしてあげたい,補聴器不評のため拒否している難聴者に良く適合した補聴器とはどんなものかを知ってもらいたい,そしてそれにてより良き人生を歩んでほしいとの気持から始めた運動だったが,のちにこの補聴器問題は高齢化社会に増加し続ける難聴高齢者のコミュニケーション障害をもたらし,社会・家族よりの孤立から,人生の享受不能,自立不能と,人生を全うできなくなり,ひいては寝たきり・痴呆に繋がる大問題であり,老人医療費・介護費に直結する問題であることを認識させられ,その重大性に震感とさせられている。

原著

耳下腺粘表皮癌と判明した原発不明頸部転移癌症例

著者: 山口智子 ,   河田了 ,   兵佐和子 ,   東川雅彦 ,   竹中洋 ,   辻求 ,   竹中洋

ページ範囲:P.371 - P.374

 はじめに
 粘表皮癌は主に唾液腺にみられる上皮性悪性腫瘍で,様々な分化度を示し,臨床上高分化型(低悪性)から低分化型(高悪性)まで存在する。このうち悪性度の高いものは扁平上皮成分が多く,扁平上皮癌と組織学的に鑑別が困難な場合がある。
 今回われわれは,原発不明の頸部転移性扁平上皮癌として初回治療を行い,その後耳下腺部に出現した腫瘍が高悪性度の粘表皮癌であった1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

成人に発生した喉頭saccular cystの1例

著者: 岩武博也 ,   萎澤えり子 ,   富澤秀雄 ,   信清重典 ,   肥塚泉

ページ範囲:P.375 - P.379

 はじめに
 喉頭に生じる嚢胞性疾患の中では.喉頭蓋嚢胞や声帯嚢胞は比較的よく知られている疾患である。一方,喉頭小嚢に由来する喉頭気腫やsac-cular cystなどの嚢胞性疾患は欧米では多く報告されているが1,2),本邦では非常に少ない3)
 今回,われわれは成人に発生した喉頭saccular cystの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

耳下腺内顔面神経鞘腫の2症例

著者: 石橋康子 ,   菊地茂 ,   菅澤正

ページ範囲:P.382 - P.385

 はじめに
 顔面神経鞘腫が耳下腺腫瘍全体に占める割合は,0.4〜3.4%1〜4)といわれており比較的少ない疾患である。術前に診断が確定する症例は少なく,治療方針に統一した見解がなつのが現状である。
 今回われわれは,耳下腺内顔面神経鞘腫で術中の肉眼所見や迅速診断で診断が確定し,被膜外摘出術によって顔面神経を保存し得た2例を経験した。今回,顔面神経鞘腫に対する診断確定の時期と治療方針に関して,文献的考察を加えて検討したので報告する。

アブミ骨筋腱の欠損した耳硬化症の1症例

著者: 奥田匠 ,   春田厚 ,   松田圭二 ,   小宗静男

ページ範囲:P.387 - P.390

 はじめに
 耳硬化症は単独で発症する以外に,全身の系統的疾患の部分症状として発症したり,あるいは,耳小骨の形成異常によるアブミ骨底板固着として発症することが知られている。全身的疾患の部分症状として発症するものには,青色強膜,多発骨折,伝音難聴を主徴とするvan der Hoeve症候群,頭蓋骨の骨変性,浅側頭動脈の蛇行,難聴が特徴的なPaget病,側頭骨に単独に発症し乳様突起や鼓室壁,外耳道の骨増殖をきたすfibrousdysplasia,前額隆起,視神経萎縮,再発性顔面神経麻痺,混合性難聴が特徴的なosteopetrosisなどがある1)
 また,耳介や外耳道の異常を伴わない耳小骨奇形にアブミ骨底板固着を伴う症例の多くは孤発例であるが,家族的発症例も少なくない。例えば,単脚(コルメラ状)アブミ骨に伴うもの,あるいはアブミ骨上部構造の欠損に伴う場合などがある。一方,アブミ骨筋腱に認められる異常としては,その骨化や正常なアブミ骨筋腱の直上に錐体隆起からアブミ骨頭に至る棒状骨が存在するためにアブミ骨上部構造固着をきたすものなどがある2)
 今回われわれは,全身的な身体所見に異常を認めず,また外耳道は正常で家族歴がなく,検索し得た範囲では本邦で報告例のない左アブミ骨筋腱欠損のみられた非症候群性耳硬化症と考えられる症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

神経鞘腫による外耳道閉塞症例における電気刺激VEMPの経験

著者: 渡辺剛士 ,   菅沢恵子 ,   室伏利久

ページ範囲:P.391 - P.394

 はじめに
 温度刺激検査は,以前より前庭系機能検査として広く普及しており,また最近前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potential:VEMP)も前庭系機能検査として広く行われるようになってきた。しかし,これらの検査は外耳道が閉塞している症例では十分な刺激が伝わらず,正確な評価は不可能である。
 今回われわれは外耳道および小脳橋角部に発生した神経鞘腫症例を経験し,また電気刺激によるVEMP検査を試みた。症例を報告するとともに,同検査の前庭機能検査における役割について考察した。

結核性中耳炎の1症例

著者: 木内庸雄 ,   池田晴人 ,   入船盛弘 ,   益田典幸 ,   菊井正紀

ページ範囲:P.395 - P.399

 はじめに
 わが国では,それまで順調に減少していた結核の罹患率が1997年に増加に転じた。集団感染や院内感染の報告が相次ぐ中で,つつに1999年7月に厚生省が結核非常事態宣言を出すに至った。また,INH(iso-nicotinic acid hydrazide)とRFP(rifampicin)に対して同時に耐性を示し,通常の抗結核薬治療では治療困難な,いわゆる多剤耐性結核が報告され,新たな対策が必要とされている。
 今回,われわれはRFP耐性結核菌による肺結核の患者で,呼吸器症状の発症する以前に耳症状が出現した症例を経験した。診断に苦慮したが,最終的には結核性中耳炎と確定診断して,保存的方法で耳漏を制御し得たので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻中隔原発の多形腺腫の1症例

著者: 堀泰高 ,   小坂道也 ,   萩池洋子 ,   山本美代子

ページ範囲:P.401 - P.403

 はじめに
 耳鼻咽喉科領域において,多形腺腫は耳下腺や顎下腺などの大唾液腺に発生することが多いが,口腔や鼻腔などの小唾液腺に存在する多形腺腫も報告されている1)
 今回われわれは,鼻中隔に発生した多形腺腫症の1例を経験したので臨床的概要を述べ,他の部位にできる多形腺腫との比較を行った。

連載 手術・手技シリーズ

⑤鼻出血止血法

著者: 三輪高喜

ページ範囲:P.405 - P.410

 はじめに
 鼻出血は日常診療で耳鼻咽喉科医がよく遭遇する疾患の1つである。鼻出血はその原因も出血の起こっている場所も症例により単一ではない。同時に止血の難易度も一様ではなく,簡単な外来処置で止血可能なものから,入院のうえ,厳重なる全身管理の下で全身麻酔下に手術が必要になるものまで様々である。
 本稿では鼻出血の止血法につき,一般的な外来処置法から,入院のうえ手術を行う症例も含めて,その処置法ならびに手術法について述べる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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