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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科74巻1号

2002年01月発行

雑誌目次

トピックス 院内感染の現況とその取り扱い

1.MRSA感染症—外科系病棟における取り扱い

著者: 荻野純 ,   岡本美孝

ページ範囲:P.11 - P.15

 はじめに
 1960年代,欧米ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下,MRSAと略)による院内感染の報告が認められるようになり1,2),本邦でも1970年代に入ってMRSAの報告が散見されるようになった3)。1980年代に入り,本邦でもMRSAによる院内感染が注目を集め4,5),マスコミによる報道の影響もあって一時は社会的な問題にまで発展するに至った。特に外科系病棟においては術後感染の原因菌としてMRSAが問題となり,残念ながら未だに解決されていない問題として医療現場で悩みの種となっている。
 山梨医科大学附属病院では,1987年代後半から入院患者から検出される黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの比率が増加した(図1)6)。その他多くの施設でも数字的に若干の相違があるにせよ同様な状況が生じ,MRSAに対する危機感が高まり各施設において院内感染対策が叫ばれるようになった。各施設ごとの院内感染への取り組みがなされ,現在ではMRSA院内感染対策マニュアルも数多く発表され,各施設ごとに感染対策チームが活動を行い,ICD制度の発足など様々な対策が行われてきている。
 本稿では,まず山梨医科大学耳鼻咽喉科における現状を述べるとともに,MRSAによる院内感染に対する留意点について述べることにする。

2.ペニシリン耐性肺炎球菌(PRS,PISP)

著者: 黒野祐一

ページ範囲:P.17 - P.21

 はじめに
 公衆衛生の普及と優れた抗菌薬の開発によって,多くの細菌感染症は既に制圧されたかに思われた。しかし,21世紀を迎えた今日,ペニシリン耐性あるいは低感受性肺炎球菌(PRSP,PISP)やβ—ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌など耐性菌の出現と急激な増加,さらには結核などの再興感染症が大きな問題となっている。これらの細菌は,通常の社会生活や社会環境の中で発症するいわゆる市中感染症の起炎菌となることが多いが,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とともに院内感染症の起炎菌となることも少なくないことから,医療関係者の正しい知識と注意が必要とされる。
 本稿では,上気道感染症で最も分離頻度が高く,また治療に難渋することが多いペニシリン耐性・低感受性肺炎球菌による院内感染症の問題点を探り,その対策について述べてみたい。

3.結核

著者: 定永恭明 ,   木下澄仁 ,   田中不二穂 ,   岳中耐夫

ページ範囲:P.23 - P.25

 はじめに
 『結核,みんな知ってる,忘れてる』これは当院の廊下にある結核啓蒙のポスターにある言葉であるが,誠に的を射たせりふである。近年減少傾向にあった結核の罹患率が上昇し,再興感染症(re-emerging infection disease)として注目されてきている1)。既にWHOでは1993年に結核緊急宣言を提唱したが,わが国でも同様に結核緊急事態宣言が出され,厚生労働省の資料によると図1に示すように集団感染,院内感染は着実に増加している。このような結核の院内感染症の問題に,当院での経験を基に耳鼻咽喉科医の立場から概説する。

4.流行性角結膜炎

著者: 清水一弘

ページ範囲:P.28 - P.30

 はじめに
 流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)はウイルスの感染によって急性に発症する疾患である。原因ウイルスであるアデノウイルスは感染性がかなり高く集団感染や地域感染を起こすことがあり,眼科における院内感染の最も重要な感染源である1〜9)。EKCの原因がアデノウイルス8型(Ad8)であることは1955年Jawetzによって発見された。その後Ad8以外に4型,19型,37型など多元的病因によることが明らかになった。
 結膜炎はその臨床経過より急性,慢性に分ける方法や,病型からカタル性,濾胞性,偽膜性などに分ける方法がある。原因別には細菌性,ウイルス性,アレルギー性などに分けられる。
 EKCに感染すると非常に伝染しやすく,それゆえ俗に“はやり目”といわれている。患者数も多く眼科領域において病院内では最も注意を要する感染症である。眼部でのアデノウイルスの標的組織は結膜と角膜であり,その他の涙道や強膜やぶどう膜などの組織に障害を生じない。

5.C型肝炎ウイルス感染

著者: 市田隆文 ,   本間信之

ページ範囲:P.31 - P.35

 はじめに
 細菌やウイルスを原因とする院内感染により,致命的な事態に陥ることがときに見受けられる。その中で,細菌感染でのMRSAやウイルス感染におけるB型肝炎ウイルス(HBV)は院内感染後,比較的早期に致命的な病態に進行することがある。一方,C型肝炎ウイルス(HCV)は感染後の症状は軽微であり,重症感はないが慢性肝炎に移行し,年余にわたり肝硬変や肝細胞癌へ進行する。そのために,重症化,劇症化さらには敗血症に陥らないことから軽んじられる傾向にあるが,実際はHIV感染とともに致命的な院内感染症である。
 本稿では,直接耳鼻科領域の病態と関係のないHCV感染の院内感染に関して言及し,その取り扱いに関して専門医としての意見を述べることとする。

6.院内感染とリスクマネジメント

著者: 中川俊正

ページ範囲:P.37 - P.42

 はじめに
 院内感染は医療事故同様,医療機関にとっては大きなリスクである。それでは,院内感染対策とリスクマネジメント運動はどう違うのであろうか。既に,行政主導で各医療機関での安全管理運動は始まっており,その中に院内感染対策を包括している施設もあるだろう。筆者は,感染対策とリスクマネジメント運動は別に考える必要があると思う。
 本稿では,まず院内感染対策とリスクマネジメント運動の違いを明らかにする。次に,本来の危機管理対応の面から新しい感染対策を説明する。最後に今後感染対策がどう進んでいくのかを考えてみたい。

目でみる耳鼻咽喉科

高度気道狭窄を伴った再発性多発性軟骨炎の取り扱い

著者: 岩武博也 ,   信清重典 ,   赤尾一郎 ,   富澤秀雄 ,   小林健彦 ,   肥塚泉

ページ範囲:P.8 - P.9

 再発性多発性軟骨炎(以下,RPと略)は全身の軟骨組織に系統的な炎症が生じ,多彩な臨床症状をきたす疾患である。今回われわれは,高度気道狭窄を伴うRP症例を経験したので,報告する。
 症例:59歳男性。

鏡下咡語

2001年夏に感じたこと

著者: 隈上秀伯

ページ範囲:P.46 - P.48

 本誌の読者の多くは耳鼻咽喉科の医師であると思います。先生方は日常の診療あるいは教育,研究について日頃,いろいろと考え,反省し,気になったり,また新たに感じることもあると思います。私は,本稿では地球環境,政治,社会面より私なりに感じたこと,気になったことを記したいと思います。
 今年(2001)の夏は特に暑く,熱中症に対する注意報道もたびたびでした。長崎市では小学校の夏休みの間に,真夏日は40日続いた。十数年前,本年は冷夏という年もあったが,自然,気象も周期的変動の波の中にあるようだ。

原著

Landau-Kleffner症候群(獲得性てんかん性失語)の1例

著者: 北尻真一郎 ,   服部春生 ,   平海晴一 ,   西岡奈美江 ,   廣瀬知子 ,   加藤竹雄 ,   吉田真策

ページ範囲:P.49 - P.52

 はじめに
 Landar-Kleffner症候群(以下,LKSと略)は小児期に発症し獲得性失語を示す症候群で,その言語機能障害の予後は悪い1〜5)。しかし聴力検査,ABR,頭部CTやMRIで異常所見はなく3),正しい診察ができなければ自閉症や心因性疾患として経過観察してしまい,治療が遅れる可能性がある。
 今回われわれは,LKS症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

下咽頭類基底細胞癌の1例

著者: 横山哲也 ,   金田裕治 ,   佐藤宏昭 ,   村井和夫 ,   佐藤孝

ページ範囲:P.56 - P.59

 はじめに
 類基底細胞癌(basaloid squamous cell carci-noma)は,1986年Wainら1)によって初めて報告された扁平上皮癌の一亜型であり,頭頸部領域を中心に上気道や上部消化管に好発する。欧米では1991年WHOの頭頸部領域における組織分類に記載が追加され,臨床的に高率なリンパ節転移および遠隔転移をきたす予後不良な疾患として認知されている。しかし,本邦では頭頸部癌取扱い規約に記載がないように,類基底細胞癌という組織型自体の認知度が低く,好発部位である頭頸部における報告は少ない。
 今回われわれは,下咽頭に発生した類基底細胞癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

OK−432による硬化療法が著効したがま腫の幼児4症例

著者: 工藤典代 ,   小林由実 ,   笹村佳美

ページ範囲:P.61 - P.64

 はじめに
 がま腫は一般に10〜20歳台に多くみられる唾液腺由来の粘液嚢胞である。従来は手術による治療が行われてきたが再発も少なくなく,術式と再発との関係1,2)や再発予防に関する報告もされている3)。一方,OK−432(ピシバニール®)による硬化療法は嚢胞状リンパ管腫の第1選択の治療とされ4),当科でも頸部や副咽腔に生じた嚢胞状リンパ管腫に使用し著明な効果を上げてきた。嚢胞性疾患に著効することから,深瀬ら5)によるがま腫に応用した報告や他の嚢胞性疾患に応用した報告もある6)
 当科では今回2〜5歳の幼児のがま腫4症例を経験し,治療にOK−432による硬化療法を試みたところ著効し,重篤な副作用もみられなかったので報告する。

下位脳神経障害(頸静脈孔症候群)を合併した遺残性原始舌下動脈の1例

著者: 上前泊功 ,   加藤修 ,   小野多知夫 ,   藤平一也 ,   高根宏展 ,   郭泰植

ページ範囲:P.65 - P.68

 はじめに
 今回われわれは下位脳神経障害(頸静脈孔症候群)を合併した遺残性原始舌下動脈の1症例を経験した。脳血管造影の普及により,遺残性原始舌下動脈のような原始遺残動脈報告例が増加している。下位脳神経障害(頸静脈孔症候群)を合併した遺残性原始舌下動脈症例は検索した範囲で報告例はなく,本症例について若干の文献的考察を加えて報告する。

眼窩内膿瘍をきたした前頭洞炎の1症例

著者: 井上真規 ,   小勝敏幸 ,   渡辺牧子 ,   堀内長一 ,   佃守

ページ範囲:P.69 - P.72

 はじめに
 画像診断や抗生剤,抗菌剤が発達した現在では,副鼻腔炎による眼窩内合併症は著しく減少している。さらに,眼窩内合併症をきたしてもそのほとんどが適切な抗生剤投与で治癒し得るようになった。しかし,高度の視力障害を生じた症例や頭蓋内にまで炎症が波及した症例に対しては,早期の外科的治療が必要と考えられている1)
 今回われわれは,前頭洞炎から眼窩内膿瘍をきたし,外科的治療により眼窩上壁の骨穿孔を確認した症例を経験したので報告する。

連載 シリーズ/ここまでわかる画像

①外耳,中耳疾患のCT

著者: 稲福繁 ,   坂野立幸 ,   松永正規 ,   車哲成 ,   山田一美 ,   水谷俊太郎 ,   齋藤行彦

ページ範囲:P.75 - P.79

 はじめに
 高分解能CT(HRCT)や3D-CT,MRIなど近年の映像機器の進歩はめざましく,年々歳々詳細な画像が提供できるようになっている。当院においても2〜3年前のCT画像が古く感じられるほど,機器の発展は早い。
 本論文では外耳,中耳疾患のCTについて,当院における最新の3D-CT症例を含めて,その画像を報告する。なお,全ての症例について3D-CT撮影ができたわけではない。一部の症例は臨床上重要な疾患なので,古く感じるであろうが,旧来の頻用している1mmスライスのtarget CTを含めて報告する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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