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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科74巻11号

2002年10月発行

雑誌目次

特集 小児の人工内耳

1.小児人工内耳の適応決定

著者: 東野哲也 ,   牛迫泰明

ページ範囲:P.749 - P.753

 はじめに
 小児への人工内耳医療が本格化したのは,米国において多チャンネル型人工内耳が小児に対して認められた1990年以降であるが,その後の普及には目を見張るものがある。先天聾小児の中に数年間のリハビリテーションで驚異的な人工内耳成績を示す例が経験されるにつれ,急速な機種の改良と相まって,世界中で適応の低年齢化が進んでいる。1995年に公表された米国NIHのコンセンサスでは,2歳以上の小児で聴力レベルが両側とも90dB以上,補聴器装用効果が不良なことが基準となっていた。しかし,1999年のFDAのガイドラインでは生後18か月,2000年の新しい機種に対しては生後12か月まで適応が緩和され,ドイツでは生後半年の乳児への埋め込みも行われている。
 このように人工内耳手術の低年齢化は世界的な趨勢ではあるが,わが国では1998年に日本耳鼻咽喉科学会が制定したガイドライン(表1)が現時点での耳鼻咽喉科医のコンセンサスとなっている。オージオロジスト,聾学校・通園施設の聴能訓練担当教員など,人工内耳の適応基準についての考え方は必ずしも一致していない部分もあろうが,本稿では耳科医の立場から適応基準に関わる諸問題について論じたい。

2.人工内耳の機器の選択

著者: 久保武 ,   井脇貴子

ページ範囲:P.754 - P.758

 はじめに
 2001年の統計では,世界の人工内耳埋め込み人口は約3万5千人であるが,このうち,コクレア社のものが全体の約72%,アドバンスバイオニクス社が約16%,メドエル社が約11%のシェアをもっている。近年の人工内耳の普及は目覚ましく,国内においても複数の機種が保険適用となっており,耳掛け型(BTE)スピーチプロセッサーの出現,複数のマップが保存できる,音声コード化法の選択ができる,バックテレメトリーが備わっているなど多くの進歩がみられるようになった。これらの改善に伴って言語聴取能の向上も期待されている。
 現在最も普及しているコクレア社の人工内耳は,メルボルン大学のClarkら1)が1970年代にオーストラリア政府の援助を得てコクレア社と22チャンネルの人工内耳を共同開発したもので,これは今日最新のCI24として普及している。他方,米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のSchindlerらは,同時期に多チャンネル人工内耳をアドバンスバイオニクス社と共同で始めた2))。同社のクラリオン人工内耳は,1991年にFDAの承認を得,2000年4月より本邦においてもCLARION S-シリーズが保険適用となった。また,オーストリアにあるメドエル社も2001年9月に米国FDAの承認を得ており,この社の製品であるCOMBI 40+が日本市場に参入してくる日も近い。このように人工内耳機種の選択肢が増えてきたことは,聴取能のみならず装用性の改善にもつながるものと思われる。
 本稿では,人工内耳の機種の相違に重点をおい(て解説する。

3.小児人工内耳手術の実際

著者: 熊川孝三

ページ範囲:P.761 - P.766

 わが国で保険適用がなされており,かつ現時点で広く用いられている人工内耳電極は,Cochlea社のCI24MとAdvanced Bionics社のClarion16(以下,C16と略)の2機種である。そこでこれら2機種を中心に小児への電極埋め込み手術について述べる。さらに小児の手術という観点から,術後合併症の予防と電極選択について述べる。

4.人工内耳による構音獲得

著者: 河野淳

ページ範囲:P.768 - P.775

 はじめに
 ヒトにおける音声獲得は脳の成長に伴うもので,通常1〜12歳頃になされ(図1),それを含めた言語行動はヒトのspecies specific (生物種特異性の行動)1)であり,ヒトのみに固有の準備状態(readimess)の基盤があって初めて起こるものである。音声獲得を考える場合に重要なことは,敏感期(most sensitivity period)や臨界期(criticalperiod)が存在するので,適切な時期に刷り込み(imprinting)が必要不可欠であることである。
 人工内耳は高度難聴者に対しての治療法として確立されたもので,耳鼻咽喉科医にとって日常診療の中で一般化してきたといえる。現在では,単に音声を聞き取らせるという聴覚補償のみではなく,特に先天性の高度難聴者や言語習得前の早期失聴小児では,音声言語を獲得させる道具でもある。一般に聴覚補償ができない限り,意味ある言語音を発声することはできない。構音器官を用いて語音を産生する過程を「構音」といい,言語的情報としては韻律的特徴(prosodic feature)・超分節的特徴(supra-segmental)に対して,音韻的特徴(phonemic feature)・分節的特徴(segmentalfeature)として論じられる。

5.奇形・重複障害児の人工内耳

著者: 伊藤壽一

ページ範囲:P.777 - P.780

 Ⅰ.小児人工内耳の手術適応
 わが国での小児人工内耳の手術適応は,1998年に日本耳鼻咽喉科学会が定めた人工内耳手術の適応基準が基本になっている(表1)。
 小児に人工内耳手術を行う際に最も問題になるのは「何歳の時点で手術をするべきか。補聴器と人工内耳のどちらを選択するのか,またいつその判断をするのか。内耳の形態異常やほかに障害をもつ小児の場合は手術適応になるのか」という点である。日本耳鼻咽喉科学会の適応基準では,年齢に関しては「小児の人工内耳手術の年齢は2歳以上,18歳末満とする。ただし先天聾(言語習得期前失聴者)の小児の場合,就学期までの手術が望ましい」としている。

目でみる耳鼻咽喉科

気管支粘液栓の1症例

著者: 藤竹英機 ,   安藤豪 ,   大鹿正紀 ,   奥村耕司 ,   大林幹尚 ,   村上信五

ページ範囲:P.746 - P.747

 気管支粘液栓は喘息や気管支炎,アレルギー性素因をもつ患者に生じやすいが,通常は咳嗽や排痰により排出されるため,呼吸困難などの症状を呈することは稀である。
 今回筆者らは2歳男児で咳嗽,発熱で発症し,胸部X線で一側無気肺がみられ,気管支異物が疑われた気管支粘液栓の1症例を経験した。

鏡下咡語

突発性難聴の50年

著者: 立木孝

ページ範囲:P.784 - P.785

1.
 「突発性難聴」を,1つの疾患,または疾患の候補として初めて報告したのは,1949年,DenmarkのRas-mussen (Acta Otolaryngo1,Vol 37)である。わが国では,最初の症例報告が1954年3月,日耳鼻大阪地方会第71回例会で大川内,佐藤両氏によってなされている(日耳鼻,57巻)。本症に関する私の最初の論文発表は1955年(耳鼻咽喉科,27巻)であったから,突発性難聴研究の歴史は世界でも,日本でも,ほぼ50年ということになる。
 Rasmussenは15年間に18例を経験し,その14例を治療して1例が回復したとしているが,大川内,佐藤両氏の例は2例,55歳男性,28歳女性で,ともにピロカルピン・クールで軽快したという。この大川内,佐藤両氏の報告例は,ピロカルピンがステロイドに変わっただけで,今われわれがみる突発性難聴例と変わらない。

原著

回転性めまいが初発症状であった聴神経腫瘍の3症例

著者: 兵佐和子 ,   萩森伸一 ,   池田進 ,   荒木倫利 ,   竹中洋

ページ範囲:P.787 - P.790

 はじめに
 聴神経腫瘍は頭蓋内腫瘍のおよそ8〜10%,小脳橋角部腫瘍の約80%を占めている1)。その臨床像は蝸牛症状や前庭機能障害,小脳症状,顔面神経麻痺,三叉神経障害など多岐にわたるが,回転性めまいは19%と比較的少なく,初発症状となる症例は7%に過ぎない2)
 われわれは,回転性めまい発作を初発症状として当科を受診し,諸検査の結果,聴神経腫瘍と診断された3症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

口蓋扁桃に発生したverrucous carcinomaの1症例

著者: 藤田健一郎 ,   山田弘之 ,   石田良治 ,   徳力俊治

ページ範囲:P.791 - P.793

 はじめに
 Verrucous carcinomaは高度に分化した扁平上皮癌の1亜型であるが,ほかの高分化扁平上皮癌とは異なった性質をもつ,比較的悪性度の低い癌である1)。本腫瘍は耳鼻咽喉科領域では口腔領域を中心に多くの報告がされており1〜5),その中でも頬粘膜,歯肉,舌などが好発部位として知られている1)。しかし,口蓋扁桃に発生したものは稀で,その報告は口腔verrucous carcinomaの約1%に過ぎない3,4)
 今回われわれは,口蓋扁桃に発生したverru-cous carcinomaの1例を経験したので報告する。

肺大細胞癌による転移性口蓋扁桃腫瘍の1例

著者: 梅木寛 ,   高崎賢治 ,   高野篤 ,   崎浜教之 ,   中田孝重 ,   山中淳子 ,   長島聖二 ,   山本善裕 ,   浅井貞宏 ,   岩崎啓介

ページ範囲:P.797 - P.800

 はじめに
 口蓋扁桃に発生する悪性腫瘍はそのほとんどが原発性であり,転移性腫瘍の報告は少ない1〜3)
 今回われわれは,肺大細胞癌を原発巣とする転移性口蓋扁桃悪性腫瘍の1例を経験したので,臨床経過に若干の文献的考察を加えて報告する。

咽後間隙血腫の2症例

著者: 寺下健洋 ,   佐伯忠彦 ,   縄手彩子 ,   清水義貴

ページ範囲:P.802 - P.806

 はじめに
 咽後間隙血腫は,上気道の閉塞により呼吸困難をきたすことがあるため,迅速な診断と治療が必要となる。
 今回われわれは,咽後間隙血腫の2症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

連載 シリーズ/ここまでわかる画像

⑩小脳橋角部のMRI

著者: 橋本省

ページ範囲:P.809 - P.814

 はじめに
 MRIは1980年代初頭に臨床応用が開始され,本邦では1983年より耳鼻咽喉科領域で使用されるようになった1)。本法はX線CTと比べいくつかの特徴を有するが,中でも骨によるアーティファクトがなく任意の断面が得られるという点は,小脳橋角部の病変において極めて有利であり,同部の診断においては不可欠なものである。
 当初のMRIの画像は,小脳橋角部では小病変の診断は不可能と思える程度であったが,超電導機が普及して空間分解能が向上するにつれて診断精度は高くなり2),さらに造影剤が出現して飛躍的な進歩を遂げた。その後も新しいパルス系列が考案されるにつれてMRIは予想を上回る早さで進歩し,現在では驚くほど明瞭な画像が得られている。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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