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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科74巻12号

2002年11月発行

雑誌目次

特集 急性感音難聴

1.突発性難聴

著者: 東野哲也

ページ範囲:P.829 - P.835

 はじめに
 突発性難聴は1973年に厚生省(現厚生労働省)難病対策の特定疾患に指定され,この研究班が策定した診断基準に則った形でわが国の臨床研究が進められている。その後,外リンパ瘻,ムンプス難聴,ステロイド依存性難聴,急性低音障害型感音難聴などの臨床像が整理され,突発性難聴の疾患概念が少しずつ絞り込まれてきた。1982年からはこれら突発性難聴の周辺疾患を包括した概念として,急性高度難聴調査研究班として全国的な規模で調査・研究が進められるとともに,多くの施設で突発性難聴に対する種々の治療法が試みられているのが現状である。
 本稿では突発性難聴に関わる臨床的諸問題について筆者の見解を述べるとともに,当科で第1選択薬として使用してきたアミドトリゾアート(76%ウログラフィン)による治療成績について最近の検討結果を交えて解説する。

2.メニエール病—発症・増悪因子を探る

著者: 高橋正紘

ページ範囲:P.837 - P.841

 I.環境要因と行動特性
 メニエール病は現在も根本的治療法のない難病である。診断基準1),疫学2),病態,実験的内リンパ水腫,内リンパ水腫の検査,内耳電気現象(蝸電図)など多方面の研究がなされてきた。最近は内リンパ水腫の起因物質として,水代謝に関わる蛋白(アクアポリン)に作用するストレス・ホルモン(ADH)が注目されている3)。疫学調査では,メニエール病患者の几帳面,神経質な傾向,女性優位,発症誘因として肉体的,精神的過労や睡眠不足が報告されている2)。しかし,内リンパ水腫との結びつきは今ひとつはっきりしない。
 筆者らは従来の報告を参考にして4,5),5年前に次の仮説を立て調査研究してきた6〜10)。a)メニエール病の成因は環境要因と個人の行動特性(性格)が生み出すストレスである。b)本疾患はストレスによる他の身体症状(心身症)と成因を共有する。c)準備状況は広く一般集団の中にあり,少数が典型的なメニエール病として発症する。これらを裏づけるために,a)日常の過ごし方,b)ストレスを生む行動特性傾向(性格),c)ストレスとなる環境要囚,d)ストレス解消となる気分転換手段,e)白律神経失調的な身体症状,を評価するアンケートを作成した11,12)

3.急性低音障害型感音難聴

著者: 村井和夫

ページ範囲:P.843 - P.850

 I.概要
 突然にあるいは急性に発症した急性感音難聴は,臨床的にいくつかの型に分けられる。
 急性低音障害型感音難聴(低音型突発難聴)は,「原因なく突然,あるいは急性に発症した,めまいを伴わない低音型感音難聴」という基準によって選択された疾患である。阿部1)による本症の選択基準を表1に示した。

4.外リンパ瘻

著者: 小林一女

ページ範囲:P.851 - P.854

 はじめに
 急性に発症する感音難聴,めまいの原因疾患の1つに外リンパ瘻がある。外リンパ瘻は広義には外リンパ腔と中耳腔の間に交通ができ,外リンパが中耳腔に漏出する状態である。漏出部位は主に前庭窓あるいは蝸牛窓または両者であるが,fis-sula ante fenestram,Hyrtl's fissureなども考慮されている。原因には先天奇形,アブミ骨手術,頭部外傷,梅毒,気圧外傷,特発性などがある。厚生省特定疾患急性高度難聴調査研究班による診断基準1)(表1)では,手術,内視鏡などにより外リンパ,あるいは髄液の漏出を確認できたもの,瘻孔が確認できたものを確実例と定義されている。しかし,実際に試験的鼓室開放術や内視鏡による観察を行っても,その際に必ずしも瘻孔やリンパの漏出を確認できるとは限らない。外リンパ瘻は内耳の病変部位,程度により様々な症状を呈する。瘻孔部位がたとえ閉鎖しても,内耳に病変があれば症状は消失しない2)。またβ2-transferrinを測定した報告もあるが3),陽性でない場合も外リンパ瘻を否定することはできない。したがって奇形,外傷,アブミ骨手術後など比較的原因の明らかな外リンパ瘻以外の,いわゆる特発性外リンパ瘻の診断は臨床症状,所見から行われることが多い。

5.ムンプス難聴

著者: 福田諭

ページ範囲:P.856 - P.861

 I.ムンプスについて
 1.概念・病因1,2)
 ムンプスは「流行性耳下腺炎」,「おたふく風邪」とも呼ばれる急性ウイルス性伝染性疾患である。原因はムンプスウイルスで,ヒポクラテスの時代より,耳から頬部にかけての腫脹を認め,さらに睾丸の腫脹を伴う疾患であることが記載されている。1934年に本疾患がウイルスによって起こることが証明され,このウイルスはパラミキソウイルス群に属するRNAウイルスである。血清型は1つでヒトのみが感染する。
 感染形式はヒトキャリアよりの飛沫などによる直接接触感染で,ウイルスは呼吸器上皮細胞に侵入し,鼻咽頭粘膜上皮で一次増殖し,次いで所属リンパ節でさらに増殖してウイルス血症を起こし,全身の易感受性の臓器に感染が拡大する。易感受性の臓器としては腺組織と中枢神経系が挙げられ,腺組織としては唾液腺,膵臓,睾丸,副睾丸,卵巣などが,中枢神経系の1つに内耳(蝸牛,前庭)が挙げられる。年長児や成人では症状が強いとされる。ウイルスは唾液,脳脊髄液,血液,尿から分離される。

目でみる耳鼻咽喉科

上顎洞血瘤腫の1症例

著者: 新井泰弘 ,   八木澤瑞穂 ,   三上康和 ,   河合敏 ,   佃守

ページ範囲:P.826 - P.827

 上顎洞血瘤腫と上顎洞悪性腫瘍とは鑑別に苦慮する場合がある。
 症例:58歳男性。

鏡下咡語

鼓室形成術—私の50年の今昔物語

著者: 鈴木淳一

ページ範囲:P.864 - P.869

 鼓室形成術は,HL Wullstein, F Zöllner,後藤修二の3氏に発するといわれている。その前,ヨーロッパには,数多くの準備的な手術,報告があって,3氏は,鼓室形成術創案の栄誉を,いわば幸運に手にしたということでもあるらしい。3氏の論文を後掲した。
 今昔物語というと,その辺から話を始めなくてはならないように思うが,スペースの制約もあるので,本稿は,筆者自身が見て経験した私自身の今昔物語であることをお断りしたい。筆者は,しかし,わが国における鼓室形成術の導入から発展を,ほとんど全て見て,また,経験したと思っている。論文の1つ1つ内容に触れることは難しい。著書,宿題報告などを参考文献に掲げた。

原著

ウイルス性髄膜炎(肥厚性硬膜炎)による混合性喉頭麻痺の1例

著者: 阿部弘一 ,   石井甲介 ,   山本昌範 ,   椿恵樹 ,   植木彰 ,   大塚美恵子

ページ範囲:P.871 - P.875

 はじめに
 従来,肥厚性硬膜炎は,硬膜の慢性炎症性肥厚を呈する稀な疾患であるといわれていたが,近年MRIの普及によりその報告は増加している1〜6)
 今回われわれは,急性に混合性喉頭麻痺を呈した症例で,髄液単核細胞数の増加とMRIでの硬膜の肥厚所見などからウイルス性髄膜炎(肥厚性硬膜炎)と診断し,プレドニゾロン投与で麻痺の改善した症例を経験したので報告する。

喉頭類基底細胞癌の1例

著者: 寺田友紀 ,   八田千広 ,   阪上雅史

ページ範囲:P.879 - P.882

 はじめに
 類基底細胞癌(basaloid squamous ell carci-noma:BSCC)は,1986年にWainら1)によって提唱された扁平上皮癌の1亜型である。頭頸部領域では舌根,声門上部,下咽頭梨状窩,扁桃に発生することが多いとされているが1〜8),本邦ではその報告は少なく稀な疾患である。
 今回われわれは,声門上部に発生したBSCCの症例を経験したので報告する。

Cushing症候群を呈したACTH産生頸部カルチノイドの1例

著者: 石田良治 ,   坂部茂俊 ,   山田弘之 ,   西井真一郎 ,   徳力俊治

ページ範囲:P.883 - P.885

 はじめに
 Cushing症候群は慢性のコルチゾール過剰による高血圧,耐糖能異常などの多彩な症状を引き起こす比較的稀な疾患である。その病態は,大きく分けて下垂体腫瘍,副腎腫瘍,副腎皮質過形成,異所性ACTH産生腫瘍に分類される。また,頭頸部領域での異所性ACTH産生腫瘍の報告例は,われわれが検索し得た範囲では存在しなかった。
 今回われわれは,Cushing症候群を呈した異所性ACTH産生頸部カルチノイド症例を経験したので報告する。

手術・手技

トラヘルパーTMの留置が有効であった耳下腺膿瘍の1症例

著者: 畑中章生 ,   角田篤信 ,   角田玲子 ,   石毛達也 ,   岡本誠

ページ範囲:P.889 - P.891

 はじめに
 抗生剤が普及して以来,化膿性耳下腺炎から耳下腺膿瘍を形成することは少なくなっている。
 今回われわれは,本来緊急気道確保に用いられるトラヘルパーTMの留胃が加療上有効であった耳下腺膿瘍の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

連載 シリーズ/ここまでわかる画像

⑪喉頭・頸部のCT

著者: 四ノ宮隆 ,   久育男

ページ範囲:P.893 - P.899

 はじめに
 喉頭のCTでは,喉頭内腔は空気濃度,前喉頭蓋間隙,傍声帯間隙は脂肪濃度を示し,喉頭内外筋は軟部組織濃度を呈する。甲状軟骨や輪状軟骨は加齢により骨化が進むにつれ,軟部組織濃度から皮質骨濃度へと組織コントラストが変化する。一般に喉頭癌は軟部組織濃度を呈することが多く,これらの組織コントラストの相違から喉頭癌の進展範囲を推定することになる1)
 一方,頭頸部領域の救急疾患においては,救急受診時に即座にCTを撮影できる施設が増えており,深頸部膿瘍の切開のタイミングの見極め,切開のアプローチの選択,咽喉頭異物の部位診断,摘出方法の選択などにCTは欠かせない検査となってきている。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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