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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科74巻2号

2002年02月発行

雑誌目次

トピックス めまいの治療

1.めまいの薬物療法

著者: 工田昌矢

ページ範囲:P.94 - P.99

 はじめに
 めまい疾患の治療に関して,治療の原則はめまいの原因,診断に基づいた的確な対処であるが,日常診療においては必ずしも原則どおりにいかないことが多い。また,めまいは自然治癒あるいは中枢性代償治癒があるので治療効果の判定が困難なことや,めまいは反復し得るので短期間の経過観察では治ったといえず,いつまで患者を経過観察したらよいかなどの問題がある。加えて,最近ではEBM (evidence based medicine)に基づく質の高い医療が求められており,めまい診療に関しても例外ではない。
 本稿ではこれらの問題点を考慮に入れながら,めまいの薬物療法について現在までに得られているevidenceをできるだけふまえて解説する。

2.経中耳薬物投与

著者: 山下裕司

ページ範囲:P.101 - P.105

 はじめに
 現在行われている内耳疾患に対する薬物治療は,主に全身投与である。しかし,内耳への移行やその治療効果についてはEBMに乏しく,内耳疾患の適応をもつ薬が少ないのが現状である。一方,神経科学研究の進歩により,内耳疾患に対する新たな治療薬の開発が期待されるようになった。これらの新しい薬物は,全身投与が困難な薬物が多い。したがって,薬物を内耳へ直接投与する方法として,従来から行われている鼓室内投与法などの経中耳薬物投与が再認識されている。
 本稿では,鼓室内投与法について概略を説明するとともに,最近米国で開発された内耳への薬物輸送システムによる持続的投与法について紹介する。また,内耳への直接的薬物投与の臨床効果を判定するための動物モデルを紹介し,内耳疾患の新たな薬物治療の可能性について言及する。

3.めまいの理学療法

著者: 萩原晃 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.107 - P.110

 はじめに
 めまいの治療には薬物療法,手術療法,理学療法があり,個々の症例に応じ治療方法を選択する必要がある。理学療法には,特定の疾患,特に良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal posi-tional vertigo:BPPV)に対する頭位変換療法と,従来からの平衡訓練といわれる方法がある。BPPVに対する理学療法は,その病態に基づいて考案されたもので高い有効性が報告されている。
 めまいや動揺視,平衡障害が長く残存する例や,発症後早期でも明らかに改善が遅れている例に対しては平衡訓練が有効である。

4.手術治療

著者: 北原糺

ページ範囲:P.111 - P.116

 はじめに
 薬物投与や理学療法による保存的治療に抵抗する耳性めまい患者には,次段階として手術治療を考えなければならないことがある。メニエール病,良性発作性頭位めまい症,外リンパ瘻,聴神経腫瘍,神経血管圧迫症候群,前庭水管拡大症およびsuperior canal dehiscence syndromeによる難治性めまい患者に対して,以前から様々な手術治療が試みられ,改良,発展が重ねられ今日に至っている。
 本稿では,これらの難治性めまい症例に対する手術治療の種類,適応に関して述べる。

5.その他の治療法

著者: 小林麻里 ,   堤剛 ,   喜多村健

ページ範囲:P.119 - P.122

 はじめに
 めまいの治療においては薬物治療,手術療法を初め様々な治療法が施行されている。しかし,メニエール病を初めとするめまい疾患の病態生理はまだ不明の点も多く,また薬物・手術治療が根治的とならない症例も数多い。メニエール病に対しては,近年,鼓室換気チューブ留置やMeniett®というスウェーデンで販売されている器具を使う方法などが薬物療法で難治性の症例において施行され,めまい発作の軽減に有用であるとの報告がなされている。
 また,めまい疾患の患者の中には,その背景にストレスや心因性の要素が強く関連している場合も多い。こうした患者は,投薬や手術だけでは治癒せず,また,患者本人も心理的要因を自覚していないケースも多いため,心理的な側面にも医療者が配慮していくことが必要である。われわれ耳鼻咽喉科医はともすると,心理的な側面への配慮が乏しく,忙しい日常診療では,患者の訴え,話をよく聞くことが困難な場合がある。しかし,理学的所見に乏しい難治性のめまいの場合,心理的要因を疑うことは重要である。
 本稿では,以上の治療法などについて概説する。

目でみる耳鼻咽喉科

放射線性喉頭壊死の1例

著者: 河合敏 ,   佃守 ,   名古屋孝夫

ページ範囲:P.90 - P.91

 喉頭癌に対する放射線治療の遅発性合併症の1つに喉頭壊死がある。
 今回,喉頭癌の放射線照射後26年経過してから明らかな喉頭壊死をきたした1例を経験したので報告する。

鏡下咡語

宇宙旅行時代

著者: 五十嵐眞

ページ範囲:P.124 - P.126

 大昔から人類は月,星,空(宇宙)をあこがれとロマンの対象としてきました。地上に存在するものにも増して,手の届かない遠くに存在するものに神秘を感じていたからにほかなりません。ところが人類は,20世紀の後半に遂に宇宙に行き地球に帰ってくることから,月の表面に足跡を印してくるという一大事業を成し遂げました。これは産業革命などとはスケールの違う人類の偉業と思います。“Fly me to the moon”が実現したわけです。それ以後の宇宙プロジェクトは科学的にも目覚ましい発展を遂げたわけですが,それと並行して商業化も進み今や衛星事業はわれわれの日常生活に結びつくものとなりました。人間の宇宙滞在時間も以前には想像もつかないレベルに達し,資金不足に悩みながらも国際宇宙基地はようやく3組目の3人組を収容できるところまできました。
 そこで2001年,新世紀に入ったところで,アメリカの事業家デニス・チートーさんが2,000万ドル(24億円)でロシア船ソユーズの席を買い,一般人として(つまりミッションをもたない)約1週間宇宙へ行ってきました。極く簡単な普通の訓練を受けたといわれています。これが宇宙旅行の「はしり」とさわがれたのですが,実は日本人の秋山レポーターが,やはりロシア船に支払いをして乗り込んだことがあり,日本人の宇宙旅行としては最初でした。当時宇宙開発事業団では毛利宇宙飛行士を上げる準備に一生懸命でしたので,どうして先にこういうことをするのかとジャーナリズムのあり方に大層驚いたことを覚えています。しかし兎に角,今世紀に入っていよいよspace tourismの時代の幕が上がったと思います。最近のNHKこどもニュースで,現在国際宇宙基地滞在中の3名の宇宙飛行士と,こちらの15歳の少年とレポーターとで,face-to-faceのtele-TV communicationをしていましたが,宇宙が本当に身近になったと痛感しました。それでこれだけ宇宙旅行も現実性を帯びてきていますので,各方面でいろいろと調査を始めています。日本人3,000人余の調べでは70%以上が,3か月分の収入プラスぐらいで行けるなら行ってみたいと言っているようです。宇宙旅客機の研究は露,米,独,英,日で発足していますし,日本の研究フォーラムの試案では2016年ごろに初就航が可能ではないかとみています。将来的には1,000万円単位で世界に5万人以上の希望者があればビジネスとして成り立つとのことですが,少々「取らぬ狸の?」の気がしないでもありません。一方ロシアは,弾道飛行(ジェットの)による無重力遊泳体験の商業化を開始したようで,これは米,日でも,やろうという会社が出てくれば直ぐにでも発足できることでしょう。宇宙は近くなりにけりと感じてしまいます。

原著

Open型先天性真珠腫を合併した耳小骨奇形症例

著者: 高橋直一 ,   長原太郎 ,   松田秀樹 ,   吉田高史 ,   山岡秀之 ,   稲葉鋭 ,   佃守

ページ範囲:P.129 - P.133

 はじめに
 1965年,Derlackiら1)は先天性真珠腫について,①鼓膜所見が正常であること,②中耳炎の既往がないこと,③胎生期の扁平上皮の迷入もしくは未分化組織の扁平上皮化生によって生じるという3点をもって定義した。現在では,中耳炎の既往の有無については問わない立場をとる者が多いが2,3),後天性真珠腫と比較すれば耳漏やポリープをきたすほどの中耳炎の既往が少なく,発見されにくい。健診において,難聴や鼓膜を通しての白色塊の存在が指摘され,みつかることが多い4,5)。1988年,Michaels6)は先天性真珠腫をclosedタイプとopenタイプに分類した。Closedタイプは嚢腫構造を呈する真珠腫であり,openタイプは嚢腫構造をとらない膜様の重層扁平上皮からなるもので,近年先天性真珠腫の分類に一般的に用いられている。
 耳小骨奇形と先天性真珠腫の合併例はときどき認められるが,その場合はopen型の形状を呈することが多い7)
 今回われわれは,アブミ・キヌタ関節離断型耳小骨奇形および先天性open型真珠腫を合併した1症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

感音難聴を認めた顔面神経麻痺小児の1例

著者: 田中克典 ,   宇良政治 ,   大輪達仁 ,   野田寛

ページ範囲:P.136 - P.140

 はじめに
 顔面神経麻痺は,原因不明の特発性顔面神経麻痺(いわゆるBell麻痺)が大多数の症例を占めるとされているが,神経学的所見や画像診断などで適切な診断をしてから治療を施すことが重要である。しかし,小児の場合は検査の協力が得られないことが多く,神経学的検査や画像診断が行いにくいためか,十分な検索を行わずに経過観察や薬物療法が行われている例も存在する。
 今回われわれは,Bell麻痺と診断されていた4歳女児で,軽度ながら感音難聴を認めたことで内耳道から脳幹部にかけての病変を疑いABRやMRIを施行したところ,脳幹部腫瘍を認めた症例を経験したので報告する。

下肢遠位筋優位の筋萎縮,知覚障害に加え,中枢前庭障害を認めたCharcot-Marie-Tooth病が疑われた中枢・末梢神経変性症の1例

著者: 松崎真樹 ,   室伏利久

ページ範囲:P.143 - P.147

 はじめに
 進行性の神経疾患の中には,大きく分けて遺伝性のものと単発性のものとがあり,中には末梢神経系,中枢神経系の両者に病変を生じるものも少なくない。多彩な症候を呈する疾患にさらに外的因子が加わると,ときに確定診断が困難となる。
 今回,Charcot-Marie-Tooth病を疑わせる遠位筋優位の筋萎縮,知覚障害を呈したが,本疾患のみでは説明できない所見を認めた症例を経験したので,神経耳科学的所見を中心に報告し,鑑別診断についての考察を加えた。

鼻中隔に発生したsolitary fibrous tumorの1例

著者: 柴田裕達 ,   毛利麻里 ,   内沼栄樹

ページ範囲:P.148 - P.150

 はじめに
 Solitary fibrous tumorは,そのほとんどが胸膜などの漿膜に発生する良性腫瘍である。そのほか腹膜,心膜などにも発生するが,漿膜面とは関係ない部位にも発生することが知られており,耳鼻咽喉科領域では鼻腔,副鼻腔,上咽頭の報告例が散見される1〜9)
 今回われわれは,鼻中隔前端部に発生した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

手術・手技

外傷性瘢痕による鼻孔狭窄の2例

著者: 奥村仁 ,   酒井直彦 ,   中村佳代 ,   吉田豊一

ページ範囲:P.153 - P.156

 はじめに
 外鼻孔狭窄は,先天性,外傷性,炎症性,腫瘍性などいろいろな原因で生じる。通常,外傷性瘢痕によって生じる外鼻孔の狭窄は,鼻翼の欠損を伴っていることが多い1,2)。鼻翼欠損を伴わない瘢痕性狭窄は比較的稀であるが,長期間にわたる挿管チューブや経管栄養チューブの挿入留置を原因として起こることが多い3)。また,外傷性狭窄の再建方法として瘢痕切除・縫合,植皮,粘膜移植,遊離複合組織移植,各種皮弁法などが報告されている4〜11)
 今回われわれは,鼻出血に対する止血処置後に外鼻孔に瘢痕を生じ,狭窄をきたした2例を経験した。組織の欠損量に応じて,手術方法を変えることにより良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加え報告する。

連載 シリーズ/ここまでわかる画像

②鼻・副鼻腔のCT

著者: 竹内万彦 ,   間島雄一

ページ範囲:P.157 - P.162

 はじめに
 鼻科領域でCTを撮影するときは,診断をつけるため,診断はついているが術前の情報を得るため,手術を含めて治療効果の判定のためなどいろいろな場合がある。
 本稿では,まず冠状断CTにおける鼻・副鼻腔の臨床解剖を解説し,最も臨床的に頻度が高いと思われる慢性副鼻腔炎の鼻内内視鏡手術の術前評価としての鼻・副鼻腔CTの意義と注意点を述べ,次に副鼻腔炎,顔面外傷,腫瘍などについて実際の症例を呈示しながら,CTでどれほどの情報が得られるかについて述べる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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